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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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向き合う決意

「――今の所、被害状況はこのくらいだ。メタノイアか、奴ら思っていたよりもずっと大きな根を張っていたようだな」


 テーブルの上に広げられた書類を見つめて、ダルクが呟く。正面の椅子にはソロが座っていて、同じように書類を見て、顔をしかめている。メタノイア首領、エルドレッドの襲撃から一週間、この間に彼らはその宣言通り、複数の国に対して激しい攻撃を始めていた。狙いはもちろん、各国の王侯貴族達だ。


「以前、シーザーから聞いた話では、奴らは10年前から活動していたらしいからな。いや、そもそも()が500年前から生きているのなら、時間は十分過ぎるほどあったはずだ。反王侯貴族を謳っていながら、自身が王になると言い切る……理解に苦しむよ」

 

 二人がいるのは、ソロの私邸の一室だ。五年前、ソロはイェルダの魔の手から逃れるためにジャンヌを連れて国を出たのだが、その際、この家屋敷と財産は全て処分し、残された使用人達に現金を分配するよう筆頭執事のカムランに命じていた。しかし、カムランと彼を始めとする使用人達一同はそれを拒否し、一丸となってこの家屋敷を守ってきたらしい。いくつかの宝石などは処分して現金化したが、それを元手に事業や投資などをしてこの家だけは死守してきたというのだから、それを聞いたソロも驚いたようだ。それだけ、ソロが彼らに慕われる主であったということだろう。


 結局、イェルダとソロの婚約と結婚披露宴は、騒動の影響で完全に流れてご破算となった。今回の一件で、イェルダが自らの加護により人々を洗脳していた事も明らかとなってしまい、皇国内には貴族達に対する不満や疑念がにわかに立ち始めたことも影響しているのだろう。今の時点ではまだ、反貴族階級の暴動などは起きていないが、既にメタノイアは動き出している。今頃、各国の貴族達は頭を悩ませているはずだ。

 

「それより、イェルダ陛下はどうしている?怪我の方は、まだ?」


「相変わらず、自室に引き籠って姿をみせとらんよ。医師が言うには怪我はほぼ治っているはずだが、精神的に参ってしまってるようだ。まぁ、自信満々に集めた対メタノイアの戦力が、ああも役に立たなかった上に、自慢の心奪を打ち消す能力まで現れては無理もないだろう。陛下付きの侍女の話じゃ、ベッドの上で布団に包まって一日中震えているとさ」


「……耳が痛いな。だが、あのエルドレッドという男、あの時はジーナの力に気を取られたからなんとかなったが、まともにやり合ったらまず勝ち目はないだろう。どう戦えばいいのか」


 ソロは眼鏡を外し、目頭を押さえて眉をひそめた。自身の最大の魔法である落ちる星々の魔法(シデラ・カデンティア)は一定の効果があったようだが、それでもエルドレッドを倒すには至らなかった。それも、ジーナが見せた予想外の力があったからこその結果であり、次に戦った時に勝てるとは到底思えない。また、彼はハバキリの使い手であるジャンヌと戦う事を望んでいたようだが、皇国最強の騎士であるギリアムが呆気なく敗れた事実を見ると、ジャンヌとて勝ち目があるとは言えないだろう。しかし、ジーナを救い出す為には、何としてもエルドレッドに打ち克たなくてはならないのだ。

 

 その時、二人のいる応接室のドアをノックした後、執事のカムランの声がした。

 

「ソロ様、お客様がお見えになりました」


「……ああ、来たか。入ってくれ」


 ソロの許可を受けて入ってきたのは、皇国の刃のリーダーであるメイヴァと、ライナスであった。二人は少し疲れた表情で室内に入ると、そのままソファに座って溜息を吐いた。その様子に、ソロは彼らが持ってきた情報がとてもいいニュースとは言えない事を察したようだった。


「また襲撃があったのか?今度はどこだ?」


「南部の、アディントン伯爵家だ。当主は何とか護りきったが、妻と子供が犠牲になった。奴ら、こちらがどんなに守りを固めても空間移動ですり抜けてくるからな。ハッキリ言って、手の打ちようがない。当主を守れたのも、運が良かっただけだ」


