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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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策謀と鬼の影

 ジャンヌはスタスタと軽い足取りでダイロス砦へと突き進んでいく。ソロの見立て通り、砦の中からは薄っすらと煙が上がっていて、誰かが中で火を焚いているのは間違いない。人間がそこにいる以上、調理や暖を取るのに火は不可欠だ。人数が多いのなら尚更である。そして、わざわざこんな放棄された砦に住むのは、Neck(賞金首)のような脛に傷を持つ人間くらいのものだろう。ならば、押し入っても問題はないとジャンヌは考えていた。


「ん?おい、誰か来るぞ」


「あれは……女だ。手に持っているのは、刀か?こんな所に、なんで」


 見張りの男二人がジャンヌに気付いたが、彼らはまだ安穏とした様子で不思議そうにジャンヌを見つめているばかりだった。これが屈強な男であったなら、警戒して他の人間に報せるはずだが、武器を持っていてもジャンヌはぱっと見にはただの女性である。まだ日も昇って間もない時間に仲間を起こして警戒するほどの相手には思えなかったようだ。


 そうして、すんなりと門の前まで辿り着いたジャンヌは、おもむろにハバキリを振るって、大きな鋼鉄の扉を切り裂いた。いくら錆が浮いた古い扉でも、鋼鉄は鋼鉄である。そう簡単に斬れるなどあり得ないと高を括っていた見張り達は何が起きたのかも解らずに、ただ大きく口を開けて驚きの表情を浮かべるばかりであった。

 呆気なくバラバラに斬られた扉の残骸が轟音を立てて崩れていく。その時になってようやく、男達は異常な事が起きたと知り、大声を上げた。

 

「なっ、何をしやがる!?」


「あら、起きてたの?見張りの癖に何も言わないでいるから、てっきりサボってうたた寝してるのかと思ったわ。それで確認なんだけど、あんた達は赤鬼(レッド・オーガ)の仲間って事でいいのかしら?」


「はぁ!?ぼ、ボスに何の用だ!このアマ!」


「朝っぱらからうるっさいわねぇ……!こっちは機嫌が悪いんだから静かに喋りなさいよ。まぁいいわ、今ので聞きたい事は全部解ったから。手加減なんかしなくていいってことね。ハバキリ、悪いけど相手の事を気遣ってる余裕はないわ。あなたも手加減しなくていいからね」


 ――解ってる。思いっきりやるといいわ、ジャンヌ。


 ハバキリはそう応え、ジャンヌを後押しするように彼女の魔力をその刀身に湛え始めた。同時に、扉が壊れた音で目が覚めた何人もの屈強な男達が、砦のあちこちから飛び出してくる。ざっと100をくだらない敵の数だが、ジャンヌは一切怯む事無く無造作にハバキリを構えて、男達の群れへと飛び込んでいった。


「始まったか」


 アーデは上空を旋回しつつ、ジャンヌの姿を捉えている。いざとなれば、魔法で援護する事も厭わない予定だが、その前にまずやる事がある。そんなアーデから一旦視界を外し、物陰に隠れていたソロは密かにホテルの中へと戻っていった。


 昨晩、ソロがジャンヌに耳打ちしたのは、敵が赤鬼(レッド・オーガ)だけではない事を打ち明ける為だった。或いは、もしかすると本当は赤鬼(レッド・オーガ)などおらず、ルドマンは何か別の目的で自分達に接触したのかもしれないとまでソロは考えていて、それについてずっと独りで考えていたのだ。

 

 精霊樹を隠すときに使った人払いの魔法(ソリトゥード)は、本来、こうした隠密行動を取る為に自身の姿を隠してくれる魔法でもある。ソロが全力で隠れ身にこの魔法を使うと、透明人間になったかのように、他人の意識から自分を外す事が出来るのだ。それは、リリィの持っていた加護不可視(インヴィシビーリス)に匹敵するほどの効力を有している。欠点と言えば、膨大な魔力を消費してしまうという点だが、ソロはそもそも常人とは桁外れな魔力を保有しているので、簡単に尽きることはない。

 

 ソロが何故こんな手の込んだ事をしているのかと言えばもちろん、それはジーナを探す為だ。


 昨夜、部屋に戻ったソロは改めて探知魔法(ディテクティオ)の精度を上げて、ジーナの捜索を試みた。それによれば、やはり彼女はこのホテル内のどこかにいるようだ。となれば、怪しいのは赤鬼(レッド・オーガ)ではなく、ルドマン伯爵の方だろう。ジャンヌを襲ったのが街の衛士だった事も、ルドマンが仕組んだ事なら納得がいく。


