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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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バーソロミュー・サマーヘイズ 2

 まず真っ先に異変に気付いたのは、フォレストオウルだった。


 この森は彼らの縄張りであり、余所からそれを侵すものが来れば容赦なく牙を剥くのが通例だ。それもあって、危険な外敵の侵入には誰よりも早く反応する。彼らが予想もしていなかったのは、それが因縁の仇敵であったということだろう。

 その危険な気配に気づいてフォレストオウル達が空から確認すると、ゴアビーストもまた、かつて仕留め損ねた獲物に気付き、不敵に笑った。その瞬間、フォレストオウル達はそれがヴィシャスを殺した仇だと知り、一気に戦闘モードに入ったのだ。

 

 フォレストオウルはその穏やかな性格とは違って、いざ戦闘となれば見た目以上の戦闘能力を発揮する。以前、ゴアビーストに敗北しかけたのは、森ではない別の場所で虚を衝かれたからだ。本来は森で生活する魔獣だけあって、フォレストオウルは森の外では十全な能力を発揮できない。その為、不意打ちで片割れがダメージを負い、それを庇って防戦に徹していたことで、フォレストオウル達は苦戦していたのだ。その点で言えば、今回の戦いは得意なフィールドであり、二羽ともに健在というベストコンディションである。いかに相手が以前苦戦した相手と言っても、簡単に負けることはない……はずだった。


 まず最初に、フォレストオウル達は風を操って、上空からゴアビーストに攻撃を仕掛けた。本当ならば、フォレストオウル達が得意とするのは接近戦だ。普通の梟や鷹などの猛禽類は、獲物が察知できない長距離からその姿を確認し、相手に気付かれぬよう高速で接近して敵を捕まえるのが得意な戦法である。フォレストオウルの鋭い爪もその為にあり、超高速の突撃から繰り出される一撃は、名工の作った鎧や盾さえも軽々と貫通するほどの破壊力を有している。だが、相手であるゴアビーストもまた、非常に接近戦を得意とするモンスターだ。既にゴアビーストがフォレストオウル達に気付いてしまっている以上、得意な戦法は使えない。むしろ、不用意に近づけばいくら超高速の突撃であっても手痛い反撃を喰らう恐れもある。それを見越して、まずは風の魔法で牽制しているのだ。


 木々が激しく揺れ、小型の竜巻がゴアビーストを襲う。しかし、狙われているはずのゴアビーストはその暴風に一歩も引くことなく迎え撃とうとしていた。


「グオオ……ガァッ!」

 

 迫りくる竜巻に、ゴアビーストは炎の魔法を撃ちこんできた。普通、風に炎をぶつけた所で、その風を消す事は出来ない為、それは無駄な行動に思えるがゴアビーストはその先を見据えて行動していたようだ。何故なら、炎が竜巻に当たった途端、弾き飛ばされた炎があちこちに飛び散って森を焼き始めたのだ。これに驚いたのはフォレストオウル達である。この森は彼らの縄張りでありまた住処であるが、この森には、他にも様々な動植物が息づいている。フォレストオウル達は森のヌシであると同時に、彼らの守護者として縄張りを認められているのだ。そんな自分達の行動が森を焼く……それは、絶対に看過できない結果だ。ましてや、今、森の中には優先して守るべきソロがいるのだ。それが、フォレストオウル達の不運を招く最大のきっかけだった。


「なに……?な、なんだか、こわい……」


 その頃、魔法の練習に没頭していたソロは森の奥に何か不穏なものを感じ、怯え始めていた。熟練の魔法兵や魔法使いなら、魔力の流れなどで戦いの気配を感じ取れるはずだが、幼いソロには戦いが起きている事など解るはずもない。むしろ、異様な気配を少しでも察知できただけ、優秀というべきだろう。不安になったソロが樹上を見上げると、さっきまでそこにいたはずのフォレストオウル達はどこにも見当たらなかった。


「いない?どうして……」


 ソロは激しく動揺した。この森に一人で立ち入るようになってから数か月、或いは自分が産まれてからずっと、村にいるときでも森から見守ってくれていたフォレストオウル達がいなくなるなど、初めての事だったからだ。それはソロに、何か異常な事態が迫っているのだと本能的に理解させた。同時に、背筋の凍るような恐怖感がソロを包み、その足を止めてしまう。


 (か、かえりたい……のに……!)


