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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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剣心一如

「ふん、仕切り直しという訳か。よかろう、腕試しをせよとの命令であったが、使えぬなら殺せとも仰せつかっておる。死にたくなければ、精々本気で抗ってみせるがよい!」


 ナタンがそう言い放つやいなや、ジャンヌとナタンは互いに構えを取って睨み合った。そんな二人の凄まじい気迫のぶつかり合いに、動きを封じられて見守るソロ達にも緊張が走る。


「さ、先程のナタンとやらの動きに、ジャンヌ嬢はついていけるのか?とてつもない速さだったが」


「確かにヤツの動きは速いが、問題はあの急激な動きの変化だろう……ジャンヌはどうやってあれに対抗するつもりなのか」


「あっ!」


 ジーナが驚きの声を上げたのは、先に動いたのがジャンヌの方だったからだ。このまま睨み合いが続けば、ソロの危惧した唐突なナタンの動きに対応するのが難しくなる。ゆえに、ジャンヌは先手を打って、攻撃を仕掛けたようだ。


「ふんっ!ぬうううう!」


「くううううっ!」


 激しい衝突音からの鍔迫り合いが火花を散らす。ジャンヌが放った上段からの振り下ろしを、ナタンは完璧なタイミングで受け止めた。また、そこからジャンヌが全力で押し込んでいるにも関わらず、ナタンの刀は鋼鉄の壁のように硬くビクともしない。やはり、ナタンも相当なパワーの持ち主であるようだ。


 (ジャンヌのパワーに負けていない……だと?!何て奴だ!)


「でぇいっ!」


「ちっ!」


 次に膠着状態を崩したのはナタンの方だ。ジャンヌの力に押し込まれていたはずが、ナタンは鍔迫り合いが続く中で、互いの力のバランスが崩れる瞬間を狙っていたらしい。その一瞬を正確に見抜き、かち上げるようにしてハバキリを押し上げ、跳ね除けた。押し返されたジャンヌは舌打ちをしつつも一歩下がってすぐに構え直し、そこから互いに打ち込みの応酬が始まった。


「おおおおおっ!」


「やあああああっ!」


 目にも留まらぬ速さで両者の刀がぶつかり合い、剣戟の音と衝撃が周囲に拡散していく。互いに一歩も譲らぬ攻防は激しさを増していき、もはや刀の動きを目で追う事すら難しくなってきた。そんな時だった。

 ザシュッ!という音ともに血飛沫が舞い、ナタンの顔が朱に染まる。ジャンヌは肩口から出血をし、その顔を苦痛に歪ませていた。


「くっ!?」


「ジャンヌッ!」


「こ、のぉっ!」


「おっと」


 左肩に一撃を食らったジャンヌが右手一本でハバキリを振り下ろすと同時に、ナタンはすかさず後ろへ跳び退り、笑った。ナタンがあのまま追撃を仕掛けていれば、逆にジャンヌの反撃がナタンを両断していたはずだ。だが、ナタンは敢えて致命傷にはならない程度に攻撃を止め、距離を取った。歴戦の勝負を潜り抜けてきた経験があるのだろう。恐るべき勝負勘だ。


「く、うぅ……!」


「ふふん。肉を斬らせて……と言った所か?その傷で大した胆力と根性だが、我はそこまで迂闊な攻めをするほど、愚かでも青くもない。残念だったな」


 刀の背で自らの肩をトントンと叩きながら、ナタンは不敵に笑っている。ナタンという男は、ただ動きが静から動へ変化するだけではない、力の入れ方と抜き方も恐ろしい程に巧い。こうして戦いの合間にも力を抜き、適度に身体を休められるのは、相当な精神力と自信が無ければ不可能だ。こうした手合いを相手にすると、スタミナ面でも隙を衝くのが難しくなる。彼はまさに一流の剣客だ。

 これほどの人物が、何故連続殺人鬼になったのか。もちろん、剣の腕が優れているからといって、その人間性までもが高潔であるとは限らない。だが、愚直に修練を重ね、強くなるには、生来の真面目さがなければ一流の技を身に着ける事は出来ない。或いは、全てが類い稀な才能によって身に着けたものなのだとしたら、ナタンは間違いなく、天才剣士といっていいだろう。


 (マズいな。ジャンヌよりもナタンの方が、技術的にも一枚上手だ。このままでは、ジャンヌは……)


「しかし、ぬるいな、ぬるいぞ、女。その程度の腕前で、()()()の使い手を名乗ろうなど片腹痛い。そのハバキリ、お主程度には過ぎた代物よ。武器を信じるだのと大口を叩いても、肝心の腕が揃わぬでは無用の長物。やはり、命令の通りここで始末しておくべきであろうな」


 ――違う、ジャンヌの力はこんなものじゃ……!


