宇宙港の戦い 13
熱くなりすぎた。
もっと、クールに……冷静に攻めろ……!
スピードは、俺の方が勝ってるんだ……!
拳ではなく、爪の方を用いていたならば“詰み”となっていた一撃を受け、アルファードの脳裏に去来したのは、そのような思い。
同時に、ステップを刻むような足取りで数歩分、後方にスラスターを吹かし、一旦、仕切り直しとする。
そして――爆発!
今度、弐式が見せるのは、道場で使うお綺麗なテコンドーではない。
繰り出せるを幸いに連打するケンカテコンドーだ。
上上上上上胴胴胴胴胴上胴胴胴!
無駄なくコンパクトに膝を畳みながら、嵐のような蹴りを見舞う!
回し蹴りやひねり蹴りなど、モーションが大きくなる技は使わない。
代わりに、頭部狙いで高く蹴り上げてからの――ネリョチャギ!
急角度で振り下ろされるかかと落としが、立体的なフェイントとなって相手をかく乱する!
そして、これをかわしたところで、またもや上か胴を狙っての二択蹴りが襲いくるのだ。
上を蹴ってきたならば、かかと落としか!?
そう単調ではなく――胴に繋ぐ!
この繋ぎ技も、アルファードからすれば造作もないことであった。
いわばこれは、格闘ゲームにおける択攻めに近い。
組み合わせ次第で無限の分岐を描くコンボが、絶え間なく漆黒の旧型機へ襲いかかっているのだ。
タイゴンはこれに対し、先も見せていた受け流しの型で対応。
両手をつぼみがごとき形で合わせ、十本の指先に装着されたラスティネイルを起動。
ラスティネイルの電磁光が、彼岸花の花弁を思わせる形できらめく。
たかが、付け爪型の電磁兵装だが、これがよく弾き、いなし、受け流す。
間一髪のところで、電磁ソールが輝く弐式の致命的な蹴りを無効化し続けるのだ。
だが、それもいつまでも続きはしない。
嵐のごときテコンドーの攻め手……否、蹴りが、必ずや花弁の守りを崩し――。
『――ほぉあたぁっ!』
タイゴンから差し込まれたのは――掌底!
弐式がポケットパーツへ突っ込んだ両手も使い、機体の運動ベクトルを無駄なく両脚に繋げるコンマ数秒の隙間。
そこへ、弐式の顎を打ち上げる掌底が突き刺されたのだ!
「――ぐうおっ!?」
グラビコンシステムで守られたコックピット内に、衝撃が伝わってくることはない。
だが、またしても攻めから攻めへの繋がりを断たれた事実は、アルファードに心理的なダメージを与える。
しかも、また電磁ネイルではなくマニピュレーターで攻撃されたのだ!
そして、今回、タイゴンの動きはそれに留まらない!
『たぁーっ!』
宇宙空間の中で、高く高く跳躍するような動きを、タイゴンが見せる。
いや、これは――魅せられている!
それほどまでに、見事で美しい跳躍……。
前転。
頭部を下にしてのスピン。
横ひねり込み。
機体を横にしながらのスピン。
これら一連の動きを淀みなく繋げながら、宇宙で舞っているのであった。
まるでこれは――ツバメ!
そして、華麗に飛翔するタイゴンが、突如として急降下を繰り出す!
真っ直ぐに右脚を伸ばしてのジャンプキック……!
「ぐううっ……!」
軌道もタイミングも読めない蹴撃を、アルファードが操る弐式は大きく横っ跳びとなって回避する。
強い。
実に強い。
これが、男の戦いに挑んだ時のイラコ・ジーゲルだというのか……!
おそらく、アルファードこそが、この銀河で初めて目にしたのだろう第四皇子の最も激しく厳しい面……。
それを受けて、必殺技を開帳しないわけにはいかない。
「どっち……?」
タイゴン弐式が刻むのは、バレリーナもかくやという小刻みかつ高速のステップ。
これは、ここまでの攻防で距離を詰める際に使用してきた縮地と、原理的には同じ。
だが、この巧みかつ芸術的な足さばき、見切れるものならば見切るがいい……!
