宇宙港の戦い 18
このイラコ・ジーゲルにとって、M2とは乗り回し、扱いこなすマシーンであって、そのメカニズムに関しては、そこまで深い関心はない。
要するに、パイロット技術とそれに付随する多少の整備知識などはあれども、メカニックとしての専門的な知見はないということ。
が、そんな俺でも、機体を見ればどこのメーカーが作った機械であるかくらいは、なんとなーく予想はつくものだ。
製造業……クリエイターと言い換えてもいい。
モノ造りの過程にあっては、どうしたって制作者たちの“色”が出るものだからである。
そこへいくと、現在俺のタイゴンにロングソード二刀流で攻め立ててくるこの白い機体は、機種名こそ不明――つーか、多分ワンオフの試作機かカスタム――であるものの、スマート・ヴィークル社の特徴が色濃く感じられた。
特に大きいのが、フレームだな。
柔軟にして、粘り強く……頑強。
『スマート・ヴィークル社のM2は、フレームだけでも役に立つ』
なあんていうのは、俺が生まれるずっと前から言われていることであり、実際、大型の重機として運用する場面においては、ほぼフレーム剥き出し状態のドンナーが活躍している。
そのことから分かる通り、通常、M2っていうのは、フレーム構造とモノコック構造の合わせ技で強度を確保するものだが、スマート・ヴィークル社は、フレーム単独での強度確保にこだわるのが特徴。
『人間よりも人間らしく動くM2』
というのが創業者の志であり、それは現在においても脈々と受け継がれているわけだ。
30年前に同社が試作し、経緯は知らんがママの手に渡ったこのタイゴンなどは、その極致。
M2で実現可能な徒手格闘戦を、当時の技術限度イッパイまで模索した結果、ママ及び俺の暗殺拳を問題なく再現できているのであった。
同種の設計思想が、この敵から感じられる。
特徴的な合体対艦刀に合わせて、やはり頑強かつ柔軟なフレーム構造が追求されているのだ。
ただ――古い。
例えば、ラスティネイルでロングソードの刃先を受け流した際、瞬間的に感じられる敵フレームのきしみをみれば、使われている材料が一世代ないし二世代前の合金であることは明らか。
結果、タイゴンほど各関節部の強度は確保できておらず、こちらの肘が、上腕と下腕の間へ人体には存在しない“肘パーツ”を挟み込んだ二重関節構造であるのに対し、あちらは上腕と下腕を直で繋いだ構造となっていたりする。
その違いは、膝関節でも同様に現れており、タイゴンが二重関節構造なのに対し、向こうは直繋ぎの一重。
つまり、タイゴンは背中をかくことができるのに対し、あちらはそれが――できない。
この戦いで付け入るべきは、そこを置いて他にない。
何故なら、敵パイロットの技量は、確実に俺を上回っているから……。
だが、勝負っていうのは相対的なもの。
何も、相手の得意分野でわざわざ付き合い続ける必要はないのであった。
俺の狙いを知ってか知らずか、敵パイロットが選択してくるのは、稲妻のごとき斬撃の数々。
その一つ――左のロングソードで放ってきた一撃を彼岸花の型で受け流した時、チャンスは訪れた。
散々に攻撃され続け、慣れた結果辿り着いた、渾身のガード!
これがアクションゲームなら、ジャストガード表示とかがされる場面だ。
そして、アクションゲームにおいてそうであるように、実戦においてもこれは、格好のカウンタータイミング!
……と、思わされている!
そう、これは間違いなく、老獪なる敵パイロットがわざと作り出した隙である。
演出しているとか、いっそ、物語っているといってもいい。
嵐のごとき連撃を俺が耐えに耐え続け、ようやく生まれたチャンスを活かし、逆転大勝利。
そんな筋書きが、奴の手で書かれているのであった。
おそらく、相当な実力者であっても、つられずにはいられない流れ。
そもそも、武芸者であるならば、見えた隙を突くのは当然の本能。
直前まで一切手を出すこともできず守りに徹していた心理状態を鑑みれば、なおのことだ。
だが、俺は知っていた。
熟練した盤上遊戯の指し手が、いかに複雑であろうとも、正路の存在する詰めを決して間違えないように……。
この敵機を操るパイロットが、俺ごときに完璧な受け流しを成立させるはずがない。
そう信じていた俺の読みが――勝る!
まず、相手の誘導通り、貫手にしたタイゴンの右手を、防御が空いた敵機胸部に――突き出さない!
貫手は、途中まで振った状態で静止! しかし、これは右手での攻撃が終わったことを意味しない!
止められた右手に成り代わって敵機胸部へ襲いかかるのは、五本の電磁爪!
右マニピュレーターに装着されていたラスティネイルのロックを解除! 途中で止めた貫手は、これを射出するためのカタパルトだったのだ!
射出された爪が相手に到達するまでは、一瞬!
その一瞬だけならば、タイゴン本体から直前まで供給されていたエネルギーにより、電磁光が維持されている!
射出速度と合わせれば、電磁シールドと複合装甲を抜いてコックピットへ届かせるには、十分な威力!
だが、敵は当然これをガード!
右手に握っていたロングソードを放り捨て、最大速度の手刀でラスティネイルを叩き落としたのである!
つまり、そのまま貫手を完遂しようとしていたら、相手の手刀でこちらの手首が破壊されていたということ。
ここで初めて俺は、相手が描いた戦闘プランの埒外へと躍り出た。
ここで敵機の弱点を突き、畳み込むしかない!
タイゴンに取らせるアクションは――跳躍!
だが、先ほどの攻防で見せた八艘跳びではなかった。
頭部を下に向け、前転しながらのジャンプ!
敵機の真上を飛び越え、背後に立つ形だ!
そのまま、深くしゃがみ込んだタイゴンの背中を、敵機の背中へ密着!
敵機はこれに対応――できない!
何故か?
関節可動域の限界だ。
敵機の肘関節は、一重構造。
いまだ左手に握られたままのロングソードを肩越しに突き出してこようとも、背後で、しかもしゃがんでいるタイゴンには、永遠に届くことがない。
これがもし、二重肘関節構造で人間同様の関節可動域を実現していたならば、普通に届く刃でブスリと刺してゲームセットであった。
「――殺った!」
この状態で繰り出すのは――踏み込み!
ただし、機体の全質量と運動エネルギーを、背中へ一点集中させる発勁のそれだ!
――ズンッ!
衝撃音がフレームを伝わり、エアで満たされたコックピット内に響く。
この一撃……確実に入った。
ブラストキックのように、派手に相手の電磁シールドをぶち破りながらの外部破壊ではない。
互いの電磁シールド同士が干渉するスパークこそ生じるものの、それ以外、外見的なダメージは一切見えない内部破壊。
だが、今、敵機の内部で起こっていることは劇的。
叩き込まれた運動エネルギーが、フレームを始めとする内部機構を破壊し尽くしながら、装甲内部で暴れ回っているはずだ。
そして、その行き着く先は――BOM!
プラネット・リアクターに致命的なダメージを受けた敵機が、内部からの核融合爆発に飲み込まれ、超高温の火球と化していく。
こうなってしまうと、もはや助かる術はない。
搭乗していたパイロットは、機体を構成する諸々の素材もろとも超高熱に飲まれ、跡形もなく消滅しているはずであった。
一個の尊敬すべき命が辿った結末としては、あまりに呆気ない代物である。
「イゾーロ先生……」
俺とタイゴンはただ、一瞬で生じ消え失せた火球の跡を眺めるのみ。
後に残されたのは、先生が使っていた六本の剣だけであった。




