宇宙港の戦い 2
「なんかー。
向こうの艦たちで、合体がどうのとか言ってるんだけど?」
「え? マジ? ウケるー」
「なになに?
なんか戦艦用の追加ユニットでもあるってことー?」
斬撃艦フレイヤの副長であるナイーダが、タブレット端末を下ろしながら放った言葉に、同艦のブリッジクルーたちが、バッチリ流行色でキメたネイルをきらめかせながら、笑い合う。
ケラケラとした笑い声が響く、フレイヤのブリッジ。
その内装は、全体がルージュに近いピンク色の壁紙や絨毯で染め上げられ、シーリングライトの照明が天井から照らしている。
各員のシートにはヒョウ柄のカバーがかけられており、室内のカラーと同じピンク色のクッションで、女子たちの体重を優しく受け止められるようになっていた。
各コンソール類は、半ばプリントシール台帳と化しており、操作の邪魔にならない範囲で配置された流行のちびぐるみが、乾いた宇宙空間での任務に潤いを与える。
要約するならば、完全なる女子の空間。
それが、斬撃艦フレイヤのブリッジだ。
その気分アゲアゲな空間で、主である第三皇女ディートが不在のキャプテンシート——というよりヒョウ柄カバーをかけられたソファ——の片隅に立ちながら、ナイーダは自身の爪をチラリと見た。
根元にラインストーンを配し、全体的には赤みがかったべっこうを思わせるエレガントなグラデーション。
やはり、ネイルはいい。いついかなる時でも、心を落ち着けてくれる。
たとえ、立ちたくもない戦艦のブリッジに立ち、足を踏み入れたくない戦場のド真ん中に位置している時であっても……。
「……ゑ?
ちょいちょいちょいちょいちょい……!
なんか、アマテラスが上下逆になってくんですけど!?
てかこれ、人型の下半身になってない!?」
だが、ブリッジクルーの一人が漏らした言葉で、すぐに正面メインモニターへ視線を向け直す。
そこに、映し出されていたもの……。
それは、アマテラスの艦首部分を基点として、背部のスラスターまで伸びているエネルギーバイパスが180°回転。
スラスターごと、脚部のようなシルエットを形成していくという光景であった。
結果、艦首部から“両脚”が伸びる形となった艦本体は、こうしてみると、なるほど、M2の下半身部分を思わせる形となっている。
「オタクくんたちが乗っている艦の方も、なんか変形してるっし!」
また別の子が叫んだ通り、右舷サブモニターに映されているオタクくんたちが乗っている艦……正式名称は……。
正式名称は……。
…………。
……オタクくんたちが乗っている艦も、変形を開始していた。
なんと! 艦の中央部分から艦底側に向けて、真ん中から二つ折りになっていくのだ。
そうすると、特徴的な両舷部の電磁シールド付きマシンアームが、そのまま両腕のような形になり……これは、上半身を形作っている!
「アマテラスとオタクくんたちの艦、激突コースに……?
ううん……これは……合体!?
え? 合体ってこういうことなん?」
すっかり実況解説役となった子が言っている通り、上半身となったオタクくんたちが乗っている艦と、下半身になったアマテラスとが、それぞれ上下から先端をぶつけ合う。
だが、よほどアマテラス操舵手の腕がいいのか、一切の衝撃を生まず華麗にジョイント部だけ結合させ、なぜか、内部でロック機構が「ガッシン!」と作動している映像をこちらにまで送りつけてきた様は、まさしく——合体。
合体……そう、合体だ!
人型の超巨大スーパーロボットに、合体を果たしたのだ!
最後の仕上げとばかりに、オタクくんたちの乗ってる艦……いや、上半身側から頭部が「ニュッ」と飛び出してくる。
マスク着用者を思わせる面構えの頭部は、レトロチックなメカらしさと共に、どれだけ時代をまたごうとも、決して色褪せないヒロイックさが感じられた。
——ビカアッ!
