宇宙港の戦い 5
絶対に死にたくないから基本戦おうとはしないし、自分以上の実力者と出くわす可能性に常に怯えているこの俺であるが、それは、イコールで自分の能力を過小評価するということには繋がらない。
むしろ、逆。
パイロットとして……俺は、そんじょそこらの相手に負けることはないと、そう自負していた。
ま、社交辞令としてならばともかく、それ以外の目的で行う謙遜にはなんの意味もないからな。シャーロック・ホームズも作中でそう言っている。
そう、俺とタイゴンのコンビは——強い。
強い、が、戦いとは常に相対的なものであるため、絶対的な実力とは別に、苦手としているシチュエーションもまた、存在していた。
すなわち、突破力がない。
アルファードとペーター兄さんが戦っているところへ乱入するため、タイゴン弐式の後方に追従していたサムライ・ドンナーの群れへと突っ込んだはいいが……。
このように、圧倒的多数の雑魚が壁のように立ちはだかってる状況だと、削り取っていく分ならばまだしも、一気に抜けていくというのが難しいのだ。
「——六っ! 七っ!」
撃破した敵機の数をカウントしながら、操縦桿を操る。
俺の意思を受けたタイゴンは、右膝の裏で挟み込んだ敵機の頭部を、バチバチという、互いの電磁シールド同士が干渉する光と共にもぎ取りながら、手にした粒子小銃で射撃。
サブマシンガンタイプの銃から放たれた荷電粒子ビームは、迂闊に動いた一機の真芯を貫き、爆発による火球へ変じさせた。
『この数分で——セブンカウントだと!?』
『野郎! ふざけやがって!』
練度の低さゆえか、広域通信で叫ぶサムライ・ドンナーたちが、俺に粒子小銃を乱射する。
雨あられと降り注ぐ荷電粒子の奔流は、柔軟な関節駆動のエネルギーを推進力に上乗せしての縮地で回避。
彼らからすれば、タイゴンは分身しながらビームの合間を縫っているように見えるかもしれない。
『くそ! 当たらない!』
『どうなっていやがる!』
焦りながら乱射してくるサムライ・ドンナーたちだが、実はこの状況……焦っているのは、俺の方も同じであった。
……抜けられない。
巧者が撃とうが、ヘタクソが撃とうが、弾幕は弾幕。
狙いが甘かろうがなんだろうが、脅威であることに変わりはない。
銃口を向けられるというのは、それほどのプレッシャー。
そもそも論として、M2同士の機動戦といわず、普通の拳銃を用いた戦いでも、訓練した人間は『当たる場合』を想定して動く。
その前提で体が動くよう、徹底して反復訓練する。
アクション映画の主人公じゃあるまいし、弾幕の嵐を遮蔽に身も隠さず突っ切るなど、不可能なのだ。
「さて……どうする!」
ゆえに、戦いは雑魚たちの猛攻をかわし続けながら、生じたわずかな隙で数を減らしていく形となっていた。
だが、これでは困る。
そちらにまで意識を向けている余裕がないが、ペーター兄さんでは、アルファード相手にそう長くもたないはずだ。
血の繋がった兄を死なせたくはないし、アルファードをその下手人とはしたくないのである。
と、そうこうしている間に、レーダー反応。
追加のリアクター反応群は、下方——熱圏の辺りからこちらへ昇ってきていた。
「まだいたのかよっ!」
これには、毒づくしかない。
繁殖したゴキブリみてーな数で攻めてこられるのもウザったいが、何よりまずいのは——挟撃の成立。
今相手にしている連中と呼応し、後背を突かれるのは、さすがにヤバい。
囲い込み……あるいは、挟み込む。
これは古来より、いかなる戦いにも共通している必勝形。
いってしまえば、全ての戦術はその形を実現させるためにこそ存在するのであり、今俺は、意図してかどうかは知らんが、まんまとその中へとハマりこもうとしているのだ。
「一旦、離脱するか……?」
焦ってはいるが、それを無謀さには繋げず、冷えた頭で考える。
だが、そんな俺の思考を遮ったのは、不意に……あるいは、こつ然と放たれた砲撃であったのだ。
まるで花火の——大玉。
どこからか発射された古式ゆかしい炸薬式砲弾が、下方の熱圏で爆発。
戦艦すら飲み込めるのではないかという、熱エネルギーの大渦を生み出した。
「これは……?」
だが、気配なき攻撃は、この砲撃のみではない。
俺の動体視力が捉えたのは、これまで相手していたサムライ・ドンナーの群れに向かう数発の飛翔体。
タイゴンに四つ備わったカメラアイの拡大機能を使うまでもなく、その独特なシルエットからミサイルであると判断できる。
だが、これらは単なるミサイルではない。
弾頭部分のカバーが外れ、露わになったそこから無数のコ・ミサイルが発射され、ピラニアのごとくサムライ・ドンナーたちに襲いかかったのだ。
『ミ……ミサイル!?』
『逃げろ逃げろ!』
『やべえぞ……!
