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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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幻の怪魚を倒せ!

「ぷぁっ……!ジーナ、大丈夫か?!」


「は、はい、何とか……それより、ジャンヌさんが」


「なに!?ジャンヌ?……どこだ、ジャンヌッ!」


 津波が引いた後、ジャンヌの姿は既にどこにも見当たらなかった。津波は森にまで到達し、街道はすっかり水浸しだ。あれほどの波に飲まれれば、ジャンヌとて無事では済まないだろう。ソロはすぐさまアーデを飛ばして、ジャンヌの行方を捜した。


「ゴボゴボッ!く、息が……っ?!」


 引き波に流され、多数の流木と共に湖に落ちたジャンヌは、水中で信じられない光景を目の当たりにした。それは正しく、先程水中から現れた巨体の怪魚だ。途轍もない大きさのその魚は、カサゴのようにいくつもの棘を身に纏い、ジャンヌの身体よりも大きなギザギザの歯で、流れ込んだ流木を噛み砕いて食べている。ジャンヌはソロのように図鑑の内容を暗記しておくような記憶力は持っていないが、それにしてもこんな魚は見たことも聞いたことも無かった。


 (こ、こんな大きな魚がいるなんて……!?きゃっ!)


 巨大魚は、湖の水ごと次々に流木を吸い込み、一心不乱に咀嚼している。これほどの巨体を維持するには、そこらの水草などでは到底足りないのだろうが、それにしてもこの食事はあまりにも規格外だ。いかに常人を超える耐久力を持つジャンヌとて、自分の身体と同じサイズの歯に噛み砕かれては助かるはずもない。つまり、あの口に吸い込まれたら一巻の終わりなのだ。ジャンヌは流れに逆らい必死に泳いで逃げながら、かつて人々がこの土地を捨てた理由が、理解出来たような気がした。


 そうしてジャンヌが自分から遠ざかって行くのに気付いた巨大魚は、明確に狙いをジャンヌに定めて動き出した。そこまで高い知能を持っている訳ではないようだが、狙った餌が口に入らないのが気にくわないらしい。巨体を器用に揺らし、巨大魚はより一層吸引力を高めてジャンヌを追ってきた。


 (ちょっ……冗談でしょ!?アイツ、私を狙ってきてる!?もう、最近こんなのばっかりじゃないっ!)


 リリィといいこの巨大魚といい、立て続けにちっとも嬉しくない狙われ方をして、ジャンヌはやり場のない怒りを爆発させた。とはいえ、怒りに任せて泳いでも、流石に水中で魚に勝てるほどの泳ぎはジャンヌには不可能だ。このままいけばそう遠くないうちに追い付かれてしまうだろう。そもそも、水中でそんなに長く息が続く訳もないのだ。

 

 それに気付いたジャンヌは、一か八か、巨大魚を正面から迎え撃つ方に賭けた。あの巨大魚はそこまで素早い動きは出来ないと踏み、接近してくる瞬間を待つ。


 (今だっ!)


 十分に引き付けたタイミングで、ジャンヌは素早く下方向へ泳ぎ、突進してくる巨大魚の顎の下へ上手く身体を滑り込ませてみせた。やはり知能はそこまで高くないのだろう、ジャンヌを仕留めたと勘違いした巨大魚は、あぐあぐと咀嚼をしている。そこへすかさず、ジャンヌが取りついた。


 (悪いけど、あんたのご飯になるつもりはないのよ……っ、悪く思わないでね!)


 全身の力をフルに高め、ジャンヌの暗緑色の目が朱く輝く。その中に金色の光が流れて、大逆転が発動した。やけに簡単に発動したようにも見えるが、それだけジャンヌにとってこの状況がピンチである証拠といえるだろう。いかにジャンヌの大逆転が強力でも、ジャンヌに水中で呼吸をさせることは出来ないし、そもそも大逆転の効果はそう長くは続かない。これは、たった一度のチャンスなのだ。


「ゴボッ……っのおおおおおおぉぉっっ!」


 肺に残った酸素を出し切るようにして深く息を吐き、巨大魚の顎を掴んだジャンヌは、そのまま力任せに巨大魚の顎を砕き割った。顎と自慢の歯を砕かれた巨大魚は意識を失い、大量に出血をして湖底へと沈んでいく。全力を使い果たしたジャンヌはヘトヘトになってしまったが、水面まで泳ぐだけの力はまだ残っているようだ。苦痛に顔を歪ませて、ジャンヌの身体は水面に向けて進む。


 だが、ジャンヌは気付いていなかった。どんな怪物染みた大きさの魚であろうとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということに。そう、遥か昔、人々がこの土地を捨てた理由が今の巨大魚であるならば、必ずそこには他の巨大魚がいるはずなのだ。繁殖し、世代を経なければ数百年もの間、魚が生き続けることなどないのだから。


 (も、もう……すこ、し……えっ?)


