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絶対に死にたくない銀河皇帝庶子が戦艦を与えられたので給糧艦に改装したら、前線へ出ずっぱりにさせられた件。  作者: 英 慈尊
2章 惑星レクの騒乱

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不穏な整備員

「エネルギーバイパス、問題なし。

 先日の合体で問題が出た箇所に関しても、全て補修と補強が完了。

 デュッフッフ……シールド艦クシナダも、給糧艦アマテラスも万全ですな」


 ――くい、くい、くい。


 とりあえず視力を補えればよいと購入している安物のだっさい眼鏡をクイクイさせているのは、黒髪を短めに整えた四角い顔の白衣男である。

 クシナダクルーの一人である彼は、帝国軍共通規格のブリッジで、ブツブツとチェック結果をつぶやいていた。

 他に、人はいない。

 強いて述べるならば、数々のエステちゃまグッズにより祭壇化したキャプテンシートで、等身大のエステちゃまアクリルスタンドが冷たい眼差しを向けているくらいか。

 デュッフッフ、本物の眼差しもよいですが、一瞬を永遠に加工したプリントから放たれる氷碧の視線も、たまりませんぞ。


「デュッフッフ、それにしても、拙者たちも働き者ですな。

 エステちゃまやイラコ殿に先んじて艦へと戻り、最終チェックを行うとは。

 忘れてはなりませんが、我々は前線へと出ずっぱりにさせられる身。

 イラコ殿が女性陣の水着姿を詳細に脳内レポしたり、決闘騒ぎをしたり、お母上の下へ帰省されたり、おそらくは男湯と女湯との取り違えで一悶着したりしている間にも、次なる給糧任務に備えての積み込みや各種のチェックは、着々と進んでいるのですぞ」


 ――くい、くい、くい、くい、くい。


 誰が聞いているわけでもないのに、得意げに独り言で語り続けるクシナダの……。

 クシナダの……。

 クシナダの……。


「ちなみに、拙者は副長ですぞ。

 デュフフ、こうしてワンオペでシステムチェックを任されるのは負担ではありますが、エステちゃまに実力を見込まれての配置だと思えば、そう悪い気も起きませんな」


 ……誰が聞いているわけでもないのに、得意げに独り言で語り続けるクシナダの副長である。

 やたらめったらに眼鏡をクイクイしながらの言葉は、いずれも的確な分析に基づいてのものですぞ。


「デュッフッフ。

 アマテラスの方も、一足早く帰参したご老人方の手で、荷のチェックは終わっている模様。

 それに……」


 チラリと目を向けるのは、停泊モードのブリッジがサブモニターに映し出している他の艦影。

 すなわち、当初から随行している給糧艦アマテラスの箱型シルエットと、次の航海から行動を共にする斬撃艦フレイヤのサメを思わせるシルエットである。


 大気圏外に建造された宇宙港というのは、360°余すことなく空間を活用できるのが、最大のメリット。

 蜘蛛の巣めいた宇宙港の片隅に位置するこのドックは、クシナダ、アマテラス、フレイヤの三隻が、三角形の各頂点から、船体上部を中央へ向け合うような形でドッキングアームに接続され、整備と補給を受けていた。

 クシナダ副長が熱い眼差しを向けたのは、赤い艦――フレイヤの方である。


「デュフフ……。

 皇子皇女が座乗する戦艦のうち、一部は艤装を施す段階で、エステちゃまの息がかかった者たちが、フレームレベルから大幅な改修を行なってあります。

 当然、あのフレイヤも……。

 デュッフッフ、人型ロボットが操る巨大な剣は、地球文明時代の昔から男のロマンと決まっています。

 誰もが予想をつけるだろう新形態――アマテラスオオカミ・ブレイドの合体変形が今から楽しみですぞ」


 頭の中に叩き込んであるエステちゃま謹製の図面を思い起こしながら、長い独り言をつぶやきまくった。

 当然、完成予想図というものも作成されているし、目を通している。

 だが、二次元のイラストだけで満足できるのならば、銀河バンダイも銀河コトブキヤも必要ない。

 文字通り1/1スケールで全長数百メートルの超巨大ロボットが完成する様を、間近から観れるだろうというのは、オタク冥利に尽きるのだ。


「デュフフ……もっとも、フレイヤとの合体が必要になっているということは、相応の危機が訪れているということですがな。

 あちらを立てれば、こちらが立たず。

 世の中とは、イラコ殿のママ上のようにはママならないものですな――む?」


 当然ながら、第四皇子イラコのように様子のおかしい身体スペックは誇っておらず……。

 それは相手が悪いが、兵隊となる男が数多い現代においては、一般的な同年代男性と比較した場合でも、かなり見劣りする身体能力しかないクシナダ副長だ。

 そんな彼の視力で、アマテラスへと伸びているドッキングアームの窓に不審な人物の姿を見咎められたのは、まさしく天の采配といえるだろう。


「おやおや、あれは宇宙港に勤務する整備員のようですが……一体、なんの作業をしているのでしょうかな?

