宇宙港の戦い 14
紛れもなく、次の一手で勝負が決する。
そのことを悟ったアルファードの思考は、ひどく単純なものであった。
目には目を。
歯には歯を。
渾身の蹴りには、渾身の蹴りを……!
弐式の腰をタイゴンと同じように落とさせ、機体の運動エネルギー全てを、両脚に集約させる構えを取ったのである。
イラコが操るタイゴンとの違いは、両手を居合斬りのごとく腰だめとしているあちらに対し、こちらは、ポケットパーツに両手を突っ込んだままということ。
あくまでも、これこそがアルファード・ヤマモトの流儀。
また、蹴り技である以上、必然として両腕が遊ぶ形となる向こうと異なり、こちらはポケットパーツを通じて両腰……つまりは脚部の基点と一体化させているため、全身の運動エネルギーは、より無駄なく必殺の一撃へと伝えられるはずであった。
さらに、こちらの頭部パーツも、四つのカメラアイを展開し、基部に備わっていたサブカメラを解放。
メインとなるカメラアイのうち二つはここまでの攻防で破損していたが、それを補える視界の広さが確保される。
黒と白……二機のタイゴンがそれから陥ったのは、膠着状態。
黒いタイゴンは、メインとサブを合わせた八つのカメラアイで……。
白いタイゴンは、破損分を除いた六つのカメラアイで眼前の敵を見据えた。
無論、ただ突っ立つようにそうしている両者ではない。
まるで、ホルスターに拳銃を収めたガンマンが、抜き撃ちのタイミングを計るかのように……。
ジリジリ……と、宇宙空間で足を擦るように右と左へ動き、互いの息を合わせていく。
バトルというものは、ダンス。
相手あってのものであり、お互いの意識と呼吸を合わせて行うもの。
銀河時代となり、スモウリーグなどというふざけた形式で非日系人種が土俵入りするようになって廃れてしまったが、本格の相撲取りが、立合いのため長く仕切りをするのと同じことだ。
そして、直感する。
呼吸と気が合った瞬間、イラコ・ジーゲルとの間にあったものは、何もかもが砕け果てることになると。
「コオオオォォ……!」
実際に動くのは無論、搭乗しているこの弐式であるが、アルファード自身もまた、息と気を整えた。
キラーチューンの準備は――OK!
八つのカメラアイと六つのカメラアイ! 互いの視線が結ばれたその瞬間、両者は飛んだ!
この跳躍に工夫はなく、スラスターの推力も加え、ただ直線的に相手へ突っ込むのみ!
そして、共に発勁の応用で極限まで高めた運動エネルギーを集中させるのは――右足!
両手をポケットパーツに突っ込んだまま、電磁ソールも起動させた弐式渾身のジャンプキックが、タイゴンへと迫る!
一方、タイゴンの方は拳の握られた両腕を怪鳥のごとく広げ、特に追加装備もない右足を突き出してくる形だ!
勝てる!
この頂上決戦は、俺のヴィクトリーだ!
そうと確信したアルファードの口元に、笑みが浮かんだが……。
実際は――違った!
「――何ッ!?」
驚愕に目を見開いたのは、当然のこと。
互いの足が触れ合う瞬間、一瞬だけ、バチバチという電磁シールド同士の干渉する火花が散り……。
弐式側の火花を文字通り蹴散らしながら、タイゴンの右足が――こちらの右足を蹴り砕き、貫通したのだ!
「バッ――」
――カな!?
その言葉は、最後まで言い終えられない。
タイゴンのキックは、電磁ソールを起動していた弐式の右足を砕くと、そのまま脛を裂くようにして突き進み、今や右の太ももも破壊し始めているのだ!
常識的に考えて、それはあり得ないこと。
そもそも、ポケットパーツの恩恵を受けている弐式の方が、より無駄なく効率的に全身の運動エネルギーを、今の一撃へ転化しているという自負がある。
だが、これはそれ以前の問題。
絶対的な威力を誇るはずの電磁ソールが、どうして何も装備していない素足状態のキックで、破壊されているのか?
