宇宙(そら)へ
どういうことかは分からない。
あるいは、立ち止まって情報収集するべき場面なのかもしれない。
しかし、俺はアマテラス艦隊へと振り向きながら、ただちにこう命じたのだ。
「現時点をもって、イセ新選組は敵に回った……。
いや、いっそのこと、イセ新選組こそが、今起こっている混乱の元凶であると判断する!
俺たちは、ただちに大気圏外へと上り、全戦力をもって混乱の収束に臨む!」
言いながらタイゴンに行わせるのは、縮地の技術を応用した瞬間移動じみた飛翔。
機体全身の捻りを巧妙に利用することで、その運動エネルギーはスラスターの噴射エネルギーへと乗算。
計算上ではありえない爆発的な加速を、タイゴンにもたらすのだ。
『いいの?
何機か撃墜しといて、今更だけど』
愛機——ベレンジャーに搭載された大出力リアクターの恩恵を活かし、縮地加速の連発へ素で追従しながら尋ねてくるディートだ。
通信ウィンドウ内部、ユカタ姿でツーサイドアップを揺らし、こちらを見つめるその表情は、珍しくも俺を気遣ったものである。
「あー、心配すんな。
こうなっちまったもんは、仕方がないさ」
そう、仕方がない。
その言葉は、この状況を表すのになんともふさわしいものであると思えた。
あるいは、仕掛けてきた側であるアルファードたちにとっても、これは仕方がないことであるのかもしれない。
誰だって、追い詰められなきゃ噛みついたりしないのだ。
『こちらのレーダーで、惑星上の基地を破壊したM2たちが、次々と大気圏外へ上がっていることは把握してる』
『向こうも、私たちを待ち受けるつもりでいるということでしょうか?』
「あるいは、最初からそういう計画だったということだろう。
最も脅威となる帝国軍の艦隊を無力化させて、邪魔をしに来るだろう惑星上の領主軍も叩いておく。
そうすれば、もはや脅威となる存在はないところで、俺たちの艦は動けているわけだが……。
そういや、なんでアマテラスは動けてるんだ?」
アマテラスのブリッジで会話しているエステとマミヤちゃんに割り込みながら、首を傾げた。
聞いたところだと、宇宙港に接続していた帝国軍所属艦は、ハッキングによって制御を奪われて闇雲に搭載兵器を放っているそうだが……。
『クシナダに残っているクルーの一人が防いでくれた。
どの人かは見分けがつかないので分からない』
「そっか……どの人か分からないけど、感謝だな」
クローンか、はたまた分身か。
一切見分けがつかないクシナダの黒髪白衣メガネーズを思い浮かべながら、心の中で感謝。
『あのー……。
いいでしょうか?』
と、ここで通信ウィンドウを新規に開いてきたのは、えっと……。
えっと……。
「……誰ぇ?」
なんか、前にもやったことある気がするな。このやり取り。
通信ウィンドウに姿を現したのは、なんつーかこう、アレだ……ギャル。
着ている服こそ、マミヤちゃんたちが普段着てるような女子広報士官用のミニスカ士官服。
だが、ウェーブの入ったサイドテールで盛った茶髪といい、素材を活かす範囲とはいえ、目鼻立ちのみならず、まつ毛の一本一本に至るまでバッチリとキメているメイクといい、俺の周囲にはいないタイプの女の子だ。
本当に、誰? という感じ。
しかしながら、このタイミングでいきなり顔を出してきたということは……!
「そうか……貴様が全ての元——」
『——その子はナイーダ。
アタシの副官で、フレイヤの指揮を任せてるわ』
「——凶がわざわざ通信してくるわけなかったぜ!
