思いがけぬカラー
ここまでのあらすじ。
真に優れた副官は、主のパンツすらどうやってか把握しているらしい。
--
黒いトランクスパンツ! ユカタ! 革靴!
おおよそ人型機動兵器の操縦には向いていない格好で、アマテラス内タイゴン格納庫(仮)に新設された搭乗アームから、タイゴンのコックピットへと移る。
M2のコックピットと一言に言っても様々な形式があるが、タイゴンのそれは胸部ユニットの上部に備わったハッチから、シートがせり上がってくる方式だ。
緊急時の乗り降りが少し面倒になるが、こうすることで、最重要となるコックピットブロック正面の装甲強度を高めているのであった。
まあ、全身ペラペラ装甲のタイゴンではあまり意味がないけど、同種の機構を引き継いだ量産機であるドンナーにおいては、それなりの効果があると聞いている。
コックピットに直撃もらって生きている奴の調査なんて、毎週のミサに参加してるかどうかを聞いた方が有意だと思うけどな! HAHAHAHAHA!
……はあ。
結論として、M2同士の戦いでは——ことに装甲が薄いタイゴンは——機体表面に張り巡らされた電磁シールドも、機体そのものの複合装甲も、さしてあてにできるものではない。
喰らえば、やられる。
これは、第二次世界大戦の昔から受け継がれてきたドッグファイトの真理であった。
——ピコン。
「当たるなよ、俺。
当たったら、死んじまうぞ」
シートごと棺桶じみた——縁起でもない!——狭苦しさのコックピットに収まり、リザーブされている電力で火が入る中、つぶやく。
——ギュウウウゥゥン!
物言わぬ機械なりに俺の言葉へ応えているのか、ただちに起動したタイゴンのプラネット・リアクターが、唸りを発してみせた。
「プラネット・リアクター起動……。
オートバランサーよし。
モニター及び各種センサー確認。
関節部ロック解除」
手短に各種チェックを終え、新規搬入したハンガーに直立状態で支えられている機体の各関節ロックを解除。
——ガキンッ!
機体各部から響いてくる音は、まるで、人間が指や首の骨を鳴らしているかのようだった。
「武装は粒子小銃をセレクト……これしか持ち込んでないけど」
ペーター兄さんとの一件以来、持ち込みっ放しだった粒子小銃を、ストッカーからマニピュレーターで取り出す。
小銃としては短い銃身のこれは、人間でいうならばサブマシンガンに近い構造。
銀河帝国軍が制式採用している粒子小銃は、インファイト重視の設計となっているのだ。
「ラスティネイル、問題なし」
——シャラン!
タイゴンが、空いた左手に装着した付け爪を軽く鳴らす。
ラスティネイル——正式名称『超キュートでクールで可憐な天才美少女の第四皇女エステちゃんが開発した電磁格闘爪――ラスティネイル』は、右手にも備わっており、銃器の使用にも問題はない。
もちろん、折畳式電磁ブレードなどに比べればリーチも破壊力も劣ってしまうが、いちいち引き抜いたりする手間がなく、母から——。
『——ママですよー?』
……通信ウィンドウに顔を出したママから受け継いだ暗殺拳を、思う存分に使えるという利点があった。
「出撃準備よし!
