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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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MIRA殺しの男

「なんだ?お前らうるせーぞ!何を騒いでやがる!?」

 

 喧騒と怒号が飛び交う屋敷の中で、苛ついたようにトグサが叫ぶ。そこへ近づいてきたのは、チンピラ風だがどこか気弱そうな雰囲気を纏った男だった。男は額に汗を滲ませ、酷く青褪めた顔をしていた。


「あっ、兄貴!敵です!刀を持った女と、梟を肩に乗せた男が襲撃してきたと報告が!」


「はぁ?!刀をもった女と、梟……を、肩に…………あ、ああああっまさか!?」


 トグサが慌てて二階の窓から外に身を乗り出すと、ちょうどジャンヌとソロが部下達を打ち倒しながら悠然と敷地内に入って来るところだった。二人の前方には、部下達が陣形を組んで迎え撃とうとしているが、それであの二人を止められるとは到底思えない。トグサの背筋に冷たい汗が大量に噴き出し、その足はガタガタと震え出している。トグサが直接ジャンヌ達と相対したのはたったの二度だが、そのわずかな邂逅だけで、彼の身体にはジャンヌ達への恐怖が沁み込まされていたようだ。

 このまま自分がジャンヌ達と鉢合わせればどうなるか?それは火を見るよりも明らかだった。


 (な、ななな、なんでアイツらがここに!?ガンディーノ様は雇い主を失ったMIRAがわざわざ報復に出るなんて、そんな割に合わない事をするはずがないと言ってたのに!マズい。いや、や、ヤバイぞ。このままここにいて、奴らに出会ったら……今度こそ殺される!)


 そもそも、初手で顎を砕かれた時に、トグサは一歩間違えればあの世に逝ってもおかしくないダメージを受けていたのだ。しかも、その次に会った時はソロによって、背中に火傷で文字を書かれるという地獄の苦しみを味わわされたのだから、彼の恐怖心はあながち間違いでもないだろう。敢えて言うなら、ジャンヌは彼を殺さないようにちゃんと手加減をしていたのだが。

 トグサは何かに突き動かされるようにして振り返り、部下を置いてその場から駆け出した。文字通りの転進である。部下に忠告する暇などなく、着の身着のまま、一刻も早くこの場を離れることが生き残る最善の道だと彼は考えたようだ。しかし、その目論見は哀れにもすぐに打ち砕かれた。


「……どこへ行く?トグサ」


「はっ!?が、ガンディーノ様っ!あ、いや、その……これは」


「まさか、逃げようとしていたんじゃあるまいな?この俺を置いて。あんなたったMIRA二人にビビッて!みっともなく!」

 

「いや!ち、違うんです!これは……!」


「もうよい。退け、ガンディーノ。無能な味方など、いるだけ邪魔というものだ」


「あ、ああ、あああ……がああああっ?!」


 ガンディーノの背後からロレンツォが言い放った瞬間、トグサの全身に無数の鋭い刺し傷が現れ、大量の出血と共にトグサは崩れ落ちた。ボッシュが殺された時と同じやり方で、トグサはあっけなくその命を失った。ガンディーノはその惨状を前にしてもトグサを悼む気はないようで、ふんと鼻を鳴らしてトグサの遺体を踏みつけた。彼にとって、敵前逃亡は裏切り行為以外の何者でもなく、裏切り者に懸ける情けはないという証明である。その場に残されたトグサの部下は腰を抜かし、ただ、その恐ろしい光景に涙を流していた。






 

 屋敷に入ったジャンヌとソロは、向かってくるゴロツキを打ちのめしながらその奥へと進んでいた。目的はもちろん、ガンディーノの捕縛だ。一応、Neckとして手配されたガンディーノの取り扱いは生死不問だった。通常、Neck(賞金首)は生きたまま捕まえて公的機関、もしくは手配元に引き渡すのがセオリーだが、Neckとして手配されるような人間はその性質上、大人しく捕まる事は稀でほとんどの場合は抵抗するものだ。それ故に、当然MIRAには正当防衛の権利が認められるので、Neckを殺してしまったとしても罪に問われる事はほぼない。

 ただ、金や物品を盗んで逃げた犯人だとか、何らかの貴重な情報を握っている犯人などは、その金や物、ないし情報を回収する必要がある為に生きたまま捕まえることが賞金を支払う条件となるケースもある。ガンディーノについてはそれらに該当しないので、生死不問なのだ。

 

