宇宙港の戦い 16
まったくウンザリしてくる。
嫌になってくる。
今、置かれているこの状況は、積み上げた修行の量や自身の実力と無関係に、俺が実戦や前線を敬遠する理由の全てが詰まっているといっていいだろう。
それほどまでに、この大剣を使うM2は――強い。
機体の全身から迸るのは、恐ろしいほどに研ぎ澄まされた殺意。
しかも、それらがむやみやたらに放出されているというわけではなく、明確に俺の方へ向けて収束されているのである。
バカデカい剣をぶらりと片手で下げているだけの隙だらけな恰好が、まったく隙として感じられな――。
――きた。
俺の左下から右上へと向けて、すくい上げるような斬撃!
六つの刃が一つに合わさった大質量は、しかし、予想外の速度を伴いながらこのタイゴンへと迫る!
敵機の股間部……右脚部の付け根にわずかな角度が付いていることから察するに、敵機はぶらりと下げている大剣を巧妙に利用し、タイゴンが備える四つのカメラアイから右脚の動きを隠していた。
そして、右のつま先で大剣の切っ先を蹴り上げ、機体の腕力だけでは到達できない斬り上げの速度を生み出すに至ったのである。
その際、右足の損傷を避けるために大剣側の電磁シールドはカットしているだろうから、多少なりとも得物にダメージが入りながらの一撃。
とはいえ、俺を切り伏せさえすればそれで良いだろう敵機にとっては、なんのデメリットもない一手だ。
俺が基本としている格闘スタイル……左脚一本立ちの姿勢で構えていたタイゴンは、これに対し……滑るように後ろへ下がることで対処。
取り回しの悪さに付け入り、向こうが苦手としているだろうインファイトの戦いへ持ち込む。
頭のどこかで思い描いていた定石は、捨てざるを得ない。
もし、そのような色気を出していたのならば、タイゴンは今の一撃で真っ二つとなり、大剣がまとう電磁熱に焼かれた俺も、宇宙から消滅していたことであろう。
それほどに素晴らしい、必殺を期した一撃であった。
しかも恐ろしいのは、それがこの後に続く恐怖の連撃を始動させるスターターに過ぎなかったことだ。
――バラリ。
……という音を幻聴してしまいそうなほどの潔さで、斬り上げた直後、敵機の大剣が合体状態を解除する。
そうすることで姿を現したのは、二本のグレートソード、二本のカタナ、二本のロングソード。
それぞれ、刃を構成している状態では刀身内に収容していた柄も一瞬で引き出され、敵機とタイゴンの間に、手品のごとくリーチと用途の異なる刃物が生み出された形だ。
これらが目くらましとなり、俺にカウンターを躊躇させた一瞬で、敵機が一本のグレートソードを両手持ち。
そのまま、俺から見て右上からの斬り下ろしを狙ってきた。
スウェー!
どうしようもなく、単純に下がって回避する俺のタイゴンだ。
が、そこで敵機が見せてきたのは、まさかの足癖の悪さ。
なんと、俺から見て左下に斬り下ろした姿勢そのまま、高く掲げた左脚でもって残るグレートソードの柄を器用に蹴り飛ばし、投擲してきたのである。
合体状態の大剣では柄の根元に位置していた小型リアクターは、こうして各刀剣類に分離した状態だと、分割状態で両グレートソードの柄元に収まっていた。
当然、大剣時のそれより出力は劣るだろうが、本体からのエネルギー供給に依存せず、独立して電磁シールドをまとっていることには変わりなく、そんじょそこらのデブリを、機体の電磁シールドに任せて無視するようにはいかない。
俺のタイゴンは、下からすくい上げるように構えている右手の爪に備わった兵装――ラスティネイルによって、これを受け流す。
つまりそれは、大振りの一撃を放ち終えて死に体となっていた敵機へのカウンターが、またも阻止されたということ。
「ちいいっ……!」
狭苦しいコックピットの中で、うめく。
着ているユカタを冷や汗が濡らし、どうにも不快な状態であった。
だが、着ているもの以上に不愉快なのは、敵のいいように主導権を握られ続けているということ。
戦争が外交の一形態に過ぎないように、戦闘行為もまた、対人間におけるコミュニケーションの一形態である。
つまり、大事なのはイニシアチブを確保すること。
その重要なファクターが、常に相手側にあるというのは、精神的な圧力として重く俺にのしかかっていた。
が、焦りを生んではいけない。
こういう時にこそ、凪を迎えた海面のように穏やかで、クールな思考を保つことが肝要。
それこそ、俺の二人の師から共通して教わっている戦いの極意なのだ。
だからこそ、そうさせないようにこの敵機は――畳みかけてくる!
