宇宙港の戦い 9
正面のメインモニターと、左右に一つずつ存在するサブモニター……。
その全てを焼き尽くすほど圧倒的な、光の――壁。
これを目にするなり、ディートがみせた行動は的確かつ、攻撃的なものであった。
「ふっ――」
愛機ベレンジャーが手にした粒子狙撃銃を、ただちに連射。
壁のようにも見える光の正体……恐るべき密度で迫りくる荷電粒子ビームの弾幕を、相殺せんとしたのである。
まさにこれは、エステの手によって生まれたベレンジャーの性能が活きた場面といってよい。
M2としては破格の高出力で連射された粒子狙撃銃のビームは、ベレンジャーに迫りきたビームのうち、致命的なものと干渉し、対消滅。
その干渉波は、付近のビームも巻き込んでねじ曲げ、結果的にバリアのような役割を果たしたのであった。
「ちい……!」
だが、さすがにそれで傷を負わずに済むほど、世の中というものは甘くない。
殺し切れなかったビームの一発が、ワインレッドに染まった機体の右腕を、手にした粒子狙撃銃ごともぎ取っていく。
唯一の携行火器を失った形だ。
「二機一組の砲戦カスタマイズ機……?
というより、ドンナー一機を砲撃武器のプラットフォームにした感じかしら?
物資不足の賊っていうのは、面白い発想するわね」
だが、それに対する焦りはなく、冷静に敵方の戦力分析を行うディートである。
ベレンジャーの頭部に備わった単眼型カメラアイは、敵が盾のようにしていた砲撃用ドンナー――両腕や頭部を火器にした改造機だ――が、先に連射した粒子狙撃銃のビームを喰らい、大破しているのを捉えていた。
つまりこれは、互いに頼りとする大火力を失った形なのだ。
ならば、ここからは……。
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「ヘヘ……やるじゃねえか。
さすが、イラコっちの妹ちゃんだぜ」
胴体部にビームが直撃し、リアクターの爆発光に包まれていくメガアームズ・ユニットを見ながら、カワハラは凶暴な笑みを浮かべる。
メガアームズ最大の攻撃――チェンジ・ザ・ワールドのビーム弾幕から何かが突き抜けようとしている気配を感じた瞬間、ユニット背部に突き刺したサムライ・ドンナーの給油ノズルめいた左手を引き抜いたのは、正解だった。
もし、ユニットとの合体状態を維持していたのなら、ユニットを貫通した大出力ビームは、そのまま本機のコックピットを貫通。
カワハラは荷電粒子ビームの超高熱に焼かれ、この宇宙から消滅していたことであろう。
「まあ、痛み分けってところだなあ」
敵機――第三皇女ディートの操るベレンジャーを見ながら、語りかける。
ワインレッドに染まったドール人形のごとく華奢なシルエットの機体は、右肘から先を消失していた。
それはつまり、右手に保持していた粒子狙撃銃をも失ったということ。
暴れ回る火力艦を止める手立てはなくしたということだから、上々な戦果といえるだろう。
どのみち、ただでさえ粗悪な密造品をカスタムしたメガアームズ・ユニットは、もう限界。
あの二発目のチェンジ・ザ・ワールドで、破棄するつもりでいたのだ。
「けど、まだまだ……。
出来んのか? ヘイ!
やれるだろ? ヘイ!」
自機に残された武装――右手の粒子小銃を突き出しながら、最大速度で突進。ベレンジャーへの距離を詰める。
サブマシンガン型の銃から放つビームは、命中を期してはいない。
ただ、弾幕のように連射して、相手の回避軌道を封じるのが目的だ。
ゆえに、この攻防は明後日の方へビームを撃ちながら突進するカワハラ機を、回避できないベレンジャーが待ち構える形となる。
そこが狙い目だ。
「はっはあ!」
ここでカワハラがみせた行動は、おおよそ通常の埒外。
なんと、大胆にも粒子小銃を投げ捨てたのであった。
普通に考えれば、丸腰の敵機に対し、保有している火器を手放すというのは、一切意味がない行動である。
ならば、狙いは他のサムライ・ドンナー同様、左腰に飾りとして装着されたカタナを引き抜いての接近戦か?