 正直な気持ちを言えば、ボッシュの敵討ちをしてやりたい気持ちはあるが、一方でジーナの未来の為にもガンディーノには裁判を受けさせ、司法による正当な裁きを与えるべきだという思いもあった。なので、とにかくまずは捕まえようというのが二人の総意である。

 

 そうして、いくつかの部屋を見て回っていると離れに通じる長い廊下の先に逃げていく人影が見えた。だいぶ数を減らしたが、ガンディーノの部下達は健気にもジャンヌ達を食い止めようと向かってきている最中、ジャンヌ達から逃げようとするのはガンディーノを置いて他にはいないだろう。ジャンヌ達はその人影の後を追い、渡り廊下を抜けて大きな離れへと飛び込んだ。そこには。


「なに?ここ……真っ暗だけど、武道場?」


「恐らくヤツの兵隊達を訓練する為の場所だろう。ただのチンピラを搔き集めただけかと思ったが、それなりに練度を上げようという気はあったようだな。……待て、誰かいるぞ」


 カカッ!と間を置いて、道場全体に灯りが点る。その部屋の中央には、大剣を背に帯びた壮年の男――ロレンツォが両腕を組んで仁王立ちしていた。


「よくぞ来た、MIRA共よ。ここまでの戦いを見ればその若さで中々の手練れぶり……フフフ、腕が鳴るわ」


「何よアンタ、ガンディーノの用心棒?誰だか知らないけど、邪魔するつもりなら容赦しないわ!」


「勇ましい娘だ。その減らず口に見合った実力はあるようだが、いつまで続くかな?」


 そう言ってニヤリと不敵に笑うロレンツォの顔をじっと見つめたソロが、膨大な記憶の中から一つの答えを見つけ出す。それは、彼にとっても思わぬ相手の情報だった。

 

「あの顔……まさか、『MIRA殺しのロレンツォ』か?!」


「ソロ。アイツのこと、知ってるの?」


「ああ、以前手配書で見た覚えがある。奴の名はロレンツォ・ダッカード。名うてのNeckで、これまでに自分を追う30人ものMIRAを返り討ちにしたという逸話を持つ危険な男だ。そこからついたあだ名が『MIRA殺しのロレンツォ』なんだが。まさか、こんな所で出会うとは……!」


「ほう、俺の事を知っておるか。命知らずの若者が多い昨今だが、敵を知っておくという基本を守れているのは見込みがあるな。グフフ、その首、手元に置けばさぞ心地が良かろうな」


「はっ!Neck(賞金首)が首集めしようってわけ?笑えない冗談だわ。武人ぶっても、所詮、殺しが趣味のゲス野郎ってことね」


「ふん。そちらの小娘はなっておらんな、腕前は確かなようだが、敵を不用意に侮るのは取るに足らぬ三下のやることぞ。まぁ、未熟者とてMIRAであるならば殺すまでだが」


「上等じゃない。私が取るに足らない未熟者かどうか、その目で確かめてみればいいわ。命の保障は出来ないけどね」


「おい、ジャンヌ!いくら君でも一筋縄でいく相手じゃ……」


 言葉の途中で、ソロが違和感に気付く。いかにMIRA殺しと呼ばれるほどの男といえど、何故ロレンツォはこんな場所に一人で待ち構えていたのだろう。ジャンヌ達二人を相手にする自信があるのは解るが、それでもこうもあからさまに待ち構えている必要はないはずだ。この状況には何か意味がある。そう考えた時、ソロの脳裏に浮かぶものがあった。


 (そもそも、ガンディーノは何故ここにいない?奴のようなタイプの人間がロレンツォに全幅の信頼を寄せているなら、必ず俺達が敗北する様を見ようとするはずだ。それをしないという事は……まさか!?)


「ジャンヌ、ここは任せていいんだな?」


「……ええ、もちろんよ。アイツの相手は私がする。だから」


「任せろ!」


 ソロはそう言い放つと同時に振り返って走り出し、武道場を後にした。この期に及んでまだガンディーノが策を練るとするならば、狙いは間違いなくジーナだ。彼女を人質にするか、或いはその命を狙うかは解らないが、ボッシュの敵討ちをしにくるジャンヌ達のアキレス腱は、ジーナを置いて他にいないだろう。そこにジャンヌもいち早く気付いていて、逆にロレンツォを一人で足止めすると言っているのだ。


 かくして、ジャンヌとソロは二手に分かれ、それぞれの相手と戦うこととなった。

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