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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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銀の襲撃者

「それじゃ、私達はこれで。デックさん、頑張ってね。行きましょ、ジーナ」


 一頻りの歓待を受けたジャンヌは、段々と困り顔になり始めたジーナを促して店の外へ出た。それだけ追い詰められていたということなのだろう、デックの感謝感激っぷりはとどまる事を知らず、あのまま放っておくと陽が落ちて夜が明けても帰らせてくれないかもしれない。流石にそれでは困るので、夜になる前に宿へ帰らなければならないと考えたのだ。


「二人共、旅を終えたらまたいつでも家へ来てくれ。その時は商売も軌道に乗せて、もっともっと礼をするからな!待ってるぞ!」


「あ、あはは。ありがとうございます、デックさんもお身体に気を付けて下さいね」


 ジーナが丁寧に頭を下げてジャンヌの後に続き店の外へ出ると、辺りは既に暗くなり始めていた。散々、色々なものをご馳走になったので、戻っても夕飯は食べられないかもしれないが、ソロと合流して話の顛末を聞かせる必要はあるだろう。どう考えても、このままポンザが引き下がるとは思えないからだ。


「街を出る前に、ポンザのことをソロと相談しないと……ん?」


 デックの店を出てすぐに、ジャンヌは違和感を覚えていた。周囲が暗いのは陽が落ちたせいかと思っていたが、あまりにも人の気配が無さすぎるし、静かすぎる。デックの店の前は元々人の往来がそこそこある通りだったはずで、夜でもここまで静かなのは異常だ。まるで、二人のいる場所だけ切り取られたかのようだった。


「ジャンヌさん、これ……」


「嫌な予感がするわね。ジーナ、気を付けて。私から離れちゃダメよ」


 ジャンヌ達と行動を共にするうちに何度も危険を乗り越えてきたジーナも、今の状況が異常だと気付いたらしい。ジャンヌの指示を受けて、即座に彼女へ寄り添い、緊張した面持ちで前を向く。その直後、ジャンヌの正面から何かが飛来した。


「っと!……これ、ナイフ?」


 飛んできたのは鋭く研ぎ澄まされた数本のナイフだった。ジャンヌはそれらをハバキリで斬り払い、地面へ落ちたナイフに首をかしげている。昨夜、ポンザの屋敷を偵察していたアーデに手傷を負わせたという相手も、ナイフを使っていたのではなかったか?だとすると、これはポンザが送り込んできた刺客ということになる。そう気づいた時、ジャンヌ達の前方、通りの向こうから、一人の男がゆっくりと歩きながら向かってくる姿が見えた。


「あれは……銀髪?まさか!?」


 ハバキリを構え、ジーナを庇うようにして前へ出たジャンヌに対し、銀髪の男は歩を進めながら口を開いた。まだ、かなりの距離があるはずなのに、その声は不思議とすぐ傍で話しているような近さを感じる声だった。


「ジャンヌ、ジャンヌ・パルテレミー。その目、気付いたようだな。俺がどういう存在か。俺の名は、レイモンド・アッシャー。知っての通り、()()()()()()()だ」


「銀の騎士!?やっぱり。じゃあ、あなたがアネットの……!」


「パルテレミー家を出て行った貴様に、アネットの名を呼ぶ資格などない。そもそも、貴様はいずれ俺のものとなるパルテレミー家の汚点だ、アネットに代わって俺が引導を渡してやる。大人しく死ぬがいい」


「……!ここじゃマズいわね。一旦逃げるわよ、ジーナ!」


「え、は、はいっ」


 突如放たれた恐るべき死の宣告に驚きつつも、ジーナはジャンヌに従って走り出す。銀髪の男、レイモンドがどんな人物かは解らないが、ここで戦えばデックの店を巻き込みかねない。どこか開けた場所へ移動するのが先だとジャンヌは考えたようだ。


 銀の騎士は、パルテレミー家に伝わる銀の魔女と対になる存在だ。この(せかい)においてパルテレミー家にしかいない銀髪の子供がパルテレミー家に誕生すると、その番としてエンデュミオン皇国のどこかで銀髪の子供が同時期に産まれてくる。そして、その二人はいつしか出会って結ばれるというのが、銀の騎士と銀の魔女の運命と歴史だ。ジャンヌの妹、アネットが銀髪を持って生まれた時、同じくエンデュミオン皇国で産まれたのがレイモンドである。

