それぞれの関係
シーザーを仲間に加えたジャンヌ達はティグを出発し、現在、街道を通りながら次の宿場町であるソワレへと向かっていた。ソワレまでは徒歩で大体一日あれば着く計算だが、ジャンヌの過去の話などをしていたせいで、ティグを出たのが結局昼近くになってしまったので、今夜はどこかでキャンプをする必要がありそうだ。
基本的に街道沿いには危険な魔獣なども出ないはずなので、本来、キャンプをする事になっても問題はない。ボワ湖での怪魚との戦闘は、レア中のレアケースだったのだ。
「んー、清々しいなっ!普段は馬車で移動するのが当たり前だからか、こうして歩いて国内を歩くのは新鮮だ。見たまえ!あの雄大なフォラファ山脈の山々を!何とも素晴らしい景色じゃあないか。次期国王として、鼻が高いよ。ハッハッハッ!」
「鬱陶しいわね、もう。ねぇ、シーザー。あんた本当にこのままついてくるつもり?仮にも王子なんでしょ?こんなとこで油売ってたらマズいんじゃないの、色々と」
「そう邪険にしないでくれたまえ、ジャンヌ君!王族が自分の国の土地をこの目で見て回ることが悪いはずないだろう?僕はね、いずれ王となるからには、民の暮らしも土地の問題も、出来れば全て自分で見て経験しておきたいと思っているんだよ。父上も御爺様も、そういう観点が抜けている人だったからね!反面教師という奴かな!」
「……言ってることは立派だけどさ。暑っ苦しいのよね、あんたって。あと、うるさいからもうちょっと離れて喋ってくれる?」
「ハハッ、辛辣っ!」
すっかり意気投合した(ツモリ)のシーザーに、呆れた様子でジャンヌが反応している。この二人、どうにも相性があまりよろしくないようなのだが、シーザーはついてくるのをやめないようだ。ちなみに、赤鬼こと、ゴーシュとの一件からこのパーティには前衛が不足していると感じていたソロは、シーザーの参加はむしろ歓迎である。少し気まずいことさえ我慢すれば、戦力的なバランスは遥かによくなるのだ。
そんな二人を落ち着かなそうに見ているのはジーナだ。ジーナにしてみれば、自分の国の王子様が傍にいるというのは不自然極まりない事態である。彼女はただの町娘として育っただけに、偉い人物との交流経験は少ないのだった。
「だ、大丈夫なんですかね?シーザーさんとジャンヌさん……」
「心配いらないさ。ああは言っているが、ジャンヌは本気で嫌だったらシーザー王子を撒いて逃げるか、殴り倒して置いて行くかしているだろう。そこまでしてないという事は、ある程度の距離感を保っていれば問題ないということだ。まぁ、シーザー王子があの調子のままだと、そう遠くない内に殴り倒してしまいそうだが」
「それ、全然大丈夫じゃないじゃないですかっ!?」
ジーナのツッコミが辺りに響き、街道を行く他の旅人達が驚いていた。そんな平和な時間はあっという間に過ぎていった。
半日ほど歩き通し、夜を迎えたジャンヌ達一行は手近な場所でキャンプをすることにした。湖畔でディアボリケ・ボワに襲われた時を思い出してしまいそうになるが、幸い、ここに湖はない。近くに川は流れているものの、あの時のような事にはならないはずだ。
川で釣ってきた魚を捌き、ティグで買い込んだ保存食を使って、今夜は簡単な野営食である。特筆すべき点もない粗食だが、王族であるシーザー王子は初体験のことばかりで、一人だけ大いに盛り上がっていた。
「おおおっ!?こ、これが焼き魚か?!木の棒に刺して焼くなんて、なんと荒々しい料理なんだ……!ど、どうやって食べればいい?」
「どうやってって……そのままかじりつけばいいでしょ。この魚は小骨も柔らかいからよく噛めば食べられるわよ。ほら」
「そ、そうなのか。いや、ナイフとフォークを使わずに食事をするなんて、初めての経験だ……しかしこれは、口の周りが汚れてしまうな。ナフキンがたくさん必要だ」
