それぞれの実力
緊迫した状況の中、最初に動いたのはソロだった。会話の最中から槍杖に魔力を溜めていて、そこから魔法を放ったのだ。
「吹き荒れる風の魔法!」
「ぬぅ!?」
ソロの魔力が暴風に変わり、横方向の小型竜巻がゴーシュを飲み込む。敢えて範囲を狭めているのは、ジャンヌ達を巻き込まないようにしている為だが、それでも室内は目を開けているのも困難なほどの風が吹き荒れていた。竜巻はあっという間にテーブルやソファまで巻き込んでゴーシュを窓の外へと吹き飛ばした。
狭い室内で、他人を巻き込まないようにして戦うのは、前回と同じ轍を踏むだけだ。それが解っているからこその先手である。ソロはその竜巻を追って、飛行魔法で低空を飛び、高速でゴーシュへの追撃に入った。
「きゃっ!?なによぉ~!アブナイじゃない~。も~!風で髪がめちゃくちゃだよぉ」
「髪の心配なんかしてる余裕、ないでしょっ!」
ジャンヌは隙だらけなヴィヴィアンに斬りかかり、一瞬でその胴を薙いだ。先程は縦に真っ二つにしたが、今度は上半身と下半身が分かれた形だ。ジャンヌはそこで止まらず、跳ぶように少し離れて、そこにいるはずのもう一人のローブの人物を探した。だが、そこには誰もいない。
「アイツは、いないっ?どこへ……っと!」
「えいっ!」
再び背後から現れたヴィヴィアンの攻撃を、今度はきちんと読んでいて肩越しに背中へ回したハバキリで受け止めた。同じように突いてくるかは賭けだったが、読みが当たったようだ。
「あれぇっ!?なんでぇ~!」
「ワンパターンなのよ、アンタはっ!」
ジャンヌは素早く振り返ると同時に袈裟斬りでヴィヴィアンを斬ろうとしたが、今度はヴィヴィアンもきっちりと双剣を十字に構えて受け止めた。互いに押し合う形になったが、力比べならジャンヌの方がヴィヴィアンより上だ。そのまま一気に押し切られることを察したのか、ヴィヴィアンは後ろへ跳んで避けた。
「ちっ!もうちょっとだったのに!」
「いったぁ~いっ!もうっ!ジャンヌちゃんの馬鹿力ぁっ!」
涙目になって双剣を握る手を見つめるヴィヴィアンには、まだまだ余裕がありそうだ。横薙ぎにしたはずの身体は何事もなかったかのように戻っているが、最後の袈裟斬りは剣で防いだ所をみると、どんな攻撃を受けてもへっちゃらという訳ではなさそうである。
(不死身そうに見せてるだけで、やっぱホントに不死身って訳じゃないみたいね。でも、まだこいつの加護の秘密は解んないわ。こうなったら突破口を見つけるまで、攻撃しまくるしかないか)
「もう、怒ったかんねっ!ジャンヌちゃんは、エルドレッドサマが殺すなって言ってたから、仕方なく手加減してあげてたけどもう知らないっ!」
口振りこそ幼いものの、ヴィヴィアンから立ち上る魔力がこれまでとは一線を画すほど激しくなった。どうやら手加減していたというのは負け惜しみではなさそうだ。燃え盛る炎のように揺らぐ魔力の影でヴィヴィアンの表情は見えなくなり、ジャンヌは本能的に殺気を感じて一歩退いた。その刹那。
「死んじゃえっ!」
「っ!?速い!」
ヴィヴィアンの身体は左右にブレて見えたかと思うと、彼女の剣は既に目前に迫っていた。なんとか初撃は受け止めたが、双剣二刀流のヴィヴィアンの手数は圧倒的だ。立て続けに襲い来る嵐のような刃の猛攻が、ジャンヌの身体を切り刻んだ。
「くっ!うっ、うあああぁっっ!?」
「死ねっ!死ね死ねっ!死んじまえクソアマがっ!お前なんか、ワタシの敵じゃねーんだよっっ!」
ヴィヴィアンの口調は完全に変わり、それに応じて攻撃は激化の一途を辿っていく。さっきまでとはまるで別人のようだ。あっという間に全身をなます切りにされてしまったジャンヌは、ヴィヴィアンの攻撃が一息つくと、その場で崩れ落ちた。
「へっ!所詮、こんなもんか。何がハバキリの使い手だよ、笑わせんな!」
