おいでませ! 第四皇子! 前編
アマテラスという宇宙に浮かぶ菓子工場がごとき特殊艦を発注した俺が言うのもなんだが、数多存在する戦闘艦種の中でも、斬撃艦ほどぶっ飛んだ発想の代物は存在しないだろう。
全体的な艦影は、サメやシャチを思わせる流麗な……あるいは、獰猛なもの。
最大の特徴は、艦首に刃が備わっている……というより、艦首そのものが超大型の電磁ブレードと化していることだ。
まるで、ブロードソードや日本刀を、そのまま宇宙戦艦の形に変換したかのよう。
他に存在する武装はM2などを迎撃するためのレーザー機銃群のみなのだから、これら斬撃艦による対艦戦法など、容易に想像ができよう。
対艦突撃。
ただ、それあるのみ。
電磁ブレードの備わった艦首を相手に向け、それこそ獲物に食らいつくサメやシャチのごとく突貫していくのだ。
いや、はや……バカ丸出しとは、まさにこのこと。
命知らずにも程がある戦法である。
だが、敵味方共に頑強な電磁シールドを張り巡らせている現代の艦隊戦においては、これが思わぬ効果を発揮した。
何しろ、艦首そのものを刃と化しているわけだから、直撃すれば当然撃沈。かすっただけでも、相手の艦は大打撃である。
同様に対艦戦闘で致命的な一撃を放ち得るのが火力艦であるが、エネルギーを艦首大口径荷電粒子砲に向けねばならないあちらと異なり、電磁ブレードは省エネなため、機動力に力を振り分けられるのがこちらの特徴だった。
古代の海戦においては、衝角を用いての突撃戦法が取られることもあったという……。
ならば、これはまさしく先祖返り。
現代に蘇った体当たり戦法の戦艦こそ、斬撃艦なのだ。
「あれが、斬撃艦フレイヤ……。
ディート殿下の座乗艦であらせられますか」
漆黒の軍帽付き改造軍服に、フリルミニスカートを合わせ、白のニーソックスと編み上げブーツで足元を固めた女子広報士官服姿のマミヤちゃんが、窓――に見えるだけで実際はモニターだ――に映されたフレイヤの赤い艦影を見やる。
ヤマトナデシコスタイルに整えられた黒髪をなびかせ、印象的な翡翠の瞳を輝かせている様は、ティーンエイジャーであることもあって、軍港見学に来た学生のようだ。
まあ、各分野が高度に専門化された現代の軍において、彼女が習熟しているのは万年筆風の記章が表す通り主計。
宇宙用のカッターボート訓練などはしているだろうが、実物の戦艦を間近で見る機会は、俺の副官になるまでなかったのだろう。
と、いうわけで、だ。
今俺たちがいるのは、大気圏外に浮かぶ巨大な蜘蛛の巣を形成しているフレームラインの一つ。
惑星レクの宇宙港内であった。
といっても、植民スペースコロニー五基分もの大きさを誇るこの宇宙港であるから、区画は様々に――それも宇宙空間ゆえ立体的に――分けられている。
アマテラスやクシナダ……そして、今、マミヤちゃんを感心させたフレイヤがドッキングアームで接続されているのを窓型モニターで眺められるここは、当然ながら軍のブロックだ。
「いいでしょー?
ちなみに、乗組員はみんな10代から20代前半の女子士官よ。
アマテラスのお婆ちゃんたちみたいに人を安心させる大らかさはないけど、帝国軍のどんな戦艦より華があるわ!」
マミヤちゃんよりはハッキリと赤い改造軍服の胸元を押し上げているものの、ここにいないシレーネさんには及ぶべくもないサイズの胸を張ったディートが、自慢げに語ってみせる。
ロングブロンドをツーサイドアップにしているこいつだが、今みたくイイ気になっている時は、不思議とツーサイド部分がピコピコと稼働しているように見えるんだよな……目の錯覚だろうけど。
「それは正直、うらやましい。
クシナダのクルーは、能力を最優先にした結果、非常に見苦しくなってしまった」
マミヤちゃんと同様の格好でテディベアを抱えたエステが、ボソリとつぶやく。
ヨーロッパ系人種が主なはずの銀河帝国において、どういうわけか揃って四角い顔をした黒髪の眼鏡白衣ズ。
エステの座乗艦たるシールド艦クシナダの乗組員たちが、思い起こされる。
その上でだが、あまり悪く言ってやるなよ。
俺、たまにあいつらとレースゲーで勝負したりしてるけど、ただ気持ち悪いだけで普通にいいやつらだぞ?
