宇宙港の戦い 7
「第二皇子ペーター・ジーゲル。
先日、イラコの手でボッコボコにされた一件もあって、世間様からはボロクソに叩かれてるけどな。
なかなかどうして、少しはやるじゃねえか」
普段はジーンズのポケットにしまっている両手を出し、タイゴン弐式の操縦桿を操りながら、アルファードは一騎打ちしている相手の実力をそう評していた。
敵――ミラン・ドンナーが先ほどから繰り返している戦法は、至極単純なもの。
背部に装備された一対の追加装備――ヴァリアブル・ブースターポッドを小刻みに操りながら、通常では考えられないほどの超高速で宇宙空間を飛翔。
タイゴン弐式をすり抜けるような軌道で飛びながら、すれ違いざまに右手の粒子散弾銃を撃ち放つか、あるいは、左手に握った折畳式電磁ブレードを薙ぐようにして振るう。
そうしながら、タイゴン弐式の背を執拗なまでに狙っていくのだ。
「ドッグファイトのお手本みたいなマニューバ、キメ続けてくれやがって!」
闘争本能を剝き出しにしながら、吠える。
戦闘機同士の戦いが発生するようになった第一次世界大戦の昔から、機動戦の最重要事項は二つに集約された。
一つは、一撃離脱で攻めること。
もう一つは、敵機の後ろを取ること。
とりわけ重要なのが、後者だ。
まず、機動戦の基本が確立された戦闘機においては、後方を攻撃する手段というものが存在しなかった。
いうまでもなく、そんなものに気を回す余裕があるならば、前方への火力を増加させた方が遥かに狙いやすく、敵を倒しやすかったからである。
また、そもそもの問題として、空力の関係や推進装置を積み込まなければならない都合上、後方攻撃用の兵装など搭載する余地はないというのもあった。
だから、戦闘機同士の戦いというものは、互いに相手の尻を狙って動き合う……犬同士の闘争を思わせるものとなったのだ。
それゆえに定着した呼び名が――ドッグファイト。
そして、機動戦の主役が人型機動兵器であるM2に移った銀河歴現在でも、敵機の背後を取る重要性は、いささかも衰えていない。
素人が想像する通り、手にした粒子小銃を後ろに向けるなどすれば、確かに後方への攻撃は可能。
だが、可能であるということは、得意であるということと同義ではない。
忘れてはならない。マン・マシーンことM2は人型機動兵器なのだ。
その関節構造は人間を模したものとなっており、デザイン元である人間が苦手とする行動……背後への対処は、同様に苦手としているのである。
無論、中には特殊な闘法を得意とするパイロットに合わせ、生物とかけ離れた関節構造を持つ機体も存在すると聞くが、少なくとも、今この場における戦いで考慮する必要はないだろう。
ゆえに、第二皇子の戦術は正しい。
ひたすらにヒット&アウェイを繰り返しつつ、相手の背後へ回ろうというのは、まさに、千年以上もの時を経て醸成された教科書通りの戦い方であった。
しかも、彼が乗機としているミラン・ドンナーは、機動力で大幅にこちらを上回っている。
何しろ、タイゴン弐式は、通常仕様のドンナーから装甲を引き剥がし、多少のパーツ換装をしただけの機体なのだから……。
それはつまり、圧倒的に性能で下回っており、かつ、非武装――オマケとして、本来兵器には全く不要であるはずのポケットパーツへ両手を突っ込んだタイゴン弐式に対し、極めて正しい戦法で攻め続けていながら、いまだに有効打を与えられていないという事実を、意味していた。
「少しはやる……少しはやるぜ。
だけど、悲しいかな……本当に、少しだけだ」
すでに、相手の戦い方は見極めている。
いまだ一切の手出し……いや、足出しをしていない状態であったが、アルファードにとってこの状況は、将棋でいう詰めろに等しいものであった。
「足りねえ……! まだ足りねえなあ!
気分をアッパーさせろよ! 犬になれ!
魂ハイと尽きさせろ! 強く! 熱く! 燃やせ!
