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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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最悪の加勢

 (さっきの攻撃、全く見る事が出来なかった……正直、信じられないスピードだ。いつだったか、ギリアムが本気で戦っているのを見たがアイツに匹敵するかもしれない)


 ソロは冷静にゴーシュの動きを分析していた。だが、それは決して余裕があるからやっているのではない。限られた状況の中で勝利をもぎ取る為に、必要だからそれをしているだけのことだ。まず彼我の戦力差をしっかりと見極め、今の自分が出来得る中でゴーシュを上回れる部分はどこなのか?そこを見つけだそうとしている。迂遠と取られるかもしれない行いだが、それがソロの戦い方である。


「ふん、負けを認めるつもりはないか。頭でっかちの魔法使いとは違うようだな。……では、次はこちらから行くぞっ!」

 

 (来るっ?!)


 ゴーシュはその宣言通り、高速のフットワークを用いて真正面からソロに向かってきた。一般的な魔法使いは、頭がよく、また戦いにおいても冷静な計算が出来る為に、ある程度の実力の差を見せつけられると勝負を放棄しがちな傾向にある。ゴーシュの言う頭でっかちの魔法使いとは、根性無しという意味合いが強いのだろう。だが、ソロはそう簡単に戦いを投げだすような性格ではなかった。


 さきほどのパンチとは違って、目に見えないほどの速さではないが、逆にその大きな身体全体が迫って来るのが見えるのは、恐怖でしかない。キュッキュッという少ない足音が聞こえたかと思うと、既にゴーシュはソロの懐へと入り込んでいた。


「は、はやっ?!……ぐ、あぁっ!」


 強烈な拳が三発、ソロの腹と胸、さらに顔面へ襲い掛かる。ソロは成す術もなくそのコンビネーションパンチを受けるしかないと思われたが、命中したのは腹と胸への二発だけで、身体を折り曲げながらも、顔面へのフックだけはどうにか回避してみせた。そして、攻撃を放って動きの止まったゴーシュに、ソロは槍杖で斬りかかった。しかし、槍杖はリーチが長い分、懐に入られると扱い難くなるという欠点がある。ましてや、ソロは攻撃を受けて体勢が大きく崩れているのだ。そんな状況では攻撃が当たるはずもなく、ソロの攻撃はゴーシュの執事服を少し切っただけで終わり、避けられてしまった。

 

「く、くそ、浅かったか……!」


「…………なるほど」


 膝をついてしまいそうになる痛みを我慢し、ソロは悔しそうに声を上げる。スピードでゴーシュに完全に負けているソロは、自分の攻撃を確実に命中させるにはカウンターがもっとも有効だと考えたらしい。その作戦自体は間違っていないようだが、問題は、ゴーシュのスピードと冷静さが予想を上回っていたことだ。彼がその強さに自信を持っているのならば、格下と侮っているソロが一発でも攻撃を避ければ、その結果に動揺をするはずだ。しかし、ゴーシュはソロが顔面への一撃を躱しても動揺せず、ソロの攻撃が当たる隙を見せなかった。しかも、ソロの反撃を躱しただけでなく、どうして自分のパンチが躱されたのかを考える余裕もあるらしい。ここへ来て、改めてソロはゴーシュの、赤鬼(レッド・オーガ)の恐ろしさを肌で味わう事になったのだった。


「今のは風の魔法で動きを補助したという訳か。大したものだ。流石はかつて魔法師団長を任されただけの事はある。それだけに、自由に魔法を使えない状況というのは痛いようだな」


「俺たち魔法兵は肉体の鍛錬も積んでいるからな。お褒めに預かり光栄だ。……もっとも、噂の赤鬼(レッド・オーガ)を相手にハンデ戦というのは、想定していなかったが」

 

 ソロは軽い調子で応えたが、内心はかなり肝を冷やしていた。確かに、魔法兵は魔法だけでなく格闘や接近をこなせるよう鍛えられている存在だ。ただし、その戦闘技術は一般的な他国の兵士などとそう大差はない。彼ら魔法兵を皇国随一の戦力足らしめているのは、ゴーシュの言う通り鍛え抜かれた肉体とプラスして、多種多様な魔法を扱えるからだ。それを抑えられてしまうと、戦闘能力はガクッと落ちてしまうのも仕方ないことだった。


 ソロには持ち前の膨大な魔力があるのだから、ジャンヌのように魔力を使って身体能力を上昇させればいいと思われるだろうが、それはソロには難しい。正確に言うならば、ジャンヌほどの強化が出来ないというべきである。

 魔力の扱いに長けているものならば、誰でも魔力によって身体能力を底上げする事は可能だが、当然ながらそこには肉体の限界というものが立ちはだかるものだ。例えば、魔力で筋力を補正する場合、今ある筋肉を魔力が増やしてくれるという訳ではない。流し込んだ魔力は筋肉を刺激し、無理矢理にそのポテンシャルを引き出していくのだ。当たり前だが、無茶をすれば筋線維が断裂し、大怪我をするだろう。だが、常人を遥かに超える再生・回復能力を有しているジャンヌは違う。


 ジャンヌは肉体の限界を超える強化をしても、そのダメージは立ちどころに治っていってしまう。だからこそ、彼女は身体的に大きく劣るような大男のNeckを相手にしても、互角以上のパワーやスピードを発揮することが出来るし、それをしても問題がないのだ。しかし、ソロはそういう訳にはいかない。魔法である程度のダメージは相殺出来ても、魔法を使って回復しながら、同時に魔力を肉体強化に使うという離れ業は流石に不可能なのである。

