最大のピンチ
「え?ジャンヌが戻ってこない?」
「はい。今朝、仕事探しついでに散歩へ行ってくると言って出掛けたまま……もうお昼過ぎなのに全然。ジャンヌさんどこへ行っちゃったんでしょう?」
不安そうな顔で呟くジーナを、ソロは何とも言えない表情で見つめている。ソロからすれば、ジャンヌに超がつく耐久力があるので別に心配などいらないのだが、それをまだよく解っていないジーナは、帰ってこないジャンヌが心配になるのだろう。かと言って、心配いらないから放っておけとも言えない雰囲気である。
「あー……きっと、割のいい依頼でも見つかって、そのまま仕事をしてるんじゃないか?心配しなくても大丈夫だろう」
「そっか。そうですよね!ジャンヌさん、強いですもんね!」
「あ、ああ……」
(ジャンヌの奴、一体どこをほっつき歩いてるんだか……しょうがない奴だな、まったく)
なんとかジーナを納得させられたかと、ソロは溜め息交じりにゴナを一口飲んだ。まさかジャンヌが危機に陥っているなど夢にも思わずに。
(またあの気持ち悪い触り方をしてくるつもり?!や、やっぱり殴り倒して逃げちゃおうか……でも、コイツが姿を消してた謎を解かないと、戦っても勝てるかどうか。それに、炎に咲く花のことも放っておけないし……あー、もう!)
ゆっくりと伸びて来るリリィの手に、ジャンヌは我慢の限界を感じていた。拘束を振り解きリリィを殴りつけるのは簡単でも、万が一それで勝負が決まらなかったら、その後は最悪である。いくら不意打ちだったとはいえ、ジャンヌは一度、成す術もなくリリィに倒されているのだ。迂闊な真似をしてまた意識を失ってしまったら、今度目覚めた時には、大事な何かを失っている可能性は極めて高い。流石に、それはごめんである。
「……ああ、ダメだ。こんな所じゃ、満足に遊べない。まだ我慢しなきゃ。落ち着こう、そう、お楽しみはあとにしないとね」
「っの……!」
ジャンヌの身体に触れる寸前で、リリィは手を引いて深く息を吐いた。一旦でも引いてくれたのはありがたいが、ああいう激情は内に秘めて貯めれば貯めるほど、解放した時に爆発するものだ。リリィがジャンヌに向けているあの情欲に満ちた目を見れば、時間が経てば経つほど何をされるか解ったものではないと感じる。やはり、早急に何とかしなくてはならない状況だろう。
その横で、リリィは息を整えてから少し間を置いて口を開いた。
「ふぅ……ところで、あんたこの刀をどこで手に入れたんだい?」
「え?……さぁ、どこだったかしら。なんでそんなことを?」
「いや、色は違うが、柄の拵えや鍔なんかが、知り合いの持っているものと瓜二つでね。どうやっても鞘から抜けないから刀身は見えないが、気になったんだよ」
(鞘から抜けない?そっか、ハバキリはそういう事も出来るんだ。でも、瓜二つの刀って……)
「それは拾い物だから、私には由来も何も解らないわ。残念だったわね」
ジャンヌがぶっきらぼうにそう答えると、リリィはまったく納得していない様子で笑ってみせた。ジャンヌが嘘を吐いたことを見抜き、後でそれを吐かせる楽しみを見つけたという顔だ。リリィはかなりサディスティックな一面も持っているようだった。
「ふぅん。ま、いいけどね。しかし、よく似てるよ。もしアレと同じものだったとしたら、アタシにもチャンスが……」
ハバキリを見つめるリリィの瞳に、情欲とは違う熱が灯っていくのをジャンヌは見逃さなかった。彼女の言葉を繋ぎ合わせると、ハバキリに似た刀には何かの秘密があり、それを得れば持ち主に何かプラスが働くということらしい。だが、今の所ジャンヌはハバキリを得ても、特別大きな利点を得たつもりはない。強力な武器としてのハバキリしか知らないからだ。
その秘密がなんであるかは気になる所だが、元々ハバキリはジャンヌに言えない何かを隠しているようだし、今まではそれを無理に聞き出そうとはしてこなかった。しかし、今回ばかりは、後で話しを聞かせてもらう必要があるだろう。
するとそこへ、先程の荒くれ男が再び現れる。額に汗を滲ませて、いかにも困っていますという感じに眉を下げている姿は、とても荒くれ者とは思えない情けなさだ。男は何とも申し訳なさそうにリリィに声をかけた。
「あ、姐御~……ダメです。俺らじゃあどうやっても見つかりませんぜ。手を貸して下さいよぉ~!」
「ロッドか……全くなんでもかんでもアタシに頼りやがって。そんなだから、あんたらは組織でいつまでも、うだつの上がらない仕事ばっかり回されるんだよ。ちょっとは根性出して、使える所を見せてみな!」
