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絶対に死にたくない銀河皇帝庶子が戦艦を与えられたので給糧艦に改装したら、前線へ出ずっぱりにさせられた件。  作者: 英 慈尊
2章 惑星レクの騒乱

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例えるならこれは、無能な働き者がよかれと思って全力を尽くす物語

 史料再生都市という都合もあり、建造物の多くがジャパンにおける伝統的な建築技術で建てられているここイセタウンであるが、だからといって、いずれの中身も和風一色なのかといえば、そうではない。

 特に、イセ新選組のような地元で暮らす若者たちが騒ぎ、遊ぶ店というのは必要不可欠であり、観光街の片隅に位置する和風外観の蔵は、実のところ、そのような需要に応えるため存在する店であった。

 白塗りの壁が特徴的な佇まいは、いかにも貴重な古書や刀剣類が収められていそう。

 しかし、中身は大きく異なる。


 紫や赤、オレンジの照明で照らされた蔵の中には、大音量のミュージックが鳴り響き……。

 DJブースでは、サングラスを装着したパンチパーマの日系人が、客たちのグルーヴを高めるために最良の曲を繋ぎ合わせていく。

 阿呆たちがクラブで高まったなら、踊らにゃ損々。


「フゥー!」


「フワッフワ!」


 水色の生地に、ダンダラで白く袖を染め上げたTシャツ……。

 カラフルな空間の中では、グッズ化もされているイセ新選組Tシャツを着用した若い男女たちが、肩を触れ合いながら踊り狂っていた。

 ここは、『クラブ69(ロック)AK』。

 行き場のないエネルギーを抱えた若者たちが集う、イセタウンの桃源郷である。


 ――カラン。


 ……そんな騒がしい空間の隅にあるバーテーブルで、ガラにもなくグラスの氷を転がしているのが、黒いワイシャツにジーンズの男。

 イセ新選組隊長――アルファード・ヤマモトであった。

 今の時間は、惑星レクの時刻で20時を回ったところ……。

 普段のこの男ならば、とうの昔に仲間たちへと混ざり、一緒に踊るなり叫ぶなりしている場面だ。

 このように、コートのすみっこへ置き忘れられたバスケットボールのようにしているなど、考えられないことである。


 もっとも、毎日スペシャルなドリームアワーであるここの若者に、アルファードの異変を察せるほど思慮深き者など、いようはずもない。


「ねぇねぇねぇ、何してるの?

 他の連中は、見ての通りふわふわしてるぜ?」


 ゆえに、アルファードの隣へ陣取った星型サングラスの日系男は、見た目こそイセタウンのパリピを気取っているが、その実、まったく別の背景を持つ人物であると察せられた。


「はしゃいだあとの、フワフワしてる自分がわかるから、な。

 今は大切に味わいたいんだ。

 胸いっぱい、今日を吸い込んで……」


 ――カラリ。


 グラスのウィスキーを一口味わい、またも氷を転がしながら、アルファードがそっとつぶやく。


「随分としっとりしてるじゃねえか?

 気分を盛り上げてくれる仲間はどうしたあ?」


「別に、地元超大好きのズッ友でも、別々に行動する時はあるさ。

 あんたを連中と絡ませたくないしな」


「はっはっは……」


 いかにも遊んでいるという風に日焼けの強いグラサン男が、軽薄な笑みを浮かべた。


「おいおい、そんなんで大丈夫なのか?

 忘れんなよ? お前たちは、デカい仕事を抱えてんだ」


 だが、星型のサングラスをズラして見せた眼差しは、どこまでも冷たいものだったのである。

 とはいえ、そのくらいのスゴ味をきかせてきたくらいで、動じるアルファードではない。

 その気になれば、一撃で顔面を蹴り砕くことも可能な程度の相手でしかないことは、見抜いているからだ。


「問題はねえ。

 さっきまで、イラコたちと楽しく遊んできたところさ。

 実際、事が起これば、大いに揺れ動くだろうよ」


「おいおい、頼りないな。

 これだけ時間を与えてやって、揺れ動く程度なのかよ?

 こっちとしちゃあ、事を起こす前にこちらへ転がすくらいの働きを期待してるんだがね?」


「馬鹿を言うな。

 それはつまり、計画を明かすってことだろ?

 できるのは、こちらへ転ぶよう布石を打つことだけだ」


「そう言って、要は覚悟が固まってないだけじゃないか?

 計画の成功。

 第四皇子との友情。

 どちらかを選ぶ、覚悟かな」


「覚悟……覚悟ねえ」


 再び、ウィスキーを味わう。

 時間を経て、氷の冷気と水分を得た酒は、常温ストレートとはまた異なる角の取れた味わいとなっていた。


「どっち……どっち……」


 脳裏で天秤にかけるのは、昔からの友人と、同じく昔からの悲願。

 だが、覚悟など、とうに固まっていた。


「……どっちもだよ」


「欲張りだな。

 そう上手くいくかい?

