相次ぐ決着
ソロとマーロ達の戦いが決着を迎えた頃、室内ではジャンゴ達を守る警備兵達がちょうど全滅した所であった。
「ハッ!この程度でワタシが止められるもんかよ。さぁて、あんた達、覚悟はいいかい?」
「くっ!貴様ら、本当にカタストロフを……あ、アネットがそれを話したというのか?!」
ジャンゴは問い質すように疑問を投げ掛けた。彼が気にしているのは、一族の秘事であるカタストロフの秘密を、よりによって愛娘であるアネットが他人に話したということだ。誤解したままのジャンヌから漏れたのなら解るが、家を継ぐ事の無いジャンヌには敢えてカタストロフの情報を秘密にしていたので、彼女から漏れたという事はあり得ない。つまり、ヴィヴィアン達の情報源はアネットか皇帝一族かのどちらかなのだ。
だが、一族の秘事と表現したように、それは他言無用の秘密である。ジャンゴはあの優秀なアネットがそれを話したとはどうしても信じたくないらしい。かと言って、皇帝からそれが漏れたとも思えないのだから、結果は自ずと明らかだろう。結局の所、信じたくないからわざと聞いている。それだけなのだ。
しかし、ヴィヴィアンから返って来たのは予想外の答えだった。
「アネットねぇ……おっさん、よっぽど娘を信じたいんだねぇ。ま、安心しなよ。うちらがカタストロフの事を知ったのはアネットに聞いたからじゃない。もっと前、ず~っと前にうちのボスが聞いてきたのさ」
「なに!?どういう事だ、アネットではない、のか……?!」
「さぁねぇ?自分で考えれば?あの世に逝ったら考える時間はたっぷりあるよ。答え合わせは出来ないけど。あ、ちなみにうちらがカタストロフの事を知ってると知ったら、アネットは喜んで詳しい事を話してくれたから。……結局、口が軽いんだよ!あの子はさ」
アハハ!と高笑いするヴィヴィアンの言葉の端には、アネットを見下す意図が透けて見える。いつものヴィヴィアンは誰に対しても不気味なほどフレンドリーだが、内心では他人をかなり見下しているのだろう。その侮蔑に満ちた笑いが、ジャンゴの心に怒りの火を灯した。
「私の娘を……愚弄するなっ!下がれ、アメーリア!」
「あ、あなたっ!」
「銀の鎧を纏う魔法っ!」
「んん?」
ジャンゴが魔法を唱えると、身に着けている指輪やネックレスに使われていた銀が質量を増し、彼の全身を覆った。これは、ジャンゴが自ら編み出したオリジナルの魔法であり、一般的に魔力を溜めこみ、またそれを通しやすい銀をスーツのように着こんで戦う為のものだ。防御力が格段に上がるだけはなく、大量の魔力を帯びた銀は、皮膚そのもののように身体に張り付いて、動きのサポートにもなる。ジャンヌが魔力によって身体能力を大幅に上げているのに似た、素早さとパワーを同時に底上げする魔法でもあるのだ。
「いくぞっ!」
「ふ~ん、おじさん面白い魔法使うねぇ。おっとと!」
ジャンゴは強く一歩を踏み出し、一瞬でヴィヴィアンの目前に迫った。そして、大きく拳を振りかぶって渾身の一撃を放つ。この形態のジャンゴの拳は、大岩を砕くどころか、ダレイン鉱の塊ですら打ち砕くほどの威力がある。まともに当れば、生身の肉体では耐えられるはずもない破壊力だ。しかし、ヴィヴィアンは余裕たっぷりにジャンゴの拳を躱し、横に回り込んで双剣の連打を浴びせ掛けた。
「ぐぉっ!?」
「ハハッ!カタいじゃんっ!でも、カタさだけじゃ物足りないんだよ。独り善がりだからねぇ、おじさんってヤツは、さっ!」
ヴィヴィアンの剣が一つ振るわれる度、ジャンゴの装甲が二つ三つと削られていく。ジャンゴは必死に腕を振り回し、時に蹴りも交えて反撃したが、そのどれもがヴィヴィアンには通用しなかった。わずか数分にも満たない時間の内に、ジャンゴはボロボロになって壁際へと追い詰められてしまった。
「こ、こんな……!?」
「アハハッ!いい気味ぃ~!気分い~わ、あんたみたいな偉そうなお貴族サマが追い詰められるとこってサイコー!……じゃ、これで終わりだよっ!」
ヴィヴィアンが剣を振り上げたその時、彼女は背後に強烈な殺気を感じてその場を離れた。殺気を放ったのはもちろん、ジャンヌだ。ヴィヴィアンの激しい攻撃によってズタズタに切り裂かれた身体はすっかり元通りで、ヴィヴィアンを睨みつける射抜くような眼光は鋭い。これだけの圧をかけられれば、ヴィヴィアンでなくとも反応するだろう。事実、立ち上がったジャンヌを見ただけで、アメーリアは腰を抜かしてガタガタと震え上がっている。
