アマテラスオオカミ・ブレイド 1
斬撃艦フレイヤの副官、ナイーダ・トランクウィッロ少尉の出自を端的に語ってしまうならば、それは、ありふれた中央貴族家の令嬢ということになるだろう。
と、いっても、家格は男爵家であり、さほど身分が高いわけではない。
現銀河皇帝フリードリヒ・ジーゲルが、腐敗した旧中央貴族家たちに反旗を翻した際、その旗下へと加わり、恩賞として現在の地位を得た元地方貴族……というのが、トランクウィッロ家の成り立ちなのである。
大げさないい方をしてしまえば、軍務によって成り上がった家系であるともいえるわけで、その一人娘であるナイーダは、当然の成り行きとして士官学校へと入れられることになった。
それだけならば、男児に恵まれなかった銀河帝国貴族家にとってはよくある話でしかないのだが、ナイーダにとっての不幸は、士官学校で施される士官教育に対して高い適性があったことと、恵まれた容姿をもって生まれてきたことだろう。
前者の資質は士官学校卒業に至るまでの期間を短縮させ、後者の資質により、容姿に恵まれた十代女子を選抜する女子広報士官としての適性アリとみなされた。
つまり、これら二つの理由が合わさって、ナイーダは考え得る限り最速で士官学校教育を終え、少尉の階級を得るに至ってしまったのである。
両親はこの結果を大いに喜んだが、ナイーダにとっては、無駄な才能と半端に優れた容姿をくれてありがとう、と恨み言を言いたくなる状況。
16歳の女の子なのだ。
遊びたいし、デザイナーのおじさん趣味が感じられる女子広報士官用制服などではなく、もっとオシャレなファッションを楽しみたいし、なんなら恋もしてみたかった。
その全てが、ごくアッサリと閉ざされた状態。
軍役が半ば義務化されている貴族家の人間ということもあり、軍人生活からの脱出を試みるならば寿退役くらいしか道はないが、謳歌したいのは若者らしい自由と享楽であって、家庭に入りたいわけではない。
要するに、詰み。
本当に、まったくもって運がない。
そもそも、容姿に関してはさておくとして、士官学校教育に対する適性の高さというのは、要するに座学で優れていることの証明であり、実戦で兵を預かる将校としての適性を示しているわけではないのだ。
ナイーダの自己評価としても、自分は決して現場に出ることが向いている人間ではないのである。
だったらあえて悪い成績を取ればいいのだが、士官学校の教官たちは目ざとく、手抜きをキッチリと見抜いてくるし、ナイーダ自身、なんとなく手を抜くことができない性分なのも不幸であった。
そんなナイーダにとって唯一の幸運は、次期銀河皇帝を目指す第三皇女ディート・ジーゲルが、自分の部下として若く、優秀で、見目の良い女子たちを集めていて、そのお眼鏡にかなったこと。
皇女という立場にそぐわず今風であり、細かなところにこだわらぬディート派閥での暮らしというものは、コミックやライトノベルで見たような一般的女子校のそれを彷彿とさせるもの。
女性だけを集めている性質上、異性との出会いが絶無であることさえ除けば、ナイーダにとっては大層居心地の良い場所である。
ゆえに、軍務というものへそれほど熱心ではないナイーダとしても、ディートの座乗艦であるフレイヤの副官としての業務は精一杯にこなし、こうして、いざ実戦を迎えたとあっては、不在の主に代わって艦長職を代行し、可能な限りハッキングされた艦を無力化。
第三皇女の功績作りに貢献していたのだ。
艦首そのものを巨大な対艦刀とした、サメのごとく流麗かつ攻撃的なシルエットの戦艦……。
フレイヤが属する斬撃艦という艦種は、このハッキング艦たちの部分破壊という任に対し、極めて相性の良いそれであった。
アマテラスオオカミなる超巨大ロボットがあまりに規格外かつ、ド派手に過ぎたためまったく目立たなかったが、誰にも知られない中で、各艦の連装粒子砲などを艦首対艦刀で斬り裂き続けていたのである。
が、それもさすがに潮時。
アビス級反応弾などという歴史に残るレベルで激ヤバな代物が登場してしまった以上、ディートたちを回収してとっとと惑星レク周辺から離脱してしまうのが吉……と、士官学校教育で育まれた将校的な思考で、即座に結論を導き出したのであった。
無論、惑星レクに根付き暮らしている人々や、第四皇子イラコのにわか人気につられてここへ集まってしまった観光客たちがその命を散らすことに対して、何も思わぬではない。
むしろ、人間的な良心の発露として、何かできることがあるならば、してやりたいという思いはある。
ゆえに、ディートが普段からめっちゃ気持ち悪い視線を向けている妹さんであるところの第四皇女エステから「アマテラスオオカミ・ブレイド」という単語が飛び出した時、ナイーダはノータイムでそれに食いついたのであった。
「え? アマテラスオオカミ・ブレイドって、そのオタク君たちが乗っている艦と合体した形態の他にも、別形態があるってことですか?
