宇宙港の戦い 6
「感謝する、か……。
フッフ……礼を言わねばならぬのは、こちらの方だというのにな」
ジンバニア王立連合製の計器類で囲まれた狭苦しいコックピットの中、ユカタという頼りない衣類に包まれた胸をふるりと震わせながら、シレーネは笑っていた。
その笑みは例えるならば、初めてバスケットボールやスケートボードを与えられた男児のよう。
とっておきのオモチャを得た喜びに溢れているのである。
「イイぞ……!
この機体は……ロビンフッドは……イイ!」
プラネット・リアクターの脈動を全身に感じながら、操縦桿を操ると、銀河帝国……いや、エステ皇女の技術をまとった宇宙の騎士が、主の呼びかけへ力強く応えた。
イラコ皇子を援護すべく位置取っていた宇宙港表面から、ジャンプ。
蜘蛛の巣じみた……つまり、ひどく立体的な造りをしているレク宇宙港の別ブロックへ辿り着くと、無数の光条と爆光が輝く中、再びサムライ・ドンナーの群れを見やる。
サブモニターに表示されたリアクターの出力は、本来設定されているそれに比べれば、小さい。
これまでが100だとするならば、せいぜい、40か30といったところであろう。
なぜ、今まで以上の大質量を全身にまとっていながら、その程度のリアクター出力で稼働できるのか?
「やはり、あたしを見失っているな。
ビーム兵器を排除することで、そちらに割かれていたエネルギーが不要となり、結果、遥かに小さいリアクター出力で稼働が可能となった。
しかも、増加された装甲が内側のリアクター反応を吸収。
このロビンフッドを見つけ出すには、機械頼りのレーダーではなく、己自身の目をこらすことだな」
そう……。
まさにそれこそが、広大な森林地帯へ身を潜め、ゲリラ的な戦い方をしたという英雄の名を冠した理由。
隠形により身を隠した単騎は、単騎にして単騎にあらず。
正体不明にして神出鬼没という不可解さが、単純な数以上の精神的プレッシャーを相手方に与える。
想像力を持つというのは、人間という生物にとって最大の長所であり、同時に弱点でもあるということだ。
「右側キャノン砲、スタンバイ……」
無重力空間ゆえあまり意味はないが、宇宙港に着けた両足を踏ん張るような姿勢となった。
その状態でロビンフッドが、意思を持つ生き物がごとく自在に巡らせたのが……右肩部の240mmキャノン砲。
先程は左肩から砲撃したため、今度はこちらの番ということだ。
「照準……セット」
敵もさるもの考えるもの。
まとまらないように散開しながらこちらを探すサムライたちの、強いていうならば中央部と呼ぶべき空間に狙いを定め、発射。
——ドゥンッ!
キャノン砲の発射音が機体フレームを伝わり、エアで満ちたこのコックピット内にまで響き渡る。
発射により生じた熱エネルギーは、砲底部の噴射口から放出。
反動は、同時に噴射した各部スラスターのプラズマジェットで殺した。
そうして敵方の中央部に向かっていく砲弾は、それそのものがエネルギーを発するものではなく、天へと昇る花火のように尾を引いているものでもないため、そうと分かっていなければ、誰にも目視できない。
だが、あらかじめ定められていたポイントに到達するなり発生する大爆発は、誰もが見逃さない規模である。
まるで——ビッグバン。
先の初撃では複数機を巻き込んだ一撃であるが、さすがに警戒され、散開された今回は、そこまでの効果を発揮しない。
だが、不幸な一機は爆発の圏内に巻き込まれ、電磁シールドのスパークもむなしく、右腕と右脚が、保持していた粒子小銃ごと大破。そのまま、戦線離脱していった。
「さすがに、身構えていれば発見もできようか」
敵機たちの動きを見ながら、ほほ笑む。
さすがに、これだけの目があれば発射地点を目にする機体も存在し、ブラウン管テレビじみた頭部がこちらを見据えていた。
すぐさまその情報を共有し、アリの群れがごとく突貫してくるサムライ・ドンナーたち。
