ワールドチェンジャー
「銀河帝国軍に所属するM2パイロットたちに告げる。
こちらは、銀河帝国第二皇子ペーター・ジーゲルである。
母艦から発進を果たせた各機は、我が指揮に従い、事態の収拾を図るべし。
今は非常事態であり、異論を挟むことは認めぬ。
我が名の下、一致団結して帝国パイロットの意地を見せるのだ。
もっとも……」
新規に搬入させたミラン・ドンナーのコックピット内……。
棺桶じみて狭苦しい空間で、モニターと計器に囲まれたペーターは、ヘルメットとパイロットスーツの接続を軽く確かめながら苦笑した。
「諸君らとしては、僕よりも腹違いの弟に指揮してもらいたいだろうがな?」
その言葉を受け……。
内側から母艦のハッチを破壊して飛び出すという、緊急事態中の緊急事態時にしか使わない方法で出撃を果たした各機から、搭乗するパイロットたちの弛緩する気配が漏れる。
無論、このようなジョークは、計算して口に出したものだ。
搭乗する機体を鈍器のように振り回されるというのは、屈辱もいいところの仕打ちであったが、それでかかる事態の緊張を解せるというならば、プラス収支として考えてもよかった。
ペーターのプライドなど、安いものなのだ。
『一回負けたくらいで、ペーター・ジーゲルの天才性を疑う者などパイロットではありません』
『まったくです。
何より、御身は今この場にいて、スクリュースピンペガサス狼牙キックのイラコ殿下は、ここにいない。
その事実は、何より大きい』
『我ら、銀河帝国軍の誇り高きパイロットとして、お供いたします』
「君たち……」
不覚にも、少しジン……となるものを感じるペーターだ。
先日、自らが仕掛けた決闘で弟と妹に完敗を喫して以来、周囲が自分を見る目は変わっている。
『落ち目』
『継承戦争からは脱落』
『イラコorz←ペーター』
特に最後のはよく意味が分からないが、女子の悪口というものは陰湿で、時に暗号めいたものになるらしいから、それであろう。
だが、新たに手配した乗機——ミラン・ドンナーのブラウン管テレビじみた頭部を巡らせれば、周囲では黒と銀……銀河帝国を象徴するカラーリングのM2たちが、所属の垣根を越えて編隊飛行に入りつつあった。
粒子散弾銃を横合いに構え、自機にも匍匐前進じみた姿勢——標準的なM2の飛行体勢を取らせながら、口を開く。
「よく言ってくれた!
両翼の十機は、暴れまわっている各戦艦の無力化に努めよ!
僕を中心とした中央の五機は、大気圏外へ上がってくる賊のM2たちを迎撃する!」
手を伸ばさねば使用できない関係上、通常ならば使うことはないモニターのタッチパネル機能で、レーダーウィンドウの各機を表すアイコンに色分けしていく。
同時に足元のフットペダルを軽く押し込んでやれば、トンビという愛称の由来となった一対のヴァリアブル・ブースタポッドが、生き物のごとくうごめき、プラズマジェットの光を宿した。
「では……ゆくぞ!」
『『『『『了解!』』』』』
周囲にひらめくのは、暴走する戦艦が放った荷電粒子の閃光や、光子魚雷の爆光。
あるいは、それらを防ぐべくスパークした電磁シールドの瞬きである。
それらを背景としながら、ペーター・ジーゲルを乗せた愛機……ミラン・ドンナーは、その名のごとく自在な飛翔を開始しようとしていた。
だが、こんな流れは、敵方も織り込み済み。
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「高鳴るぜマイハート……!
気分はハイパー!
