戦いに持ち込むもの
「ありがとう。では、仕切り直しと行こう!おおおっ!」
「また来るっ、今度は!」
ジャンヌは冷静にシーザーの動きを見極め、迎え撃つことにした。先程の三連撃は、予想外のタイミングだった事もあってジャンヌは服を斬られてしまったが、きちんと冷静に対処するならば、そう後れを取る攻撃ではない。
「てぃっ!せいっ!はあっ!」
「また三連撃……けどっ!」
三連撃の最中に反撃する隙は無いが、それらの動作が終わった後ならば話は別だ。生物は無限に動き続けることなど出来はしない。特に渾身の力を込めた攻撃ならば、尚更その直後には動きが止まるか、隙が出来るものである。だが、シーザーはその隙を、左手の盾を巧みに使う事で完璧に隠していた。ここでも、ジャンヌの反撃をシーザーは盾で防ぎきったのだ。これには、傍で見ていたソロも瞠目していた。
「……大したもんだな」
「え?ジャンヌさんがですか?」
「いや、シーザーが今の反撃を防いだことさ。ジャンヌの攻撃はああ見えて、かなり重い。にもかかわらず、シーザーはさっきも今も、しっかりと盾で防いでいただろう?自分の攻撃直後で、防御にまで力が入りきらないはずなのに、あれを受けてもビクともしてないというのは、相当な鍛錬を積んで体幹がしっかりしている証拠だよ。だから、大したもんだって言ったのさ。普段の様子から見てもう少し頼りないと思っていたが、そんな事もなさそうだな」
「あ、あはは……」
(王子様なのに、評価が低いなぁ……)
ジーナにしてみれば、シーザーは自分の国の王子である。本人曰く、次期国王だと豪語しているのだが、ジャンヌ達からは頼りなく思われていたというのは、何とも切ない話だ。そうは言っても、ジーナ自身、シーザーの事をそこまで高く買っていた訳でもないので文句は言えない。
そもそも、ジャンヌは昨晩のようにハバキリの力をほとんど解放していない。いわば、片手落ちの状態だ。もしも、ジャンヌがシーザーを殺すつもりで本気を出していたならば、あの盾ごと腕や胴を斬り捨てられていたに違いない。それを考えれば、評価が難しいのも事実だった。
「鬱陶しいわね、その盾……!」
「ふっ!この盾は、素材の段階から一つ一つ丁寧に魔法による強化を施しているからな!例えモスバッファローの突進でさえ傷一つつかんよ!」
自信満々に言い放つシーザーの鼻がこれでもかというほど高くなっている。だが、彼の言い分が真実であれば、それは確かに優れものだ。モスバッファローは、トレントと同じくかつてはダンジョンで発生したが、そこから出て野生化したモンスターの一種だ。通常の牛型の魔獣よりも二回りは大きい体格と分厚い筋肉を持ち、鋼鉄よりも硬い角をいる。
その全身を濃い緑の毛皮で覆っており、苔むしているように見えることからモスバッファローと呼ばれていて、彼らはその巨体を風の魔法で加速させ、硬い角と分厚い筋肉を武器に高速で突進してくるのが主な戦法だ。全速力でダンプカーがぶつかってくるようなものと思えばいいだろう。
それを防げるというのなら、ジャンヌの一撃を防げるのも納得だ。この盾を破壊するには、ハバキリの力をフルに解放せねばならないだろう。ただ、それは出来ればやりたくないというのが、ジャンヌの本音だ。どんなダメージでも肩代わりしてくれるというが、本当にそうなのだろうか?実際、ハバキリの力はすさまじい威力がある。もし万が一、ソロの魔法の効果を上回るような事があれば、シーザーの命は保障出来ないだろう、それでは困るのだ。
ソロの身代わり人形がダメージを肩代わりしてくれるのは3回まで、ジャンヌがシーザーに3回攻撃を当てる前にあと2回攻撃を受ければ、ソロは試合を止めるだろう。その時点でジャンヌは負けである。
考えながら、ジャンヌはちらりと身代わり人形の方を見た。ジャンヌがいくら攻撃しても、盾で防がれたものは身代わり人形が反応していない。恐らく、かすってもいいので身体のどこかしらに命中しなければカウントされないのだ。つまり、盾を破壊しないまでもあれを掻い潜って攻撃を当てない限り、ジャンヌに勝ち目はないということになる。
別に、ジャンヌは勝ちにこだわる必要はない。シーザーの願いは自分と戦ってほしいということだけだったし、実際に試合をしているのだから、シーザーは20万ドルゴを文句言わずに支払うだろう。だが、それではジャンヌの気が収まらない。違う表現をするなら、沽券にかかわるというべきか。
ジャンヌはシーザーを格下と見做しており、事実、命のやり取りならば確実に勝てるであろう相手なのだ。そんな相手に負けて金をもらおうというのは、彼女のプライドが許さないらしい。
(どうにかしてあの盾の防御を上回らなきゃ。けど、あの盾がある以上、迂闊に攻めると反撃を喰らうのはこっちだわ。一体どうしたら……っ!?)
