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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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カナッサでの一幕

「ここがカナッサか、今夜はここで宿を取ろう。地図によると、この先はしばらく街や村がないみたいだからな。そろそろ新鮮な野菜か果物を食べておきたいところだ」


 街外れに魔力車(クルルス)を停めると、ソロはそう言ってジャンヌ達に車から降りるよう促した。大型のジープタイプであるこの魔力車(クルルス)は、中である程度の寝泊まりが出来るサイズではあるが、それが何日も続くと身体に負担がかかるものだ。テントなどのキャンプ道具もあるにはあるのだが、ノルディールはとにかく魔獣が多く、野外で夜を明かすのは相当ハードルが高い。無論、そこらの魔獣などジャンヌやソロの敵ではないとはいえ、それが連日連夜続いては堪らないのだ。それを覚悟の上で旅の計画を立てていたソロではあったが、望外に魔力車(クルルス)が手に入った事で大幅に負担は軽減出来ている。これは本当に幸運だったと言っていいだろう。

 とはいえ、それでも車の中で何日も過ごすのは心身の健康によくないものだ。街があって休めるのであれば、そこで泊まるのが賢い行いである。


「ん~~~~っ……やっと身体を伸ばせるわ!魔力車(クルルス)って、速いし楽だし基本的に言う事ないけど、ずっと乗ってるのはちょっとしんどいわね」


 車から降りたジャンヌは、身体のあちこちを鳴らしながら大きく伸びをしてみせた。アマルナを出てから二週間、いくら車としては大型とはいえ、ずっと同じ姿勢で乗っているのは楽なものではない。エコノミークラス症候群という言葉はこの(せかい)にはないが、人間の身体の造りとしてはここでもそうなっておかしくないのだから当然だ。ちなみにソロが新鮮な野菜や果物が欲しいと言ったのも、保存食ばかりの食事では栄養的な問題があるからである。


「ここで野菜とか色々補充出来たらいいんですけど……レガリアまではあとどのくらいかかるんでしょう?」


「ここへ来るまでと同じペースで走れれば、あと一週間もかからないだろうな。今夜はここに泊まって、明日保存の出来る野菜や果物を多めに買ってから進もう」

 

 ソロは頭の中でレガリアまでの距離と魔力車(クルルス)のスピードを比べて計算しながら答えた。それがこの先は通用するかは解らないと、頭の隅で思いながらだ。ここまでは各々の身体の事を考え、適度に休憩を入れつつ進んできた。旅に慣れているソロやジャンヌはともかく、ジーナにはかなり行程だったはずだ。当初、徒歩をメインにしていた計画よりは楽だとしても、旅と言うものにはアクシデントがつきものなのだから。

 旅の終わりが近づいてくれば、人は気が緩んだり焦ったりもする。そうなると、体調を崩す事もあるだろうし、思わぬ怪我をすることもあるだろう。ここまでの三カ月少々の間に、ほとんどそうしたアクシデントが無かったのは奇跡的なことなのだ。

 ジャンヌのように立ちどころに怪我が治ってしまう人間ならばともかく、ジーナはそうではない。出来るだけ体調管理には気を付けて、せめてレガリアまでは滞りなく進みたいというのが、ソロの本音であった。


「ねぇ、ソロ。私、前から思ってたんだけど、物を長持ちさせる魔法とかってないの?腐らせないようにするとかさ」


 そんなソロの本音など知らぬジャンヌは、能天気な様子で疑問を投げ掛けてきた。アイディアとしては誰もが一度は考えることだったが、そんな魔法は誰も見たことがない。つまり、無理だという事だろう。だが、魔法が使えないジャンヌだからこそ、それが可能かどうかを尋ねたのだ。そんな疑問には、意外な答えが返ってきた。

 

「あー、それはな。魔法師団時代にも研究はしてたんだが、正直、かなり難しいんだ。一時的ならば物が腐ることを停める魔法は作れたんだが、現実的じゃない」


「っていうと?」


「とにもかくにも、魔力の消費が大きすぎるんだよ。物を腐らせないようにするには指定した物の()()()()()()()必要があるんだが、それを常時、消費し尽くすまでずっととなると、莫大な魔力が必要になる。しかも、それ一つだけって訳でもないだろう?持ち運ぶ肉や魚、野菜など全てに魔法をかけていたら、あっという間にこっちの魔力が尽きてしまう。凍らせて運ぶなら鮮度を保てるだろうが、そうするとかさばるからな。結局、色々考えた末に現実的じゃないからってことで使われなくなったのさ」

 

