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絶対に死にたくない銀河皇帝庶子が戦艦を与えられたので給糧艦に改装したら、前線へ出ずっぱりにさせられた件。  作者: 英 慈尊
2章 惑星レクの騒乱

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クシナダ副長の戦い 2

(ハッキングですと……!?

 この巨大な宇宙港にドッキングしている全ての軍艦を……!?)


 瞬間……。

 クシナダ副長の脳裏に描かれたのは、惑星レクが大気圏外に備えているこの巨大な宇宙港の外観だ。

 一言で語ってしまえば、全長200キロメートルにも及ぶ蜘蛛の巣。

 通常のスペースコロニー五基分もの大きさを誇る超巨大宇宙港は、各施設を繋げるフレームラインが複雑に絡み合い、自然界に存在する芸術品にも似た様相を呈しているのである。


 当然ながら、船舶の接続可能数は、銀河有数であり、アマテラス、クシナダ、フレイヤの三隻がドッキングしていた区画など、文字通り氷山の一角。

 ああいった大型の戦艦を接続させるアームの他、駆逐艦など、小型戦艦をドッキングさせる区画も数多い。

 その上、今は大破した第三皇子の火力艦ヴェルダンディも世話になっている整備ドックなども存在するのだから、単純に全て合計してしまえばどれだけの数になるのか、想像もつかなかった。


 その上、元々フリーレーン自由商業同盟が使うために建造した宇宙港であるのだから、当然ながら、戦艦よりも遥かに多数の民間貨物船が使用中であり……。

 加えて、『勇者武闘タイゴン』による第四皇子ブームによって、今は帝国中から観光客が押し寄せているものだから、そういった人々を運ぶための旅客船も莫大な数のはずである。


 もし……もしも、だ。

 そんな状況で、この宇宙港にドッキングしている全ての戦艦を、本当にハッキングしてしまったのならば……。


(デュフフ……人類史最大のテロ事件となりますぞ!)


 脳内台詞でもアイデンティティたるデュフフ笑いは忘れず、戦慄した。

 しかもそれは、本当に全ての戦艦を支配下に収める必要はない。

 駆逐艦をほんの二、三隻ばかりコントロールし、光子魚雷をデタラメに発射したとしても、恐るべき被害がもたらされるのだ。


 そして、レンゲという少女が先ほど見せていた不審な行動を思えば、ドッキングされている各艦のハッキングは——可能。


(デュフフ……我ながら、どうしてあの時、レンゲ殿の行動の不審さに気付かなかったのか?

 自分でも意外に思うくらい、恋というのは盲目ですな)


 頭がクッソ痛いのは我慢しながら、とりあえず眼鏡をクイクイいじっておく。

 これこそまさに、不幸中の幸いというべきだろう。

 クシナダ副長は今、アマテラス艦隊に訪れた危機を救える立場にあった。

 否、この窮地を切り抜けられるのは、拙者をおいて他にいない!

 つまりこれは、長期化した作品で稀によく見るモブキャラへスポットライトが当たった展開ですぞ!


「それじゃ、早速始めましょうか」


「ここでやるのか?」


「まさか。ここ、物置ですよ?

 なんのために、ドッキングアーム内の回線へ、プロトコル・インターセプターを仕込んだと思ってるんですか?」


「そのナンチャラっていうのは、よく分かんねえんだよなあ」


「今回の場合だと、配電室に行けばいいということです」


 そのような会話を交わし……。

 外の気配が、自分を置き去りにして去っていく。


(デュフフ……ツールカートのコンテナは、内部から開けられるようにはできていないゆえの油断ですな。

 ですが、拙者は違います——ぞ!)


 白衣のポケットから、携帯端末を取り出す。

 通常の機種ならば、本体そのものといってよい液晶画面の他には、側面に極小の物理スイッチが設けられていたり、背面にカメラが搭載されている程度。

 しかし、クシナダ副長が愛機としているこの端末は異なる!


 まず、側面には小型デジタルトーチライトが接続。暗い場所でも大光量で照らし出すことが可能!