「まだまだいくぞぉっ!てぃっ!せいっ!はあっ!」
「くっ、考えがまとまらない内にまた……っ!っていうか、その三連撃使う時の声、何とかならないわけ?!うるさいんだけど!」
「はははっ!僕が編み出した秘剣、ライトニングエッジはこの掛け声あってこそなのだっ!僕の美声と強力無比な三連撃が合わさることで、相手の身も心も打ち砕く必殺技さ!美しいだろう?」
「うるさいって言ってんでしょーが!」
美声かどうかは好みがあるので明言を避けるが、シーザーは元々声が大きいタイプなので近くで叫ばれるとかなりうるさい。これが試合形式だからいいものの、もしも夜襲や敵の不意を突きたい状況だったら最悪の技だ。ジャンヌはライトニングエッジを避けながら、反撃をするが、またしても盾で防がれてしまった。
「ふむ。ジャンヌの苛立ち様を見ていると、敵の身も心も破壊するというのは伊達じゃないのかもしれないな」
「そういう意味……なんですか?なんか違う気がしますけど」
ジーナはどこか腑に落ちないようだが、ソロからすると、ジャンヌが冷静でないのは明らかだった。普段の彼女ならば、もう少し機転が利くはずだ。それを妨げている理由の一つはシーザーのやかましさだが、そこへ更にソロの魔法が拍車をかけているとは夢にも思っていないようだ。
「てぃっ!せいっ!はあっ!てぃっ!せいっ!はあっ!」
「ああもう、馬鹿の一つ覚えみたいにっ!……って、あ!?ヤバッ」
バックステップで後方に下がりながらシーザーの攻撃を避けてきたジャンヌだったが、何度も下がっている内に、いつの間にか中庭の隅まで追いやられてしまっていた。ジャンヌの背後は庭を囲む土壁で、後一歩下がったら、もうそこからは下がれない。シーザーのライトニングエッジは大きく3歩分進んでくるので、一歩だけではもう避けられないのだ。これもまた、シーザーの作戦だったようだ。
「ふふふ、ジャンヌ君。もう避けられまい。僕の勝ちということでいいかな?ちなみに僕が勝ったら勝利のキスをもらう予定だが」
「なにそれ!?ズッル!そんなの最初に決めてないじゃない、無効よ無効!」
「20万ドルゴもせびった癖に、それはどうなんだ……?」
「私のキスは20万なんて端金じゃ足りないわよ!せめて1000万はもらわなきゃ割に合わないわ!」
「ジャンヌさん、それはいくらなんでも……」
「……何を言ってるんだ、ジャンヌは」
同性であるジーナでさえ、ジャンヌの言っている事が無茶だと感じるらしい。お金には代えられないものだと言うならまだしも、法外すぎる金額を設定する辺り、心情的に微妙なラインである。それを聞いたソロは呆れ果て、手で顔を覆ってしまっていた。
「どちらにせよ、勝利はもう僕のモノだ!ジャンヌ君、覚悟っ!てぃっ!」
「そういつまでも同じ事を繰り返して……キスするくらいなら、こうするまでよっ!」
ジャンヌはライトニングエッジの一発目を後ろに避けると、そこから跳ね上がろうとする剣先を思いきり踏みつけた。ジャンヌの身代わり人形がまた1つ音を立てて崩れたが、まだ完全に壊れてはいない。
「せっ、な、剣を踏んづけただと!?しまった、剣が地面に刺さって……ハッ!?」
「どっせいっ!」
「ぬ、ぅぉぉぉおおおわぁっ!?」
地面へめり込んだ剣先に気を取られたシーザーに向け、ジャンヌはハバキリを支点としてその場で飛び上がり、渾身のドロップキックを叩き込んだ。シーザーは剣を手放し、両手を使って盾を押さえて蹴りを受けたが、ジャンヌの全体重と高い打点から繰り出されたドロップキックは信じられない衝撃力を生み出していたようだ。そのあまりの威力にシーザーは弾き飛ばされ、あっという間に中庭の端から端まで転がっていった。
いかにシーザーの盾が強固であっても、モスバッファローの突進をまともに受ければ、普通の人間は耐え切れずに吹き飛ばされるか、その衝撃で骨折でもするだろう。そして、ジャンヌの放ったドロップキックはそれに準ずる衝撃を伴っていたようだ。シーザー自身は生身の人間なのだから、当然の結果だ。
ビシビシ!と立て続けに二度、シーザーの身代わり人形が音を立て、その形を崩した。これで残りのカウントは共に1だが、ジャンヌは止まらない。
「う、うぐぅ……な、なんという蹴りだ!……いや、しかしまだ勝負は……へぶっ!?」
転がっていったシーザーが頭を振って立ち上がろうとした時、既にその目前にはジャンヌの靴が迫っていた。どうやら、追撃するようにジャンヌは自らの靴を投げつけていたようである。走って追いかけるよりは速いとはいえ、凄まじい肩の強さだ。シーザーは見事に靴を顔面に食らい、シーザーの身代わり人形が完全に崩れ落ちる。服をかすっただけでカウントが減るのだから、靴が当たっただけでもダメージ扱いになってもおかしくはない。
「……これで三発目、っと。私の勝ちね、シーザー。勝負に邪な気持を持ち込むから勝てないのよ、わかった?さぁ、20万ドルゴ頂きねっ!」
喜んで勝ち誇るジャンヌの言葉に、ジーナとソロは心の中で思った。お金目的は邪な気持じゃないのだろうか、と。
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