「うわぁ……メンドくさ」
ジャンヌも元は貴族令嬢なので、ナフキンがあれば口元を拭くのは当たり前にしていることだが、こうした野営でそんな事を気にした事はない。というか、幼少期以降の生活環境からして、そんな事を気にしていては生きて行けなかったというのが正直な所だ。なので、シーザーの発言にうんざりしたものを感じているようである。近くに川があるのだし、汚れたら洗えばいいし、何なら袖で拭くことにも抵抗はないのだ。
そんな二人のやり取りを、ソロは黙ってアーデの世話をしながら聞き流していた。昼間と違って、何やらジーナがもどかしそうにしている。彼女は自分の食事もそこそこに、ソロにそっと耳打ちをした。
「あ、あのソロさん。いいんですか?」
「何がだ?」
「いや、ジャンヌさんとシーザー王子です。シーザー王子は、ジャンヌさんにその、け……結婚、してくれとか言ってたじゃないですか。あの、二人があんまり仲良くしてたら、嫌じゃないかなって」
「ジャンヌは最初に断っていただろう?気にする必要なんてないんだよ。それより、ジーナ。早く食べて寝た方がいいぞ、明日は朝早くから行動するからな」
「は、はい。ごめんなさい……」
淡々とアーデにほぐした魚の身を食べさせてやるソロの表情に、特に変わった様子は見られない。夜なので顔色まではハッキリしないが、本当に気にしていないようだ。ジーナは自分の分の魚をかじりながら、それでもソロの様子をしきりに気にするのだった。
(ソロさん、本当にヤキモチとか、焼かないのかな?私は、ソロさんとジャンヌさんがお似合いだと……思うんだけど)
そう思った途端、ほんの少しだけジーナの胸に違和感があった。それは小さな針が刺さったような、一瞬だけの感覚だ。魚の小骨を飲み込んでしまったかと思ったジーナだったが、その違和感の正体が何なのかは、まだ解っていないようである。
そんな食事の時間が過ぎていく中、おもむろに食事の手を止めたジャンヌは、手をパンツの腰辺りで拭いてから、ハバキリに手をかけた。同時に、ソロとアーデも食事を止めて、川の方をじっと見つめている。何も解っていないジーナとシーザーは、突然二人の様子が変わった事に気付き、不思議そうな表情で食事を続けていた。
「ど、どうしたんですか?二人共」
「いや……まだ解らないが、何かがおかしい。ジャンヌ、解るか?」
「ううん、まだ何も。でも、嫌な気配がするのは間違いないわね。凄く強い殺気を感じるわ。それがどんどん、強くなってる。……来た!」
ザザザザザッ!と水しぶきがあがり、川の中から一人の男が現れた。男は吹き上がる水しぶきの上に立ち、ジャンヌ達を見下ろしている。
「ジャンヌ・パルテレミーとバーソロミュー・サマーヘイズだな?」
「ええ、そうよ。私達に何か用?」
「ふん。我が名はナタン、お前達に対して特に恨みはないが、さるお方の命令でな。その命、貰い受ける。どうだ、受けるか?」
「真正面からそんなこと言ってくるなんて、凄い自信ね。いいわ、受けて立ってあげるわよ!」
「お、おいジャンヌ……なにっ!?」
ジャンヌが受けて立つと言った瞬間、周囲の風景がガラリと変わった。川や焚火さえも消え去り、ジャンヌ達を中心とした、ただ広い平地が広がっているばかりだ。そして、ソロ達は指一本動かす事が出来なくなっていた。これが何らかの加護による影響なのは明らかだ。
「……なによ?これ。あんた、一体何者?」
「ふふふ、改めて名乗ろう。我は、誓約のナタンと申す者。我と交わした約定は、何人足りとも破る事敵わず。また誰も邪魔する事は出来ぬ。さぁ、尋常に勝負といこうではないか!」
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