パニック!お化け屋敷?!
「イヤイヤイヤイヤ!ゼッタイイヤ!見たくない聞きたくない!そういうの聞くとオバケが寄ってくるって言うじゃない!夜眠れなくなるの~~~~!」
「ジャンヌさん、落ち着いて。ね?大丈夫ですから!」
「……あの、大丈夫なんですか?なんだか暴れてらっしゃいますが」
「問題ありません、魔法で作ったあのロープは、彼女の馬鹿力でも決して千切れませんから。それで、具体的にはどういうお話で?」
椅子に縛り付けられて身動きを封じられたジャンヌを余所に、ソロは招き入れた老人に話を促した。どうやら、まだ今朝の怒りが継続しているらしい。余談だが、オバケが寄って来るのは話を聞いた時ではなく、話をするとである。
「実はこの村の外れに、かつて一人の老人が住んでおったのです。名はジンロという、偏屈な男でした。彼は結婚もせず、ただ一人村外れで花や野菜を育てて生計を立てておりました。しかし、数年前、ジンロが他界した後、状況は変わりました……」
老人はそう言うと、何とも切なげな表情をして、ふっと息を吐いた。そのジンロ老人とは仲が良かったのだろう。或いは身内だったのかもしれない。ソロとジーナが話を聞き入っていると、老人はやや間を開けて話を続けた。
「主人であるジンロを失った後、あの屋敷は荒れ果てて、今は誰も住んでおりません。何度か村のものが様子を見に行ったのですが……そこで、妙な事を言うのです。あの家の中から、若い女の笑い声がする、と」
「ヒィィィィィッ!?」
「うるさいぞ、ジャンヌ!しかし笑い声、ですか?泣き声や呪詛のつぶやきではなく?」
「はい、何とも楽しいもの、といった様子だそうで。とはいえ、あそこはもう荒れ果てた廃屋ですから、それが逆に不気味だと恐れられているようで……どうでしょう?何とかして頂けませんか?」
「ふーむ……」
ソロは老人の話を聞き、深く唸った。一般的にこの世に残る幽霊などというものは、恨みや後悔といった負の念によるものである。それゆえに、楽しく笑い声を残す幽霊というものは、あまり聞いたことがない。人を脅かしたり驚かせて喜ぶ性質の悪い悪霊の類いだとしたら、笑い声を聞いただけで済んだというのも妙な話だ。どうにもはっきりしないチグハグな相手に、ソロはどう対処するかを考えているようだった。
「まぁ、とりあえず現場を見てみない事には始まりませんね。よし、まだ明るい時間だし、早速行こう」
「ええっ!?ゼッタイ絶対、絶ぇ~~~~っ対イヤだってば!私、ここから動かないからねっ!!」
「そ、ソロさん。ジャンヌさんが可哀想ですし、つれて行かなくても」
「ほう?そうか。ここに独りで置いて行って欲しいのか。そうかそうか、解ったよ、ジャンヌ。じゃあ、俺達は行ってくるから、君はここで待っていてくれ。暗くならない内に帰って来るつもりだが、まぁ、遅くなっても恨まないでくれよ?」
「えっ……え?!ちょ、ちょっと待って!?私このままここに独りで留守番?イヤイヤイヤイヤ!ごめんなさい!一緒に、一緒に行くから!置いてかないで~~っ!!」
「ホゥ……」
「ジャンヌさん……」
涙ながらに懇願する姿が哀れ過ぎて、ジーナとアーデは同情しきっている。ソロはここでようやく怒りが収まったのか、やれやれと溜息を吐いて、ジャンヌにかけた魔法の縄を解いてやった。こうして、三人と一羽は老人の導きで、件の屋敷へと向かう事になったのだった。
それから一時間ほどが経った頃。ジャンヌ達は、鬱蒼とした森の中にいた。村はずれの屋敷というからには、皆もっと村に近い場所を想像していたのだが、想像以上に遠い場所のようだ。道らしい道も無く、生い茂った草木をかき分けながら進んでいくのは、妙な気分である。
「ず、ずいぶん村から離れた場所なんですね。村はずれっていうかもう、ここは森の中みたい」
「そうですなぁ。昔は村自体がもう少し大きかったのですが、村が小さくなるにつれ、この辺りもすっかり人の手が入らなくなってしまって……」
「だが、まだ日が高い時間で助かったよ。これは日が暮れたら面倒なことになるな」
「ヒッ!?そ、ソソソソロ。なんか、今変な声がしなかった?」
「……あれはただ鳥が鳴いただけだ。本当に、君はこの手の問題にだけは弱いな」
(ジャンヌさん、何があったんだろう……?)
