ヨーギル王国第一王女シレーネ
ジンバニア王立連合。
現在、俺たち銀河帝国が侵略戦争を仕掛けている国家の一つであり、最も手こずっている相手と見て間違いない。
さて、ここで一度、ジンバニアがどのような連合であるのか、説明しておこうと思う。
まず、王立連合という名称から分かる通り、実態としては五つの王国が結んだ政治同盟である。
その王国とは、ジンバニア、オルドリ、ウラヴィア、グーディ、そして……ヨーギル。
この五王国に、その他小さな諸勢力を加えた同盟こそがジンバニア王立連合なのだ。
ちなみに、名前から分かる通り、勢力として一番強いのはジンバニア王国であり、一応は盟主としての立場にある。
つっても、目くそ鼻くそというやつで、他の四王国とそこまで差があるわけじゃないけども。
そもそも、単独じゃやっていけないからこそ、寄り合い所帯を作ってるわけだからな。
閑話休題。
そんな感じの勢力であるわけだから、当然ながら、連合内で最も影響力があるのは、五王国の王族に属する者ということになった。
帝国で言うなら、俺たち皇族と同じ立ち位置。
そして、その一人……ヨーギル王国の第一王女シレーネ・ヨーギルが今、目の前にいる。
「これ、頭がおかしくなりそうになるくらい美味しいな!」
……目の前で、俺が手作りした特製の羊羹(小豆)のおかわりを食べていた。
もうね。布地がクソうっすいパイスー姿のため、彼女が大げさなリアクション取るたびにパイの方もダイナミックに躍動されるわけだが、それを見てもイラコ君のイラコ君は反応しない。
急に不能と化したからか?
そうではない。
なんとなく流れで捕虜にした相手が、とんでもねえ大物であったからだ。
「あー……こほん。
まず、このお菓子……羊羹っていうんだけど、喜んで頂けて大変に嬉しく思う」
これは本当。
いずれ語らねばならないだろうが、この俺が気合を入れて煉りあげし羊羹……肝心の帝国軍人たちに対し、今ひとつ受けがよくなかったからな。
いや、ハッキリ認めよう。
あれは、不評だった。
俺が作ったものだと声を張り上げればまた売れ行きも違ったのだろうが、それをしないのは自身、へその曲がった部分だと思う。
また、話がズレたな。
「お茶のおかわりです。
それで、失礼ですが……本当に、お姫様なんですか?」
椅子に座って羊羹を堪能するシレーネさんに対し、マミヤちゃんはトレイを持って立った状態だ。
しかしながら、やや上体を倒したその姿は……実際にはともかくとして、精神的には上目遣いと言っていいものだった。
「うむ! 一切、偽りはない!
なんだったら、少し調べれば、すぐに分かるはずだ。
別段、姿を秘匿してはいないからな。
そちらとて、我が方に間諜を放ってはいるのだろう?」
「それはまあ、戦争のならいとして……」
と、言っているところで、俺の懐で振動。
携帯端末が、メールの着信を知らせたのだ。
送ってきた相手は、本国の諜報部。
タキオンネット経由でかくかくしかじかと事情を伝え、目の前にいるシレーネさんの写真を送っといたのである。
こういう時、本来必要とされる様々な手続きをすっ飛ばし、速攻で対応してもらえる辺り、自分は腐っても皇族なのだと実感できた。
「あー……本当っぽいな。
ほら、ちょっと見てみ?」
内容を一見した俺は、興味深げにしているマミヤちゃんにも見えるよう、端末をテーブルに置いた。
「では、失礼して」
すると、横から覗き込んできた彼女の長い黒髪から、おそらく柑橘系だろう……なんとも言えぬ爽やかな香りがして、少しだけくすぐったい気持ちになってしまう。
「おー、これはあれだな。
報道向けにインタビューを受けた時の写真だ。
コルセットがきつかったのを、よく覚えている」
そして、羊羹を食べ終えたシレーネさんも、なぜか向かいから覗き込んでくる。
腰を浮かせてそんなことするもんだから、もう、豊かなお胸が下方発射準備よろし! よ。
……何が発射準備よろしなんだろう? きっと、ミサイルか何かだと思う。
とにかく、少しでも煩悩の入り込む余地があれば危うかったシチュエーションで携帯端末に映し出されているのは、諜報部の返答と共に送られてきた画像だったのである。
