大円卓の間にて 1
機会があるたび、エステのやつに好き嫌いはよくないと言いながらピーマンを食わそうとするこの俺であるが、多くの人間がそうであるように、自分自身も嫌いなものは数多い。
その中で、筆頭と呼べるのがスーパークソ妹こと第三皇女ディートであり……。
次点くらいにランクインしてくるのが、会議ということになるだろう。
いや、会議と一括りにしてしまうのは、少しばかり乱暴であったか。
例えば、以前アマテラス内で主だった面子を集めて行った給糧物資のドラフト会議みたいなものは、特に嫌っていない。
なぜかと言えば、それは、俺自身に決定権があったから。
つまるところ、俺が嫌っている会議というのは、散々に時間を割いた挙句、何一つ決定されないような……そういった性質の集まりであるのだ。
会議というものの究極形は、トップ同士での話し合いと決断であると、俺はそう信じてるからね。
だから、決まらねー会議はやりたくないし、給糧物資のドラフトがそうであったように、自身が決定権を持つ場合はガンガン結論を出していく。
タイムイズマネー! 時間を垂れ流しにするくらいなら、クシナダのクルーたちと人狼ゲームでも遊んだ方がマシなのだ……あいつら、マジでつええぞ。そもそも、素で見分けがつかねえからな。
だが、悲しいかな。俺も20歳。
いい年こいたとまでは言わないが、大人の仲間入りをしている年齢であることは、疑う余地もない。
しかも、自身はエステに好き嫌いするなと言っている立場であるのだから、嫌いなことから逃げてばかりいるわけにもいかなかった。
と、いうわけで……。
降り立ってからの数日間、惑星レクの各施設で帝国市民向けのパフォーマンスや演説を行った俺は、いよいよ大っ嫌いな決まらぬ会議へと臨むことになったのである。
会議の議題は、ただ一つ。
俺が捕虜にしたヨーギル王国の第一王女シレーネ・ヨーギルさんの処遇を、どうするかだ。
会議の場所は、この惑星レクで最も警備が手厚い場所……すなわち、コリン・シュワード辺境伯の領主館であった。
その佇まいは、例えるならば白亜の神殿。
実際の建材は確か違うものを使っているはずだし、壁や柱の中には各種セキュリティ用のメカニズムが満載となっているはずだが、傍目には大理石を複雑に組み合わせたシンプルな色合いの建物である。
この館に備えられた大円卓の間は、館ともどもフリーレーン自由商業同盟の施設だったこともあり、機能面でも内装面でも文句なしの代物。
中央にデーンと設けられている大円卓は、そのままM2用の防御兵装にも転用できそうなほどの巨大さで、一見すれば黒檀で作られているように見えた。
だが、20年以上前……つまり、全盛期の親父殿へ盾突いたほどの勢力が使っていたそれであるからには、当然、単なるちゃぶ台ではない。
生身及びリモートの参席者を立体映像で投影する機能は当然として、卓そのものにモニター化機能なども標準装備。
各音響設備は今すぐ映画館として転用できるレベルの代物であり、参席した俺たちがその気になれば、今すぐにでもバンドを組んでこの円卓をステージとし、ライブ演奏することも容易であった。
イエーイ! ノッてるかい!?
……ノッてるはずもない。
本日、この会議に参加しているのは、銀河帝国で最も――つまりこの宇宙で最も――恐ろしい人々なのであった。
まず、一番手!
この人がいなくては始まらない!
一同を睥睨できる上座から、タキオンネット経由の立体映像で投影されるは、漆黒のヨーロッパ風宮廷服にマントというファッションの人物。
時代錯誤……あるいはコスプレと笑われかねないこの服装は、しかし、かの人物が漂わせし無言のプレッシャーと、装束を内側から隆々と盛り上げる筋肉によって一喝される。
長い白髪はウェーブがかかっており、口元を飾るのが同色のカイゼル髭。
もし、宮廷服ではなく古代ギリシャ風ローブでも着ていたなら、異世界転生モノの第一話でうっかり死なせてしまった主人公に土下座すること間違いなし!