ジャンヌはジーナにしがみ付きながら、おっかなびっくりで何とか歩いている状態だった。もう少ししっかり歩いてくれれば、目的の場所に着くのはもっと早いはずなのだが、こうなってくると、急がなくては本当に夜になってしまいそうだ。何とかして移動のペースを上げられないか考えていると、ちょうど前方に朽ちかけた小さな家が見えた。
「あそこに見えるアレが件の屋敷です。どうでしょう?」
「ふむ。傍目にはただの家にしか見えないが……何だ?何か妙な力を感じるな」
「おっおっおっ、オバケの力ってコトォ!?イヤイヤイヤイヤ、もう帰ろうよぉぉぉっ!」
「じ、ジャンヌさっ……く、苦しいですっ!首がっ!」
「何をやってるんだ二人共……とにかく中に入るぞ。ここからじゃ埒が明かない」
ジーナを抱き締めるジャンヌの首根っこを捕まえて、ソロはジーナから無理矢理引き剥がし、そのまま引きずって家の中に入っていった。ジーナも呼吸を整えつつ、後に続く。三人が屋内に入ると、どこからか、女性のような子供のような、不思議な笑い声が聞こえてきた。
「ギィヤアアアアアアッ!聞こえるっ!女の笑い声がするうううううっ!」
「ああもう、君の声の方がビックリするわ!たかが笑い声でそんなに怖がってどうする!?」
「だって!だってええええええ……っ!」
「ちょ、ジャンヌさん、ソロさん見て下さい!アレ!」
「ん?!」
ジーナが指差した先には、フワフワと宙に浮かぶ、光る玉のようなものがあった。屋敷は所々天井が崩れ落ちていて、太陽の光を反射してるのかと思ったが、陽の光が届かない暗がりに移動しても、その光の玉は消えずに漂っている。それを見たソロは、にわかに興奮した様子で声を上げた。
「あれは、妖精じゃないか!初めて見たぞ。こんな所に、どうして」
「ようせい?ヨウセイって、なんですか?」
「ああ、ジーナやジャンヌは知らないか。ええとな、そもそも自然を始めとした万物には、精霊という存在がいるんだよ。遥か太古の昔、地上は精霊達が住む世界だったと言われているんだ。精霊達はありとあらゆる自然のエネルギーが意志や形を得たものだ。それが生命を育み、様々な生物が産まれたと言われている」
「精霊……本で読んだことがあります。すごく力のある存在だって」
「そうだ。ただ、精霊はほとんどの人の目には見えず、触れる事も出来ないんだ。彼らは自然が発するエネルギーそのものみたいなものだからな。そして、妖精はその精霊が一段階変化して、生命を得た存在の事を言う。生物により近い存在になっているから、相性がよければ目に見えることもあるし、触れ合ったりコンタクトを取る事も可能なんだ。もっとも、どちらもとても貴重な存在だから、俺も目にするのは初めてで実際に話が通じるかは解らないんだが」
「じ、じじじじゃあ、これはオバケや幽霊じゃなくて、妖精が笑ってる声だっていうの!?」
「そうらしいな。妖精は基本的に善の存在らしいが、悪戯好きで人を困らせたりすることもあるらしい。……どうやら、話が見えてきたぞ」
ソロの説明が終わると、漂っていた光はクスクスと笑い声を残して、屋敷の奥へと進んでいった。どうやらこっちへ来いと言いたいらしい。ソロ達は顔を見合わせ、その先にある朽ちた扉を開けた。そこには。
「うわぁ!」
「すごいな、こんなにたくさんの妖精が集まっているなんて。一体、何が……む?あれは」
