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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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一気呵成

 武道場を出たソロは、屋敷の庭へ飛び出して、足早に外を駆け抜けた。ガンディーノの部下達は皆生きてこそいるものの、誰もが意識を失っていたり大きなダメージを負っていて、とても戦える状態ではない。仮に身体が戦える状態にあっても、精神的には戦うことなどできないだろう。それほどに、ジャンヌとソロは恐れられている。ソロはそんな者達の間を縫って、無人の野を進むが如く、門を抜けていった。


「俺達が踏み入った時には、まだガンディーノは屋敷の中にいたはずだ。ということは、俺達が奴を探して邸内をうろついている間に脱出したことになる。ロレンツォが足止めに残っていたくらいだ、まだそう遠くへは行っていまい。……だが」


 街外れの丘に建つガンディーノの屋敷の前は、一本のなだらかな下り坂になっていて、先を進むものがいれば夜でもすぐ解るようになっている。しかし、坂の上からソロが見てもその道を進んでいる者はいなかった。恐らく、ソロが知らないだけで街に通じる別の近道があるのだろう。となれば、やることはシンプルだ。


「……飛ぶか」


 ソロは小さく息を吐き、呟いた。そのまま、心配そうに顔を覗き込むアーデの腹を優しく撫でると、ソロの身体が()()()と浮いていた。


飛行魔法(ウォラーレ)……久し振りだが、文句は言ってられん」


 そうしてゆらりとソロの身体が揺れたかと思うと、次の瞬間にはソロの身体は凄まじいスピードで街の方向へ向けて進んでいた。まるで、放たれた弾丸のような速さである。飛行魔法(ウォラーレ)は、ソロが故国エンデュミオンの魔法師団長となる前に、自ら編み出した魔法だ。きっかけは単純で、子供の頃から育てているアーデが空を飛んでいるのを見て、自分も一緒に空を飛びたいと願った事だった。ただ当時、魔法に関して非凡な才能を持っていたがまだ子供だったソロは、魔法の創造についての基本的なルールや、守るべきコツのようなものを習っていなかった。その為、彼が創った飛行魔法(ウォラーレ)は制御というものが一切考慮されていない危険極まりない魔法であったようだ。


 普通の魔法ならば、どんなものにも暴走を防ぐ為にブレーキとなる術式が組み込まれているものだが、その時の飛行魔法(ウォラーレ)にはそれがなく、魔力を費やせば費やしただけ加速してしまう欠点があった。おかげで、ソロはアーデと共に飛びたいからと不用意に飛行魔法(ウォラーレ)を使い、そのまま森に飛び込んで山に激突して大怪我を負ってしまった。彼が生まれつき、強大な魔力を持っていたからこその悲劇である。それがきっかけで、彼は自らの能力をコントロールすべく、魔法師団に入団したのだ。


 以来、彼の中で飛行魔法(ウォラーレ)は、ほんのりと苦手意識のある魔法となってしまったのだが、それでもこの歳になるまでに術式を作り替えて調整をしているので、以前のような暴走をすることはない。まだ若干の苦手意識が残っているので、あまり使いたがらないだけである。それに普段はジャンヌと行動を共にしているので、一人で飛ぶ必要もないのだ。


 しかし、そんなこだわりは今まさに危機が迫っているジーナの事を考えれば取るに足らないものだ。ソロはあまり表には出さないが、決して弱い者を見捨てるような事はしないタイプだ。彼の内面は、ひょっとするとジャンヌよりも激しい感情を秘めているかもしれないほどに。


 

 その頃、ガンディーノは四人の部下達を引き連れて『月の涙(ラクリマエ・ルーナエ)』に踏み込んでいた。かなり焦っているのか、入口のドアを強引に破壊して、殺気立った様子でジーナを探している。流石の彼らも到着したばかりのようで、まだジーナを捕まえる事は出来ていないようだった。


「ガンディーノ様!娘はどこにもいませんぜ!」


「バカ野郎!よく探せっ!ジーナを見つけて人質にしなきゃ安心できねぇんだ!」


 (ロレンツォの奴はあの二人に勝てると豪語してやがったが、それだってどうなるか解らねぇ。俺の見立てが確かなら、ジーナの加護はきっと俺が再起する切り札になる!どの道、領主の兵共を引かせる為にも人質は必要なんだ……!早く、早くしねぇとっ!)


