アビス級反応弾 後編
アビス級反応弾!
その存在と、ノア・ホーア・レッドドワーフが起こした惨劇を知らぬ人間は、この宇宙に存在しない!
「人類の革新を題目として掲げていた時の革命家が、地球に対して使用した人類初の反応兵器……。
惑星核内部で核マントルの連鎖崩壊が発生した地球は、わずか数分で消滅。
数十億もの人命を道連れに、45億年以上続いた歴史の幕を閉じた……」
信じられぬという思いで、概要を口にするマミヤである。
それを、エステ皇女が引き継いだ。
「当然、銀河歴961年現在においては、使用を厳しく制限されているし、単純な製造や保持をしただけでも、人類共通の敵と認定される。
もはやこれは、国際法などでくくられる問題ですらない。
人類という種に共通する認識であり、常識」
「それをコッソリ製造して、持ち出してくるなんてー。
アルファード君たちをそそのかした悪い組織は、ママが思っていたよりも、ずっと悪くて力のある組織なのかもしれませんねー」
状況にそぐわぬのほほんとした声で、イラコママが結論を出した。
そう、確かに、想像以上に悪くて力のある、おそらくは――秘密組織。
マミヤ自身は技術畑の人間ではないため詳しくないが、反応弾の“種”となる触媒は超希少元素を分離・生成することで生み出すため、わずか数グラムを製造するだけでも相応の設備と、何より資金力が必要になると聞いている。
それをまさか、投入してくるとは……。
「――っ!
反応弾の正確な所在、キャッチしました!
どうやら、民間輸送船のコンテナへと偽装していたようです!」
アマテラスオオカミの観測装置をフルに活用して、捉えたそれをメインモニターへと大写しにした。
ウィンドウ内に表示されたのは、なんの変哲もない、宇宙輸送船用のコンテナ。
全長50メートル程度の箱型に、自立飛行用の小規模なスラスターが備わったもので、今はそのスラスターを用い、惑星レクの方向……。
すなわち、アマテラスオオカミが戦闘をしているこの宇宙港側へと向かってきている。
が、その外観に変化が起こった。
「コンテナの外装部、パージされます」
観測装置の情報を、正確に読み上げる。
今、マミヤがモリーの代わりに座っているのは通信士のシートであるが、このような各種のオペレートを行うのも、通信士の重要な任務であった。
マミヤが告げた通り……。
直方体のコンテナを構成する六枚の複合装甲板が、爆薬によって内側から弾け飛ぶ。
そうしてコンテナ内部から姿を現したのは、全長にして40メートル程度の、ドリル型ロケットであった。
20世紀に実用化されたペンシル型ロケットとそっくりなこれは、その名の通り、先端部が電磁ドリルと化している。
標的として定めた惑星の地表上へ到達したが最後、このドリルを稼働させ、惑星核へと猛烈な勢いで穿孔するのだ。
「惑星を破壊できる大規模兵器の割には、チープな見た目をしている。
ドリルはイカすけど、その他の部分にクンフーが足りない」
「ロケット弾頭のデザインというものは、20世紀時点ですでに完成されていますからねー。
ママとしては、もう少しかわいらしくするとよいと思うのですがー」
どこかズレたことを言うエステ皇女に、やはりズレた反応を返すイラコママだ。
チープな見た目なのはともかくとして、かわいらしい大量破壊兵器とは、一体……。
マミヤの脳内でイメージされたのは、銀河時代においても大人気な配管工が活躍するアクションゲーム。
あれに登場する顔のついた砲弾などが、イメージとしては近いのだろうか?
「――ではなく!」
ハッとしながら、重大な事実を指摘する。
「内部から現れた反応弾は、すでに自律飛翔を開始。
あと10分ほどで、惑星内へと到達。
その後は、30分ほどで惑星レクの内部核へと到達し、核マントルの連鎖崩壊を引き起こすと思われます」
「しかも、レーダー反応を見る限り、弾頭内部ではもう、臨界寸前の反応核が磁場コーティングされている」
「もしー。
ママがこのまま接近して、イラコママパーンチしたらどうなりますかー?」
キャプテンシートのエステ皇女へ振り向き、おそらくは、パーンチする仕草を見せたのだろうイラコママが問いかける。
なぜ、おそらくなのかといえば、マミヤには「ヒュゴッ!」という風切り音しか聞こえず、気がついたら、お胸をプルルンと揺らしたイラコママが、拳を打ち出し終えていたからであった。
怖い……。
見た目は幼げな少女でありながら、その内に秘めている底知れぬ格闘能力と、一挙手一投足の度にやわらかさとボリュームを強調されるそのお胸が!
