イセ新選組と老人たちの極めて一方的な戦い 前編
静寂の宇宙空間に静止する蜘蛛の巣がごとき巨大建造物。
地球文明時代に存在したいかなる人造建築物をも凌駕する叡智の結晶は、今、同じく人類が生み出した叡智の結晶による爆光と荷電粒子光をあちこちで生じさせており……。
それらの破壊による連鎖的な爆発光や、あるいは電磁シールドの干渉による雷鳴のごとき光も、各所に発生させていた。
この惑星レク宇宙港において、果たして何が起こったのか?
一見すれば、それは内乱のように見て取れる。
各所のドッキングアームに接続されていた銀河帝国軍の戦艦が、強引にその接続を解除すると同時に、荷電粒子砲や光子魚雷を発射。
巨大さに相応しく、半ば要塞じみた電磁シールド圧を誇る宇宙港といえど、柔らかい脇腹を突かれる形になっては到底耐えられず、あちこちで惨状が発生していたのである。
これが内乱でないと断定できるのは、当直のため各艦に待機していたクルーたちが、緊急連絡用の通信を各所に入れていたから。
『我、コントロール不能! 我、コントロール不能!』
『メインコンピュータへのアクセス不能!』
『詳細は不明だが、何者かが偽の信号をコンピュータに送り、艦を操っていると思われる!』
『攻撃しないでくれ! こちらには、その意思はないんだ!』
『現在、内部からの物理的な破壊によるエネルギーバイパス切断を行っている!
それが成功すれば、砲撃は止まるはずだ!』
艦のコンピュータが乗っ取られ、船乗りにとって安息の地である宇宙港に破壊の嵐を吹かせる……。
悪夢にしても気が利いていない状況下で、しかし、ただちに頭を切り替え、内部からの物理的な工作による砲撃停止を試みている艦が多数であるのは、さすが歴戦の銀河帝国軍というべきだろう。
ただし、ここで歴戦の軍ならではの皮肉な問題が立ち塞がった。
『内部からの破壊作業は、難航中!
我ら銀河帝国軍の戦艦は……頑丈すぎる!』
そうなのだ。
銀河帝国軍の戦艦は、高度にユニット化された構造をしており、共通規格化可能な部分は、とことんまで同一のユニットを使用していた。
それはつまり、生産性を高めるため、極限まで無駄を省いたシンプルな構造になっているということ……。
兵器史において、シンプルであるというのは、イコールで頑丈であることをも示している。
帝国軍の戦艦は——頑丈。
外部に対しても、内部に対しても。
そのため、人力による強引な破壊作業は、遅々として進まなかった。
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「よし……それじゃ、プランB。
給糧艦アマテラスへの突入制圧作戦を開始するぞ。
中で当直しているのは爺ちゃん婆ちゃんたちだからって、油断するんじゃねえぞ?」
遊撃隊長レンゲ・オレンジによる電子戦が上手くいかなかった時に備え、白兵戦での制圧任務を託されていたイセ新選組隊士たちのリーダー格は、そう言いながら、数十人はいるだろう事務所内の仲間たちを見回していた。
レンゲのはからいによるものだろう。
惑星レク宇宙港の各所で繰り広げられている戦艦の砲雷撃は、イセ新選組が使用しているこの区画一帯には及んでいない。
同じく破壊の風が吹き荒れていないアマテラス艦隊の使用区画まで、素早く移動し、可能ならば——無血で制圧。
それこそが、プランBの全容である。
要するに、イセ新選組は今回の一件において、電子と白兵の二段構えで挑んでいたのだ。
「げっへっへ……。
ああ、油断しねえさ。
油断せず、怪我させないよう丁重に扱うぜ」
ペロオリ……と、飛び出しナイフの刃を舐めたヤンキーが、下卑た笑みを浮かべながら告げる。
「ケッケッケ……それだけじゃねえ。
アマテラスの畜産ブロックでは、牛さんやニワトリさんが飼われてるんだろぉ?
なるべく、ストレスを与えないようにしなきゃなあ……!」
——ガシャン!
アサルトライフルのカートリッジを装着しながら、やはり品のない笑みを浮かべたヤンキーが宣言する。
「ああ、帝国軍の軍人が何人死のうが知ったこっちゃねえけどよぉー!
