ペーター・ジーゲルという男
携帯端末に映し出されているのは、いくつかの爆光とおびただしい数の光線。
20世紀に制作されたSF映画のビームを想起させるチープな光の交錯は、その実、直撃したならば厚さ一メートルのコンクリートすら容易に溶解させる死の熱線である。
つまりいくつかの爆光は、この光線をモロに食らった機動兵器が、リアクターを爆発させたことによって生じたもの……。
18メートル級の人型機動兵器――M2同士による戦闘の光景であった。
敵対する両陣営の機体に関しては、全体的なフォルムでも、カラーリングでも容易に見分けがつく。
黒を基調として、銀の差し色を使ったカラーリングが銀河帝国の主力M2――ドンナー。
特徴的なのは、大昔のブラウン管テレビをそのまま据え付けたかのような頭部パーツと、万力じみた形状のマニピュレーター。
兵器というよりは、工業品。
量産性を最優先したそのデザインは、20世紀初頭のブリキ玩具を彷彿とさせる。
ただ、M2用の武装は非常時を除き、機体本体からの信号を感知して作動する仕組みのため、こんな手でも問題なく粒子小銃を携行していた。
帝国制式採用の粒子小銃――つまり銀河で最も数が多いM2用兵装だ――は、やや銃身の短いサブマシンガン寄りなデザインだ。
一方、白地に青いラインの入った塗装を施されているのは、細身さとある程度のマッシブさを両立させたヒロイックなシルエットのM2――ピノキオ。
こちらは、人間の二つ目と同じ配置のデュアルアイカメラが採用されており、それがヒーローじみた印象を加速させている。
マニピュレーターもきっちりと五指が備わっており、20世紀のアサルトライフルを想起させる形状の粒子小銃を構えると、実に様になった。
なんの前情報もなしに見れば、ドンナーの方が悪者のように、かつ、弱そうにも見える構図。
だが、いい方か悪い方かの判断は後世に委ねるとして、ドンナーこそ我が銀河帝国の機体であるし、相手機であるピノキオと比較して、別に弱くはない。
性能的には、ほぼ互角。
運動性能はややピノキオに分があり、トルクとサバイバビリティではドンナーに軍配が上がるか。
何より決定的なのは両陣営の国力も影響している生産コストの差であるが、それは画面内の局地的な戦いには一切関係がない。
ともかく、両陣営は漆黒の宇宙を舞台に、激しい機動戦を展開していたのだ。
とはいえ、M2同士の戦闘というものは、電撃的に推移するもの。
撃って撃たれての膠着状態は、瞬く間に一方が優位なものへと変じていく。
黒と銀――帝国側に優位な戦況へ。
そもそも論として、数が違いすぎるという問題がある。
白地に青のライン――ジンバニア王立連合側のM2は、序盤に脱落した分を踏まえるとおそらく九機。
それに対して、帝国側のドンナーは実に18機もの数が投入されているのだ。
しかも、ドンナーのうち一機は、明らかに他と挙動が違っていた。
背部に二基増設されたヴァリアブル・ブースターポッドが生み出す推進力は、通常機を遥かに上回るものであり……。
そのスピードにモノを言わせ、戦闘宙域を縦横無尽に駆け巡る様は、まるでハヤブサのよう。
マニピュレーターは精密作業用の五指タイプに換装されており、右手は制圧力に優れた粒子散弾銃を保持し、左手には折畳式の電磁ブレードを握った二刀流。
ある時は、加速力に任せて敵機の背後を取り、散弾銃を発射。
またある時は、やはりスピードを活かし、敵が放った粒子ビームを大回りで回避しつつ、駆け抜けざまに左手のブレードを振るう。
当たれば幸いのヒット&アウェイ戦法であるため、一撃一撃は致命的な部分に直撃せず、撃墜とまでいかない。
が、それで十分。
帝国側はそもそも数で勝っているのであり、この高機動機によって体勢を崩されたピノキオは、すぐさま残るドンナーたちの集中砲火によって撃墜されるのである。
そのような光景を繰り返すこと数度。
勝敗は決した。
無論、銀河帝国側の大勝利だ。
緒戦の攻防により、一機のドンナーが大破したものの、パイロットは生還しており、死傷者ゼロ。