「もし、このアマテラスオオカミ・サンダーでシールドパンチを敢行した場合、間違いなく反応弾を破壊することは可能。
ただし、決壊した磁場コーティング内から、一個艦隊を消滅させる規模のプラズマ爆発が発生するので、オススメはしない」
「うーん……。
頑張って縮地で逃げようとしても、さすがに巻き込まれてしまいますねー。
ママ、イラコ様の成長を見届けないまま死ぬのは嫌ですー」
なんとなくプラズマ爆発程度では死ななさそうな雰囲気を漂わせているママメイドが、口元に指を当てながら思案げな顔となった。
「では、シレーネ王女のロビンフッドに残されている残弾を全て叩き込むというのは、どうでしょうか?」
「反応弾表面では、内部エネルギーを転用した強固な電磁シールドが張り巡らされている。
ロビンフッドの火砲は見た目こそ派手だけど、しょせんはM2サイズで運用可能な炸薬式の兵装なので、威力が全く足りていない。
直撃したところで、傷一つ与えられずに終わる」
「艦砲射撃級の破壊力が必要ということですか……宇宙港に停泊している味方戦艦がハッキングさえされていなければ、火力艦の砲撃なりで対処してもらえたのに」
「おそらく、敵の組織は、この反応弾による詰めも踏まえた上で、帝国艦船のハッキングという大規模な作戦を実行している。
帝国側のセキュリティが脆弱だったというより、攻勢側が圧倒的に有利というテロ的な破壊作戦の側面が出た形。
それにもし、艦砲が健在であったとしても、それで反応弾を破壊した場合、大規模なプラズマ爆発が宇宙港に甚大な被害を及ぼす。
それによって玄関口を失った銀河帝国は、ジンバニア王立連合方面への作戦継続能力をも喪失する」
「宇宙港を失うのは仕方がないとして、内部人員が退艦済の艦をこのアマテラスオオカミで押し出して加速させ、直接ぶつけてしまうという手はどうですか……?」
「アマテラスオオカミのパワーでも、押し出して加速する時間が足らない。
それでも、間に合いさえするなら、マミヤが言う通り惑星レクの人命を守るため、実行する価値はあった」
いくつかの提案をするマミヤだが、それらはエステ皇女によって、ことごとく却下される。
感情というものが希薄な少女であるため、見ようによっては冷たいとすら思える言葉の数々。
だが、それらは実現可能性を追求し、かつ、達成した結果もたらされる被害を想定しただけのものでしかないのだ。
「困ってしまいますねー。
イラコママチョップでスパッと弾頭を切り落としたいですが、安全に無力化するには、切れ味がちょっと足りませんしー」
またしても「ビシュンッ!」という目にも止まらぬ手刀を振るい終えた状態で、胸をフルフルさせながら困り顔となるイラコママであった。
万事休す。
かくなる上は……。
『もしもーし、こちら、斬撃艦フレイヤのナイーダ少尉です。
話は聞かせてもらいましたけど、こうなったらもうしょうがないので、惑星崩壊の爆発に巻き込まれない範囲まで、ディートちゃんたちを回収して避難した方がよくないですか?』
マミヤの考えを代弁したのは、サブモニターに通信ウィンドウを開いた僚艦――斬撃艦フレイヤの副長であるナイーダ少尉だ。
手の出しようもない状況なのだから、それはやむを得ないことと、マミヤもうなずきかけたその時であった。
「わたしがさっきから言っているのは、つまり、アマテラスオオカミ・サンダーでは打つ手がないということ。
アマテラスオオカミ・ブレイドの方に合体しなおせば、なんの問題もない」
いつも通りの無感情な顔で……。
しかし、ふんすと鼻を鳴らしながら、エステ皇女が宣言したのである。




