イラコが水着姿を見るだけの回
金があればなんだって買える……などというのはおバカな成り金キャラクターの定型句ではあるが、実際、金さえあれば、贅沢に分類されていることは全て可能なのが世の中である。
そして、そういった富裕層向けに商売している側というのは、いかにして顧客へラグジュアリーな体験を提案し、金を搾り取るかに腐心しているものだ。
と、いうわけで……。
惑星レク首都の中央部に存在する、この超高級ホテル。
そのペントハウスに備わった屋上プライベートプールこそは、そういった知恵と工夫が結集した結果生み出されたハイパーインフレーションゴージャス空間なのであった。
具体的に、何がどうハイパーにインフレーションしていて、かつゴージャスなのか?
それを説明するならば、まず、プールが宙に浮いている。
比喩ではない。
ペントハウスから突き出す形でプールが備わっており、しかも、プールサイド以外は透明な強化ガラスで造られているのだ。
空飛ぶ魚の気分をあなたに。
……というのが、富裕層向けパンフレットのうたい文句だったか。
正直言ってキャッチコピーとしてはセンスに欠けるが、しかし、これはそうとしか言いようがない。
ここで泳ぎし者は、プールの底から遥か眼下に、レク首都のメインストリートと、そこを行き交う観光客たちの姿を見下ろせる。
そうすることによって物理的なリッチさと、精神的な優越感……それから、キャッチコピー通りの空中お魚気分を楽しめるのであった。
もちろん、高所恐怖症でさえなければ、だが。
ハッキリ言って、プールサイドに立っているだけでも、かなりのタマヒュンぶりだからな。
こういう構造だから、タイル張りのプールサイドが宙に浮いてるような見た目だし。
さて、なぜ俺がこのような場所にいるのか?
それは、領主館大円卓の間から滞在先のホテルに移動しようとした際、エステからここへ呼び出されたからである。
で、いざやって来たら、身近な女性たちが水着姿でお出迎えという状況だったわけだ。
なら真っ先に目の保養をすべきと思う方もいるだろうが、あいにく、俺はペーター兄さんとの決闘を控える羽目になった身。
しかも、その決闘にはディートも関わることが決定したため、何はなくとも前置きとして、先日ペーター兄さんが行った作戦行動の映像を皆で視聴したわけだ。
それも終わったことだし、各人の水着姿について語っていこう。
「えっと……似合ってないでしょうか?」
そのドリンクは、エステにでも頼まれたのだろうか?
いつものタブレット型端末をトレイに持ち替え、トロピカルドリンクを載せているマミヤちゃんが着ているのは、白のワンピース水着だ。
ポイントとして、胸元が花弁を思わせる装飾で飾られており、腰部にもフリルがふんだんにあしらわれていて、スカートじみた……あるいは、バレリーナ衣装のような印象を与える。
なんという……可憐さ。
こう言ってしまってはなんだが、マミヤ・ビルケンシュトックという少女は、細身で……あまりスタイルに恵まれているタイプではない。
ゆえに、シンプルなワンピーススタイルがよく映える。
しかも、これは胸元の装飾や腰のフリルによって、立体感を付与することへ成功しており……。
何より、マミヤちゃんの象徴的な部分――ヤマトナデシコスタイルで伸ばされた黒髪とのコントラストが、美しかった。
「いや、すごく綺麗だ」
「えっと……ありがとうございます」
素直に褒めると、翡翠の瞳が印象的な少女の頬に桜の色が差す。
「イラコー。
わたしは?」
プールに浮かべた浮き輪から尋ねてきたのは、アイスキャンディーを舐めているエステだ。
こいつの場合は、まず、髪型からして普段と異なる。
いつもはツインテールにしている銀髪を、同じ位置でお団子にしてあるのであった。
そうして普段より活動的な髪型になった12歳の少女が身にまとうのは、南国を思わせる鮮やかな花々が描かれた女児用のワンピース水着。
腰にはフリルタイプの超ミニスカートがあしらわれており、腰全体を覆ってせっかくの水着感を失わせる無粋は避けつつも、しかし、ジュニア水着に相応しい可愛らしい印象を増すことに成功している。
「まず、お前が野外用のファッションしてること自体が珍しいからな。
うん、すげえ新鮮な気分だ」
「ういうい。
もっと褒めろー」
自分の体を見せつけようとでもするかのように、キャンディー片手にバンザイポーズするエステだ。
そんな妹から視線をずらし、もう一人の妹ことディート――は、まあいいか。
「ちょっと! アタシにも何か言いなさいよ!」
「えー?」
なんで?