倒れたジャンヌに、ヴィヴィアンが吐き捨てるように侮蔑の視線を向けた。よほどストレスが溜まっていたのか、或いはこれが本性なのかは不明だが、恐るべき殺気と圧を放つその姿に、戦いを見守っていたジャンゴ達は完全に震え上がってしまっていた。
「な、なんという剣士だ……!あのような相手に、ジャンヌが勝てるはずが……」
「あ、あなた……」
「ふん、こんなヤツ、エルドレッドサマの手を煩わせるまでもねぇ、このまま首を刎ねてぶっ殺しちまうか?いや、だがまずは……」
ギロリとジャンゴ達の方へ視線を向け、睨みつけるヴィヴィアン。すっかり性格は激変してしまっているが、エルドレッドの命令を守るつもりはあるようだ。怯えるジャンゴ達を獲物としたヴィヴィアンは嗜虐心を隠そうともせず、凍るような笑みを浮かべてゆっくりと歩き始めた。
その頃、屋敷の庭へ吹き飛ばされたゴーシュは、魔力をフルに使ってソロの魔法を打ち消し、大地に立った。その前方にはソロがふわりと浮いていて、ゴーシュを見下ろしている。
「やってくれたな……!これが貴様の実力という訳か」
「確かに、あの時は力を出し切れなかった、状況が状況だったからな。しかし、この程度が俺の全力だと思って貰っては困るな」
ソロの槍杖が光ると、そこから人の頭ほどの大きさをした炎の塊が現れた。赤々と燃え盛る炎は渦を巻き、大量の熱を吐き出しながら一直線にゴーシュへと飛んでいく。
「ふん!」
ゴーシュはそれを容易く躱し、一瞬にして距離を詰めてソロへ跳んだ。相変わらずの凄まじいスピードだ。だが、前回とは違い、ソロは既に彼の速さを体験し、理解している。当然、炎を避けて反撃してくることも想定済みだ。
(背後から撃つのが卑怯だとは言わせん。お前達に対して、容赦などしないと決めたからな!)
空中でゴーシュの拳が振り上げられようとした瞬間、先程の炎が形を変え、ゴーシュへ向かって小さな炎の弾を発射した。空中で、しかも攻撃態勢に入っているゴーシュに背後から撃たれる攻撃を避けられるはずがない。ソロの作戦は完璧にハマり、ゴーシュを捉えた……はずだった。
「ゴーシュ、後ろだ、攻撃中止。避けろ」
「っ!?」
いつの間に追って来たのか、屋敷の中にいたと思っていたローブを被った小柄な男が、ゴーシュに危険を教えていた。それを聞いたゴーシュは、小さく舌打ちをしてから攻撃を止め、空中で二段ジャンプをしたようにもう一度跳び、身を翻す。そして、放たれた炎の弾は軌道上にいたソロの頬をかすめて、どこかへ飛んでいってしまった。
「……こちらが避けるのを読んで、二段構えだったか。食えないヤツだ」
「危なかったね、ゴーシュ。本気を出したソロは一人じゃ荷が勝ちすぎる。僕と一緒にやるべきだ」
「ちっ、貴様の『占い』とやらか。気に食わんが、仕方ない」
「今の、その、声は……」
ゴーシュの隣に立つ小柄な男。その声に、ソロには聞き覚えがあった。というよりも、よく知っている人間の声だ。だが、何故彼がここにいて、しかも敵に与しているのかが理解出来ず、ソロは思わず呆然と立ち尽くしている。そんなソロに向けて、ローブの男は朗らかな声で叫んだ。
「ソロ!ここからは、二対一だ。悪く思わないでくれよ!」
「……お前は、どうしてそこにいるんだっ!?マーロ!」
ローブを被った小柄な男、その正体は、ソロ達MIRAに情報を売る情報屋……自らが星読みと呼ぶ加護を持った占い師、マーロその人だった。まさかの敵の登場に、ソロは最悪の展開が胸に過るのだった。
お読みいただきありがとうございました。
もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら
下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。
宜しくお願いします。