 ジャンヌが家を出たあの日、母からアネットの銀の騎士が見つかったと聞かされてはいたが、まさかこんな所でその人物と出会うなど思っても見なかった事態だ。まだ苗字がアッシャーなのは、アネットと籍を入れていないからだろうが、直に彼はレイモンド・パルテレミーという名に変わるだろう。そうして、パルテレミー家に伝わる『世界を滅ぼす力』への封印が続いていくのだ。


 ジーナと共にレイモンドから逃げつつ、ジャンヌは自分を取り巻く運命が遂に迫って来たような感覚に囚われた。あの家を飛び出して5年、生まれ育ったその前の15年と比べると、今の生活は天国のようである。だが、いつまでも逃げられはしないのだ。パルテレミー家には銀髪と封印という、不思議な因縁めいた運命がある。自分は銀の髪を持たずに生まれてしまったが、その運命はジャンヌを放っておいてはくれないらしい。そんな思いが、彼女の中に生まれていた。


 (いつかは、と思っていたけど、まさかこんなタイミングで……!逃げられないんだ、私……あの家から、家族から)


「じゃ、ジャンヌさん、前!」


「えっ!?」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、()()()()()()()姿()()()()()。急ブレーキをかけて立ち止まる二人を見据え、レイモンドは右手の長剣を構える。


「逃げられるものか、俺の加護から。お前達はどこにも行けない。ここで死ね、ジャンヌ!」


 レイピアのように逆手に構えた長剣を胸の前まで上げ、レイモンドが一気にその切っ先をジャンヌ達の方へと伸ばす。すると、その動きと重なるようにして二つの白い影が並び立ち、その影はレイモンドの姿へと変わって飛ぶように襲い掛かってきた。


「ジーナ、下がって!くっ、うううっ!」


「ジャンヌさんっ」


 咄嗟にジーナを庇い、ハバキリで影の攻撃を受け止めようとしたジャンヌだったが、その刃はハバキリをすり抜けて、ジャンヌの身体に傷を負わせていた。これは見た目通りの実体ではなく、魔力で作られたレイモンドの分身だ。つまり、魔法による攻撃だろう。実体のない攻撃では、流石のハバキリも受け止める事は出来ない。出血する傷を厭わずに、ジャンヌは向かってくるレイモンドの姿へと注意を向けた。

 傷が治ってしまうジャンヌでなくとも、今の攻撃は致命傷には程遠いダメージだ。レイモンドがジャンヌを殺すと言い切った以上、必ずもっと確実に、直接命を奪いにくるだろうとジャンヌは予測したからだ。そして、それは正しく現実のものとなっていた。いつの間に迫っていたのか、ジャンヌのすぐ目の前にレイモンドが立っていたのだ。

 

「い、いつの間にっ!?」


「これで終わりだな。死ね」


 レイモンドは手にした剣をジャンヌの喉に突き刺した。ブスリと不気味な音がして、ジャンヌの口から大量の血が溢れ出す。


「じゃ、ジャンヌさんっっ!!」


「か、はっ……っ、っ!」


「おっと!」


 喉元に剣が刺さったままジャンヌは至近距離にいたレイモンドを斬り払おうと剣を振るった。しかし、その動きを察知したレイモンドは、大きく後ろへ跳び退る。同時に、ジャンヌの喉から剣が引き抜かれ、大量の血飛沫が周囲を赤く染めた。


「大した根性だ。喉を貫かれてなお、反撃しようとするとは。だが、もう…………なに?」


「か、くはっ……ぐっ、ゲホッゲホッ!」


「ジャンヌさん、大丈夫ですかっ!?」


「貴様、何故だ、何故死なない?その傷で、どうして生きている?」


 ジャンヌの表情が苦痛に歪む中、傷口はたちまちのうちに再生して段々と呼吸を取り戻していく。レイモンドはジャンヌの加護、大逆転の事を知らない為に、その異常な再生回復能力についても、知る由もないのだろう。ジャンヌの暗緑色の眼光が鋭さを増し、二人の戦いがまだ始まったばかりだと叫んでいるようだった。

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