宇宙港の戦い 4
汎用タイプの人型機動兵器——M2。
全長18メートル前後であること、人型であることは各勢力で共通しているこの兵器であるが、逆に言うならば、細かなところでは各々の特色が出る。
コックピットハッチの開閉方式は、その一例。
銀河帝国軍のM2が胸部ブロック上部からパイロットシートごとせり出させ、搭乗者をエレベーター方式で内部に取り込む形式なのに対し、ジンバニア王立連合側は胸部ブロックの前側が開閉し、パイロット自身が乗り込む方式となっていた。
当然、どちらも一長一短。
銀河帝国側は最重要となる胸部装甲の強度を確保できるが、専用の設備がない場所での搭乗——特に有重力下では、機体を仰向けに寝かせるなどの工夫が必要となる。
対して、ジンバニア王立連合側の方式は、とりあえずコックピットハッチに取り付きさえすれば、搭乗可能という利点があった。
まあ、銀河帝国側は、よほどのことがない限り、機体もパイロットも専用設備と共に運用可能。
対して、ジンバニア側はそうではないという、一種兵站面の差が出ているともいうが。
ともかく、久方ぶりに乗り込んだジンバニア製コックピットのハッチを開いた状態で、シレーネは、クシナダにまで出張してきたフェラーリンのレクチャーを聞いていたのである。
「いいかい、王女さん。
武装の特性だのなんだのと、長々と語ってはみたが、要するにこのロビンフッドは、息が短い短距離選手だ。
やるべきことをやりきったなら、さっさと……そんで、コソコソと戻ってくることだ」
さっきから、コックピット内のあちこちに視線を巡らせながら語り続ける、U字禿げの赤鼻メカニックだ。
おそらくは、出撃前の最終段階に至るまで、シレーネには分からぬ様々な問題のチェックを行っているのだろう。
「クフフ……。
フェラーリン師匠と我々クシナダのクルーで、万全を期したつもりですが、何事にも絶対はありませぬ。
少しでも追加装備に不調を感じたら、遠慮なく使い捨ててくだされ」
やはり、シレーネを直接見ることなく、コックピット内のあちこちに視線をさまよわせていた四角い顔の黒髪眼鏡白衣……クシナダクルーの誰かが、眼鏡をクイクイさせる。
そんな彼に対し、シレーネは自信ありげな笑みを返す。
「いや……こうして、起動前の鳴動を聞いているだけでも、マシーンの完成度が感じられる。
本来は縁がないだろう敵方の機体を、よくここまで仕上げてくれた」
言いながら身じろぎすると、安全ピンで留めているユカタの胸元が、フルリと震える。いつものことだ。
「「おうふ」」
「どうされた?」
「「いえ、なんでも」」
なぜか鼻の頭を押さえる二人に聞くが、気にするなという風に手が振られた……じゃあ、いいか!
「では、そろそろ行こうと思う」
「ああ、気いつけてな!」
「クフフ、拙者らは退出いたしましょうぞ」
メカニック二人が退出し、M2用ハンガーなどの必要機材が搬入され、狭苦しいながらも運用システムを構築されたクシナダ倉庫内に一人取り残される。
いや、一人と一機か。
「まさか、この機体で銀河帝国側のために戦うこととなるとはな」
言いながら、足元をむずむず。
トイレを我慢しているわけではない。
フットペダルの位置を確認しているのだ。
誰もがそうであるように、座ってしまうと胸に遮られて、その下にあるものが何も見えない。
ゆえに、出撃直前は、こうして足とペダルの位置をフィッティングさせるのが習慣だった。
そうしながらも、コックピットハッチを閉じる。
すると、上部に収納されていたメインモニター一つと左右のサブモニターが展開し、光を宿していった。
——ブウ……ン。
エアで満たされたコックピット内にまで届くのは、プラネット・リアクターの脈動。
同時に、モニターには増設された各装備とのコネクト状態が表示されていく。
いずれも、ジンバニア製でないばかりか、通常は銀河帝国側でも流通していない代物だ。
エステ皇女が、本機のためだけに特注したのである。
フェラーリンや先ほどのクシナダクルーが言うには、趣味の産物だとか。
しかし、趣味の産物、大いに結構。
使いこなしてみせようではないか!