ステレオタイプな神様を連想させる風貌のこの御仁こそは、銀河皇帝フリードリヒ・ジーゲル。
皆さんご存知、うちの親父殿です。
二番手は、こちら実物が親父殿ビジョンの隣へご着席。
一番上のお兄ちゃんことベルトルト。
反対側から親父殿ビジョンを挟むのが、サラサラのブロンドショートヘアが輝かしい貴公子然とした青年だ。
服装は、ベルトルトや俺と同じ、記章も何もない漆黒の帝国軍士官服。
にもかかわらず、マッチョメンな父親や兄貴と全く異なる印象を受ける爽やかイケメンなのは、母方の血を色濃く引いているからだろう。
銀河帝国のお偉方が集まった会議などより、どっかの通学路で、「いっけなーい遅刻遅刻」とパンをくわえながら器用に言ってのける不審な一般女子高生に悪質タックルされる方が似合いそうな人物……。
その上で、「ははは、いいんだよ。僕も不注意だった」と言ってのけ、恋の始まりを感じさせそうな人物……。
幼い頃、「そのサラサラヘアーはどんなお手入れを?」と聞いた俺に対し「いやあ、何もしてないんだ」と答え、皇子皇女の誰よりも深い絶望と、今日まで続くトラウマを与えた人物……。
「うっ……!」
俺の頭部で、とっくの昔に死滅した細胞であるはずの黒い頭髪がうねり、さらに縮れを増す。
本能的に、こいつは敵であると感じているのだ。
落ち着け、俺の縮れ毛よ……!
この人は敵じゃない。ただサラサラ金髪であるだけなんだ。
つーか、どっちかっつーとテメーらの方が俺の敵なんだ……!
というわけで、26歳のはずなのに20歳の俺よりも若々しく見えるこちらのイケメンは、第二皇子ペーター殿下であらせられます。
ベルトルトと違い出撃の任を与えられていたはずだが、それを果たしたのか生身でこの場に参じている。
まあ、座乗艦含め、詳細な行動は軍事機密だしね。細かく把握できようはずもない。
その他に参加しているのは、以下の通り。
外務卿(生身)。
宮内卿。
情報局長。
財務卿。
交易卿。
広報卿(生身)。
といった具合だ。
要するに、今回の議題に関与し得る職務のトップたちが、全員集結しているのである。
ちなみに、正規軍のトップポジションが親父殿で、次ぐのが独自派閥を形成しているベルトルトね。
生身でやって来ている外務卿と広報卿は、力の入れ具合が伝わってくる。
なんで参加してるのかよく分からないのは、ペーター兄さんだな。
まあ、考えあってのことだろう。
『皆、よく集まってくれた』
何しろ、ただっ広い広間であるから、そのことを考慮してか、円卓に座す参加者の姿は巨大化した立体映像で投影されている。
俺なんかはこの距離でも服の下に隠れた筋繊維の動きとか察せられるけど、皆が健眼ってわけでもないからね。必要な措置だ。
で、タキオンネット経由の御姿でいかめかしく告げられたのが、議長兼最高権力者の親父殿であった。
『これより話し合うは、イラコめが捕虜としたヨーギル王国の姫君を、どう扱うかだ』
その言葉で、一同の顔に緊張が走る。
もちろん、俺の顔にも走った。
主に、「こっから長いんだろうな。で、決まらないんだろうな」という緊張である。
何しろ、目下戦争中であるジンバニア王立連合……の一角を担う王国の第一王女をどう扱うか、という話なのだ。
紛糾するに決まっている――使い道が多すぎて。
ゆえに、さあ、あくびを噛み殺すぞ! と固く誓っていた俺を尻目に、親父殿はこう言ったのであった。
『結論から言って、イラコめとねんごろにさせる。
――承認せよ』