声にできないほどの熱を、まとって舞い踊れ!」
言いながらアルファードが操る弐式の動きは、手本を示すかのように、舞い踊ったもの。
両腰のポケットに手を突っ込んだままみせるのは、バレリーナがトゥーシューズで行うようなつま先立ち。
そして、そこから魅せる素早く華麗な足さばきが、弐式にスラスター推力だけでは説明できない瞬間移動じみた超加速を連発させているのだ。
推力でも火力でも勝っているミラン・ドンナー側が、今に至るまでかすり傷一つ付けられずにいた理由がこれであった。
人型機動兵器であるM2は、時に搭乗者の精神をその挙動へ反映させる。
アルファードの挑発が、弐式の動きにも乗ったということだろう。
ミラン・ドンナーが鋭利な――機体性能の限界へ挑むかのように立体的な軌道を描きながら、右手の粒子散弾銃を発射した。
今までで、最も鋭い攻撃。
それは直撃こそしなかったが、放射状に拡散した粒子弾の一発は、確かに弐式の電磁シールドを作動させ、バチリと爆ぜる。
「ハハッ! いいねえ!
猟犬になったじゃねえか!」
だが、コックピット内で、上体を仰け反らせながらミラン・ドンナーの動きを追うアルファードの表情は――余裕。
なんとなれば、相手を挑発し、単調な攻撃を誘うというのは、一対一の戦いにおいて、定石といえる手段なのである。
「だが残念!
お前がドッグなら、俺はウルフ!
狙った獲物を――キリングショットってなあ!」
大推力にモノを言わせ、ターンしてきたミラン・ドンナーが今度狙うのは、左手の折畳式電磁ブレードを使った刺突……いや、突撃。
任侠でいうところの、命を取りに行く構え。
次の回避などは考えず、体ごと突っ込んで確実に相手を仕留めにいく攻撃だ。
「どっち……?」
それに対し、アルファードのタイゴン弐式が刻むのは、これまで以上に小刻みかつ高速のステップ。
これは、イラコが本家タイゴンで使う縮地と、原理的には同じ。
だが、この巧みかつ芸術的な足さばきは、アルファードのオリジナルだ!
「どっち……?」
見るがいい……!
タイゴン弐式が……18メートルもの巨体を誇る機械人形が、カートゥーンに登場するニンジャのように左右へ分身する様を……!
そして、これはフェイク映像の類でもなければ、実際のところ、分身でもない!
なぜならば……!
「どっちもだよ……!」
左右に分かれたいずれもが――実体!
あまりに素早い動きで行われる反復横跳びが、実体を伴ってレーダーも肉眼も惑わす!
だが、これはただ相手を惑わすだけの受け技にあらず!
むしろ、その本質は動!
分身するほどの爆発的な運動エネルギーによって、瞬時に二発の蹴りを叩き込むアルファード最大の奥義なのだ!
「奥義――落涙跳返脚!」
中世騎士のランスチャージもかくやという突進を行うミラン・ドンナーに対し、左右二つに分かれたタイゴン弐式が一斉に襲いかかる!
右の弐式が繰り出すのは、かかと落とし!
左の弐式が繰り出すのは、回し蹴り!
合わせれば十字の蹴撃が相手へ襲いかかる――回避不能対処不可能の絶対致死攻撃!
足底に仕込まれた電磁ソールのエネルギーも上乗せされた一撃……いや、弐撃を受けたミラン・ドンナーはたちまち大破!
頭部と両腕を失い、隙だらけのまま弐式の背後へすり抜けていく。
「――殺しはしない」
そこへ、再び一体に戻った弐式が後ろ回し蹴り! 命綱のヴァリアブル・ブースターポッドも完全破壊した。
「お前は、イラコのように友達じゃねえが、貴重な交渉材料ではあるから、なあ……」
第二皇子とアルファードの戦いは、ここに――決着。
だが、いうまでもなく、アルファードにとってこれは準備運動でしかない。
これから行われる、素晴らしい戦いに備えての……!
「さあ、闘ろうかイラコ……!」
見れば、純白の弐式とは対照的な黒一色の機体が、こちらの仲間であるサムライ・ドンナーたちを突破してきていた。