「なるほど、そりゃそーか。魔法も万能じゃないもんねぇ」


「……でも、物の状態を固定するって凄い魔法なんじゃないですか?」

 

「確かに、それ自体はな。しかし、魔力の消費が大きいのはとてつもない欠点なんだ。その魔法を昔の俺の部下に試させたら、5分で魔力欠乏症になってぶっ倒れたからな。俺が試した時は3時間くらいは余裕だったんだが」

 

「それ、ソロがおかしいんじゃないの?人の事言えないけど」

 

 ジャンヌが呆れたようにそう言うと、ソロは渋い顔になってズレた眼鏡を直し、誤魔化そうとしていた。ジャンヌの陰に隠れているが、ソロもまた常人の常識を超える能力の持ち主なのである。本人的にはそれをあまり認めたくないのか、そこを突っ込まれるとすぐ誤魔化そうとするのだが。

 

 そうして一行が街に入ると、周囲の人々からの鋭い視線があちこちから向けられているのが手に取るように解った。ノルディールで街に入ったのはこれで二度目であり、最初に入った街ロンダでも同様の感覚を覚えたものだ。ノルディールの人々は他国の人間をよく思っていないが、なぜ、ジャンヌ達が一目でこの国の人間ではないと解ったのかといえば、それはノルディール人には他国の人間にはない身体的特徴があるからだ。


 かつて、自らを覇王と自称し、周辺国に戦いを挑んだ狂王アグリッパ。彼が何故そんな蛮行に走ったのかといえば、彼はノルディール人がこの(せかい)で最も力を持ち、優れた人種であると考えていたからだった。その理由は、()()()()()()()()()()()()()()()()にある。

 理由は定かでないことだが、ノルディール人は必ず、額から左頬にかけて一本のライン状の痣が走っているのだ。その痣の太さは人によって違うが太さは小指一本分ほど、それが多くの場合は縦に一筋、額から左目を通って頬まで通っているのである。一説によると、本人の保有している魔力が多ければ多い程、痣は濃い緑色になるという。アグリッパはその痣が二本あり、とても濃い緑色をしていたのだそうだ。事実、アグリッパは強力な加護を有していたらしいし、魔力の保有量も相当なものだっただろう。それ故に、彼は自らを特別な存在として考え、覇王になろうとしたのである。


 そんな人達の街であるから、ジャンヌ達は敵意を向けられるのだと思ったが、それにしてはやけに視線が強い。なんというか、何度も確認するようにジャンヌ達の顔を見ている気がする。それもジーナに向けてではなく、ジャンヌとソロに集中している。これは一体、どういうことだろう?特に立ち寄った市場でいい色艶をしたカジェイロを人数分買った時、店の主人はジャンヌとソロの顔を見るなり、とても嫌そうな顔をしていた。まるで、厄介事がやってきたと言わんばかりの表情だ。

 仕事柄、潜んでいるNeck(賞金首)を探す事も多いジャンヌ達MIRAは、こうした人間の感情にとても敏感だ。何か、自分達の知らぬ思いもよらない事態が待ち受けているような、そんな感覚が、この時点で二人の共通認識になっていた。


 その後、ジャンヌ達はレストランで食事を摂るとすぐに街で唯一の宿に向かい、そこで二部屋を確保した。どうにも居心地の悪さが消えず、速くこの街から出た方がいいとソロが判断した為だ。今日は早めに休んで翌朝の速い時間に出発しようと決めたのである。

 

 その夜、とっぷりと日が暮れて深夜に差し掛かろうとした頃、熟睡するジーナとジャンヌの部屋の窓から、音もなく何者かが入り込んできた。


「………………………………」


 黒衣に身を包んだその男は、一切の足音も立てずにベッド脇へ立つと、また音もなく腰に佩いた長剣を抜いた。そうして、黙ったままベッドで眠るジャンヌの顔を覘き込み、確認すると一切の躊躇なくその剣を眠っているジャンヌの胸へと突き立てた。


「終わった、任務完了。…………………………っ!?」


 じわじわと血が掛け布団に広がっていくのを確認し、男が小さく呟く。だが、次の瞬間、彼の背後に立つ何者かの気配がして、男はハッとして振り返った。それと同時に、鋭い斬撃が彼の身に叩き込まれ、男は窓際まで弾き飛ばされた。


「ちょっと、どこの誰だか知らないけど、いきなり殺そうだなんてずいぶんじゃない?まだやるつもりなら、相手になるわよ!」


 ジャンヌが気合と共に言葉を叩きつけると、男はゆっくりと立ち上がり薄ら笑いを浮かべていた。

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