心底イヤイヤな気分で、プールサイドの縁に座るディートの姿を見た。
こちらの髪型は、いつも通りロングに伸ばされた金髪をツーサイドアップにしたもの。
ただし、当然ながら水に濡れてしっとりと頬や首筋に張り付いているので、それが普段は少女寄りな印象の20歳に、大人の女性としての艶めかしさを感じさせる。
そんなこいつがチョイスした水着は、マミヤちゃんのそれとは、また異なる意味合いのシンプルさ。
どういう意味合いでシンプルなのかと言うと、布面積の少なさが、だ。
生地の色合いは、赤系統を好むこいつにしては珍しい濃い目のブルー。
それが、チューブトップ型のビキニに仕立てられているのであった。
さすがに胸や尻など、要所を覆う布面積は標準的な代物であったが、それでもかなりセクシーかつ、大胆な水着チョイスであることに変わりはない。
そして、誠に悔しいことだが……こいつはそれが、非常によく似合っている。
極端な巨乳というわけではない。
また、お尻も肉感的に突き出しているというわけではない。
しかし、これは美姫として名高かった母君の血を色濃く受け継いだのだろう……何もかもが美しく、芸術的なラインを描いていた。
その上で、最大のアクセントとなっているのが――へそ。
なんとこいつは、きらりと輝くへそピアスを装着しているのだ。
それが、否応にも目線を奪う。
シンプルな装いの中で、最大の飛び道具として機能しているのである。
「ふーん……」
かろうじて絞り出せたのは、そんな溜め息めいた言葉……。
なんだろうな。
俺の方がやや早く生まれ落ちて以来、様々な醜い面を見せつけられてきたこいつだが、ツラと体つきだけはなんというか、こう――美しい。
そう、美しいという言葉がふさわしいと思う。
しかもそれは、いまだ脱しきっておらぬ少女期のやわらかさが同居したものなのだ。
「な、何よ……ジロジロ見て」
「いや、なんというか、こう……」
胸元を両腕で隠しながら赤らむディートに対し、なんと言ったものか思い悩む。
「……へそのピアスが、痛そうだなと思ってさ」
それで、どうにかひねり出せたのが、この言葉であった。
「は、はあああああっ!?」
一体、どうやってるんだろうな?
ディートのツーサイドアップ部分が、自ら意思を持つかのようにピーンと突き立つ。
「ば、バッカじゃないの!?
こんなの、フェイクピアスに決まってるじゃない!
というか、そんなに人のおへそをジロジロ見て……!
エッチ! スケベ! ヘンタイ!」
「いや、普通の感想だろ!
だってこう……ピアスって痛そうだし!」
いかん、返す言葉にいつものキレがない。
つーか、こいつのことを正視できず、なんか目を逸らしてしまう。
うーむ。この惑星レクは、昼間ともなれば比較的涼しい海岸部でも平均して26℃を超えるからな。
ましてや、このプライベートプールは、恒星プロクの陽光を遮蔽物なしで浴び続けるので、少し頭が茹で上がったのかもしれない。
「じー……」
……マミヤちゃんや。
どうして、わざとらしい擬音を発しながらジト目で俺を見ているんだ?
というか、ふと気づけば、浮き輪に乗りながらトロピカルドリンクを受け取ったエステも、同種の眼差しを俺に向けている。
そして、もう一人分……。
俺に向けられているいぶかしげな視線が、存在した。
だが、その人物――シレーネさんへ目を向ける前に、なすべきことがある。
観自在菩薩! 行深般若波羅蜜多時! 照見五蘊! 皆空! カアッ!
去れ! 煩悩よ!
よし……これで全ての準備は整った!
というわけで、俺はプールサイドにもたれかかる形で水中にいるシレーネさんの方を見たのである。
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私が無能なばかりに……!
ただいたずらに文字数を消費し……!
1エピソードで水着描写を……!
収めることができませんでした……!