今度、相手が選んできたのは刺突!
振り終えたグレートソードは手放し、代わりに、虚空へ浮いていたカタナの一本を両手持ちにしての突き技だ。
しかもこれは、素人が破れかぶれで体ごとぶつかっていくような、雑な攻撃ではない。
ケンドーにおける正しき――中段への突き!
機体から余分な力を抜いて放たれるそれは、力と勢いに頼ったものより遥かに隙が少なく、速い。
「とあーっ!」
ならばこちらは――八艘跳び!
ヨシツネ・ミナモトのごとく軽やかな……ハードル走をする陸上選手のような、コンパクトに両脚を畳んだ姿勢で前方へ跳ぶ!
当然、頭上を飛び越えられた敵機は、これに反応!
突きを途中で静止し、やはり用済みとなったカタナは放り捨てる。
そのまま、ロングソードを一本ずつ両手に握っての二刀流と化し、跳躍による回避中のタイゴンへと片方を振るった。
俺のタイゴンはそれに対し――スピン!
宇宙でこの表現もおかしな話だが、頭を下にしたまま、軽く両腕を広げた状態で激しく横スピンする。
そうすると、タイゴンの機体そのものが小規模な竜巻と化し、両手に備えたラスティネイルは、電動ノコのごとく振る舞った。
――ギャリンッ!
という音を幻聴しそうな一瞬の鍔迫り合い。
果たして、回転エネルギーを得たラスティネイルは、すんでのところでロングソードによる振り下ろしの一撃を弾き飛ばす!
タイゴン、着地。あるいは着宙。
腰を引き、両足はつま先立ち。
両手は胸部の前で、花のつぼみを思わせる形に合わせ、十本の指に備わったラスティネイルの電磁光が、彼岸花のように輝いた。
これは、ママから教わった防御の型。
型の名は、合わせた両手の形からそのまま取った――彼岸花!
防御の型を完成させたタイゴンに、二刀流の敵機が猛然と襲いかかる。
宇宙空間でありながら、すり足で滑るようにしながらの連撃。
振り下ろしも斬り上げも突きも、技の一切に隙がない。
とりわけ厄介なのが――小手。
マニピュレーターの破壊を狙った一撃は、ケンドーで基本とされているような大きめの振りを加えたものではない。
むしろ、手首のスナップを利かせたごく軽い……弾くような斬撃。
最小動作でもって、電磁シールドをまとった一発を見舞い、こちら側の武装と手指を破壊しようとしているのだ。
それに加えて、時折、わずかに腰ごと退くような動きを見せて、俺の攻撃的な衝動を引き出そうとしてくる。
当然、これは罠。
まんまとつられてカウンターを狙おうものなら、引き小手と呼ばれる下がりながらの一撃で、こちらの手元を打突してくることだろう。
「しのげ、タイゴン。
誘いに乗ったら、おしまいだぞ」
不満げにリアクターを鳴動させる愛機に、操縦桿を握りながら呼びかける。
後手のまた後手に回され続けている状態……。
攻撃力、防御力、リーチ、全てにおいて貧弱なラスティネイルを用いて、敵機の斬撃を受け流し続けている状態。
精神的にも、負荷が凄まじい。
が、ここは亀の子。
敵もまた人間ならば、いかに優位へ立とうとも必ず隙が生まれる。
これは、俺に和菓子作りを授けてくれた師の教えなのだ。