 

「お、おい……ハインツ、話が違うぞ。あのバーソロミューという男なら、赤鬼(レッド・オーガ)が相手でも後れは取らないんじゃなかったのか!?」


「マズいな……まさか赤鬼(レッド・オーガ)が、あのバーソロミューを上回っているとは。あいつにもしもの事があったら、い、イェルダに対して優位に立つ計画が……!こうなったら仕方がない。バーソロミューを援護して、何としても赤鬼(レッド・オーガ)を討ち取るしかない」


「え、援護とはどういう風にするのだ?」


「いくら赤鬼(レッド・オーガ)といえど、戦いの最中に背後から攻撃されれば一溜りもないだろう。奴がバーソロミューに気を取られている隙に、君が渾身の一撃を食らわせれば勝てるさ……!」


「お、俺がやるのか!?」


 コソコソと相談していたロディックとハインツは、どうやらソロとゴーシュの戦いに割って入るつもりらしい。ソロとゴーシュの戦いを傍観する内に、ゴーシュが赤鬼(レッド・オーガ)であることを理解したようだが、その実力の凄まじさは理解出来ていないようだった。彼らは正真正銘の王族であり、持って生まれた能力があってもその地位に胡坐をかく生き方しかしてこなかったのだから、ある意味では仕方ないのかもしれない。


 だが、それはソロにとって最悪の加勢でもあったのだ。

 

 (カウンターを狙うべきだと思っていたが、あの尋常でない速さの前では望み薄だ。しかも、こちらを侮って油断するような隙もない。これが赤鬼(レッド・オーガ)の実力という訳か。……こうなったら、一か八かだがやるしかない)


 ホテルへの影響を考え、出来るだけ攻撃魔法を使わずに戦おうとしていたソロだったが、その縛りをかけたままゴーシュに勝つのは不可能だと思い至った。せめてアーデがいればまた違う選択肢も取れたのだが、今からではアーデを呼び戻す時間も余裕もない。だが、赤鬼(レッド・オーガ)は敵対者や狙った相手をことごとく皆殺しにしてきた残虐なNeckだ。どちらにしてもここでソロが敗北すれば、この街にどれだけの被害が及ぶか解ったものではない。ここで負ける訳にはいかないだろう。


 しかし、並の魔法ではゴーシュに通用しないのは明らかだ。ジーナやロディック達を巻き込まないようにしつつ、出来れば一撃でゴーシュを仕留められるのがベストである。それを可能にするであろう魔法が、ソロの中にたった一つだけあった。


 (落ちる星々の魔法(シデラ・カデンティア)……いくら赤鬼(レッド・オーガ)といえど、生身の人間であることに変わりはないはず。アーデはいなくとも、あの魔法ならば、当たりさえすれば!)


 落ちる星々の魔法(シデラ・カデンティア)とは、以前、サシャを攫ったドゥガンが用いた人形兵達をまとめて消し飛ばしたあの魔法である。あの時はアーデとの連携によって魔力を増幅させ、複数の光の星を降らせて敵を倒したが、本来はソロ単独でも放つ事は可能だ。ソロが自分で創り出した魔法の中でも最大の破壊力を持つ魔法であり、他に扱えるものはいないオリジナルの魔法でもある。アーデがいないので複数の光の星を放つ事は出来ないが、単発でも必殺の威力を持つ魔法だ。仮にゴーシュが並外れた魔法防御力を持っていたとしても、まともに食らえば耐えられるはずがない。


 ソロは槍杖の刃部分に魔力を集中させ、練り始めた。それと共に、風の魔法を使って動きを補助するのも忘れない。これであとは魔法を発動させるタイミングだ。どんな威力の魔法だろうと、当たらなければ意味はない。牽制に他の魔法が使えればいいのだが、今ここでは一発勝負である。幸い、まだゴーシュはソロの狙いに気付いていないはずだ。


「いくぞっ!」


「ふん!」


 次の瞬間、ソロは強く一歩を踏み込み、槍杖を構えて突撃をした。身体の動きに連動させ、ごく狭い範囲に追い風を発生させて一気に加速する。ソロの精密な魔法操作技術だからこそ出来る芸当だが、それでもゴーシュを上回るスピードにはまだ届かない。ソロが刃で斬りつけてくると考えていたゴーシュは、その切っ先を紙一重で躱し、さっきの意趣返しに敢えてカウンターでソロを一撃で仕留めようと考えた。


「かかった!……なにっ!?」


 まさに互いの思惑が重なった格好の瞬間だったが、ソロは落ちる星々(シデラ・カデンティア)を撃つ事が出来なかった。何故ならゴーシュの背後、その直線上に、ソロの援護をするべくロディックが飛び込んできたからだ。落ちる星々(シデラ・カデンティア)の威力ならば、ゴーシュを撃ち抜いただけでは終わらない。このタイミングで撃てば、間違いなくロディックを巻き込んでしまう。ソロは瞬間的にそれを躊躇い、魔法を放てなかったのだ。


「しまっ……!ぅぐっ!?」


 ほんのわずかな、一呼吸にも満たない一瞬の隙を見逃すゴーシュではなく、彼の拳はソロの身体に突き刺さっていた。それは、ソロの敗北が確実なものへと決まった瞬間だった。

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