「そ、そう言われても~~!頼みますよぉ~」
「チッ!いいとこだってのに。……なぁ、あんた。あんたは後で宿に連れ帰ってたっぷり可愛がってやるからね。逃げようなんて考えるんじゃないよ?逃げるなんて気がおきなくなるくらい、気持ちよ~くしてあげるからさ。フフッ」
「ッ!?」
「おい、ロッド。アタシが戻るまで女を見張ってな。逃がすんじゃないよ。それと、指一本でも触れたら、ただじゃ置かないからね」
「へ、へいっ!」
リリィはジャンヌに流し目を送ると、ニヤリと笑って林の奥へと消えていった。ジャンヌの背筋にゾワゾワとした悪寒が走り、体温が一気に下がった感覚がする。正直な所、ジャンヌの我慢は限界に近づいていた。今すぐにでもリリィから離れないと耐えられない、そんな気分だ。
そんな顔を真っ青にして俯くジャンヌの様子を見て、ロッドという男はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべてジャンヌの傍に座った。
「へっ、しかし、あんたもツイてねぇ女だな。姐御にあんだけ気に入られちまうとは。可哀想に、あんたもうまともには戻れねぇぜ」
「ど、どういう意味よ?」
「あの人はな、とんでもねぇ性豪なのよ。それでいて性格もピカ一悪いドSときた。あの人に可愛がられた女はよ。一晩中どころか三日三晩経っても解放されずにひたすら弄ばれるんだよ。そんで、み~~~んな、壊れちまうのさ。ま、壊れちまった後は俺らの番だけどな」
「ゲスね……!最っ低だわ」
最悪の行いを自慢するかの如く語るロッドに、ジャンヌは怒りの言葉を吐き捨てた。リリィとロッド達は、これまでにどれだけの女性を食い物にしてきたのだろう。まさに乱暴狼藉としか言えない非道に、ジャンヌの怒りは頂点に達していた。
「どうせなら、たまには壊れる前の女も寄越して欲しいもんだぜ。ぶっ壊れてると面倒が無くていいが、毎回じゃあ面白くねぇからなぁ」
「………………それなら」
「あ?」
「それなら、試してみればいいじゃない。今、私で」
「なんだと!?」
「あら、恐いの?リリィのモノに勝手に手を出してお仕置きされるのが。……そうよね、所詮あなた達なんて、リリィがいなきゃ女を抱く事も出来ないクズだものね。命令を無視して私にちょっかい出そうなんて勇気はないか。ケランね」
「テメェッ!」
「へぇ、怒ったの?なら、やってみなさいよ。身動きの取れない女一人、好きなようにしてみればいいじゃない」
「このアマ、あんまり俺達を舐めるんじゃねぇぞ!俺達ゃ、姐御の下に付くまでは泣く子も黙る砂漠のルポンってぇ盗賊団やってたんだぜ。聞いたことあるだろ?」
「え、知らないわ。何そのダサい名前……」
「なっにぃぃぃ!?そんなバカな?!」
「だって、この辺の国に砂漠なんて無いし、あんたどう見ても砂漠の民じゃないでしょ。大方、雰囲気が好きなだけで、ちょっと箔がつくかなって思ったんでしょうけど、そういうのってちゃんとそこに住む人達の歴史や、暮らしから来る自信があってこそ重みが出るのよ?あんたみたいなのが中途半端に名乗ったって名前負けしてダサいだけよ。第一、なに?ルポンって、意味解んないし」
「ぐぬぬぬぬ……!」
そこまで一気に言い放って、ジャンヌはロッドの怒りが頂点に達している事に気付いた。そんなつもりはなかったのだが、思いきり罵倒してしまった形だ。そして、ゆっくりとロッドが近づいてくる。少しためらいがちなのは、リリィの命令を思い出しているからだろう。ロッドは相当、彼女の事が怖いらしい。しかし、それでも動きを止めず、ジャンヌの身体に手を伸ばした所で、ジャンヌの姿がふっと消えた。
「あっ!?ぐ、ぐぇぇっ!?」
「バカね……!そう簡単に触れさせるほど、安い女じゃないのよ、私は!」
ジャンヌは両手を縛るロープを逆手に取って、懸垂するように思いきり自分の身体を引き上げた。そして、ロッドが動揺して動きを止めた隙に、今度は彼の首の後ろへ身体を下ろし、両足で首を絞めたのだ。ジャンヌの怪力は腕力だけに限ったものではない。人間というものは、普通は腕よりも足の方が強いのだ。そんなパワーで締め上げられては、ロッドは一溜りもなく、呆気なくその意識は闇に沈んだ。
こうなったからにはもう、後には退けない。まだリリィの攻略法は見つかっていないが、何とかするしかないだろう。ジャンヌは覚悟を決め、ロープを千切って近くの茂みへと身を隠すのだった。
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