ビリビリくる瞬間だ、ぜ……!」
ゆったりとしたTシャツにハーフパンツ。
履き物は、いつも通りのビーチサンダル。
おおよそM2の操縦を舐めているとしか思えぬ軽装で、そこだけ伸ばし脱色した後ろ髪の襟足を振り乱しながら、エグザイル・カワハラは凶暴な笑みを浮かべていた。
太くたくましい……鍛え抜かれた両腕で、操縦桿を操る。
イセ新選組特攻隊長であるカワハラが操るのは、他の隊員が扱っているのと同様、新選組カラーに染められた違法品のドンナーであり、武装は右手の粒子小銃だ。
ただ一つ異なるのは、左手のマニピュレーターが、万力じみた通常仕様ではなくなっていること。
では、どのように改造されているのかといえば、それは、大昔の映画でしか見られないガソリンスタンドの給油ノズルめいたパーツに置き換わっているのである。
「メガアームズ、レーザー誘導……」
タッチパネル操作により、自機と同じくデブリに偽装し漂っていたオプションを誘導。
ガイドレーザーに従ってカワハラ機の前に飛んできたのは、灰色一色のドンナーであった。
ただし、その形状は一般機と大きく異なる。
まず、象徴ともいえるブラウン管テレビじみた頭部パーツがない。
代わりに備わっているのは、無理矢理に接続された粒子バズーカ。
しかも、頭部のみならず、両腕までがバズーカに置き換わっており、両肩には大型の粒子ガトリングガンが装備されているのだ。
推力といえるのは両脚部のスラスターのみであり、本来、メインのスラスターがある背部には、何かを差し込むアタッチメントが配されていた。
もはやこれは、マン・マシーンであるM2の要件を満たしていない。
火器……あるいは、兵器、だ。
と、するならば、メガアームズという端的な名付けは、おおよそこの機体の全てを表しているといっていいだろう。
まさに、全身凶器ならぬ全身兵器。
だが、多少でも兵器知識を持つ人間であるならば、当然の疑問を抱くことであろう。
これだけの武装……扱いきれるわけがない、と。
いずれか一つであるならば、通常仕様のドンナーでもドライブ可能。実際、これらは無理矢理に本体と接続されているだけで、本来ならばマニピュレーターで保持して使うオプション兵装である。
だが、頭部と両腕で三門のバズーカ、両肩に二基の大型ガトリングガンとあっては……。
とてもではないが、M2一機の出力で賄いきれる武装ではなかった。
そう、通常のM2が一機ならば。
「左腕部アタッチメント——接続」
メガアームズの背後に回ったカワハラ機が、給油ノズルめいた左手を背部アタッチメントに差し込む。
もし、ここが真空の宇宙空間でなければ、ガキリ! という、しっかりと接続口にはまり込む音を響かせていたはずだ。
「本体とメガアームズのリアクターを同期開始。
へへ……受け取ってもらうぜ。
おれっちの想いを束ねた99本をな……!」
一度のチャージで発射される荷電粒子弾の数を口にしながら、各種の操作を実行していく。
いわば、このメガアームズは二機で一つのM2。
いや、最大火力を発揮するには、左腕部アタッチメントを接続した上で、コントロールする本体共々、完全な静止状態でチャージを行わなければならないため、兵器の系譜としては野砲や迫撃砲に連なっており、純粋な機動兵器からはやや外れていた。
「チャージ完了……」
同期し臨界に達した二機分のリアクターは、短時間とはいえ駆逐艦級の出力に達する。
つまり、本来ならば、出撃している第二皇子たちのドンナーはただちにこちらを発見し、攻撃阻止に移っているはずだ。
だが、この宇宙港周辺宙域では、無数の戦艦がそれ以上の出力でデタラメな砲撃を行っており……。
単純に図体だけで見たとしても、暴れまわる戦艦たちに比べれば、このメガアームズ・ユニットは小人のごとき存在であった。
つまり、今回の作戦においてのみ、目立って仕方がないはずの大出力火砲ユニットは、ほぼ完全な迷彩状態にあるのだ。
「受けてみやがれ。
チェンジ・ザ・ワールド……!」
それこそ、このメガアームズ・ユニットで行う必殺砲撃の名称。
18メートル級機動兵器が扱うには桁外れの荷電粒子光が、一斉に瞬いた。
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