真の使い手
「私達の身体を、取り込む……?奪う、って、まさか」
ハバキリの言葉を聞いたジーナとソロは呆然とし、ジャンヌは少しかすれた声でハバキリに問うた。どうやら、創星者という存在は、人道的とは言えない思想を持っているらしい。ハバキリはその問いに、たっぷりの間隔を開けて答えた。
――………………そうよ。エクソダスは、一定水準に達した力を持つ生命が生まれた時、それが自分に従うかどうかを危惧していた。なまじ相手が力を持つ存在なだけに、言う事を聞かなければかえって危ないし、意味がないものね。だからこそ、私とムラクモを用意したの。自由に動く身体を持たぬ被造物としての私達は、創星者に逆らう事は出来ないだろうと言われてね。
「そんな、そんなことって……」
――実際、私とムラクモは長い長い時間の中で、多くの人間達を使い手として選び、時に彼らを育て導きながら戦ってきたわ。全ては、創星者の望んだ生命を完成させる為に。
これまで、ジャンヌは武器が生きて意志を持っていることの意味が理解出来なかったが、ここまでの話を聞いて、その理由をようやく知る事が出来た。確かにハバキリの言う通り、自由意志を持つ生命を従わせるのは難しい事だ。例えそのエクソダスという神にも似た力を持つ男がいたとして、ジャンヌは大人しく彼に従うだろうか?答えはノーだ。何故力ある生命を欲しがっているのか、それは事情を聞けば解らないことだが、どうにもエクソダスは信頼できる存在とは言えないフシがある。
いくらこの星が彼の作ったものだとしても、ジャンヌははいそうですかと彼を受け入れる事は出来ないだろう。大体、説得しようという考えもなく、身体を奪ってしまえとはあんまりな言い種だ。その一点だけ見ても、エクソダスには何かやましいことでもあるような、信じていい相手だとは言えない気がした。
するとその時、ソロが僅かに息を飲みながらハバキリに問いかけた。
「……一つ聞かせてくれ。君達はこれまでに何人の人間を、そのエクソダスに捧げてきたんだ?」
――ゼロよ。
「は?」
――だから、ゼロよ。一人もいないわ、私もムラクモも、エクソダスが定めた力の持ち主に出会う事は出来なかった。何より、そもそもエクソダスは私達にその使命を託して以来、二度とこの星に姿を見せていないの。だから、捧げたくても捧げる相手がいないわ。
「なんですって!?」
「なんだ、それは……意味が解らない。なら、そいつは一体何の為にこの星を創ったんだ?」
――エクソダスが創った星は、ここだけじゃないの。これまでもこれからも、永遠に等しい時間の中で、創星者は星を創っていく……そう言っていたわ。もしかしたら、もっと別の星で、目的に見合った生命を創る事に成功したのかも。……だから、私は嫌になってしまった。いつ出会えるかも解らない使い手を探し続けることも、私達に使命を与え、戻ってこない創星者を待つ事も。
「嫌に、なった?」
――ええ、私は疲れてしまったのよ。これまでに数限りなく、私の使い手に相応しいと思える人間に出会ってきたけれど、彼らはその度に命を落とした。当然ね、より強い生命となる為に、試練という名の戦いの中へ彼らは身を投じていくのだから。そんな事を繰り返している内に、私は人間に興味を持ち、その力と身体を奪う為ではなく、共に生きてみたいと思うようになったわ。……けれど、ダメだった。私という大きな力を得てしまった人間は戦いから逃れられない。時には、ムラクモが使い手と定めた人間と相討ちになった事もあったわ。だから、私は……。
「そういう事……だったのね。だから、初めて私があなたを手にした時、あなたは私のことを知りたいと、そう言っていたの」
――そうよ、ジャンヌ。でも、あなたと一緒に旅をして、あなたの傍であなたの事を知れば知るほど、私は自分の事を知られるのが怖くなってしまった。もう今の私に、あなたの身体を奪うつもりなどないけれど、いずれは全てを明らかにしなければならない。そうすれば、あなたは私を拒絶し捨てられるかもしれない。それが、たまらなく恐かったのよ……!
そう叫ぶハバキリの声を聴き、ジャンヌはその心痛を理解した。そこで気付いたのだ、彼女もまた、創造主である創世者――つまり親に捨てられた存在なのだと。そうして、ジャンヌはどこか力無く笑い、ハバキリをそっと手に取った。
「私達、親に捨てられた似た者同士だったのね。……まったく、ろくでもない親を持つと苦労するわ、お互いにね」
――……フフフ、そうかもしれないわね。
(なるほど、とんでもない話ではあるが理解は出来るか。ということは、ダンジョンだけでなく、我々に力を与えているあの大三連月さえも、そのエクソダスという創星者が用意したものだったということか?膨大な時間の中で、強力な加護のような力を持つ存在が生まれる事を、エクソダスは望んでいたと。……途轍もなく迂遠な計画だが、相手が神の如き時間を持っているのなら、戦略として間違ってはいない。生物が強くなるには、厳しい生存競争を潜り抜けていくことがもっとも的確で一番手っ取り早いからな)
ソロは一人、得心したように心の中で考え頷いた。今更、ジャンヌの身体を奪うつもりがないという、ハバキリの心変わりを疑うつもりはない。だが、ハバキリにそのつもりがなくとも、ムラクモという存在はどうだろう?少なくとも、現状でムラクモの使い手と思われるエルドレッドは、ジャンヌと戦う事を宣言していた。つまり、彼はムラクモの支配下にあるか、その意志に同調しているのだろう。それが意味する事を、まだソロもジャンヌも知らないのだ。
「ハバキリ、君の話は概ね理解した。しかし、そのもう一体の生きた剣であるムラクモという刀はどうなんだ?君と同じく、エクソダスとやらの支配を抜け出そうと考えているようには思えないんだが……」
――そうね。ムラクモは私と違って、使い手と共に生きようだとか、これっぽっちも考えていないと思うわ。彼は常に、己に課せられた使命だけを追求している存在だったから。今もきっと、エクソダスの為に力ある使い手を探し、私の使い手と雌雄を決してどちらが優れた生命を手にしたかを争うつもりよ。……だから、私はジャンヌやあなた達にも話をしたの。きっと、ムラクモはあなた達を巻き込んで戦いを挑んでくるはず……その時に対応する為にね。お願い、ジャンヌを助けて。もう二度と、私はマスターと認めた相手を失いたくないの。
「っ!?」
「これは……!?」
ハバキリがそう言った瞬間、ソロとジーナの脳内にも、美しい少女の姿が流れ込んできた。それと同時に、ジャンヌの元にあるハバキリが少女の姿へと変わって見え、二人に向かって深々と頭を下げている。これが今まで、ジャンヌが見ていたハバキリの姿かと、ソロとジーナは唖然としている。
――改めて自己紹介するわね。私の名はハバキリ、天の羽々斬。もう一つの生きた剣、地の叢雲と対を成すモノ。これより、私自身が真の使い手と認めたジャンヌと共に生き、戦いましょう。その命が尽きる最期の瞬間まで。
顔を上げたハバキリの表情は明るく朗らかで、笑顔が似合う女性の姿であった。だが、そう見えたのは一瞬だけで、後は元のジャンヌがハバキリを手にしているだけの姿である。しかし、その刹那の光景はソロとジーナの脳裏にしっかりと残された。それと共に、多くの命を道具として扱う創星者エクソダスの名も、全員の心に深く刻まれたようであった。
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