 下部のコネクタに増設されているのは、一見すればバッテリーのように見えるが、その実は違う。

 実態は外付け式のメモリと記憶装置であり、通常の機種とは比べ物にならない処理速度と、配信アニメの保存能力を誇るのだ。

 さらに、本体内部もいじられており、もし下手な場所で明かしたならば、一発で逮捕されること間違いなしなロマン機能も実装済み!

 まさに、夢のマシン!

 白衣のポケット内で文鎮じみた重さを発揮するのは、ご愛嬌ですな!


「デュフフ……というわけで、このカートをハッキングさせて頂きますぞ。

 ホイホイ……やはり、個体管理のために無線回線が備わっていますな」


 イラコ殿が好む20世紀から21世紀の映画には、戦争で祖国に帰れなくなり、ターミナル内に無一文で長期逗留する羽目になった主人公を描いたものがあった。

 その時、主人公は放置されていたカートの返却時、硬貨が排出される仕組みを利用して糊口をしのいだわけであるが、それほどの昔から、空港内で貸与しているカートの置き去りは問題になっていたということ。

 その状況を是正するため、いつからか導入されたのが空港内のウェブを利用しての個体管理システム。

 同種のシステムは、舞台を宇宙に移した今でも継続して使用されているのだ。


「ですが、それが抜け穴。

 デュフフ……パスワードこそ設定されていますが、拙者からすれば、施錠せずに放置されたロッカーも同然ですな」


 この程度のハッキングで、技術を披露する必要はない。

 自作のアプリを起動すると、たちどころに閉じ込められたカートの無線回線へと接続。

 パスワードも一瞬で解析し、機能を掌握した。


 ——プシュリ。


 ……少しだけ血の臭いが混ざった内部の空気を吐き出しながら、コンテナの上部が開く。


「……デュフフ。

 そうじゃないかと思いましたが、やはり、二人きりだったようですな。

 拙者もイラコ殿のように、周囲の気配というものが察せられるようになってきましたか」


 こういう時、一気に飛び出さず、まず頭の上半分だけを出して周囲の様子をうかがうのは、様式美。

 古き良きその伝統へと従いながら、ぶつぶつとつぶやく。

 どうやらここは、掃除用具をしまう物置のよう。

 周囲には、モップや業務用のフロアポリッシャーなどが、整然と収められていた。 

 

「さて、それでは慌てず騒がず通報いたしますぞ。

 デュフフ……レンゲ殿とは、別の形でお会いしたかった」


 ——くい、くい、くい。


 ……と、ブロークンハートで眼鏡をいじりながら携帯端末の操作をする。

 警察に伝える番号が三桁なのは、地球文明時代から変わらない。

 ポチポチポチと、手早く液晶を連打したその時だ。


 ——ズウ……ンッ!


 という、凄まじい音と衝撃とが、この物置を……。

 いや、この惑星レク宇宙港そのものを、震わせたのである。




--




 ドッキングアームに接続中の船舶というのは、木の枝へしがみつくイモムシか、あるいは羽化前のサナギを彷彿とさせる有様だ。

 とりわけ実情に近いのは、後者か。

 宇宙港というゆりかごに守られている時は、銀河帝国が誇る戦艦であっても、補給と整備を受けるため艦表面の電磁シールドをオフにした無防備となる。

 のみならず、プラネット・リアクターの灯も落とされ、全長400メートルもの巨体を完全に沈黙させているわけだから、これは生物で例えるならば、仮死状態のような有様であった。

 つまり、ポイント219へ増援として送られる予定だった接続中の火力艦——デナリβ24もまた、そのような姿を晒していたのである。


 船体下部に主たる推力源のウィングバインダーを生やし、艦首に大口径の荷電粒子砲を備えたシルエットは、さながら巨大な拳銃のよう。

 そのプラネット・リアクターが、急速に灯をともし……。

 チャージ不十分とはいえ、銀河最大級の火力である艦首大口径荷電粒子砲を発射し、宇宙港に直撃させたのが、副長が感じた振動の正体であった。

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