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絶対に死にたくない銀河皇帝庶子が戦艦を与えられたので給糧艦に改装したら、前線へ出ずっぱりにさせられた件。  作者: 英 慈尊
2章 惑星レクの騒乱

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式年遷宮(しきねんせんぐう)

「「「はい、イラコー!」」」


 あちらでは、『イセ新選組イラコ皇子なりきりセット』を着用した観光客たちが、けったいなかけ声で記念写真を撮っており……。


「キャー! 『スーパーイラコ君』、気を溜めて!」


 こちらでは、リクエストに応えた着ぐるみが、30分くらい持たせそうな腰だめで気を溜めるポーズとなっている。


「オー! 『イラコ君赤福』デリシャス!」


「イエア! ジャパニーズアズキ! ベリーデリシャス!」


 さらに向こうの土産屋では、店頭販売の『イラコ君赤福』を早速実食した観光客たちが、食べ慣れないあんこの美味さに目を見開いていた。

 うんうん、あんこが受け入れられているのは、俺も嬉しいよ。

 ただ、あんたらなんで片言の言葉遣いなの?

 うちというか、銀河のどこでも公用語は英語なんだけどな……どっか民族色が強い植民惑星の出身なのだろうか?


「すごいです! 私も後で買います!」


 スタジャンにショートパンツを合わせ、足元をストッキングで固めたカレッジスタイルのマミヤちゃんが、さらりとした黒髪をなびかせながら、翡翠の瞳を輝かせる。


「ほおう……あんこで、潰したライスをコーティングしているのか。

 波のような形を描くあんこの皮も美しいが、その上に別種のあんで造形されているイラコ皇子のデフォルメ顔も、なかなかに愛らしい。

 ……んむ。

 実際に食してみると、ストレートな甘さが脳髄の奥を穿つかのようだ」


 単品包みにされた『イラコ君赤福』をいつの間にか購入し実食しているのは、スカートタイプのスーツをバリッと着こなし、お胸もゆさっとさせているシレーネさん。

 亜麻色の髪を一つ結びにした彼女に、自分の顔を模した菓子が食べられている光景というのは、謎にゾクゾクするものがあった。


「わー、お酒アイスだって。

 イラコ、買って」


 コットンのオックスフォードシャツにデニムスカートと野球帽を合わせ、活動的な装いとなったエステが、銀のツインテールを揺らしながら指差したのは、ニホンシュがふんだんに使われているらしい特殊なアイスの専門店だ。


「はっはっは……アルコール度数5%超えてんじゃねーか!

 大人になるまで我慢だ」


 モノがアイスだからとつい財布を取り出してしまった俺だが、店員のお姉さんが慌てた様子なので、アルコール量が結構あることに気づく。

 

「ちっ」


 露骨に舌打ちしながら、テディベアをギュッとするエステだ。なんだお前、酒飲んでみたいの?

 に、してもである。


「肖像権……お前、一応は俺も皇族なんだから、グッズ系は宮内(くない)省で厳重に管理してるんだぞ?」


 俺が唇を尖らせて抗議すると、いつもの黒ワイシャツにジーンズ姿のアルファードは、首に下げた金色のネックレスとワンレングスの黒髪を揺らしながら、両手ポケットスタイルで笑う。


「クック……そこは、イラコママに話を通してあるからな。

 宮内(くない)省の許可もきっちり下りてるぜ」


「はいー。

 ママは買収されちゃいましたー」


 黒髪をオカッパ気味のボブショートにした、メイド服姿のあどけない女の子……。

 俺のママが、メイド服越しでもたっぷんとお胸を揺らしながら抱きかかえているのは、キーホルダーやアクスタなど……他にも数多(あまた)存在するご当地限定イラコ君グッズ。


「くっ……。

 まあ、ママが嬉しそうなら」


 ママがニッコニコにしている姿を見れば、何も言えない俺。

 そして、ママのお願いには一切逆らえないのが、俺の思考の中で妙に出番の多いバーコードハゲ(宮内卿)だ。


「それに、こんだけイラコっちの仮装してる人間が多いと、本人が紛れてても騒ぎにならないだろ?」


 ゆったりとしたシャツにハーフパンツ姿のカワハラが、先っちょを脱色して伸ばした後ろ髪の襟足を撫でながら得意げに言い放つ。


「いや、そりゃお前、俺の仮装っつーか、天パのカツラ被ってる人多いけどさあ」


 観光客の中で目立つのは、ダンダラTシャツと天パカツラの雑なコスプレセットを、早速着用している者たち。

 何しろ安物を組み合わせたコスセットなので、中には、隙間から地毛が覗いている人も数多い。

 こんなのが目眩ましになるはず……。


「そんな……右にも左にもイラコ……!

