宇宙港の戦い 11
『イラコ、気を付けろ……。
このタイゴン弐式は……ハッタリじゃない』
「ああ、よーく知ってますよ」
頭部も両腕も、背部のヴァリアブル・ブースターポッドも喪失した状態で、残された足裏のスラスターを使いこちらに漂ってきたペーター兄さんからの通信に、俺は苦笑いしながら答えた。
どこか、ズレている。
俺のことを至極真っ当に心配しての言葉なのは間違いないのに、そう感じられてしまったのだ。
アルファードが……タイゴン弐式が強いというのは、それだけ、俺にとって当たり前の事実。
だから、こんな大事にまで事態が発展した。
……だから、俺の手で決着をつけなければならないのである。
「とりあえず、兄上は……」
『え? おい? どうしたイラコ?
なぜ、僕の機体の健在な脚部をいきなり掴む?』
縮地によりバシュンとミラン・ドンナーの近くまで接近し、そのまま脚部を掴んだタイゴンに対し、ペーター兄さんが分からぬことを言う。
いや、これは分かった上でとぼけている形か?
いわゆる、フリというやつだな。
そうと察した俺は、皇子皇女で最も慕っている第二皇子に、笑顔で告げたのである。
「またまたー?
兄上も分かってるくせにい」
『待て! 何も分かってないから聞いているんだ! 一旦、その手を離すんだ! な?』
何やら慌てた様子で告げ続けるペーター兄さん。
しかし、そんな彼に構わず、俺は操縦桿を動かし続けた。
「兄上の機体は、ブースターポッドも破壊されて、脚は健在なれど主推力はない状態じゃないですか?
今だって、脚部スラスターと姿勢制御用アポジモーターで、よちよちとこちらに流れてきた状態ですし」
『まあ、あまり格好いい状態でないことは認めるよ。
不覚を取ったとは、言わない。
完膚なきまでに敗北して、おそらくあえて命を取られなかった。生き恥を晒していると言っていい。
それはそれとして、タイゴンに掴ませているその手は今すぐに離させてほしいんだ』
「そんな兄上をすぐさま安全圏へと逃すために、この俺がお手伝いしようというのです。
このようにして――ね!」
まるで、ハンマー投げのようなフォームで……。
タイゴンが、両手で掴んだミラン・ドンナーをグルグル、グルグルと……力強く振り回す。
発勁の応用により、各部アクチュエーターが生み出すパワーと、スラスター推力を無駄なく運動エネルギーに変換して行うその様は、外から見たならば小規模な竜巻のごときものであろう。
『ちょ、おま、待――』
「――では、兄上! ご安全に!」
『お前なんか弟じゃなーい!』
ガタガタと抜かす兄上のミラン・ドンナーを、アマテラスオオカミが大暴れしている方向へ向かってぶん投げる。
ママの操縦する超巨大スーパーロボットが暴れ回った後に残るのは、完全に無力化された帝国軍の戦艦群のみ。
機体の電磁シールドは健在であるし、そこへ紛れていてくれれば、とりあえずは安心であろう。
「さて……」
兄上を優しく避難させ、後顧の憂いがなくなったところで、ようやくタイゴン弐式と向き合った。
ドンナーから装甲を剥がし、本来の関節可動域を取り戻したその姿は、まさにこのオリジナルタイゴンと瓜二つ。
大昔のブラウン管テレビみたいな頭部を、こちらと同じ四つのカメラアイが備わったそれに換装しているのだから、なおのことだ。
一見しての違いは、漆黒に染められたこの機体と異なり、純白に染め上げられていること。
そして、パイロットの闘法を反映し、両腰に、一切不要なはずのポケットが増設されていることであった。
生身のアルファードが普段そうしているのと同じように、ポケットへ両手を突っ込んだままこちらのやり取りを見つめていたタイゴン弐式から、レーザーによる通信回線が飛んでくる。
……サウンドオンリー。
『よう? 準備はできたか?』
「なんだ? やっぱりわざわざ待っててくれたのか?