本来は物資保管用に使われている倉庫の搬入出口が、エアを吐き出しながら開かれ、拘束具じみていた機体固定用のハンガーも格納された。
さすがに、電磁カタパルトのような設備はない。
収納されている機体は、身一つで出撃を果たすのだ。
「ピノキオ改めロビンフッドは、シレーネ・ヨーギルで出撃する!」
開かれた通信ウィンドウに向け、出撃を宣言。
グラビコンも切られた無重力下で機体が浮き上がり、背部のスラスターを噴射させる。
操縦桿を伝わってくる機体の手応えは、明らかにこれまで体験してきたものよりも——重い。
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全身、装甲の塊。
ロビンフッドの外観を評するならば、そのようなものになるだろう。
そもそもの原型機であるピノキオは、スマートなスポーツ選手じみたシルエットに、五指型のマニピュレーターとツインアイタイプの頭部を備えたヒロイックなM2。
白を基調に青色が走るカラーリングの機体を、回収品のジャンクで補修し、さらに、その上から無骨な追加装備を施したのが、ロビンフッドという機体の概要であった。
機体体積を三割増しにはしているだろう追加装備の数々は、単純に塗装を施していないため銀色。
着膨れしてそもそものシルエットを失い、かつ、本体のジンバニアカラーが隠されているこの機体は、ある意味、今シレーネが置かれている立ち位置を象徴しているように思える。
最大の特徴は、装甲と共に機体各所へ配置された火器類。
両脚の脛をカバー型の装甲と共に覆うのは、六連装ミサイルポッド。
両肩には、装弾数四発の240mm炸薬式キャノン砲が一基ずつ背負われており、背部の増加バックパックは、それと半ば一体化。推進用スラスターと弾薬供給システムを兼任していた。
右手に下げるのは、今はアタッシュケース状に折り畳まれているガトリングガン。
展開状態では、ピノキオの脚一本ほどにもなる大きさの重火器であり、多銃身の砲口は、凶悪な破壊力を予感させる。
なお、このガトリングガンも、荷電粒子弾を撃ち放つ当代の方式ではなく、それより何世代も前に先祖返りした炸薬式。
コンパクト——人間サイズに換算すると長財布程度——なマガジンに装弾されているのは、120発の特殊徹甲弾。
秒間30発もの連射速度を誇るため、最長四秒間でワンマガジンを撃ち尽くす短期決戦用兵器だ。
代わりのマガジンも両腰のハード・ポイントに一つずつマウントされているが、それを加味しても、息の長い運用は想定していないことが明らかだった。
つまり、ロビンフッドという機体は、それぞれ有限の火薬式実体兵器で、短期的な攻撃を行うためのカスタマイズM2なのだ。
となると、ここで一つの疑問が生じる。
なぜ、粒子兵器を搭載していないのか? だ。
粒子小銃が各勢力のM2で標準装備とされていることからも明らかなように、荷電粒子ビームを放つこれら武装の優位性は、長い戦乱で証明され尽くしていた。
威力もさることながら、携行性と継戦能力で、実体兵器に大きく勝っているのだ。
何しろ、荷電粒子兵器というのは、極端をいえば、機体本体のリアクターが無事な限り、永久的に撃ち続けられるのである。
それを押してまで、全身実体系兵装で固めた理由……。
それは、ロビンフッドという一新されたペットネームに集約されていた。
同名の英雄が、中世イギリスに実在したのかどうかは、定かではない。
ただ、伝説として語り継がれているその戦法を継承しているのが、まさに本機なのである。
「さあ……。
静かに……そして密やかに……。
最後は派手にいこう」
元はジンバニアの隠密隊に属していた女騎士が、本領を発揮しようとしていた。