いつも妹がお世話になっていますなんだぜ!」
高速で手のひら返しをしつつ、挨拶をキメた。
そういや、そうだ。誰かがブリッジにいなきゃ、動いてるわけないもんな……フレイヤ。
艦首に対艦用電磁ブレードを備えた真紅の斬撃艦には、このナイーダ——階級章は少尉か。
彼女とそっくりな風貌をしたギャルたちが、200人くらい詰めているに違いない。俺は詳しいんだ。
『ちょっと! 誰が妹ですって!?』
『そんなことよりも——』
さすが、ディートの副官を務めているだけのことはある。
いつもなら、バトル型SNSのようにクソリプかましてくる愚妹が、見事に出鼻をへし折られた。
『たった三隻。
その上、うち二隻は戦闘に向いてない給糧艦とシールド艦なのに、バチバチ撃ちまくってる大気圏外へ向かうんですか?
しかも、あっちに集結しつつあるM2たちは、ハッキングと関係なく襲いかかってくるんですよね?
うちの機動戦力は、ディートちゃんとイラコのすけさんしか、いないですよ?』
「イラコのすけて……」
んで、ディートのやつ、クルーからちゃん付けで呼ばれてるんだ? 今度、俺もちゃん付けしてからかおう。
『ザコの相手なら問題ない。
クシナダ艦内で仕様のレクチャーを受けていて間に合わなかったけど、改修したシレーネのピノキオがある。
あれは、有象無象が相手であればあるほど、真価を発揮する』
通信ウィンドウにドアップとなったエステが、ふんすと鼻息を漏らしながらジト目で告げる。
こいつがこのような態度を見せるということは、よっぽど自分の仕事に自信があるのだろう。
……まあ、そのせいで、クシナダクルーの誰かがやっているのだろうレクチャーに時間がかかっていて、さっきの戦闘に間に合わなかったようだが。
『それに、アマテラスとクシナダには、切り札がありますしね!』
ウィンドウの中で、グッと両手を握ってみせるマミヤちゃんだ。
切り札——アマテラスオオカミ・サンダー。
戦艦同士の合体によって完成する超巨大スーパーロボットであり、あらゆる意味で切り札という性質上、例のアホなVTRなどでも徹底して秘匿してもらっている隠し玉である。
メインの操縦を務めるメケーロ爺ちゃんは不在だが、代わりに入っている俺のママが、イイ感じに操ってくれるに違いない。
『ではではー。
宇宙港を救いに参りましょうー』
そのママによるのんびりとした宣言が、大気圏突破シークエンスに突入する合図。
丁度、タイゴンとベレンジャーもそれぞれの母艦へと到着し、しがみついたところであった。
『まあ、そういうことなら、軍人だし命令には従いますけど?
多勢に無勢でタコ殴りにされるのなんて、ごめんですからね』
ナイーダ少尉もどうにか納得してくれたらしく、彼女に指揮されているフレイヤも対艦ブレードが備わった艦首を上空に向ける。
「よし……。
首謀者がアルファードたちだとして、何を狙ってこんなことしでかしたのかは、分からない。
一つ確かなのは、連中の仕掛けてきた手によって、こちら側はド肝を抜かれたということだ」
さながら、カーチェイスで車の天井にしがみつくアクションスターのように……。
タイゴンをアマテラスの船体上で四つん這いにさせ、総員に告げる。
「そして、もう一つ確かなのは、今度は俺たちが、連中をアッと言わせてやる番だということだ」
現代における機動兵器のコックピットは、グラビコンシステムにより慣性が消されているため、それを感じることはない。
だが、後部に二基存在するスラスターを最大出力で噴射させ、水面へ飛び出す魚のような角度で大気圏外へと上昇していくアマテラスには、殺人的なGがかかっているはずであった。
周囲を見回せば、追従して急角度で上昇するクシナダとフレイヤの艦影。
常ならば、月にあたる衛星が存在しない惑星レクの夜空で瞬くのは、遥かな星々のきらめきのみ。
だが、周辺の大気が薄くなってきたからだろう。
ハッキングされた戦艦たちが巻き起こしている破壊の光が、ハッキリと見え始めてきたのである。




