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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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因縁の足音

 精霊樹のブレスレットから生まれた種子は、とにかく途轍もない代物であった。


 種そのものから滔々と魔力が溢れ出し、一目見ただけでそれが尋常のものではないと察したジャンヌ達は、すぐにデックの店を出て近くの森へと飛び込んだ。そして、適当な場所にその種を植えたところ、種はあっという間に芽を出し、立ちどころに周辺の草木を巻き込んでノーツの群生へと生え変わったのだ。これにはジャンヌもデックも、ジーナまでもが驚き、開いた口が塞がらなかった。


 しかも、そのノーツの群生は、一定の範囲に生え変わった後は広がるのを自動的に止めた。その代わりというべきか、いくらノーツの草花を摘んでも、即座に再生して元の群生に戻ってしまう。はっきり言って、異常としか言えない有り様だ。


 これが精霊の力によるものなのかとジャンヌは腹の中で唸ってしまったが、この状態が続くのならデックの危機的状況は一気に改善されることだろう。ノーツがいくら収穫しても尽きないのならば、デックの祖父が作っていたノーツ生地の服を作る事も容易いはずだ。ちなみに、ノーツはまさに麻と綿双方のいいとこどりをしたような植物で、綿のように花からも糸が作れるし、麻のように茎からも糸が作れるようだ。

 その元によってそれぞれ出来る糸に個性があって、それら二つを掛け合わせて布を作れば、ヴィキュニア以上に優れた布を作る事が出来るという。これで後は、デックのテーラーとしての腕さえあれば、商売は成り立つことだろう。


「ありがとう、ありがとう!何と礼を言ったらいいのか……!お嬢ちゃん、あんた、素晴らしい加護を持ってるな。植物を育てる加護なのか!?」


「い、いや、私の力じゃ……」


 デックに両手を握られ、感謝の言葉を繰り返されたジーナはとても照れ臭そうだが、その顔には大輪の花のような笑みが浮かんでいる。父の姿を重ねたデックの力になれたことで、彼女の心にあった後悔が少し薄れたのだろう。その笑顔こそ、ジャンヌが何よりも欲しかったものだ。

 とはいえ、加護ではなく精霊樹の力によるものだと説明した所でデックが理解できるかは謎だし、仮に精霊樹の力だと明かすとなると、幽霊らしきジンロ爺さんと出会った時の話までする事になる。ジャンヌにしてみればあの村での出来事は色々な意味で話したくないことだし、ここはジーナの加護のお陰という事にしておく方が、面倒が無くていいだろう。


 (……でも、本当に精霊樹の力だけって訳でもない気がするのよね。ジーナの加護って、一体どんなものなのかしら?)


 ジャンヌ達はそれを調べる為にレガリアへ向かっているので、今の時点では想像もつかないのは仕方のないことだ。きっとそれが解って、ジーナが正しく力を扱えるようになれば、今のような笑顔をいつも見せてくれることだろう。その時までは傍にいて、ジーナを守ってあげたいとジャンヌは考えている。


 その後、大量のノーツの花と茎を確保したデックと共に街中へ戻ってきたジャンヌ達を、陰からそっと見つめる姿があった。ポンザだ。


「ヌヌヌ……!デックが怪しい動きをしていると聞いて駆けつけてみればァ、一体あの花や茎はなんなんですかねェ!?デックのあの様子……このままでは私の計画が台無しですよォ!せっかく、大叔父上の印を私の加護で偽造までしたというのにィ!い、一体どうすればァ」


 ギリギリと歯ぎしりをしながら、悔しそうに呟くポンザ。その隣には、まだ若い()()の男が立っていて、腕を組んで建物の壁に寄りかかりながら目をつぶり、黙ってポンザの言葉を聞き流していた。


