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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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追い付いた真実

「ああ、どうしよう……火傷が、火傷が全然治らない!」


 どうにかハドリーを倒したライナスだったが、その代償は大きかった。ライナスの全身には、広範囲に渡って酷い火傷が広がっていて、ジーナの使える治癒魔法では回復が追い付かない有り様だ。しかも、うまく治療が出来ない事に焦りを感じているせいか、余計に魔法への集中が出来ず、効果が弱まってしまっている。せめて、加護を発動させられればいいのだが、ジーナの加護はまだその正体がハッキリしていないので、自分の意思で使う事が出来ない。このままではライナスの命が危ういのは火を見るよりも明らかだった。


「大丈夫よ、ジーナ、落ち着いて。私が魔法を使えれば……ちょっと、ライナスしっかりしなさい!こんな所で死ぬんじゃないわよ!」


「お、俺の、ことなど……放って、おけ。……お前達、の目的を果たしに、行くべき……だ。ハドリー、と戦った、のは、俺が……勝手にやったこと……だろう」


「何言ってんの!死にそうな人を放っておけるわけないでしょう?!」


 まだ彼を仲間と呼ぶには、いささか関係性を築けていない気もするが、自分の代わりにかつての同僚と戦い、これほどの大怪我をしてまで勝利をしたライナスを見捨てられるほど、ジャンヌは薄情な人間ではない。しかし、ジャンヌ自身が魔法を使えない以上、ジーナの治癒魔法が効かないのでは打つ手がないのも事実だ。ライナス曰く、この辺りには人もいない無人のエリアであるらしい。となれば、助けを呼ぶことも期待出来そうにない。更に、誰か助けてくれそうな人がいる場所へ行こうにも、魔力車(クルルス)は大破してしまった。もはや、万事休すだ。


「おい!お前達、そこで何してる?」


「えっ!?」


 突然の呼びかけに驚いてジャンヌが声のした方を見ると、そこには白髪の混じった初老の男が立っていた。どことなくソロに似た服装で、まとっている気配も似ている気がする。無人であるはずの場所で出会ったということもあってジャンヌの心に警戒心が生まれたが、その男はそれに気付いていないのか、倒れているライナスを見て状況を察しジャンヌ達の元へと近づいてきた。


「……怪我人か?あまりいい状態ではなさそうだな。どれ、見てやろう」


「え、いや、ちょっと……」


 (誰もいないって聞いてたから油断してたのもあるけど、それにしても声をかけられるまでまるで気付かなかったなんて。この人一体、何者?)


 スタスタと歩いてきた男は、ジーナの脇に立つとライナスの全身をさっと見回し、ふむと小さく頷いておもむろにしゃがんで手をかざした。すると、ライナスの火傷がにわかに緑色の光に包まれてあっという間に元の綺麗な肌に戻っていく。あまりの手際の良さに、ジャンヌやジーナだけでなく、治療されている本人のライナスまでもが息を飲み、言葉を失った。ある程度の治療が終わると、男は微笑んでライナスの身体をヒョイと担ぎ上げた。


「これで応急処置はいいだろう。後は邪魔な衣類を脱がしてからだな。それと、食事や水分を摂って体力を回復させた方がいい。近くに俺の家がある、ついて来い」


 男は、有無も言わさぬ物言いでライナスを担いだまま歩き出した。ジャンヌとジーナは顔を見合わせた後、慌てて男の後を追う。ジーナの肩に乗ったアーデだけは、男の背中を食い入るように見つめているようだった。



 そこから十分ほど歩いただろうか。一行が進んでいった先には、木々に囲まれた場所にポツンと建った、教会風の建物があった。この(せかい)で神と言えば、月光教の信仰する大三連月(ルイーナ)のことだが、教会は月光教がその教えを広める神官やシスターなどを常駐させる為に建てるのが一般的だ。教会風の建物の中に入ると、そこはがらんとした広い空間の一番奥に、木彫りのような美しい女性の立像が安置されていた。この教会で信仰されている女神か何かの像だろうか?ただそれは、女神の象にしては、普通の人間の女性に近い姿である。

 

 その立像はどこか悲壮感を漂わせた表情をしながら、左手を上げて正面を指差し、視線も真っ直ぐに正面を見据えていた。ジャンヌはその姿を見ていると、どこか胸に迫るものがある。だが、その正体が何なのかは自分でも理解できず、モヤモヤと腑に落ちない感覚ばかりが募るようだ。