まあ、ちょっと……不気味にクローン人間じみているというだけで。
「だったら! これからはうちの艦にくる⁉
ぬいぐるみもおもちゃも、エステの好きなものぜーんぶ用意してあげるわよ!」
「盗撮されるから、や」
「そんな⁉」
パアッと輝かせた顔を、ガーンと青ざめさせるディートだ。
うん、自分の盗撮写真をコックピット内にベタベタと貼りまくってる相手から誘われたら、誰でもエステと同じ反応すると思う。
姉妹の縁を切らないだけでも、相当な温情ではないだろうか?
そんな風に会話を交わしてる俺たちであるが、何も、立ち止まってそうしているわけではない。
この体は、巨大なフレームライン内の移動を円滑にするためそこら中へ設けられているオートウォークで、スイスイと運ばれていた。
向かう先は、やはり宇宙港の各所へドッキングされている大気圏内外連絡艇の一つ。
アマテラスやクシナダ……と、ついでにフレイヤのドッキングにおける各種の手続きや作業は残ってくれたクルーたちに任せ、皇族+マミヤちゃんという面子で、先に惑星上へ降り立とうという形である。
なぜ、俺たちだけ別行動で……それも、こんなにいそいそと惑星上へ降り立とうとしているのか?
その答えは……。
「……にしても、歓迎のセレモニーとか、大げさすぎやしないか?
確かに、アマテラスや俺のことは随分派手に報道してるみたいだけどさ」
何をどうしようとも、鋼の意志で縮れてみせる自身の黒髪を無駄にいじってみたりしながら、つぶやく。
第二皇子ことペーター兄上みたいなサラサラヘアーだったら、もう少し格好もつくんだろうけどな。
「本っ当、バッカみたいな報道よね?
何よ、あの『勇者武闘タイゴン』って?
スクリュースピンペガサス狼牙キックとか、ふざけてんの?」
「ふざけてなどいない。
スクリュースピンペガサス狼牙キックは、超カッコイイ必殺技」
「やっぱり、必殺技といえば飛び蹴りよね!
しかも、そこにスピン要素と象形拳要素を加えるなんて、イラコにしてはなかなかのセンスじゃない!」
エステに言われ、超高速で手のひらをスクリュースピンペガサス狼牙させてみせるディートだ。
ちなみに、象形拳というのは幻獣や動物の動きを模した拳法のことである。
代表的なところだと、カマキリの動きを模した蟷螂拳だな。
「事実をありのままに再現した素晴らしいVTRのことはさておき、歓迎セレモニーは決して大げさではありません。
それだけ、今のイラコ殿下は注目されているということです」
愛用のタブレット端末を胸に抱きかかえ、ふんすと鼻息を荒くする我が副官殿だ。
「そうなんかなー。
その再現VTRがこそばゆくって、俺はしばらくニュース番組とかも断ってたからな。
いまいち想像がつかんぜ」
「なら、何も知らないままご自身の感情が動くのをお楽しみください。
きっと、驚かれると思いますよ?」
「ふうん……。
まあ、せいぜい楽しみにしておくかね」
そうこう言ってる間に、オートウォークが俺たちを目的の場所まで運び終える。
窓型モニター経由で外を見れば、ドッキングアームに係留された大気圏内外連絡艇のクルーザーじみた船影をいくつも確認できた。
全長にして15メートル程度のこれらは、船体表面に張り巡らされた電磁シールドと四基のVTOL式スラスターにより、大気圏突入能力及び離脱能力を備えているのだ。




