表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/74

妖精の助力

 ゴーシュの一撃は、完璧なまでにソロの身体を貫いていた。大量の血が腹から吹き出し、その勢いのまま、ソロは壁際まで吹き飛ばされる。それが致命傷であることは誰の目にも明らかで、目の当たりにしたロディックもハインツも彼が助からないであろうと思ったようだ。


「…………」


 一方、それをなしたゴーシュ本人は、返り血でより赤く染まった手甲を見つめ、やがて眉をひそめた。


 (ヤツは今、間違いなく勝負を賭けた何かをする寸前だった。だが、それを踏み止まったのは……!)


 ギロリと音が聞こえる様な鋭い視線で、ゴーシュがロディックを睨みつけている。ソロが何をしようとしていたかまでは解らないものの、ロディックの存在がそれをさせなかったことは推し量る事が出来た。せっかくの勝負を楽しんでいた所に水を差されたことで、ゴーシュは激しい怒りを露わにしていた。そしてそれは、激しいプレッシャーとなって、魔力と共に放たれた。


「貴様……よくも下らぬ邪魔をしてくれたな!」


「ひっ!?あじゃ、あばばびゃびゃっ!!?」


 声にならない悲鳴を上げ、腰を抜かしてへたり込んだロディックが泣きながら逃げようと這っている。ゴーシュという男は、敵の攻撃を受け止め、或いはそれを上回って打ち克つことで、その相手より自らが上であると証明しようとするタイプの人間だ。武人気質というべきか、はたまた自らを強者としてアピールしたいのかは解らないが、それを邪魔された事は、敗北よりも許せないことである。ましてや、仲間ですらなく、もはやゴーシュにとっては敵である彼らが余計な事をしたが為に、ソロは攻撃を躊躇ってしまったのだ。その怒り足るや凄まじく、これほどプライドを傷つけられたのは初めてだった。


 その怒りの波動は部屋全体に放出され、眠らされていたジーナの意識をも覚醒させた。先程、ソロの人払いの魔法(ソリトゥード)を破った時と同じで、ゴーシュが怒りと共に魔力を放った事で、ジーナにかけられていた眠りの魔法も解除されたらしい。


「う……うぅ。ん、ぁ…………んむぅっ!?」

 

 猿ぐつわのせいで言葉にならないが、目を覚ましたジーナは縛られている自分の足元に倒れたソロの姿に気付き、声を上げた。既に、ジーナに届くほどの血だまりが出来ており、ソロが重傷を負っているのは明らかだ。しかも、その向こうでは強烈なプレッシャーを放つゴーシュが、ロディックに向かって歩を進めている。状況は全く理解出来ないが、出来ないからこそ、ジーナは焦り必死にもがいている。


 (い、一体何があったの?!私、どうして……ううん、私のことなんかより、ソロさんが……!ジャンヌさん!ううん、誰か、誰でもいい……誰かっ、助けてぇっ!)


「んんんんーーーっ!」


 ジーナの叫びが、涙と共に溢れ出す。すると、その声に呼応するかのように、ジーナのポケットから眩い光がこぼれ出した。色とりどりの光はいくつもの玉になり、ジーナの顔や手足を縛るロープへと飛んでいくと、光が触れた部分がすんなりと消えていく。それらの光の玉の中には羽根の生えた小人が浮いていて、ジーナを慰めるように飛ぶものもいれば、その頬に抱き着いては涙をすくうものもいた。


「ぬっ、なんだ?……む、おぉぉっ!?」


 窓の外から入って来る朝日さえも眩しいその輝きは、それに気付いたゴーシュ達の目をくらませた。もしも、その光景を彼らが目にすることが出来たなら、信仰心すら芽生えさせたかもしれない。それほどに、息を飲むような圧倒的な奇跡が展開されていたのだ。


「この光……あなた達、は……妖精、さん?」


「……!」


 以前、幽霊らしき老人に頼まれて立ち入った幽霊屋敷で、ジーナはこの光と同じ輝きを持つ存在に初めて出会った。それが、精霊樹を育てている妖精達だ。ジーナはその時、何故か彼らから、精霊樹の枝らしきものを受け取った。ポケットに入っていたのはまさにそれで、ジーナの願うような叫びに呼応して妖精達を呼んだらしい。妖精達は、ジーナが自分達に気付いたことが嬉しいのか、それぞれがニコニコと微笑みを浮かべて、今度は倒れたソロを包むように集まっていく。


