表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/121

忍び寄る影

 少し冷たい朝の空気の下で空を見上げると、そこには青い空をベースに、大きな黒い雲の塊と、そこから散り散りになったいくつもの小さく丸い雲が浮かんでいる。それらはじっと見ていると動いていないように見えるが、緩やかなスピードで東へ移動しているようだ。


 ジャンヌ達は現在、国境都市アマルナで、隣国ノルディールへ出国の手続きが完了するのを待っている。ロドリック王から貰った魔力車(クルルス)のお陰で、徒歩では一週間ほどかかるはずのトルキアからアマルナまでの旅は、一日とかからずに移動することが出来た。このまま行けば、ノルディールを抜けてレガリアまで到着するのも、そう長くはかからないだろう。

 大幅なスケジュールの短縮が出来たのは好ましいが、ジャンヌ達と離れたくないジーナにとっては旅の終わりが近いというのは少々複雑な所もある。もっとも、レガリアに着いて加護を調べた後、ジーナが一人でドルトへ帰れるとは思えないので、今度は来た道を戻る必要がある。それを考えれば、まだまだ一緒にいられる時間はあるのだが。


「出国の手続きはもうすぐ終わりそうだ。流石に、国王直々の許可証があると違うな。普通なら、身元の確認だけでも一日仕事が当たり前だというのに。ノルディールではこうはいかないだろうが、バスカヴィル王国の出入りだけでも速く済むのは助かるよ。……どうした?ジャンヌ」


「え?ううん、なんでもないわ。何だかんだで、この国にも長くいたなぁって思ってただけ」


「そうだな。もう三年くらいになるか、バスカヴィル王国に来てから。エンデュミオンを出て、二年程あちこちを旅して……そこからだからな。あれから五年か、時が経つのは速いもんだ」


 そういって、ソロもまた空を見上げると既に雲はどこかへ飛んで行って、抜ける程の美しい青空がそこにあった。アマルナに着いたのは夜半だったので、こうして朝の光の下で街を見ると、中々趣のある街だ。トルキアのように強い民族的な空間ではないが、国境の街という性質からか、これまでに見てきたどの街よりも硬い、がっちりとした印象を受ける。この街が国教として接しているのが、ノルディールだからということもあるのだろう。その意味では、建物や街を守る防壁などが他の街よりも頑丈に見える理由もよく解る。


 これから通り抜けようという国、ノルディールは、かつて大陸の覇王を自称し、周辺国を敵に回して大暴れをしたアグリッパ公の国である。狂王アグリッパは強力な加護を有していたらしく、自らのその力と国民の大半を兵士として育成した強大な軍事力をバックに、バスカヴィル王国やエンデュミオン皇国などへ繰り返し侵略行為を仕掛けていた。特に被害が酷かったのは、隣国であるレガリアだ。永世中立国であるレガリアは月光教の教国という形ではあるが、国土はグラン・レガリアと呼ばれる湖のみの極小の国である。

 そんな小さな国など恐るるに足らずと、アグリッパは度々レガリアへ攻撃を仕掛けていたらしい。だが、国民の八割以上が加護を持つとされるレガリアの守りは非常に堅牢で、アグリッパ率いるノルディールの攻撃を全て退ける事が出来たようだ。それどころか、彼らは反撃をしてアグリッパの喉元であるノルディールの首都、ディアマンティまで攻め入ったことさえあったらしい。


 その反撃に乗じて、当時のエンデュミオン皇国とバスカヴィル王国は連合軍を結成し、ノルディール攻略戦に打って出たのだそうだ。そうして、狂王アグリッパは討たれ、周辺国は平和を取り戻したのだそうだ。その際の激戦の影響で、ノルディールは国民の過半数を超える民を失った。国土の割に人口が少ないというのは、それが理由だ。狂王の時代から数百年が経った今も、ノルディールはかつての勢いを取り戻してはいないのだ。

 そうした国だからか、ノルディールからバスカヴィル王国へ国境を越え、不法に侵入しようとするものが多かったらしい。流石に近年ではもう減ったようだが、ほんの百年程前までは不法移民が後を絶たない状態だったようだ。アマルナという街に剛健な印象を持つのはそうした背景があるのだ。