罪もない動物や、民間人のお爺ちゃんお婆ちゃんが傷つくのだけは、我慢ならねえからなぁー!」
宇宙港内ないし、戦艦内での制圧戦となるため、これといって意味のないフェイスペイントを気分的に施したヤンキーが、頼もしい言葉を放った。
全員、着用しているのはイセ新選組のシンボルであるダンダラTシャツ。
その上からタクティカルベストを羽織り、アサルトライフルや拳銃で武装している。
見た目だけは、正規の軍隊にも劣らぬ装備。
しかし、見る者が見れば着られていることが明らかなのは、所詮、イチ惑星の地方都市で暮らすマイルドヤンキーを集めた集団に過ぎないという証左であろう。
隊長であるアルファード・ヤマモトや、特攻隊長エグザイル・カワハラのような実力者は、例外的な存在なのだ。
とはいえ、その二人によって即席的ではあるが訓練を施されている面子が選抜されているわけで、宇宙港警備隊の邪魔も入らないだろう今回のケースにおいては、なんの問題もない。
そう、給糧艦アマテラスで働いているお爺ちゃんたちが、かつて最前線を駆け抜けて生き残ってきた屈強なる古兵集団であったりしない限り……!
「行くぞっ……!
救済と闘争は、同じ戦場のアリアだ……!
誰にも、おれたちを止められないぜ!」
「「「「「おう!」」」」」
プランBの実行役に選ばれた隊士たちが、やたらポエミーなリーダーの言葉に力強く応じる。
イセタウン……ひいては、惑星レクとフリーレーン自由商業同盟の夜明けは、すぐそこだ。
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——ズムッ!
——ズムッ!
……と、老人が肉を殴る奇怪な音が鳴り響いているのは、他でもない。
給糧艦アマテラス内に備わった食肉処理施設である。
施設内のレールに、フックで吊るされているのは、皮を剥ぎ内臓も取り除かれた牛の半身。
当然ながら、ラドが飼育している乳牛の肉ではない。
ここ惑星レクで新たに仕入れた肉牛の肉だ。
「さすが、『プロテイン・ダイナミクス社』の総帥が直接搬入してくれた肉だ。
サシの入り方といい、歩留まりといい、申し分がない。
さすがに、イセタウンの料理屋で出してたような高級マツザカ・ビーフには劣るが、前線の兵士に食わしてやるには、上等すぎるくらいの品だ。
あんたに殴りつけられてさえいなけりゃな」
そう声をかけたのは、牛の半身を殴りつけている老人とは、別の男。
アマテラスで働く老人の中では若手に分類されるが、それでも、50代の後半だろうイギリス系の男だ。
精悍な顔立ちはハンサムの一言であり、禿げ上がった頭頂部と、下顎全体を覆うような無精髭が特徴的だった。
シャツにジーンズといういかにもラフな格好をしており、鍛え抜かれた肉体美が嫌でも分かる。
そんなハンサム男から、批判じみた言葉をかけられた老人は、ようやく、牛肉を殴る手を止めた。
「昔から、ずっとこうしてトレーニングしてきた。
今さら、他の鍛え方は知らないさ」
こちらの老人は、ハンサム男より二周りは年上。
70代も佳境を過ぎているだろう年寄りである。
が、年齢的な衰えは一切感じられない。
やはり、シャツにジーンズというラフな格好であるため、隆々とした肉体美が見せつけられており……。
若い頃から続けてきたこの過酷なトレーニングですっかり変形した両手は、しかし、攻撃ヘリや戦車を操縦できるし、100万ドルの兵器だって任せておけることだろう。
「おれのトレーニング法のことなんかより、どうやら荒事の予感だぞ」
「まだ休暇中なんだがね?」
「仕方がない。
俺たちは、どこまでいっても消耗品だ」
老人はそう言いながら、愛飲の葉巻をくわえるのであった。
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また、アマテラス艦内に存在する銃器庫では、筋肉ムキムキ、マッチョマンの変態老人が二桁という鉄壁の暗証番号を入力し、中から重火器の数々を取り出しており……。
ダイナーじみた喫茶室においては、ティーバッグの紅茶を楽しんでいた物静かな黒人の老爺が、無言のまま腕に巻いたスマートウォッチのタイマーを入れていた。
彼らアマテラスで働く男たちに共通している事項は、二つ。
一つは、老境の域に達していること。
そしてもう一つは、普段こそ巧妙に隠しているものの……カバーをやめれば、決壊したダムのごとくやべえオーラを垂れ流しにすることだ。