「き、傷が……!?すごい、あなた達、本当に凄いっ!」


 普通の治癒魔法では到底回復不可能だったはずのソロだったが、妖精達の光が集まると立ちどころに傷口が修復されて、あっという間に綺麗な身体に戻ってしまった。ジャンヌの超回復能力とはまた別物な、途轍もない治癒力だ。ジーナは感激のあまりソロに抱き着いて、大粒の涙を流している。その内に、ゆっくりと光は落ち着いて、ゴーシュ達の視力も戻ってきたようだ。


「ぬうぅ、小癪な!なんだ、今の光は!?それに、この魔力は一体!?」

 

「あ、ああ……な、なんだ?あの娘……た、ただの村娘じゃなかったのか」


 目が見えるようになったハインツとゴーシュは、それぞれ別々にジーナ達のいる寝室へと視線を向けた。ハインツの方は妖精達の光を従えたジーナを、そしてゴーシュは、その光が放つ強大な魔力に注意を向けている。その意味では、正しく状況を理解しようとしているのはハインツの方だろう。強者と戦いを求めるゴーシュは力のみに注視し、ジーナ本人には欠片程の興味ももっていない。恐らく、ソロが何らかの力を解放したと思っているようだ。


 そしてそれは、彼の大きな隙となった。ゴーシュには、自分に対して強い敵意を持って睨みつけているジーナと、彼女に従い、暗い穴のような真っ黒な瞳で見つめる無数の妖精達の姿に気付けていなかったからである。

 

 古今東西の伝承において、妖精や精霊という存在はある意味で危険な存在とも言える。それはこの(せかい)でも同じで、彼らは自然現象そのものが意志と力をもって具現化したようなものなのだ。万物の祖ともいうべき彼らが悪意や憎しみ、怒りといった感情や激情に飲み込まれれば、もはや人の手には余る恐るべき敵となるだろう。ジーナの元に集った妖精達はそのほんの一部に過ぎないが、それでも、並の人間では手に負えない力であることに変わりはない。

 

「――妖精さん。あの人を、倒して。私達を……守って!」


 いつの間にか、ポケットからジーナの手に握られていた精霊樹の枝は、パキパキと音を立ててその形を変えていった。一本の細い枝でしかなかったそれは、伸びたり縮んだりを繰り返して、やがてブレスレットのような形へと変化する。そして、ジーナの左手首を覆うとその手を伸ばして指差したゴーシュに向け、妖精達が咆哮した。


「オオオオオオッ!」


「なっ!?ぐおおおおおっ!!」


 妖精達の絶叫が膨大な魔力を伴って弾丸のように変わり、ゴーシュの身体を貫き抉っていく。ソロにばかり注意を向けていたゴーシュは、ジーナの動きと妖精達の光が連動している事に気付くのが遅れたのだ。それでも、放たれた光の弾丸から咄嗟に致命傷となりそうなものを防いでみせたのは、赤鬼(レッド・オーガ)の異名を持つ彼が、歴戦の経験を持っているからに他ならない。そうでなければ、ゴーシュはこの場で蜂の巣にされ、命を落としていただろう。


「ぎゃああああっ!?」


「うおおおおっ!?な、なぜ僕らまでっ!ひぃぃぃっ!」


 そのすぐ近くにいたロディックとハインツも、流れ弾に当たっていくらかの怪我を負っていた。もっとも、先にジーナの存在を注視していた分、ハインツは先にその弾丸から逃れることが出来た為、精々尻にいくつかの弾が当たっただけで済んだようだが。


 そのまま、ゴーシュは凄まじい勢いで飛来して貫いていくそれらの弾丸に押され、ギィス(ガラス)際まで追い詰められていった。胴体や頭など、致命傷になりそうな部分はうまくガードしているようだが、足や腕、肩などは守りきれず大量に出血しているのが見て取れる。そして、次の瞬間。


「あっ!」


 激しい破壊音と共にギィスが砕け散り、ゴーシュの身体と共に空中へ投げ出された。弾丸に押し出されたようにも見えるが、ゴーシュが自ら後ろへ跳んだようにも見える。しかし、どちらにしてもここは20階建てホテルの最上階だ。外には同じ高さの建物などなく、落ちれば地上へ真っ逆さまだろう。それに驚いたジーナが声を上げると妖精達は落ち着きを取り戻して攻撃を止めた。そして、疲弊したジーナはソロを抱いたまま再び意識を失ってしまう。


 こうして、ジーナ達は赤鬼(レッド・オーガ)こと、ゴーシュを撃退することに成功したのだった。


お読みいただきありがとうございました。

もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら

下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