こっちのことなんて気にせず、ペーター兄さんを盾にするなり人質にするなりして、好きに戦えばよかったのに」
『抜かせ。
このアルファード・ヤマモト、そこまで落ちちゃいねえよ』
人型機動兵器であるM2は、人型であるがゆえに、時にパイロットの心情を代弁するかのように振る舞う。
ハンドインポケットスタイルのまま肩をすくめる弐式の姿は、まさに、搭乗者であるアルファードの心境がそのまま表されたものであった。
「……なんだか、妙なことになっちまったな?
最初から、こうするつもりでいたのか?」
『まさか。
お前と戦うつもりなんてなかったよ。
てか、味方になってほしかったんだよな。
そんで、俺たちの神輿として担がれてほしかった。
協力関係結んでいる組織が先走ってイラコママを襲っちまって、どうやらその線はないと諦めたがな』
「そうだな……。
ない、な。
ママを危険に晒した相手と手を組むというのは、あり得ない」
こういう場面なんでママではなく母と呼びたいところだが、十中八九『ママですよー』と割り込まれてシリアスな空気が粉砕されるため、あえて最初からママ呼びするこの俺である。
イラコ・ジーゲルは空気を読める男なのだ……こんなこと考えてる時点で、手遅れな気もするけど。
「ただ、あの面白いおじさんたちの襲撃がなかったとしても、あんたらに転ぶってのは考えづらいけどな。
俺、絶対に死にたくないんで、自分から反乱……だよな? の、旗頭になるとかまっぴらごめんだし」
『またまたー。
給糧艦なんてもん作って、誰より早く前線に乗り込んで兵隊たちの士気を高めて、そんで無力そうに思えた艦には、あんなとんでもない機能を付けてたんだろ?
やる気満々じゃねえか?』
チラ……と俺の後ろの方を見たタイゴン弐式に合わせ、俺の方もバックカメラをチラ見。
『ドンドン無力化しちゃいますよー』
……そこには、数百メートルサイズの巨体を誇る合体スーパーロボットで、18メートル級のM2同様に縮地を再現し、縦横無尽に宇宙港周辺を飛び回ってはランダム砲撃する艦にパンチ一発。
致命傷にならない程度の損害を与え、無力化して回るアマテラスオオカミinイラコママの姿が!
アマテラスは太陽神の名を冠した艦であるが、今見せているその姿、まさしく――戦神。
こんなもんを座乗艦としている第四皇子は、生粋の戦闘狂であるように思えますね。はい。
「……アルファード。
信じてもらえるとは思えないが、前線へ行く羽目になったのは狙ってのことじゃないし、アマテラスオオカミはエステが勝手に仕込んでいたものだ。俺は関与してない」
『またまたまたまたー。
まあ、俺はお前が根っこでは血に飢えつつも、そうじゃないように偽装しているところ、嫌いじゃないぜ?』
「いや、百パーセント純然たる事実なんだけどね?」
『(笑)。
じゃあ、そういうことにしといてやるよ』
鼻で笑われてしまった。一切、嘘は言っていないのだが。
『ま、俺の方も、反乱に加わってくれと言って、二つ返事でYES♪は難しいと思ってたさ。
だから、まずはあの艦とタイゴンを抑えようと思ったんだがな。
そうすれば、ジックリ説得の時間も作れるし。
結局、ことごとく駄目になっちまったけど』
またも肩をすくめたタイゴン弐式から漂うのは、強い諦観。
いや……それだけでは、ない。
もっと、熱く……それでいて冷たく研ぎ澄まされたものがその下にあるのを、俺はハッキリと感じ取っていた。
『だから、しょうがない。
第二の策として、お前を直接やっつけて捕らえ、説得するさ。
いや、この際、お前が応じなくとも勝手に旗頭にしちまう手もある。
歴史上にも、本人の意思を無視して勝手に担がれた奴なんざ、掃いて捨てるほどいるだろうさ』
「そうか……できれば、あんたの弐式と俺のタイゴン、戦友として並び立ちたかったんだけどな」
『俺もそうしたかったし、そういう演出も込みで誕プレとしてエステにねだったんだがな。
こうなっちまうと、アレだ。
お前とやり合うための、最上級のドレスコード――だ!』
問答は終わりということだろう。
タイゴン弐式が、爆発的な動きを見せる……!