 アマテラスの整備は親愛なるフェラーリン師匠と我々で終えておりますし、ドッキングアームからアクセスする作業は何もないはずですが……」


 ――くい、くい、くい、くい。


 ……と、自分の眼鏡に相槌を打たせながらつぶやく。

 ともあれ、こういう時にするべきことは一つ。

 分からないことは、分かる人に聞けばいいのだ。

 この場合――作業する当の本人に。


 無論、不審に思える人物へ直接話しかけに行くなど、本来ならば言語道断。

 規則に則れば、ただちに宇宙港の警備室へ一報するか、あるいは、アマテラス側で作業している屈強なるお爺さんたちに相談すべき場面である。

 その発想へ至らなかったのは、やはり、これまでずっと後方でやってきた技術者ゆえの平和ボケ。

 そして、もう一つ……。

 主には後者が原動力となって、運動不足の体をシャキシャキと動かす。


「おうふ、お疲れ様ですぞ」


「ヒュヒヒ、大慌てでトイレですかな」


「フュフフ、ですが慌てず早足で歩くに留めているのは、さすがですぞ」


 ――くい、くい、くい、くい、くい。


 ブリッジから出て、俗にメインストリートと呼ばれる太い通路を歩いていると、見た目から気風から魂の形に至るまで瓜二つな他のクシナダクルーたちが、チェックリストの表示されたタブレット端末片手に挨拶してくる。


「デュフフ、まあ、そんなところです」


 副長としては珍しく、彼らに嘘をつきながら軽くかわしてドッキングアーム内の通路へと出、やはり早足。

 何しろ、全長400メートルはあろうかという戦艦の内部と、それらを係留させるドッキングアーム内の通路を早足で歩き通しているわけであるから、副長の息はとっくに上がっており、額から白衣の下に至るまで、ダラダラと脂っぽい汗が流れっぱなしであった。


「ひふー……ひふー……。

 あの、よろしいですかな?」


 ともかく、どうにかアマテラス側のドッキングアーム内も歩き抜け、先ほどクシナダのブリッジから見かけた窓の辺りまでやって来た副長は、まだそこにいた整備員へと息も絶え絶えに声をかけたのである。


「はい。

 なんでしょうか?」


 しゃがみ込み、普段は壁へ格納されているソケットと手持ちのタブレット端末をケーブルで繋いでいた整備員が、振り返りながら立ち上がった。

 声もかわいらしかったが、振り返って明らかになった姿もまた、可憐。

 真新しく油の染み一つないツナギに包まれた肢体は、華奢であり、小柄。

 オリーブがかった褐色肌をしていることから、おそらくはイタリア系かスペイン系。

 栗色に赤みが入った髪色から考えるに、後者だろうか?

 その髪は、あまりヘアスタイルに興味がないのか、ややボサボサかつ短めに切り揃えられている。

 少年のようにも思える中性的な顔には、実用性重視の武骨な眼鏡をかけていた。


 そう、賢明なる読者諸兄ならば、もうお分かりであろう。

 ドッキングアームの窓越しに、普段ならあり得ないほどの視力を発揮して見咎めたこの整備員は、クシナダ副長にとってバチクソ好みのタイプな女の子だったのだ。

 あ、エステちゃまに関しては、崇拝の対象ですぞ。


「え、えと……その……デュ、デュフフ」


 魂の衝動に導かれるまま来たはいいものの、何を言ったらいいのか分からず、あたふたとしてしまう副長。

 そんな彼に、整備員少女は首をかしげながら名乗ったのだ。


「自分は、この宇宙港で整備員をしているレンゲ・オレンジです。

 ちょっと不審な反応がこのドッキングアームから検出されたため点検していたのですが、いかがいたしましたか?」




--




 ここからしばらく、主人公不在の話になります。

 士郎、僕はね。

 普段スポットの当たらない脇役が根性発揮して、ピンチを打開する展開が大好きなんだ。

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― 新着の感想 ―
やっぱり合体するんか…………そも巨大ロボにおける近接戦闘の必要性は……ロマン? それはそう
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