「やはりか……」


 ソロは地図に視線を落とし、アディントン伯爵家の名を確認して唇を噛んだ。この一週間、メタノイアはこうしてランダムに貴族を狙って攻撃を仕掛けてきている。本来、空間を転移する魔法は移動先を限定し、移動する側もそれなりに大掛かりな準備をする必要があるのだが、メタノイアはそれをいとも簡単にやってのけている。先日の結婚披露宴の会場に、エルドレッドが突然現れたのも空間転移によるものだ。どれだけ防衛の戦力を用意しても、それを掻い潜って攻撃されては護りきれないのも当然であった。

 

「いっそのこと、それぞれの貴族達を一箇所に集めてしまうのはどうだ?そこを総がかりで守った方が守りやすいと思うが」


「それも一つの手段だが、果たして、貴族連中が言う事を聞いてくれるかどうか。それに、どこかへ集めるにしても、移動中を狙われたらひとたまりもないぞ」


「やはり、元を断つ……しか、ない。というのが、正直な……ところ、だ」


「メタノイアの本拠地、か。それが解れば苦労はしないが……」


 めいめいに意見を言い合うものの、答えはまとまらない。度重なるメタノイアの襲撃により、既にエンデュミオン皇国の中枢はボロボロになっている。政治の中心である貴族達が狙われることで、政治そのものが停滞し始めているのだ。そもそも、貴族というものは替えが効かないものである。当主が年齢を重ねた人物ならまだしも、まだ本人や子供が若い家などは命を落とせばどうしようもないのだ。

 そうして、いつ自分達やその家族が襲われるか解らないとなった大臣達はパニックを引き起こし、私兵を雇って自らの領地や屋敷に篭ってしまう者達が続出していた。その為、今はソロの元に集まった各地の魔法兵達や、残った騎士達に命令をしてそれぞれの貴族達を守っている状態だ。完全に後手に回ってしまったこの状況を打開するには、あまりにも情報が不足していた。


 (こういう時に役に立ちそうなマーロは連絡が取れないしな。どうすればいいんだ。焦れば敵の思う壺と解ってはいるが、しかし……)

 

 普段は冷静沈着なソロだが、今回ばかりは焦りが勝っていた。この状況を招いた原因の一つは、自分の不手際だ。女帝イェルダの妄執を甘く見ていた自分が捕まったせいで、事態は一気に悪い方向へ流れてしまった。ジャンヌにイェルダの加護の事を詳しく話していれば、或いは、もっと早く彼女の洗脳に対抗する手立てを講じていれば……そんな思いがソロを焦らせていた。

 その時、廊下から足音が聞こえてきたかと思うと、突然誰かが応接室のドアを開けた。


「ソロ、邪魔するわよっ!」


「ジャンヌ!?どうしたんだ?急に」

 

 神妙な面持ちで入って来たのはジャンヌであった。ここしばらく、ジャンヌは朝早く一人でどこかへ出かけては、夜遅くに帰ってくる生活をしていた。ソロも気にかけてはいたが、メタノイアへの対応に追われて放置していたのだ。そんなジャンヌが突然のこれである。何が起きたのかと、他の三人も驚いているようだった。


「ちょっとね。それより、行きたい所があるんだけど、ついてきてくれない?」


「行きたいところって、今はそんな事を言ってる場合じゃ……」

 

「アイツらの手掛かりになりそうなところなのよ。でも、私だけじゃたぶん門前払いだろうから」


「アイツらって、メタノイアのか!?どういうことだ、一体なぜ……いや、どこにそんな」


「決まってるでしょ、私の実家……パルテレミー家よ。ずっと考えてたけど、レイモンドやアネットはアイツらと関りがあるんだわ。もしかしたら、お父様やお母様も……だから、お願い。一緒に来て!」


「あっ……!」


 パルテレミー家もまた、狙われる側の貴族であることから失念していたが、確かにジャンヌの言う通りだ。あの結婚披露宴の会場でも、エルドレッドとその部下のヴィヴィアンという女は、ジャンヌの妹アネットと行動を共にしていた。そこには何か必ず、理由があるはずだ。そして、あれだけ嫌っていた実家へ顔を出すというのだから、ジャンヌの覚悟のほどが窺える。こうして、二人はパルテレミー家へと向かう事になったのだった。

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