 (よくよく考えてみれば、昨日の爆発もおかしかった。あれほどの爆発だったにも関わらず、爆発そのものに巻き込まれて死んだ人間がいなかったというのは不自然だ。俺があの部屋から、火の手を全て見通せる場所ばかりが燃えていたのも都合が良すぎる。まるで、俺の力を試していたかのような……)


 それに気付いたのは、最初にジャンヌ達とは別れて部屋に戻って考えをまとめていた時だった。だが、何よりも最初の違和感を覚えたのは、ゴーシュがソロとジャンヌの事を知っていたことだったのだが。


 ソロとジャンヌが5年前にエンデュミオン皇国を出てから、二人はMIRAとして何人ものNeckを捕まえてきた。しかし、それでも二人はまだそこまで名の知れたMIRAという訳ではない。ロレンツォやリリィのような大物を捕まえたり倒したのはごく最近で、これまでは金額の少ない、メジャーでないNeckばかりを相手にしてきたからである。

 そんな二人の事を知る者が居たとしたら……そう考えた時、ソロにはルドマンの話で閃くものがあった。ジーナを探すだけでなく、それを確認することも、ジャンヌと別行動を選んだ理由である。


 (色々探してみたが、残ったのは最上階のエグゼクティブスイートか。一般の客室でさえ目玉が飛び出るほど高いこのホテルで、さらに最高級のスイートルーム……ここに泊まれるのは上位貴族か、もしくは)


 エグゼクティブスイートは、最上階のフロア全てを使って作られた、まさに最高の部屋である。防犯設備も充実しており、通常なら人払いの魔法(ソリトゥード)を使っても潜入するのは不可能に近いはずだが、ソロは階段を使ってすんなりとそこに上がってきた。もちろん、それを可能にしているのは、ソロの実力故だ。

 細心の注意を払ってソロは慎重に様子を窺う。そこには、派手な身なりをした金髪の男と、それより少し若そうな茶髪の男がいた。彼らのすぐ隣にはルドマンがいて、まるで召使のようにへりくだった態度で手もみしている。


「おい、ルドマン。あのMIRA達はどうした?」


「は、はい!ロディック様。あの二人は先程出発したと連絡がありました!ここからダイロス砦までは、徒歩でおよそ3時間程かかります。あと、二時間もしない内に到着するかと……」


「ふん、そうか。後はあの二人が期待通りに赤鬼(レッド・オーガ)を討ち取ってくれれば、だな。ハインツ、昨日の手際を見る限り、あのバーソロミューという男は中々使えそうだが、女の方は使い物になるのか?」


「さて、僕が知っている限り、彼女はただの()()()()だったはずだけどね。でも、あのバーソロミューが連れて歩いているなら、何か光るものがあるのかもしれないよ」


 (やはり、そうか……!あっちの金髪の方がバスカヴィル王国の現王ロドリックの弟ロディック、そして、もう一人はエンデュミオン皇国の第二皇子、ハインツ皇子だ。道理で俺達の事をよく知っている訳だ。しかし、これで筋書きが読めてきたぞ)


 ソロは憤りを感じつつ、グッと堪えて三人を睨みつけた。すぐ傍にソロが居る事に全く気付いていない彼らは、嬉々として自分達の計画を話していく。


「ふん。まぁ、どっち道、女の方は使い捨てだ。用が済めばどうなっても構わんか。しかし、ハインツ、全くお前という男は最高の友人だな。兄貴の奴め、次期王の選定は継承権の順番ではなく、実力で決めようなどと嘯きおって……だが、お前の持ってきた情報のお陰で、俺はあの赤鬼(レッド・オーガ)討伐という最高の実績が得られそうだ!」


「君の役に立てるなら光栄だね。僕としても、ずっと探していたバーソロミューの行方をここで掴めたのは嬉しい限りさ。バーソロミューを押さえておけば、妹の……イェルダに対するこの上ないカウンターになるからね。僕はパトリック兄さんのような、迂闊な失敗はしない。既に皇帝の座はイェルダに奪われてしまったが、やりようによってはイェルダを思い通りに操る事だって……ククク、これからが楽しみだよ」


 二人はそれぞれの胸の内にある野望を明かし、悪意を含ませて笑い合う。ソロはそんな二人から視線を外して寝室に目を向けると、猿ぐつわをされ両手両足を縛られて意識を失っているジーナの姿が目に入ってきた。恐らく、ソロが依頼を断った時に言う事を聞かせる為、拉致したのだろう。これで全てが繋がった。後は、ジーナを連れてここを離れるだけだ。


 ソロがジーナを救うべく彼女の元に近寄ろうとしたその時、姿が見えないはずの彼の背後に立つものがいた。両腕を真っ赤に染めた手甲を装備し、ソロを見下ろす男の顔は不気味な微笑みを浮かべている。異様なほどの重圧を放つその姿は、まさに赤鬼(レッド・オーガ)と呼ぶに相応しいものであった。

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