これを正面から相手取るほどバカなシレーネではなく、すぐさまロビンフッドを退避させる。
……右脚部へ増加装甲と共に装備された五連装ミサイルポッドのうち、一発を置き土産として。
発射されたミサイルの弾頭からさらに発射されたコ・ミサイルが、雨あられと降り注いでサムライたちの出鼻をくじく。
やはり、先ほど一度このミサイルを見せたのが、効いたのだろう。
本機の武装としては最も低火力であるコ・ミサイルは、十分な抑止力を発揮してサムライたちの足を止めた。
その間に、スラスターを短く使用して細やかな機動。
前述の通り、本機のリアクターは、ただでさえ低出力状態で運用されている。
加えて、武装と共に機体各部へ「着せられている」増加装甲が、内側からのリアクター反応吸収機構を作用させ、レーダーでの索敵を完全に無効化していた。
「次は、どこから撃つか……」
また先ほどと同じように、肩部キャノン砲での砲撃を加えるべく、適切なポイント探しをしていたその時だ。
勘が働いたか、あるいは偶然か。
ロビンフッドに比較的近い位置にいたサムライ・ドンナーの一機が、こちらを発見する。
そのまま、サブマシンガンじみた形状である銀河帝国軍制式採用の粒子小銃をこちらに向け、突っ込んできた。
携行火器による刺し合いは避けられない状況……!
「お相手しよう」
落ち着き払ったシレーネのコマンドを受け、ロビンフッドは手にしていたアタッシュケース型のガトリングガンを展開させ始める。
まずは、ストックを引き出し、次いで折り畳まれていた多銃身をガトリングガン本来の形に戻す。
最後は、銃身基部に存在するテンキーに順次、セキュリティコードを入力したのだ。
7、5、3、8……!
『サイコーデス』
音声アナウンスと共に全ての準備が整い、ガトリングガンがロビンフッドの両手で構えられた。
右手が持つのは、当然ながら、グリップ。
左手は、回転する多銃身部の底面に備わったマグネットカバーを下から支える形だ。
このカバーは、その名通り強力な電磁石と化し、機体のマニピュレーターと半ば一体化。銃撃を支えるのである。
瞬く間に移行した射撃体勢で、サムライ・ドンナーに銃口を向けた。
向こうからすれば、手にしていた四角い何かが、突如として子供でも凶悪な威力を想像できる重火器に化けた状態。
表情など浮かべるべくもないブラウン管テレビじみた頭部に、ハッキリとパイロットの驚きが滲んだ。
だが——もう遅い。
右へ一歩ステップしながら、ロビンフッドがガトリングガンのトリガーを引く。
初動や加速などという、生易しい工程は存在しない。
機体本体の出力をも注ぎ込まれる多銃身は、瞬時に最大速度で回転し、秒間30発の特殊徹甲弾を発射……いや、ぶちまけた。
自分から向かっていく形で、こんなモノを浴びせかけられたのである。
機体表面を覆う電磁シールドごときが耐えられるはずもなく、これらはバチリと弾けて霧散。
機体そのものの複合装甲も、装甲という言葉の意味を考えさせられるほどたやすく穴だらけとなり、ただちにリアクターが爆散した。
最後っ屁か、あるいはパイロットの怨念か……。
内側から生じたリアクターの爆発に呑まれる寸前、サムライ・ドンナーの手にした粒子小銃から、荷電粒子ビームが一射される。
ただし、しょせんは満足な訓練を積んでいない者が、粗悪な密造M2を使って放った攻撃。
ステップしながら掃射した甲斐があり、ビームが貫いたのはさっきまでロビンフッドがいた空間であった。
「自称サムライたちよ、せいぜい、あたしに引き付けられてもらうぞ。
イラコ皇子たちには、大物を狩ってもらわなければならないのでな」
素早くスラスターを吹かせて移動しながら、つぶやく。
僚機の撃墜に慌てた他のサムライたちが視線を巡らせるものの、ロビンフッドはすでに、宇宙港の陰へと姿をくらませていたのである。