画像の内容は、新聞記事。
ジンバニア王立連合で発行されている大手新聞が、ある日一面記事として発表したものだ。
記事タイトルは『ヨーギル第一王女、奮闘する兵たちをかくも激励せし!』。
デカデカと掲載されている写真は、マイクがたくさん並んだ例の机を前にしたドレス姿のシレーネさんが、凛々しい顔で何かを語りかけているというものであった。
そう、ドレス姿。
今と違い下ろされている亜麻色の髪はゆるいウェーブで整えられており、その上に輝くのは宝石を散りばめられたティアラ。
ノースリーブのドレスは艷やかな光沢の金色であり、よく採寸しているのだろう……彼女の豊かなお胸が、強調される形となっている。
そして、顔立ちは目の前にいる当人同様、モデルめいた美貌。
……うん、まごうことなく、同一人物だ。
なお、記事の内容に関しては、割愛するものとしよう。
斜め読みしたところ、広報関係が用意した内容をシレーネさんが話しているだけのものであった。
「……本当のようですね」
「まあ、影武者説とか立てようと思えば立てられるけど……その意味は感じないな」
写真と目の前の実物を見比べ、マミヤちゃんとうなずき合う。
「だから、そう言っているではないか?」
一方、座り直したシレーネさんは、なぜかドヤ顔で腕組みしていた。
そんな彼女へ、気になって仕方がないことを尋ねる。
「それで、あなたがシレーネ王女だと認識した上で、問いますが……。
どうして、敵勢力圏へ深く侵攻する隠密隊の隊長などやっていたのです?」
「どうしてとは、異なことを。
貴殿とて、こうして最前線へ出撃しているではないか?」
「うちはまあ、色々と特殊だから」
あらためて考えると、計11人いる皇子皇女それぞれにベース艦を与えて艤装させ、前線に送り込むなんてのは、正気の沙汰じゃねえよな。
しかも、そうする目的が、蠱毒のごとく皇子皇女間で競い合わせるためときたもんだ。
各人各様になぞらうならば、各家各様といったところか。
そこに至るまでの背景あってのことだとはいえ、事情は様々である。
「特殊といえば、こちらとてそうだ。
隠し立てしたところで推察すること容易だろうから話すが、王立連合は……ことに、我がヨーギル王国は兵站の限界を迎えつつある。
この局面を回天せしめるには、もはや、物量を超越する精神的充足が必要不可欠。
そこで、あたしだ。
幸い、生半可なパイロットよりは腕が立つし、王位を継ぐ役割は弟が担う。
広告塔として、申し分無しとなったわけさ」
そして、どうやら各家各様なのは、相手方にとっても同じだったらしい。
「それで、隠密隊に……」
……くそエロいパイロットスーツと共に配属され、帝国側で評判の給糧艦を狙ってきたわけですね。とまでは、言わずにおく。
何しろ、アマテラスオオカミなんていうのは、俺ですら知らない謎の隠し玉だったからな。
向こうに渡ってる情報ではクシナダの存在も知らなかったのだし、お姫様が手柄を得るなら、絶好の標的だったわけだ。
これも本人には言わないけど、確かに他のジンバニアパイロットよりは多少マシな腕だったが、本当に多少だったからな。
「さあ、あたしに話せることは、全て話したぞ。
生憎と、隠密隊へ配属された時点で、我が軍の重要な情報は意図的に遮断している。
これ以上は逆さに振っても、有益な情報は出てこないだろうな」
「ふむ……」
肩をすくめるシレーネさんを見ながら、あごに手を当てる。
よく分からないけど秒で屈してくれたし、見るからに嘘が得意なタイプじゃない。
きっと、もう本当に大した情報は持ってないだろう。
となると、彼女の価値は敵国の姫君であるという点に集約された。
その事実を鑑みて、俺が下す結論は一つ。
「マミヤ少尉。
彼女に、アマテラス艦内を案内しようと思う。
いつまでもこのパイロットスーツ姿というのもどうかと思うので、着替えを手配してやろうか」
「ふえ?」
「なに?」
マミヤちゃんとシレーネさんは、俺の言葉にそれぞれなりの反応を見せたのである。