しかも、それになりさえすれば、惑星レクを救うこともできる的な?」
ついつい、ディート派閥の中で使う素の言葉遣いで聞いてしまうナイーダである。
が、そのような細かいことを気にする人間は、この場にいない。
右舷サブモニター内の通信ウィンドウに映し出されたユカタ姿のエステは、テディベアを抱いたままこくりとうなずいたのであった。
『何種類も横並びの使い分け形態を用意するのは、もはや当然の仕儀。
一クールくらいはしつこいくらいにそれを使い回した挙句、微強化される中間形態その一が登場してからは、サッパリ使われなくなる定め』
「えっと……なんの話をしてるのかいまいちよく分からないんですけど、どうにかなるんですよね?」
『まったく問題なくどうにかできる。
ただし、それをやるためには、斬撃艦フレイヤの協力が必要』
「……へ?
うちらの協力が必要って……?」
そう、ナイーダは士官学校で優秀な成績を収めた娘。
深く考えずに惑星の危機を打破できると喜んでいたが、「ブレイドに合体しなおす」「斬撃艦フレイヤの協力が必要」という二つの言葉から、嫌でも一つの結論を導き出してしまう。
そもそも、メインモニターへ大写しとなっている超巨大スーパーロボットは、オタク君たちの艦――シールド艦クシナダが変形し、上半身を構成することで完成しているではないか!
「えっと……エステ殿下ちゃん?
一個確認したいんだけど、皇族の人たちが乗ってる座乗艦って、共通のベース艦を使って艤装が施されてるんだよね?
間違っても、このフレイヤに、いつの間にか変形合体する機構を盛り込んだりする機会なんてなかったよね?」
『ヒュッフッフ……それに関しては、拙者が説明いたしましょう』
一切の断りなく左舷サブモニターに通信ウィンドウを出してきたのは、シールド艦クシナダのブリッジクルーを務めているオタク君の……誰か!
どういうわけか、彼らは顔も髪型も不気味なくらいに同一であるので、誰にも見分けることができなかった。
『我ら技術屋にとって、エステちゃまは女神であり、天使!
当然ながら、皇族の戦艦建造を請け負った各造船企業内にも、同志は多数含まれております!
彼らと共謀し、本来採用されるはずだった艤装案は破棄!
それと同等の性能を実現しつつ、かつ、給糧艦アマテラスと合体可能となるエステちゃま独自のベース艦改造案を、こっそり採用していたというわけですぞ!』
「えー。
すっごい堂々と国家反逆罪レベルの犯罪を暴露された気がする」
得意げなオタク君の言葉に、ドン引きするナイーダだ。
が、悪の秘密結社もかくやというオタク君たちの暗躍を指図した黒幕ことエステは、涼しい顔。
『銀河皇帝はわたしに甘いから、なんの問題もない。
というわけで、問答無用――ポチ』
エステ皇女が、抱いているテディベアの鼻先をポチっと押し込む。
どうやら、それがスイッチとなっているのだろう。
斬撃艦フレイヤそのものが、臨界以上の出力でリアクターを鳴動させ始めた。
「あ、うちらの協力は必要だけど、拒否権はないんすね?」
かくして、ナイーダの諦め混じりなツッコミをよそに、アマテラスオオカミ・ブレイドの合体シーケンスが開始されたのである!
※前話の、
「困ってしまいますねー。
これがもう少し小さなサイズだったら、イラコママチョップでスパッと弾頭を切り落としてしまい、爆発しないように無力化できたのですがー」
を
「困ってしまいますねー。
イラコママチョップでスパッと弾頭を切り落としたいですが、安全に無力化するには、切れ味がちょっと足りませんしー」
に置き換えました。直径五メートルくらいしかないわ。この弾頭。