リビングらしい少し大きな部屋の中央に、床が抜けて人の頭ほどの大きさの木が生えていた。その周りを、色とりどりの妖精達が笑いながら飛んでいる。ソロはその光景を見た瞬間、全てを理解して深く頷いた。
「あれは…………精霊樹か!?そうか、この妖精達はあれを」
「せ、精霊樹って、何ですか?」
「読んで字の如く、精霊が宿る樹のことさ。月光教では聖樹と呼んでいるらしいが……解ったぞ。ここには昔、本物の精霊樹が生えていたんだ」
「せ、聖樹って、魔獣を寄せ付けなくて、一年中美味しい木の実が生えてるっていうアレのこと?子供の頃に本で読んだこと、あるけど……」
「ああ、間違いないな。魔獣は精霊樹の力を嫌うというから、それが立ち枯れた後も影響が残っていたんだろう。そして、それを知った人々がいつしかここに村を作ったんだ。たぶん、まさにその場所に精霊樹が生えていたに違いない。そうして時が経ち、ちょうどジンロさんがいなくなった後で、精霊樹が再び芽を出して蘇ろうとしている。妖精達はそれを育てているんだよ」
ソロの言葉に呼応するかのように、妖精の一人がふわりと飛んでジャンヌ達の周りを浮遊し始めた。まるで、ジャンヌ達を歓迎しているかのようで、あれほど怯えていたジャンヌもその美しい光景にすっかり目を奪われている。しばらくの間、その光景を眺めているとふと、ジーナが何か思いついたように口を開いた。
「それで、どうするんですか?ソロさん。幽霊じゃなかったってなると」
「そうだな。見たところ、あの精霊樹はまだ若木のようだし、成長するにはまだまだ時間がかかるだろう。魔獣などは近づいて来れないとはいえ、悪意のある人間もいる。……よし、この家の周囲に魔法で結界を張っておこう。これだけ強力な力が満ちている場所なら、何百年経っても維持できるはずだ。それでどうだ?」
「って、あれ?あのお爺さん……どこに行っちゃったの?」
気づけば、どこにも老人の姿はない。むしろ、いつから姿が見えないのか解らないほどだ。結局、ジャンヌ達が一通り周囲を見回しても見当たらないので、先に村へ帰ったのだろうと考えた。そんな時だ。
妖精の一人が精霊樹に近寄ると、中指ほどの大きさをした枝が折れて、ジーナの元へと飛んできた。
「え?え?」
「精霊樹の枝が……なるほど、それが礼のつもりか。ジーナ、受け取ってやるといい。小さいとはいえ精霊樹の枝だ、きっと君を守ってくれるだろう」
「あ、ありがとう!妖精さん」
「じゃあ、結界を張るぞ。二人共、離れていろ」
ソロの言葉を合図に、ジーナとジャンヌはそそくさと屋敷から離れていく。それを見届けてから、ソロは人払いの魔法を唱えた。すると、ぼんやりと周辺の景色が揺らいで光の幕が展開される。同時に、精霊の力がその結界に干渉して屋敷は完全に森の風景の中へ溶け込んでしまった。ここに朽ちた屋敷があるなど、もう誰も気付けないだろう。ソロは結界がきちんと作動している事を確認して、帰ろうと声をかけるのだった。
その後、村へ戻った三人があの老人を探したが、村にはそんな老人は一人もいなかった。ソロ達から特徴を聞いた別の老人によれば、あの姿を消した老人は、ジンロ爺さんの特徴と瓜二つだと言い、それを聞いたジャンヌは泡を吹いて倒れ込んでしまったのだった。
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