「どっち……?」
見よ……!
タイゴン弐式が……18メートルもの巨体を誇る機械人形が、カートゥーンに登場するニンジャのように左右へ分身する様を……!
そして、これはフェイク映像の類でもなければ、実際のところ、分身でもない!
なぜならば……!
「どっちもだよ……!」
左右に分かれたいずれもが――実体!
あまりに素早い動きで行われる反復横跳びが、実体を伴ってレーダーも肉眼も惑わす!
だが、これはただ相手を惑わすだけの受け技にあらず!
むしろ、その本質は動!
分身するほどの爆発的な運動エネルギーによって、瞬時に二発の蹴りを叩き込むアルファード最大の奥義なのだ!
「奥義――落涙跳返脚!」
横薙ぎのローリングソバット!
上に跳ねてからのかかと落とし!
それぞれ、単独ならば隙の多い大技が、分身との合体攻撃によって、回避不能防御不可能な完全無欠のそれに昇華される!
弐撃決殺!
彼岸花のごとく構えた両手を横から蹴り砕き、四つ目の備わった頭部をも蹴り砕く光景を、アルファードは確かに幻視した!
だが、それは所詮は幻覚……。
タイゴンが見せた動きは、アルファードの想像を上回るもの。
『おおおおおあたあああぁぁっ!』
タイゴンの柔軟な関節可動域を極限まで駆使し、退くでもなく防ぐでもなく……。
十字の軌道を描く同時蹴りへと、斜めに割り込んできたのである!
いや、それだけではない。
タイゴンの両腕両脚を大きく広げた様は、さながら――大文字!
その状態で旋風のごとく回転し、二つに分身した弐式のそれぞれへ、裏拳と打ち下ろし気味の蹴りを放ってきたのだ!
「がああっ⁉」
刻んだステップにより二つへ分かれたかのごとく見えていたにせよ、実体はそもそも一つ!
またもカメラアイの一つを失い、胸部装甲に大きなダメージを受けた弐式が、喰らった箇所から電磁シールドの火花を散らしつつ、後退する。
シールドの火花は、さながらこの機体から溢れた血液のようであった。
「俺の……俺の必殺技を見抜いたっていうのか⁉
それも……初見で!」
その事実に、愕然とするアルファードだ。
究極を求めて、夢中でここまで修行した!
実際、過去に幾度となく道場で行ってきた手合わせにおいても、自分とイラコはまったくの互角だったはずだ!
それが、これ……?
イラコママに見守られながらの稽古において、イラコが手を抜いていたとは到底思えない。
ならばこれは、アルファードの知らぬ奥深さが、あの男に潜んでいたということ……!
それを、証明するかのように……。
イラコの操るタイゴンが、これまで見せたことのない構えとなった。
基本としている片足立ちや、彼岸花の型で見せていたような、素早くすり足ができる形ではない。
両脚を大きく広げ、深く腰を落とし、どっしりと構える形……。
右手は――開掌。全ての指を真っ直ぐに伸ばし、ぴたりと付けた形で左腰へと添える。
左手は、脇を締めながら右手の陰へと隠していた。
これは……この構えは……まるで……。
「――居合⁉」
そう……刀こそ手にしていないが、左手を鞘に見立てたこれはまさしく、白刃を解き放つ抜刀術の構え!
パイロットであるイラコの練り上げた闘気が、機体の隅々にまで行き渡っているかのようだ!
だが、タイゴンは徒手格闘を身上とするM2……。
ならば一体、何を抜こうというのか?
その答えは、あえて力を溜め込む形で開かれた両脚を見れば、明らか。
蹴りだ!
このアルファード・ヤマモトとタイゴン弐式に対し、あえてイラコは蹴り技で挑まんとしているのだ。
――シャキン!
という音が、真空の宇宙空間へと響いたかのように幻聴した。
タイゴンの頭部に四つ存在するカメラアイが展開し、それぞれの基部に備わったサブカメラが、その姿を現したのである。
こちらがどう動こうとも、八つの眼で確実に捉える必殺の意思……!
イラコ・ジーゲルという戦士の魂を、自分は覚醒させてしまったのだ。
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