 水面まであとわずかという所で、ジャンヌは自分を追いかける影が迫っている事にようやく気付く事が出来た。この湖は水深がかなり深くまであるようで、その水底から複数の大きな影がかなりのスピードで上がってくるのが確認できる。水面に近づいたことで、月の光はより強く感じられて、水中に潜む獰猛な怪物達の目が怪しく光って見えた。

 絶体絶命という言葉は、今まさにこの時の為にある言葉だと、ジャンヌは酸素が足りなくなってぼうっとする頭の中で漠然と考えていた。追って来たのは、先程顎を砕いた巨大魚ほどのサイズではないが、姿形がそっくりな魚だった。恐らくは子供達なのだろう、その一匹一匹は、ジャンヌと同等のサイズである。水中で噛みつかれればかなりのダメージだし、何よりもう呼吸が限界だ。

 

 (ヤバ……もう、意識が…………)


 大きさが小さい分、後から追って来た巨大魚の子供達は俊敏で、あっという間にジャンヌの元へと到着すると、ジャンヌを取り囲んでガチガチと鋭い牙をかき鳴らした。彼らに親の仇という意識があるのかは不明だが、明らかにジャンヌへの敵対心が浮かんでいる。今から水面へ出ようとしても、彼らの方が素早いだろう。万事休すというべきジャンヌに、飢えたピラニアのような勢いで魚達が襲い掛かった。








「ジャンヌの魔力が、湖から……!クソ、やはり水の中か!」

 

 アーデによる捜索を終えたソロは、湖の中でジャンヌの魔力が急激に高まったのを感じた。この感覚は、大逆転が発動した時のものだ。どうやらジャンヌはまだ生きていて、大逆転を発動させるような事態に陥っているらしい。ジャンヌが生きていると解ったのは喜ばしいが、大逆転が発動するほど追い詰められた彼女を、どうやって助けるかが問題だ。残念ながら、水中で自由に活動できるようになる魔法というものはなく、水の魔法でこれほど大量の湖の水を操作するのも不可能だ。やるならば風の魔法を使って、酸素を維持したまま水中に入るような魔法を創るしかないだろう。しかし、いくらソロが天才的な魔法の才能を持っているとしても、短時間で新たな魔法を創り出す事は厳しいと言わざるを得ない。

 

 だが、ジャンヌを助ける為には、無理を承知でそれをやるしか他に手段はなかった。そう決めたソロはすぐさま頭の中で術式を計算し、構築していく。魔法創造という作業の中で、もっとも労を必要とするのはこの術式の構築だ。いい加減な術式を構築すると、使用する魔力に無駄が出来たり思った通りの出力にならなかったりするし、下手をすれば魔力が暴走する危険性すらある。本来は何度も実験を繰り返し、少しずつ望んだ結果に近づけるよう構築していくのがセオリーだが、ソロはそれらを出来るだけ排除して最短最速で仕上げる方法を選んでいた。


「そ、ソロさん!?め、目が真っ赤に……!」


 自らへの負担を気にせず術式の構築を行っている為に、目の中の毛細血管が切れたのか、ソロの目は白目が真っ赤に染まっていた。このまま続ければ、次は鼻血程度では済まず、最悪の場合は脳の血管さえ切れてしまうかもしれない。だが、ソロは一切躊躇うことなく作業を続けている。そうして、あと少しで魔法が完成するとなったちょうどその時だ。


「ああっ!?す、水面が!」


「なっ……!?ジーナ、ハバキリに掴まれ!」


 突如として湖の中で巨大な爆発が起こり、大量の水が破裂したかのように上空へ吹き飛んでいった。しかも、飛ばされたのは水だけではなく、あの巨大魚の子供達もだ。そうして、抉れたように水が減った湖の真ん中で、一瞬だけジャンヌの姿が見え、再び水中へと消えた。


「魔法を……使ったのか。ジャンヌ」


 ソロはすぐに何が合ったのかを理解すると、即座に飛行魔法(ウォラーレ)を使ってジャンヌの元へと飛び、救出することに成功した。大きく揺れる湖面に映る月は、一つに重なっているように見えた。

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