「ちょっとあなた、なんとかしてくださいよォ!デックのテーラーとしての腕前はピカ一なんですからねェ。奴を手に入れない限り、計画は完成しないんですよォ?!」


「そんな事は俺の知った事じゃない。俺がエルドレッド様から命じられているのは、お前の護衛だけだ。……大体、その計画とやらが杜撰過ぎるんじゃないのか?高級素材ヴィキュニアと、それを完璧に仕立てる職人を同時に手に入れたいからと、わざわざあの男の生活を追い詰めようなど。言う事を聞かせるだけなら、もっと確実な方法がいくらでもあるだろうに」


「それじゃあダメなんですよォ!もしデックに怪我でもさせたら、職人としての腕が台無しになってしまうでしょォ!?この世は全て法律で動いてるんですからねェ、デックの生活を極限まで追い詰め、私の都合のいいように契約でがんじがらめにしてしまわなくてはァ!」


 ポンザは唾を飛ばしながら、銀髪の男を怒鳴りつけた。実のところ、高級素材ヴィキュニアはその希少性だけでなく、扱いが非常に難しいことも高級品として扱われる要因の一つである。ヴィキュニアは柔らかく温かい上、耐久性にも優れている優秀な生地だが、染色と裁断を誤るとあっという間に劣化してしまい、使い物にならなくなってしまう。その為、多くの仕立て職人はヴィキュニアを扱う事を嫌う傾向にある。何故なら経験を積もうと考えても生地の値段が高すぎて練習など出来ないのに、何度も扱いをこなしてヴィキュニアの事を理解しないと、いい仕立てが出来ないという職人泣かせの生地だからだ。


 だからこそ、ポンザはヴィキュニアという素材だけでなく、それを完璧に扱えるデックという職人をも手に入れようと考えた。まず先に素材を押さえて店が立ち行かなくなった所で、法外な利息で金を貸すなり、脅すなりしてデックという職人を飼い殺してしまえば何の問題もない。計画通りなら、労せず全てがポンザのものとなるはずだった。


 しかし、デックが自らの腕を活かせる別の素材を手に入れてしまったら、その計画は完全に台無しだ。法に触れる行いをしてまで積み上げた計画が水泡に帰す寸前で、ポンザは焦り怒りを露わにしていた。


「全く、使えない人ですねェ!私の計画が崩れたら、メタノイアへの資金提供も安定しなくなるんですよォ!?いいんですかァ!?解ったらさっさと……ヒッ!?」


 その言葉を言い放った直後、銀髪の男は剣を抜き、その切っ先をポンザの喉元に突き付けていた。同時に凄まじい殺気が向けられ、ポンザは声も出せないどころか、呼吸すらままならない程に身体が動かなくなっている。


 (い、いつの間にィ!?剣を抜いた音さえ聞こえなかったなんてェ……!?)

 

「調子に乗るなよ?お前ごときがパトロンから降りた所で、メタノイア(我々)には何も問題はない。第一、エルドレッド様からは、お前の計画が頓挫した場合は切り捨ててよいとの許可も頂いている。……文字通り、この場で斬り捨てて死体にしてやろうか?」


「ッ!?ハッ……ハァッ!ッッ!」


 声にならない悲鳴を上げ、ポンザはその場にへたり込んだ。銀髪の男はポンザを見下し、ふんと鼻を鳴らしてジャンヌ達に視線を移す。


 (昨夜の斥候が気になって様子を見ていたが、あの紺色の髪の女、ジャンヌと言ったな。……もしや、行方不明になったという彼女の姉、ジャンヌ・パルテレミーか?まさか、こんな所でMIRAになっているとは。さて、どうしたものか。仮に奴が本物のジャンヌだとしたら、俺の事を知っている可能性もあるか?直接の面識はないはずだが……どちらにせよ、ここで()()してしまえば問題はないか)


 銀髪の男は目を細め、静かに深く息を吐いた。その目は鋭く、獲物に狙いを定めた鷹のようだ。恐るべき相手が自分に狙いをつけていることなど、この時のジャンヌは知る由もなかった。

お読みいただきありがとうございました。

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