 その隣に立ち、同じように女性像を見つめていたジーナは、ハッとした様子でその像とジャンヌを見比べた。


「この像、ジャンヌさんにそっくり……!?」

 

「え、ええ!?そう、かしら?でも、言われてみれば何となく……」

 

「おーい、ラント爺さん!手伝ってくれ、来客だ!」


 先に建物の中に入った男がそう叫ぶと、やや間を置いて奥の扉から一人の老人が姿を現した。たっぷりとひげを蓄え、杖をついてはいるが足取りはしっかりしていて、肌艶も悪くない老人だ。彼はジャンヌ達を連れてきた男をみると、寂しげな顔で微笑みを向けた。


「なんと、お客様とは珍しいですな、()()()さん。一体どうなされました?」


「怪我人だよ、治療するから手伝ってくれ。それと、後ろのお嬢ちゃん達に何か食べるものでも」


「あ、す、すみません。何から何まで」


「おやおや、お美しいご婦人方ま、で……あ、あなたは!?いえ、貴女様は!」


「へっ?」


 ラントという老人は、ジャンヌの顔を見るなり酷く驚き、杖を取り落として動揺した。当のジャンヌはラントという男に見覚えはなく、何に驚かれているのかさっぱりでキョトンとしている。安置された女性像と何か関係があるのかも、とジーナは思いついたが、ともかく事の成り行きを見守る事にしたようだ。ラントはよろよろとジャンヌの元へ辿り着くと、その顔を見つめながら、ボロボロと涙を溢し、ジャンヌの手を両手で握り締めた。


「え、ちょっ、なに?!」


「ああ、ああ……なんということだっ!貴女様が無事にここへお帰りになる日が来るとは…………!あの日以来、貴女様のことは一日足りとも忘れたことはございません。よくぞお戻りになられました」


「お、落ち着いておじいさん、私、そう言われてもなんのことだか……」

 

「ラント爺さん、何か事情があるようだが、まずこっちを手伝ってくれないか?怪我人を放っておく訳にもいかんからな」


 初老の男――ダルクと呼ばれた男がやや呆れたように声をかけると、ラント老人はそれに応えて涙を拭い、ダルクと共にライナスを奥へと連れて行った。残されたジャンヌとジーナは何が起きたのか解らないといった様子で、彼らが通って行ったドアを見つめていた。



 それから小一時間ほどの時間が経ち、ジャンヌ達は建物の奥へと通された。そこは台所とダイニングが一緒になった部屋で、ライナスはその隣の個室で休んでいるようである。大きなテーブルといくつかの椅子がセットされており、ジャンヌとジーナがそれぞれスー(紅茶)の置かれた席に並んで着くと、その向かい側にダルクとラントが座った。ジャンヌの正面にはラントがいて、彼は改めてジャンヌの顔を見ると目に涙を浮かべ、食い入るように見つめて来る。どうにも居心地の悪さを感じ、ジャンヌは視線を彷徨わせてから頭を下げた。


「ええと、本当にありがとうございました。ライナスを助けて下さっただけでなく、お茶まで頂いて」


「いえいえ!とんでもございません。貴女様の為ならば、この程度の歓待など!後程、お食事もご用意させて頂きますので、どうかごゆるりと」


「え、っと、ごめんなさい。私、どうしてそんなに良くして下さるのか、思い当たることがなくて……初対面、ですよね?」


「ああ……そうでしたか。無理もございませんな。貴女様は覚えていらっしゃらないでしょうが、私は貴女様と会うのは初めてではないのです」


「えっ?!で、でも」


「おっと!とりあえず、詳しい話は自己紹介でもしてからにしないか?お互い、どこの誰だか解らん内に話をしても困るだろう」


 ダルクのもっともな正論に、ジャンヌとジーナは首肯する。そして、まずはダルクが口を開いた。


「まずは、言い出しっぺの俺からだな。俺はダルク・エイヴリングという。ちとやらかしてしまって、こんな僻地に飛ばされちまったが、一応、現役の魔法兵だ。そして、こっちが」


「ラント・ノーグと申します。私はここで、罪を償う為に一人残って生きてきました」


「つ、罪って……あ、私はジャンヌです。ジャンヌ・パルテレミー」


「わ、私は、ジーナ・アノールです」


「や、やはりパルテレミー家の……!おお、おおおおっ!お許しを、お許しください、ジャンヌ様。私が、いえ、私達があの時、あんなことをしなければ……!」


 ラントは嗚咽混じりにそう言うと、大粒の涙をこぼして泣き始めた。その後で彼が語った真実は、ジャンヌの人生を根底から覆すものであった。

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