「しかし、こう暗がりじゃ、娘を見つけるなんて……せめて灯りを点けねぇと」


「バカがっ!この状況で灯りなんぞ点けたら外に異変を報せるようなもんだろうが!俺がNeckとして手配された時点で、街の憲兵共は俺の言う事なんぞ聞きゃしねーんだぞ!」


 ガンディーノは部下の頭を叩きながら、唾を飛ばして叫んだ。街の権力を一手に引き受けたガンディーノだったが、そもそも街を守る憲兵達は彼の私兵ではなく、領主から預かっている兵士達である。当然ながら、彼らに悪事を知られる訳にはいかず、あくまで外から来る犯罪者を防いだり、近隣に潜む魔獣やモンスターから街を守ってくれるだけの存在だ。だからこそ、ガンディーノは自分だけの手勢として、チンピラや荒くれ者達を集めて雇ったのだ。ドルトは比較的大きな都市ではあるが、それ一つを牛耳っただけで領主に直接反旗を翻すことなど出来るはずもないのである。


「とにかくよく探せ!娘の部屋だけじゃない、風呂場も便所も全部だ!それで見つけたら裸にひん剥いて縛っちまえ。抵抗するようなら、逃げられねぇように足の一本くらい折っても構わねぇぞ!」


「…………ぁ、ぁぁ……どうしよう。どうしたらいいの?お父さんお母さん……」


 そんなガンディーノ達の荒々しい会話を、ジーナは店のキッチン台の下に身を隠して聞いていた。元々、キッチンというものは物が多く、比較的足元が暗くなりがちな場所である。客が食事をするホール部分に灯りをつけても、キッチンの全てが照らされることはない為、いわば死角だ。ジーナが慌てて身を隠すには持ってこいの場所だったが、ガンディーノがホールに居座っていては、外に逃げる事も出来ない状況に追い込まれてしまう場所でもあった。

 

 ジーナはカタカタと身を震わせながらも、息を殺してどうやって逃げるかを考え続けていた。泣き疲れて目を覚ました時、ジャンヌ達は置手紙を残して出かけてしまっていたので、いつ戻って来るかは解らない。だが、ガンディーノが焦っている所を見ると、どうも何かから逃げているような雰囲気だ。もしかすると、ジャンヌ達から逃げてここへ来たのかもしれない。ならば、ジャンヌ達が戻ってくるまで、隠れていれば助かる可能性がある。憲兵の所へ逃げ込むよりもその方が安全な気もするが、いつ捕まるかという恐怖も、確かにあるのだ。


 (下手に動くより、ここで隠れていた方がいいのかも?でも、怖い。怖くてたまらない……!私、どうしたら……)

 

 そう思った時、ふと、ガンディーノ達の話し声が聞こえなくなっている事に気付いた。いつの間にか部下と一緒に、ジーナを探して店の奥へ行ってしまったようだ。逃げ出すならば、今がチャンスだ。本当ならば、このままじっとしているのが正しいのだが、ジーナはまだ13歳の少女である。サシャほどではないにしても、まだまだ子供だ。荒事にも慣れておらず、人生経験も少ない彼女には、一度逃げるチャンスだと思ってしまったら、それを抑えるのは難しいようだった。


「はぁっはぁっ……い、いまなら……きゃあっ!」


「見つけたぞっ!こぉんなところに隠れてやがったかぁっ!」


「あ、ああっ!?ど、どうして!?」


「ハッ!小娘が!どっかに隠れて様子を見てやがると思ったんだ!まんまと引っかかりやがって、バカがよぉ!おら、来い!お前の力で、俺はこれから再起を狙うんだ。安心しな、殺しはしねぇ。その代わり、お前の母親の分まで俺の為に尽くしてもらうぜ?心配しなくても、ガキが何人出来たって責任持って育ててやるからな!」


「ヒッ!?い、いや……いやあああああっ!助けて、ジャンヌさんっ!ソロさぁんっ!!」


 その叫びに応えるように、轟音と共に何かが店の壁を突き破った。入ってきたのは、紛れもなくソロだ。ガンディーノの屋敷からここまで、飛行魔法(ウォラーレ)で一気に飛んできた彼は、瞬き程の瞬間に状況を察し、流れる様なスムーズさで魔法の炎の剣を生み出すとジーナの頭を掴むガンディーノの腕を切り落とした。普通ならば大量の出血をするところだが、炎で出来た剣で切り落とされた傷口は一瞬で焼かれ、出血はしなかった。ただ、とてつもない痛みがガンディーノを襲っただけだ。


「ぎっ!?ギャアアアアアアッ!お、俺の、俺の腕があああああっ!?」


「……腕一本で済ませただけ温情だと思えよ、ガンディーノ。仇討ちしてやりたい所だが、このまま領主に突き出してたっぷり罪を償わせてやる!」

 

「そ、ソロさっ……!わ、わたし、わたし!うわああああんっ」


 助かったことに安堵し、泣きながらソロに抱き着くジーナの頭をソロは優しく撫でてやった。物音を聞きつけて集まってきたガンディーノの部下達は、こちらも遅れてやってきたアーデによって制圧され、無事、ソロはジーナを助ける事に成功したのだった。

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