「……大丈夫よ、ハバキリ。落ち着いて。必要なのは()()、じゃない。()()()()、よ……!」


 膝をつき、肩の傷を押さえながら、ジャンヌは静かに呟いた。囁くようなその言葉は、誰の耳にも届いていない。聞こえていたのはハバキリにだけだ。そして、ジャンヌの放ったその一言で、ハバキリは自分が刀としてジャンヌに寄り添えていないことを気付かされた。ジャンヌの膨大な魔力はハバキリに力を与えているが、一方のハバキリはジャンヌに対して秘密を持っている負い目があるからか、どこかでジャンヌの技に流されているようだった。だが、それではダメなのだ。ジャンヌだけでも、ハバキリだけでも、剣士として格上であるナタンに勝つ為には足りないのだ。


 ――……ああ、そうか。私だ。私がジャンヌと一つになりきれていなかったんだ。ごめんなさい、ジャンヌ。私がまだ、あなたを信じ切れていなかったのね。


「平気よ、言ったでしょ。私はあなたを信じてるって。だから、()()()みたいに力を貸して、お願い……!」


 ――ええ!


 ジャンヌが頭の中で描いている姿は、ドゥガンの廃屋でアマラと戦い、初めてハバキリを手にした時のものだ。あの時、イメージとしてのハバキリとジャンヌが重なることで、アマラを圧倒するほどの力を解放させる事が出来た。あれは、ジャンヌだけの力でも、ハバキリだけの力でもない。二人が一つになって、届いた境地だったのだ。


「ぬ、なんだ?気配が、変わった……!?」


 ジャンヌの身体から溢れ出る魔力をハバキリが吸収し、あの廃屋の時と同じように赤い光へと変化する。さらに、黄金の煌めきが小さな星のようにいくつもハバキリから零れ落ちて、輝いていた。そして、顔を上げたジャンヌの瞳もまた、紅い輝きと金色の光の波を宿していた。大逆転が発動したのだ。


「はぁっ!」


「ぬぉっ!?」


 立ち上がったジャンヌは、先程のナタンを彷彿とさせる滑らかな動きで斬り込んでいった。静から動へ、その瞬間的な踏み込みと、そこから繰り出される打ち込みが咄嗟に受け止めたナタンの刀を容易く両断する。まるで、刀が紙のようにすんなりと切断され、ナタンは驚愕の声を上げつつ身を躱した。


「ば、バカなっ!?我が刀を、刀そのものを斬っただと!?それにその姿……け、剣心一如だとでも言うのか!」


 剣心一如とは本来、剣と心を一つとして修練する武道の心構えのことだが、今のジャンヌはそれを単なる精神修養から、真の意味での一体化という境地へと昇華させた。イメージとしてのハバキリとジャンヌは完全に一つに重なっていて、互いがその力を補完し合っている。剣を修める者の究極の理想が、ここに体現されていた。

 鋼鉄の刀さえも切り裂く今のジャンヌに、素手で立ち向かえるはずもない。ナタンの敗北は明らかだ。


「か、かくなる上は……う、動くな!そこを一歩でも動けばあの者らを殺すぞ!よいのかっ?」


「やれるものならやってみなさい。その前に、私があんたを殺す!……っ?!」


 ナタンの脅しにジャンヌが答えた瞬間、ジャンヌの身体がピタリと硬直した。正確に言えば、足が全く動かなくなっている。驚きの表情を浮かべるジャンヌに、ナタンは昏い微笑みを返した。


「かかったな!我が加護は誓約(ユーラティオー)。我が持ちかけた取引に応じたものは、何人足りともそれに逆らう事は出来ぬ!貴様はたった今、我とその場から動かぬ約定を結んだのだ!」

 

「なっ!?ひ、卑怯な!なんという加護だ!」


「そうか、それで最初にジャンヌに勝負を持ちかけ、それをジャンヌが受けたことで俺達の動きが封じられたのか……!」


「そんな!?いくらジャンヌさんでも、動けないんじゃ勝ち目が」

 

 恐るべきナタンの加護は、ジャンヌの動きさえも封じてしまった。ナタンは切断されて短くなってしまった刀を手に、ゆっくりとジャンヌへ近づいていく。既に肩の傷は癒えているが、いかにジャンヌの超回復力と言えども、首を刎ねられては一溜りもない。完璧に形勢逆転を果たしたナタンは、勝利を確信していた。


「ククク、奥の手は最後まで取っておくものよ。この勝負、我の勝ちだな!」


「……さぁ、それはどうかしら」


「なに?」


「私は動かなければいいんでしょう?あんた、さっきそう言ったわよね?動くなって。……悪いけど、私を止めたいのなら、死ねとでも命令すべきだったわね!」


 ジャンヌの身体から、より一層輝く魔力が溢れ出し、ハバキリを包む。すると、ハバキリの刀身が光で視えなくなるほどに輝きを増し、ジャンヌはその状態のハバキリを上段に構えて、その場で振り下ろした。


「てえええいっ!」


「な、なにぃっ!?うおあああっ!?」


 ハバキリから放たれた光の刃がナタンを捉え、彼は成す術もなくその一撃を受けて倒れた。あの時、ハバキリが天霊刃と呼んだあの技を、ジャンヌは再び使ったのだ。ナタンが倒れると、ソロ達の拘束も解け、ジャンヌの足も動くようになった。恐るべき戦いの夜は、こうして幕を閉じたのだった。

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