「へぇ、もう起き上がれんだ?タフだね、あんた。でも、どうせワタシには勝てやしないんだから、寝てりゃいーのに」
「ちょっとは休ませてもらったからね、あんたの相手はまだ私よ。それに」
「……なによ?」
「勝てる相手を前にして、寝てる奴なんかいないでしょ?」
「っのぉ!」
ジャンヌの挑発に乗り、カッとなったヴィヴィアンは突進するようにジャンヌの方へ走ってきた。ジャンヌは腹の中で舌を出して、彼女を迎え撃つ。
(ヴィヴィアンの動きはそんなに早い訳じゃない。なのに、凄い手数で攻撃されてる……それに、あの身体がブレて見えるのは、もしかして)
ジャンヌはハバキリに魔力を流し込み、その瞬間を待った。そして、目の前まで来たヴィヴィアンは剣を振り上げ、いくつにもブレて見えるそれを振り下ろした。
「っ!」
たった一撃受け止めただけのはずが、衝撃は三度襲ってくる。ジャンゴの装甲を削った時と同じだ。さらにそこから二発目三発目と攻撃が来るが、それらもまた一度の攻撃で三回分の衝撃があった。ここでジャンヌは、ヴィヴィアンの剣筋を見極め、振り下ろされる刃そのものを斬った。
「なっ!?」
「えぇいっ!」
一瞬、たじろいで動きが止まったヴィヴィアンの胴へ、ジャンヌはフルパワーで蹴りを放つ。ちょうど鳩尾へ食い込んだ蹴りは、ヴィヴィアンの身体をくの字に曲げた。そして、信じられない光景がジャンヌの目に飛び込んできた。
崩れ落ちていくヴィヴィアンの身体……その背中から剥がれるようにして、ヴィヴィアンの身体がもう一つ現れたのだ。分裂した新たなヴィヴィアンは、すぐさま後方へ跳んで、その場を離れた。残された方のヴィヴィアンはやがて完全に動きが止まると、パッと跡形もなく消え去ってしまった。
「やっぱり!これがあんたの不死身の正体……どんな加護だか知らないけど、あんたは自分の身体を増やせるんだわ!それを利用して、攻撃する時には手数を増やし、大きなダメージを受けた時にはそれを捨てる方の身体に押し付けてたのね」
「ちっ……!」
ジャンヌの見立てはズバリ当たっていた。ヴィヴィアンの加護は、その名を『多身』といい、最大で三体の自分を創り出す事が出来る。ただし、その中で意志や意識を持てる本体は一つだけであり、別々に行動させることは出来ないようだ。その為、攻撃をする際には部分的なものに留め、本体の攻撃を追撃する程度に抑えていた。ヴィヴィアンの姿が何度もブレて見えたのは、その増えた身体が見えていたのだ。
「それがどうしたってのよ!ワタシの加護を見破ったくらいで、勝ったと思ったら大間違いよっ!」
「そう思うなら、試してみる?」
「な、舐めたことをっ!」
再び怒りを露わにしたヴィヴィアンは、一本だけになった剣を握り締めた。これまでに自分の加護の弱点を見抜けたのは、エルドレッドただ一人である。まさか、ジャンヌがそれを見抜けるはずはない。そう思っているようだが、その額には冷や汗が滲んでいる。
(だ、大丈夫だ。ワタシの多身の欠点を、こんなヤツが見抜けるはずないっ!そうだ、ワタシは誉高きエルドレッドサマの右腕、ヴィヴィアン・ロイスだ。そのワタシがこんなヤツにっ……!)
「はああああっ!」
「ヒッ!?」
今度は先に動いたのはジャンヌの方である。ハバキリを下段に構え、一瞬にしてヴィヴィアンへと肉迫する。加護を見破られた上に、その余りの迫力に気圧されたのか、ヴィヴィアンは完全に委縮し、怯えてしまった。それが勝負を分けるきっかけになった。
まさに神速と呼ぶに相応しい速さで間合いに入ったジャンヌは、ヴィヴィアンの一瞬の隙を見逃さなかった。下段から逆袈裟にヴィヴィアンを斬りつけ、大量の血飛沫が舞う。致命傷を受けたヴィヴィアンの身体から、もう一つの身体が離れた瞬間、ジャンヌはハバキリを捨てて素早く新しい身体の方を捕まえると、ヴィヴィアンの身体を持ち上げて全力で投げ落とした。いわゆる、背負い投げだ。
「がはっ!?」
「……あんたの加護は、連続で使えないんだわ。だから、さっきは何もせず私から離れたし、その前は私の攻撃を受け止めた。それが欠点ってわけね。…………聞こえてないか」
受け身も取れず、硬い石の床に全力で投げ落とされれば、その衝撃は凄まじい。その証拠にヴィヴィアンは完全に意識を失い、白目を剥いている。恐らく、何本か骨折もしているだろう。戦闘不能なのは明らかだ。こうして、ジャンヌは辛くもジャンゴ達を護りきることに成功したのだった。
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