「——なんの光ィッ!?」
生えてきた頭部のツインアイが発した謎の光に、思わず叫ぶ。
だが、そんなナイーダのことなど当然意に介されず、合体した機体各所から稲妻のごとく余剰エネルギーが迸り、右の電磁シールドが拳のごとく突き出された。
そして、合体完了した二艦のクルーたちが、それぞれ通信に割り込む形で一斉に叫ぶ。
『『『『『——合体完了! アマテラスオオカミ・サンダー!』』』』』
有史以来最大の巨大さを誇るスーパーロボットが、今、惑星レクの宇宙に降臨を果たしたのである。
「うん……」
これを見て、ナイーダの出した結論はただ一つ。
「うちらは、真面目に斬撃艦として他の艦にヒット&アウェイを仕掛けて、無力化していこ」
「ういー」
「おけおけー」
なるべく関わらないようにしよう。
暗黙の了解を交わしながら、それぞれ、必要な作業へ入っていく。
なお、賢明なる読者諸氏には説明するまでもないことであるが、当然、関わることになるのであった。
--
「な……あ……」
開いた口が塞がらないとは、まさにこのこと。
ユカタ姿で愛機ベレンジャーのコックピットに収まったディートは、愕然とした面持ちで、完成した超巨大合体ロボットを見る。
何から何まで——意味不明。
タダでさえバカデカい的である戦艦同士が合体して、なんの意味があるというのか?
よしんば、それで意味があるのだとすれば、最初から一つの超巨大ロボットとして建造すればいいのではないか?
一人乗りの兵器であるM2ならまだしも、合計400人以上のクルーと、問答無用で付き合わされる牛さんニワトリさんオマケの捕虜さんたちがいる合体ロボットで、明らかに格闘戦用の装備しかないのはどういうことか?
思い浮かんだ疑念は、とりあえずそんなところである。
「イラコ、あんたこれ——」
ゆえに、ノータイムで発案者だろう愚弟へクレームを入れにいく。
こういうチャンスを逃す第三皇女ディートではない。
自慢のツーサイドアップも、必殺パワーと言わんばかりに、天へ向かって屹立していた——ここ宇宙だけど!
『ディート姉、見て見て。
戦艦を合体させてロボットにしてみた』
「——を作るチャンスをエステに与えるなんてなかなかやるじゃない!
スマートさを感じる曲線美で構成されたフェイスデザインといい、マニピュレーターなしでありながらしっかり人型であることを感じさせる全体のシルエットといい、文句なしの素晴らしいスーパーロボットよ!
さっすが、エステの『作品』!
銀河の技術史が、また一ページ記されてしまったわね!」
自動車の内燃機関すらしのぐ勢いで手のひらを高速回転させる。
フゥー、危ない危ない。
可愛い可愛いエステのやることは、常に正義!
あのクソ天パがやることだったら文句の一つも付けるところだけど、エステがやることだったらなんの問題もないわ!
ただ、油断はしていられないわね!
イラコのことだから、ここで言葉尻を捉えて「おおおおん!? 今ぜってー俺のことディスろうとしてただろうが!? 人によって態度変えるとか、恥を知らないんですかー? 教えはどうなってんだ教えは!?」とか言ってくるに違いないんだから。
ボキャブラリーの限りを尽くし、どうにかカウンターを……。
『……みんな、悪いけど他のことは全部頼んだ』
だが、意外にもイラコが何かを言ってくることはなかった。
あいつが乗ったタイゴン——漆黒の旧型機は、四つのカメラアイを熱圏と外気圏の狭間へと向けていたのである。
戦艦サイズの推力で大気圏突破した結果、アマテラス艦隊が先行してしまったのだろう。
そこにいたのは、惑星レクから上がってきたイセ新選組カラーのドンナーたち。
率いるのは白いタイゴン——タイゴン弐式であり、迎え撃つヴァリアブル・ブースターポッドの輝きが見せるのは、兄ペーターが操るミラン・ドンナーのマニューバであった。
『俺は、すべきことをしてくる』
身悶えするかのように機体を捻り、運動エネルギーを推力に上乗せしたイラコのタイゴンが、スペック以上のスピードでそちらへ飛んでいく。
「……頼まれたなら、やってやろうじゃない」
黒い機体の背を見ながら、凶暴な笑みになる。
一方的な頼み事とはいえ、あいつに託されたことを果たせないでいたら、どんな嫌味を言われるか知れたものではない。
むしろ、これを完璧にこなして礼の一つも言わせてやるのが、イラコとディートの間にあるべき力関係なのであった。