たった一粒でも当たってみろ!
かけがえのない命失っちまうぞ!』
『輝きに変えられちま——うわ!』
慌てて回避運動を取るサムライ・ドンナーたちだが、そもそもが、気配なき完全なる不意打ちな上、ミサイルの特性として追尾してくるのだ。
直上へスラスターを吹かせることで逃れようとした一機の足首に、コ・ミサイルが食らいつく。
何しろ、一発一発が超小型のそれであり、電磁シールドで全身が守られたM2を破壊するには至らない。
が、バランスは崩れる。
そして、おそらくはそういうプログラムを組まれているのだろう。
バランスが崩れ、つんのめったような体勢となっているその機体に、付近のコ・ミサイルたちも殺到した。
いくつかの小規模な爆発が、サムライ・ドンナーを包み込む。
これに対しても、機体表面を覆う電磁シールドと、原型機であるタイゴンに比べ大幅増加されている複合装甲は、有効に働いた。
両の足首から先はもげてしまったものの、それ以外の箇所は、装甲が剥げる程度のダメージに収まったのである。
ダメージ判定をするならば、小破といったところ。
だが、この機体を操るパイロットにとっても、他のサムライ・ドンナーに搭乗するパイロットにとっても、これは違う印象を与えたようだ。
すなわち——撃墜。
そもそも、これはシミュレーションではなく、実際の機動兵器同士を用いた実戦。
俺は先ほど、重要なセンサー系が集約された頭部を脚技でもぎ取り無力化に追い込んでいたが、あれなどがいい例だろう。
何も、リアクターを爆発させたり、コックピットを潰したりするところまでやる必要はない。
無論、そうすれば確実に息の根を止めることはできるが、現実として、機体を操るパイロットがこれ以上の戦闘続行は不可能と判断すれば、それで撃墜したも同然なのである。
戦いとは、どこまでいっても人間対人間で行うものという一例だ。
そう……戦いは人間相手に、その精神へ訴えかけて行うもの。
正体不明の砲撃とミサイル攻撃が与えた心理的な打撃は、絶大なものがあった。
タイゴンを挟んだ前後のサムライ・ドンナーたちが、一斉に萎縮して警戒態勢を取り始めたのである。
これは、生身同士の戦場で例えるならば、スナイパーがもたらす心理的効果に近い。
どこにいるかも分からぬ相手が、直撃すればこちらを仕留められるだけの火力で攻撃してくる。
となれば、誰でも出そうとしていた頭を引っ込めようというものなのだ。
なお、なぜM2の機動戦ではなく生身の戦いで例えたかといえば、ディートのベレンジャーが好例なように、M2相手に一撃必殺を成せる粒子兵器をドライブすれば、リアクター反応で位置がバレバレとなるからであった。
つまり、大出力兵器ではなく、火薬式の実体兵器を用いた正体不明機が念頭に置いているのは、敵機の撃破ではなく、心理に打撃を与える事実上の無力化……。
『……改修したピノキオは、イラコ機よりもディート機よりも、対多数に向いた機体。何も問題はない』
エステの言葉が、思い出される。
「シレーネ殿下、感謝する!
エステも、サンキューな!」
サムライ・ドンナーたちがビビッた結果、道が空いたこの機は逃さない。
縮地による瞬間的な加速を行いながら、俺は通信回線に叫んだのだった。