「とりあえず、まだ朝が早くて店などはやっていないようだ。出国の許可が下りる前に、ジーナが起きたら魔力車(クルルス)を置いて食事に行こう」


「そうね。ずいぶん早くから起きたからお腹空いちゃったわ。この街って何が美味しいのかしらね~?」


 一見ウキウキした様子で話すジャンヌを見て、ソロは苦笑していた。突然、シーザーとの旅を終える事になってジーナはかなり落ち込んでいた様子だったので、ジャンヌも気にしているかと思ったが、どうやらそれを表に出す気はないらしい。シーザーはとても賑やかな男だったし、居なくなれば寂しいものだ。ソロとて、ふとした瞬間に彼がいないことを実感するくらいだ。あれだけシーザーから好意を向けられていたのだからジャンヌはもっと感じるものがあるだろう。とはいえ、今生の別れという訳でもないので、そこまで気にしていないのかもしれないが。


 ちなみに、何故夜中の内にアマルナへ入ったのかといえば、人のいる時間帯に街の中を魔力車(クルルス)で走りたくなかったからである。エンデュミオン皇国では街中で魔力車(クルルス)を走らせることは違法だったが、バスカヴィル王国では魔力車(クルルス)自体が存在していなかったので、まだそんな法律はない。なので、あくまでソロが危険を回避する為にわざわざ夜を選んで街へ入ったのだ。

 昼間の内にアマルナへ入っていればもう手続きは済んでいただろうが、こればっかりは仕方がない。そうしてしばらくすると、後部座席で眠っていたジーナが目を覚ました。


「ん……おはようございます。ソロさん、ジャンヌさん」


「おはよっ!ジーナ。早速だけど、顔洗ったらご飯食べに行きましょ!何が食べたい?」


「いい匂いがしますけど、何があるんだろう。とりあえず、顔を洗ってきますね」


「食事が終わる頃には出国の許可も下りているはずだ。店も開き始めたし、ちょうどいいタイミングだったな。さて、アーデが食えるものがあればいいんだが」


「ホッホッ」

 

 アーデは嬉しそうにソロの肩の上で鳴き、目を輝かせている。三人と一羽に戻っても、ジャンヌ達の旅は相変わらずのようだ。


 



 ――その少し前、ジャンヌ達がトルキアを出発する直前の事。現在は女帝として君臨するイェルダの前に、二人の男が跪いていた。一人は白髪の初老に差し掛かった男で、もう一人は伸び放題のぼさぼさ頭をした茶髪の男で、まだ20代半ばといった歳の頃に見える。どちらも黒いマントを身に着け、長剣を腰に佩いた騎士風の装いだ。

 イェルダはそんな二人を妖艶な瞳で見据え、満足そうに笑っていた。

 

「お呼びでしょうか?イェルダ陛下」


「よく来てくれたわね。『皇国の刃』と謳われたあなた達を呼んだのは他でもないわ。始末して欲しい人物が見つかったの。本当はもっと早くに手を下すべきだったのだけれど……私も皇帝として足元を固める方が先だったから、そちらまで手が回らなかったのよね。でも、ここへ来てようやくその人物の行方が分かったわ」


「左様でございますか。我らは歴代皇帝に仕えし影の者、ご命令とあらばいかようにも……して、相手は何者でしょう?」


「詳しい情報は後で教えるけれど、標的はジャンヌ・パルテレミーという女よ。それと、一緒にバーソロミュー・サマーヘイズがいるはずだから、彼は無傷で連れ帰って頂戴。くれぐれも怪我をさせないように、だって、私の夫となる人なのだから。いいわね?」


「……御意に」


 二人の男は恭しく首を垂れた後、風のようにその場から消えた。そして、玉座に座ったままのイェルダが小さく呟く。


「バーソロミュー様、ようやくあなたをこの手に取り戻す時が来たわ。ああ、楽しみね。今度こそ逃がしはしないから。……フフフ」

お読みいただきありがとうございました。

もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら

下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