 足が竦んで動けない代わりに、ソロはその危険な気配から目を逸らせずにいた。次第に、視界の先……森の奥からチラチラと赤い光が見え始め、風向きが変わったのか、やがて草木が燃える臭いと微かな煙が漂ってくる。そして遂に、()()が見えた。

 影を身に纏ったような黒い毛皮と、怪しく光る獰猛な瞳、その持ち主であるゴアビーストは森の奥へと続く道の先からゆっくりとこちらへ歩を進めてきた。ややあって、ゴアビーストはそこにソロの姿を見つけたようだ。フォレストオウルのものと思しき翼を一つ咥え、滴る血を吸い上げていた口が醜悪に歪んだ。最高の獲物を見つけたと、そう言わんばかりに。


 その瞬間、ソロの心の中にあり得ない程の激情が生まれて、彼は幼いながらも我を忘れた。お互いに、それが因縁の相手であるとは思ってもいないだろう。ゴアビーストにとって、ソロはかつて自分に手傷を負わせ、退けた人間の息子である。そして、ソロにとってあのゴアビーストは父の仇なのだ。そうとは知らないはずの両者は、それでも尚、相手を見逃す事は出来ないと感じたようだ。


 ゴアビーストは咥えていた翼を乱暴に投げ捨てると、勢いよくソロに向かって駆け出した。対するソロは、それを食い止めようとするかのように両手を前に差し出し、魔力を集中させていった。すると、ソロの頭ほどの大きさをした鋭く研ぎ澄まされた氷塊が生まれ、矢のようにゴアビーストに向けて撃ち出される。それはアイスボルトという初級魔法の一種だ。通常ならば、単発ではなく同時に複数の氷塊を撃ち出す魔法なのだが、初めてそれを使ったソロにはそれが解っていない。そもそも、五歳にも満たない子供が扱える魔法ではないのだが、ソロは父ヴィシャスが残した手記を読みながら魔法の練習をする内に一発ずつとはいえ、放てるようになっていたのである。


 それでもソロのような子供が魔法を使う事自体があり得ないことで、当然、本能的に無力な子供だと思い込んでいたゴアビーストは突如現れた氷塊に驚愕して反応が遅れた。氷塊はゴアビーストの翼を貫通し、ゴアビーストはたまらず走るのを止め、絶叫をした。

 森が震えるほどの金切り声を受け、ソロはハッとして我に返ったようだ。むしろ、ここで正気にならない方が、ソロにとっては良かったのかも知れない。激しい怒りに包まれていたからこそ、恐怖心を忘れられていたのだから。

 

「あっ!?あ…………あぁ……っ!」


 忘れていた恐怖心が、再びソロの身体を縛り付ける。こうなってしまえば、ソロがゴアビーストに抗う手段は無いに等しい。理性の薄い幼い子供だからこそ、怒りの感情に飲まれやすかったのだろう。しかし、冷静になってしまえば、子供は怒りより恐れに飲まれる事の方が遥かに多いだろう。その隙をゴアビーストは見逃さなかった。


「ガアアアアアアッ!」


 翼を傷つけられた怒りも混じり、ゴアビーストは凄まじい勢いでソロ目がけて走り来る。ソロは再びアイスボルトを使おうとしたが、魔力を集中させることすら出来ないようだ。あっという間にゴアビーストはソロに肉迫し、その鋭い爪が、ソロを引き裂こうと襲い掛かった。


「ホッ、ホーウッ!」


「えっ?!」


 その時、傷だらけになった一羽のフォレストオウルが木々の合間を縫って飛び出し、ソロとゴアビーストの間に割って入った。次の瞬間、ゴアビーストの爪はフォレストオウルの身体に突き刺さって鮮血が飛び散っていく。翼をもがれたのとは別の片割れが、ソロを守ろうと必死にここまで飛んできていたのだ。だが、ゴアビーストを追って来ていた方のフォレストオウルも既に満身創痍であり、ゴアビーストを止めるだけの力は残されていないようだった。それでも尚、ソロを守ろうとしたのは、かつてヴィシャスが全く同じ形でゴアビーストの爪から自分達を庇ってくれた、その恩に報いようとした証だろう。

 

「あ、ああっ……どうして……!?」


 ソロは自分の身代わりになったフォレストオウルの身体にしがみつき、涙を流した。大人のフォレストオウルはおよそ成人男性と同じ位の大きさをしており、盾となるには十分な大きさがある。そのまま体の陰に隠れていれば、ほんの少しは身を守れるはずだ。しかし、ソロはそれをせずゴアビーストの追撃からフォレストオウルを守ろうと、ゴアビーストとフォレストオウルの間に入ってみせた。

 そんなソロの動きに、一瞬だけ警戒して動きを止めたゴアビーストだったが、すぐにそれが好都合だと判断したのか大きな口を開け、その鋭い牙をソロに突き立てようとする。しかし、それは失敗に終わった。


「ソロッッッ!」


「あ……」


 間一髪、森の異変に気付いてソロを探しに来たダルクが間に合い、ゴアビーストの身体を撃ち抜いたのだ。ソロは壮絶な恐怖心と助かった安堵から気を失い、事態は終結したのだった。

 

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