半分は正解。
ただし、この接近戦――道具は使わない。
頼りとするのは、無料のカラテ講座動画を見たイラコママから教わったカラテの技のみ……!
「――ちぇいすとおっ!」
ユニット接続用ノズルの左手で繰り出すのは、打ち下ろしの手刀!
いっそ刃物を振り下ろすよりも素早く鋭い一撃に、ベレンジャーは一歩後退しかわそうとする。
だが、これはカワハラ自身のカラテ技を、トレースしたかのような一撃!
そう簡単に、避けきれるはずもなし。
ベレンジャーの胸部装甲――つまり、コックピットブロックの上を擦過するような形でノズルチョップが空振り、互いの電磁シールドをバチバチと干渉させた。
「ははあっ!
今のを紙一重でかわすとは、やっぱりやるぅ!」
兄貴分の一人であり、イセ新選組の副長であるゼファーからもたしなめられたが、カワハラにとって、この作戦は本意といい難い。
やはり、友人であるイラコを騙す形になるというのが、どうにも心の中でしっくりこなかったからだ。
だが、ディート・ジーゲルという……ベレンジャーという強敵を得て、そういったつまらないゴチャゴチャは、どこか遠い所へ吹き飛ぶ。
代わりに胸を支配するのは、得体の知れない充足感。
やはり、自分はどこまでいっても特攻隊長。
小難しいことなど考えず、ひたすら闘争本能に身を委ねるくらいが丁度いい。
「そうだ! いいぞ! イイ波キてるぞ!」
カラテと一口にいっても色々な戦型があるが、カワハラが得意とするのは、特攻隊長に相応しい攻め偏重の――それも喧嘩カラテ。
左のチョップを振り下ろすと同時に、脇ごと絞られていた右腕部で正拳突き!
それをかわされたならば、真空の宇宙に力強く踏み出しながらの左前蹴り!
かわした? ならば、左のノズルハンドをまた正拳突きで繰り出す!
まさに、流れるような連撃。
カワハラ自身、見事と悦に入りたくなるのは、これら一連の攻撃が、円を描くように、左側へ間合いを詰めながら行われていることだ。
真っ正面から攻め続けるのも一つの戦略だが、やはり攻撃が平面的なものとなる。
このように回り込みながらならば、相手も対処が難しくなる上に、ベレンジャー側からすればこれは、失った右腕側から攻められる形となっているのであった。
片腕で両腕健在の相手と格闘戦をするのがどれほど不利かなど、語るまでもない。
そう、語るまでもないはずだ。
それなのに……。
「え……?」
疑念を抱き始めたのは、左の中段回し蹴りがかわされた時のこと。
あまりに鋭く蹴り放つゆえ、回すというよりは突くかのような軌道に見えるミドルキックは、太ももから高く上げられたベレンジャーの右脚に受け流され、電磁シールド同士が干渉する火花のみを散らす結果となった。
「なんだ……?」
どこか、おかしい。
アルファードが乗るタイゴン弐式のように、装甲を引っ剥がし、原型機たるタイゴン同等の関節可動域を得たりはしていないこのドンナーだが、やや力任せなカワハラの闘法を再現するには、十分。
そして、相手は片腕ごと得物を失った狙撃機。
だというのに、攻めきれない。
いや、それだけではなく、今などはこちらの蹴りを受け流す余裕すら見せたではないか?
明らかに、接近戦を不得手とする側の一手では、ない。
「接近戦を、苦手としていない……?」
よもやの疑問へ、応えるかのように……。
ベレンジャーの両かかと……そこに折り畳む形で収容されていた隠し刃が、姿を現す。
「ヒールだと!?」
電磁光を宿し始めた隠し刃の存在に、驚愕するカワハラだ。
それにしてもこれは、奇怪な形状。
切り札だろう刃はかかとから、上側にゆるやかなカーブを描いて突き出ている。
こんな扱いづらそうな武器で、どう戦うというのか?
その疑問に、答えようというわけではないだろうが……。
物言わぬ敵機の頭部……人間でいうところの“口”にあたる部分が、展開された。
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