 上はともかく、オレは不安だね」


「問題はねえさ。

 そっちがよこしたあの遊撃隊長……。

 レンゲのやつが、首尾よく事を運べば、な。

 そうすれば、どの道、イラコに選択肢はなくなるんだからな」


「レンゲ・オレンジのことなら、何も問題はない。

 あいつは、俗に言うウィザードってやつだからな。

 ああ、女だからウィッチか」


「ウィザードでもウィッチでも、どちらでもいいさ。

 きちんと計画通りにやってくれるんなら、な。

 あとは、そう……」


「……何が、そうなんだ?」


 グラサン男の言葉に、グラスへ残った最後の一口を味わいながら答えてやる。


「あんたらが、何か余計なことをしなきゃ、問題はねえさ。

 こっちは地元の連中で温かく迎えて、今も爺ちゃんちで楽しくやっている。

 爺ちゃん、久しぶりにあんこを()ってたからな。

 きっと、それで作った菓子でも食いながら、茶を飲んでるだろうよ」


「ジジむさいねえ。

 若え男が、女たちを連れ込んでるわけだろう?

 別にゴシップの記者ってわけじゃねえが、もう少し色気があるもんじゃねえか?」


「女たちっつったって、妹が二人も混ざってるんだぞ?

 やっこさんは奥手だし、そういう話はないだろうよ」


「ふーん……」


 グラサン男が、少しだけ考え込むそぶりを見せる。

 意外に思うのは、当然か。

 イラコは、あの子沢山な銀河皇帝の息子だ。

 ならばその血を受け継ぎ、相当な好き者となっていたところで、いささかも驚くことはないのであった。


 だが、皇帝は皇帝。

 イラコはイラコである。


 ゆえにこそ、こちら側へ引き込む目があるとアルファードは考えていたし、そのために数々の布石は打たれていた。


「まっ……。

 そういうことなら、(ケン)とシャレ込むよ」


 言いながら、星型のサングラスをはめ直した男が、バーカウンターを後にする。


「フワッフワ!」


「デュワデュワ!」


 踊り騒ぐ若者たちの中へ紛れると、すぐにその姿は埋没していった。




--




 景観を優先した結果、街灯というものが少ないイセタウンの夜は――暗い。

 この闇の中ならば表情を取り繕う必要もなく、星型のサングラスを外した男は、いかにも冷酷な……タダ者ではない雰囲気をかもし出していた。


「ふん……オレには、情に引っ張られているようにしか見えないがね」


 吐き出すのは、あの若造――アルファードが見せた煮え切らぬ態度への感想。


「一番確実なのは、ここであの間抜けヅラした第四皇子を始末しちまうことだ。

 『勇者武闘タイゴン』だか、なんだか知らんがな。

 どんなエースパイロットでも、機体を降りてる時はイチコロよ。

 パン、パン、てな。

 それで、庶子をにわかに祭り上げていた連中の意気はガタガタだ。

 そう……第四皇子が、実は生身でも超強かったりしない限り、な」


 独り言を漏らしながら、懐から取り出したタバコに火をつける。

 安物の使い捨てライターと着火したタバコの火が、暗闇の中でぼんやりと灯った。


「だが、引き込めば有用なのは確かだ。

 民衆人気は、年老いた皇帝と昇り龍の第四皇子とで二分される。世論もな。

 なら、どんな手を使ってでも引き込んじまえばいい。

 女がその糸口になるならと思ったが、そうでないなら、別のアキレス腱だ。

 そう……どんな強者(つわもの)も、母親は大事にするよなあ」


 続いて取り出したのは、携帯端末。

 発信した相手に向け、手短に告げる。


「予備のプランでいく。

 イラコ・ジーゲルの母親を人質にしろ。

 たかがメイドだ。何も問題はない。

 そう……第四皇子を産んだ母親の正体が実は、伝説の年齢不詳美少女暗殺者メイドパイロットとして知られる“鋼鉄の侍女(アイアンメイデン)”だったりしない限り、な」


 相手の返答はまたずに、通話終了。

 深く吸い込み、吐き出す紫煙が美味かった。


「フ……完璧だ」


 男が浮かべる笑みは、愉悦と余裕に満ちたものだったのである。

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― 新着の感想 ―
なんだろう……アーム○゛って漫画の母親が人質に取られてるシーンが脳内に……
何という冷静で的確な判断力なんだ!(フラグ)
 もうコイツ、全部知ってて狙って失敗しに行ってね?  ってレベルであからさまな解説をしてやがる…(ごくり)
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