対して、ジンバニア王立連合側のピノキオは全機が容赦なくコックピットまで破壊されており、機体のみならず、パイロットに至るまで丁寧に仕留められている。
残酷と思ってはいけない。
敵の勢力圏で跳梁し、無力な民間貨物船などを襲う隠密隊というのは、どのような形で殺されようと文句を言える立場ではないのだ。
『以上が、第二皇子ペーター・ジーゲル殿下によるジンバニア隠密隊打倒の映像……再現ではなく、実際にドローンを飛ばして撮影した映像の編集となります。
この後、敵M2部隊が作戦行動を共にしていた隠密艦も、包囲攻撃で撃沈されました。
ペーター殿下の座乗艦――航宙母艦ウルドと行動を共にした二隻の駆逐艦は、結局、魚雷の一発も放つことなく作戦終了したのです』
ナレーターの言葉に合わせて、本作戦で最も活躍した機体――ブースターポッド装備のドンナーがアップ映像となった。
同時にカットインするのは、サラサラのショートブロンドが印象的な超絶美男子。
着用しているのは、関節可動域は確保しつつも、やや厚手の布地と銃撃戦にも対応可能なボディプレートで装着者を守る漆黒の帝国軍パイロットスーツである。
爽やかに笑い、白い歯を輝かせる彼こそは第二皇子ペーター・ジーゲル。
『まさに英雄!
天才パイロットの評判は、伊達ではありません!
ペーター・ジーゲル殿下と専用カスタム機――ミラン・ドンナーがいれば、ジンバニアのM2など物の数ではないと言えるでしょう!』
トンビ……ミランね。
トンビはこんなドン臭い飛び方しねえよ。
……と、俺としては思うのだが。
「なるほど、見事な腕前……。
確かに、天才パイロットと呼ばれるだけはあるな」
――チャポリ。
という音を立ててプールサイドに上がり、うんうんとうなずいてみせている様子のシレーネさんだ。
なんで推測形かって?
あまりジロジロ見ちゃうと、イラコ君のイラコ君が、穏やかな心を持ちながらも激しい怒りに支配されそうだから。
さておき……。
そっかなー? そんなにすごいかなー?
いや、確かに映像内で雑魚相手には無双してたよ。
それでも、だ。
「おそらく、ジンバニアにおいて天才パイロットと呼ばれたあたしと、ほぼ互角だろう……」
そうなのである。
一般的なパイロットよりマシな技量であるとはいえ、シレーネさんとほぼ同程度。
ハッキリ言って、だからどうしたくらいの感じであった。目の前のシレーネさんには、悪いけどな。
「だとすると、M2で活躍するのは諦めた方がいいわ!
申し訳ないけど、適性が低いもの」
バッシャンバッシャンとやかましく水を蹴立ててこちらまで来たディートが、デリカシーのないことを言い放つ。
まあ、そうなんだけど、お前さあ……。
「ということは、イラコ殿下だけではなく、ディート殿下もまた……」
「その通り。
ネタバレすると、ディート姉はイラコ同様、ジーゲル家が生み出してしまった様子のおかしい殺戮マシーン。
二人のパイロットステータスは、得意分野こそ異なるものの、おそらく合計値では全く同じ数字になると考えられる」
一人水に入らず給仕を務めるマミヤちゃんの質問へ、優雅に浮き輪で漂いながらアイスキャンディーなんぞ舐めているエステが答えた。
「はあ? 同数値?」
「いくらエステの言葉でも、それは看過できないわね」
同時に、火花を散らす俺とディート。
無論、俺の方が実力で上回っているからである――向こうも同じこと思ってるようだが。
「それは俺のセリ――いや、ちょっと置いておこう。
その前に、聞いておきたいことがある」
いつも通りに短編小説一本分くらいの言い合いを始めるのは容易であったが、ここでひと呼吸置いておく。
その前に、どうしても聞いておきたいことがあったからだ。
すなわち……。
「なんでみんな、水着なの?」
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次回、どれだけ尺を無駄に使おうとも、たとえそれだけでエピソード一個消化しようとも、力の限り水着姿を描写します。
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