足裏に仕込んだスパイクが微弱な電磁エネルギーをまとう、というのが電磁ソールの概要であり、M2の複合装甲を貫くに十分な威力を誇ることは、先日、ファミレス付近で行った戦闘や、先の基地襲撃における戦闘で証明されていた。
それに対し、無防備な素足で蹴り込んでくるというのは、つまり、自分から足を破壊されにいく行為でしかないはずなのだ。
「――ッ!?」
だが、カメラアイの展開と共に基部から出現したサブカメラのうち、一つが捉えた映像を見て、アルファードの疑問も氷解する。
こいつ……。
なんてやつだ……。
電磁シールドが、右足に集まって渦を巻いていやがる……!
それこそ、イラコがこの決着で選んだ必殺キックの正体であり、術理。
あの居合斬りを思わせる腰だめの構えは、通常、M2の機体表面を万遍なく覆っているはずの電磁シールドを、ほんの一瞬……右足の裏へと一点集中するためのものだったのだ。
つまり、機体の運動エネルギーのみを集約していた弐式に対し、タイゴンの方は、電磁シールドというもう一つの破壊的エネルギーすらも集約させていたのである。
当然、容易なことではない。
そもそも、電磁シールドというのは、各所の発生器から、機体表面を同程度の出力で循環するように作られているものだ。
玩具の電車が、設置されたレールの上を同スピードかつ同方向でしか進めないのと同じことで、カートゥーンの超人がそうするように、自在に形を変えたり、一箇所に出力を集中させたりするするようには、作られていないのであった。
その不可能を、イラコは実現してみせている。
機体表面に流れている電磁エネルギーの動きを完璧に掌握し、指先から頭部の動きに至るまで全て駆使して、エネルギーベクトルを一瞬、右足の裏へと向けたのだ。
まさに、M2格闘術の真骨頂。
電磁ソールなどという追加武装の威力に頼っていたアルファードなど、最初から敵ではなかったということ。
イラコ・ジーゲルは――モノが違う!
「――おおっ!」
完全なる敗北を悟って、しかしなお足掻くのは、アルファードが意思を持つ若き魂であるからこそだろう。
すでに、タイゴンのキックは右太ももも破壊し、ポケットパーツごと右マニピュレーターを粉砕している。
このまま突き進めば、胴体に致命的なダメージを受け、プラネット・リアクターが爆散することは避けられない。
「――おおおおおっ!」
それを避けるべく、各部アポジモーターを全力噴射!
同時に、弐式内部の背骨にあたるフレームを稼働させ、背中を反らす形となった。
改造元であるドンナーでは装甲が邪魔をして出来ないが、余分なそれを排除して原型機に近付けたこの弐式ならば、それが可能なのだ。
さらに、健在な左腰のポケットパーツ内で、がむしゃらに左手を動かし、その反動も背骨へと伝播させる!
全ては、一瞬の間で起こったこと。
凄まじい破砕音が、エアで満たされたコックピット内へ響き渡り、同時に、グラビコンシステムでは吸収しきれないほどの圧倒的な衝撃が、アルファードの全身を揺さぶった!
正面に存在するメインモニターも、左右のサブモニターも、砂嵐を流しながら機能不全へと陥る!
同時に、振動の発生源が、なぞるようにアルファードの眼前――何枚かの装甲板を隔てた地点で滑っていき、そのまま上へと到達。
首のフレームを通じて、頭部パーツを粉砕した衝撃もこちらに伝わってきた。
感触から考えて、弐式の頭部は顔面右側が、下から上へえぐり取られたような形で損壊しているに違いない。
「くっ……」
何しろ、全身全霊の気合を込めての操作だったので、咄嗟には頭が働かない。
しかし、愛機である弐式のコンピューターは、ただちにモニター類の砂嵐を消し去り、ブラックアウトした中で的確な情報のみを表示してくる。
心臓部であるリアクターは、無事。
それ以外は、大破。
無様に命のみ繋ぐ形で、アルファード・ヤマモトは完全敗北を喫したのであった。