ハッチを開けてくれ!」
何しろ、アマテラスは給糧艦であり、タイゴンをしまっているこの格納庫は、別の用途に用いるべきところを俺が私物化している状態だ。
そのため、通常の空母に備わっているカタパルトなど存在せず、宇宙空間で物資の入出庫に使う天井部のハッチを、ブリッジから開いてもらう形になる。
両開きのハッチが機械仕掛けで開いて現れるのは、暗い中に無数の星々を輝かせる惑星レクの……イセタウンの夜空。
大気圏内においては、外部空気の電離媒質を使う各部プラズマジェットスラスターが噴射され、惑星上に張り巡らされたグラビコンシステム網の重力に対抗。
「タイゴン……。
イラコ、いきまーす!」
装甲を軽量化した結果、ドンナーより20トンも軽い80トンの機体が、夜空に飛翔を果たした。
漆黒の……関節可動域を極限まで追求した機体は、空中で滑らかな挙動を見せ、右手の粒子小銃を脇に抱える。
同時に、右脚部も膝を曲げる形で引き締められたが、対照的に、左半身は腕部も脚部もややダラリとさせた状態。
射撃戦にも格闘戦にも即座に移行できる中庸の型だ。
タイゴンとは、虎の父とライオンの母を持つ雑種生物の名。
頭部に備わった四つものカメラアイが、その名にふさわしい凶暴な眼差しを向けた。
そうして、姿見じみた形状の正面メインモニターに映し出されたのは……。
「よくもまあ、こんなに大量のドンナーを集めたもんだな」
各方面から迫ってくる敵機たちのうち、まずは第一波としてこのアマテラス艦隊に迫ってくる機影を見つめる。
プラズマジェット推進するスラスター光の数は、六。
M2二個小隊に相当する数であり、そんじょそこらのテロ屋さんが用意できる数ではない。
『しかも、これらは氷山の一角。
まだまだ、後続が各地からこのアマテラス艦隊へ迫ってきている』
『戦力を逐次投入しているということでしょうか?』
キャプテンシートでテディベアを抱いてるらしいエステと、不在のモリー婆ちゃんに代わって通信士の役割を担っているらしいマミヤちゃんが、通信ウィンドウにユカタ姿を映し出す。
『うふふー。
戦力の逐次投入と電撃的な攻撃とは、境目が難しいものですよー?』
メケーロ爺ちゃんに代わって操舵手のシートを使っているママ——多分当然のように操舵できるのだろう——が、ウィンドウ内と向こうで告げた。
『とにかく、こっちは迎え撃つだけ——ってちょっと待ちなさいよ!
このドンナーたち、例のけったいな新選組Tシャツと同じ模様してない!?』
本来M2運用能力がないところへ、俺のタイゴン同様に無理矢理搭載しているカスタムM2——ベレンジャー。
ワインレッドに染め抜かれた華奢なシルエットと、携行している大型の粒子狙撃銃が特徴の機体である。
それを操るディートが、やはり自機の推進力によって発進すると同時、遠距離観測能力に優れる単眼型カメラアイを巡らせながら叫んだ。
「なんだと!?」
叫んだ俺だが、見た方が早いということだろう。
右側のサブモニターにウィンドウが開かれ、ベレンジャーの捉えた拡大映像が映し出された。
夜闇の中、不格好な編隊を組んで飛行している人型たち……。
それは、確かにイセ新選組Tシャツと同じ模様でボディと両腕部をペイントしたドンナーの軍団だったのだ。
しかも、それぞれが手にしている主兵装はタイゴンと同じ粒子小銃だが、左腰にはサムライが使うカタナ——に、そっくりな棒切れをぶら下げている。
『どういうこと!?
あんたの友達たちが、救援に来たってこと!?
にしても早すぎるし、そもそも、イチ惑星に所属している小部隊程度が、ここまでの数を揃えられるものなの!?』
ディートがそう言っている間に、乗っているベレンジャーの方は行動を終えていた。
手にしている大型の粒子狙撃銃を空中で構え、ガッシリと右肩でホールド。
ドールめいてすら思えるほど華奢な機体と、M2用の装備としては最長級に位置する得物とを、半ば一体化させたのだ。
思考と言葉で結論を出すより先に、愛機が攻撃姿勢を取っているのは、パイロットの本能であるといっていい。
「待て! ディート! ストップだ!」
だが、俺はわずかに前へ出したタイゴンの左腕で、ベレンジャーの射線を塞ぐ構えとなる。
「その狙撃銃では、通常出力でもドンナーごとパイロットを殺してしまう!」
『だったらどうだっていうの!?
アンタ、分かってんでしょ?
あいつら多分——』
「——言うな!」
自分でも、驚くほど荒い語気。
それにベレンジャーが動きを止めたのを見て、こう吐き出した。
「……まずは、俺が確認する」
あのドンナーたちは、どうやら粗悪なパーツで全身を構成しているのか、正規の機体よりやや速度が遅い。
それでも、M2が最高速に達すれば、惑星上の移動などあっという間なわけで……。
すでにタイゴンのカメラアイでもハッキリと捉えられてる新選組カラーの機体たちを見て、俺は歯噛みをしたのであった。