 一体、どうなってるの……?」


 ディート……お前……嘘だよな?

 ラインストーンロゴ入りの半袖ピタTシャツと、ぶっといベルト付きのタイトミニスカートを組み合わせたディートが、困惑しながらあちこちを見回す。

 長く伸ばした金髪のツーサイドアップ部分も、あっちを指したりこっちを指したりと、狂った方位磁石のごとき挙動を見せていた。


「ハハ……!

 グッズの利益は、イセ新選組の活動資金にさせていただきます、と」


 サイド刈り上げで中央部を天に屹立させた薄い金染め髪のゼファーが、自身も着用しているダンダラTシャツを叩きながら笑う。


「いいのかなあ。

 一応、皇族のグッズは、宮内(くない)の運営資金になってんだけど」


 シールド艦クシナダのブリッジとか、エステのグッズでキャプテンシートを祭壇化しているわけだが、その売り上げは遠慮なく皇族のために使われている。

 何しろ親父殿が一代で建国し拡大したのが銀河帝国なので、皇族を身近なものとしつつ利益も生み出せる方策として、これは一定の成果を上げていた。

 ……そういや、在庫が山積みだった俺関連のグッズ、品薄による再生産が決まったらしいな。

 気持ちの悪いことである。


「て、いうわけでだ!

 イセタウンは今、英雄イラコ・ジーゲル様第二の故郷として大盛り上がり!

 いよ! 大将! 第四皇子!

 ……なんて持ち上げても、お前は嬉しくねえよな?」


「まーな。

 俺がそういうの嫌いだって、知ってんだろ?」


「ああ」


 腰に手を当てながら返すと、アルファードが悪びれた様子もなく肩をすくめてみせた。


「だから、こっからはいつも通り。

 定番のイセタウン観光コースとシャレこもうぜ?

 俺たち、地元超大好きイセ新選組。

 どこも並ぶことなく、裏口から快適にお嬢さんたちをエスコートしてやんよ!

 いっせーの! でDON(ドン)! だ!

 イセだけにな!」


 アルファードのつまらないダジャレはともかく……。

 混乱状態のディートを引っ張りながら、俺たちはイセタウン観光へと繰り出したのである。




--




「いやあ、てこね寿司も伊勢うどんも、誠に美味だったな!」


 ……といっても、栄養全部お胸にいってそうなシレーネさんが満足そうに語った通り、大概は食べ歩きに集約された。

 大型アクティビティである海女体験は、昨日うちのジジババが体験してるのを見て、ご馳走さん気分だしな。

 本来の伊勢ならば、夫婦岩などの名所も多数存在したらしいのだが、生憎とこちらは、崩壊前の地球に存在した歴史的建造物などを再現するための史料再生都市。

 当然ながら、自然が天然に生み出した観光名所などは、再現不可能なのだ。


 とはいえ、それは裏を返せば、伊勢神宮という伊勢最大の観光名所にして、宗教的な聖地の再現には成功していることを意味する。

 その見事さを、なんと表現すればいいんだろうな。


「いつ見ても、ペーパークラフトみたい」


 ……などと、バチあたりな感想を口にしたのはエステであるが、しかし、案外と大外れではないかもしれない。

 ペーパーの原料となっているのは、いわずもがな木材。

 再建された伊勢神宮というのは、その木材を……これもペーパークラフトと同じく、目につくような金属製の部品は用いず、巧みに立体パズルを組み合わせるようにして形作られているのだ。

 ゆえに、自然の息吹と魂……あるいは、地球からこの地へと安住の地を移された神々の清廉さというものが、この肌にひしひしと感じられるのだろう。


 再現された伝統建築技術の見事さを、とりわけ感じられるのは、今は東側の敷地に存在する真新しい社殿。

 どのくらい新しいかといえば、昨年に完成したばかりというくらいであり、柱や床を構成する木材の輝きなどは、カンナをかけられた直後なのかと思わされるほどだ。


式年遷宮(しきねんせんぐう)っつってな。

 そもそも、この伊勢神宮においては、地球文明時代から定期的に社殿を建て替えている。

 神々に、常に新しくて綺麗な住居をご用意するためにな」


 参拝のため、手を清めながらアルファードはこう語ったものだ。


「何事も、そうだ。

 サッパリと壊して、新しく綺麗なハコを作るくらいで丁度いい」


 後年、俺はずっと後悔することになる。

 もし、この時に、アルファードが抱いていた暗いものへと、気づけたならば……。

 きっと、俺たちの結末は違ったものとなっていたはずなのだ。

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