表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
106/121

邪悪なるものども

「っ……あれ?なにも、ない……?今の音って」


 衝撃に備えて目をつぶったジーナだったが、待てど暮らせど、一向に痛みも衝撃もやって来ない。何事かと恐る恐る目を開けた時、そこには一人の若い男が、ジーナとイェルダの間に立って、イェルダの剣を黒い刀で受け止めていた。


「あ、あなたっ!?一体、何者!?」


「……何者とはずいぶんだねぇ。君は、()()の事を恐れて身を守る力を望んだんじゃないのかい?君達、全ての王侯貴族を滅ぼそうとする、メタノイア(僕ら)が怖かったんだろう?」


「あ、あああっ!?まさか、まさかっ!」


 黒髪の若い男――エルドレッドは、薄笑いを浮かべてイェルダの剣を払った。同時に、高砂の裏に隠れていた何人もの騎士や魔法兵達が飛び出してきて、エルドレッドを取り囲む。その先頭に立っているのは、騎士団長ギリアムであった。


「……臆病なことだ。結婚式や披露宴にこれだけの兵を忍ばせておくなんて。まぁ、その臆病さが、人を操って安心を得ようとする加護に繋がったのかも知れないな。実に厄介な力だ」


 エルドレッドは客席を睨みそこにいる不甲斐無い部下を見据えた。だが、既に心奪の影響を受けてしまっているヴィヴィアンは妄信するエルドレッドの睨みにさえ反応していないようだ。それだけ心奪が強い影響力を持つ証だろう。

 エルドレッドは溜息を吐いて、男達の陰で震えるイェルダを睨んだ。

 

「やってくれたね。僕のかわいい部下までも支配下に置くとは。しかし、どの道、()()()()()()君を生かしておくつもりもなかったんだ。少し早いが、ここで退場してもらおうか」


「なっ、何をっ……!この状況で、あなたたった一人なら、こちらこそ好都合よっ。ギリアム、他の皆もやっておしまいなさい!」

 

 絶叫するような声で、イェルダの指示が飛ぶ。それを受けたギリアム達は、すぐさまエルドレッドへ襲い掛かった。まず背後から斬りかかった騎士の攻撃を、エルドレッドは気配だけで読み切って躱し、返す刀で半回転しつつ切り伏せる。包囲に一人分の穴が開き、そこへするりと入り込んだエルドレッドは次々に騎士達を斬り捨てた。踊るような、という表現がピッタリな流麗な刀捌きは凄まじく、ジーナの目では追い付かないほど速く、なめらかだ。


「ちっ!お前達、引け!」


 業を煮やしたギリアムが指示を出すと、騎士や魔法兵達はサッと潮が引くように道を開けた。その空いたスペースを、ギリアムは音もなく、それでいて疾風のような速さで通り抜けエルドレッドに接近する。ジーナが気付いた時には、既に二人の刃がぶつかり合い、鍔迫り合いをしている所だった。


「貴様っ……!」


「ほう……!君がエンデュミオン皇国の守護神と称される騎士団長か。確か、ギリアム、といったかな……っ?なるほど、確かに中々の腕前だ。力だけでなく技術もあるようだ、ねっ!」


 一瞬の隙を衝き、エルドレッドがギリアムの剣を払う。二人は一歩ずつ後退して、睨み合うように対峙した。だが、まだまだエルドレッドには余裕が感じられる。一方のギリアムは、エルドレッドを自分と互角の相手と判断し、唇を噛んでいた。


 ギリアムは間違いなく、エンデュミオン皇国で一二を争う腕前を持った騎士の一人だ。そもそも、誰もが当たり前に魔法を扱えるこの(せかい)で、剣のみの腕前を持って強者となるのは並大抵のことではない。もちろん、騎士と言えど魔法を使って戦う事はあるしそれが責められることではないのだが、ギリアムはそんな中で、剣士としての技量のみをもって、現在の地位にまで辿り着いた人間である。

 ジャンヌのように魔法が使えないという事ではなくて、彼のは単純に己に課した誓約だ。そうする事で自分を追い込み、誰よりも強い剣の腕を持とうとした、それだけなのだ。だからこそ、彼は自分の腕に絶対の自信を持っていたし、事実として彼に伍する騎士と出会った事は一度もなかった。それが、自分より若く見える優男のエルドレッドが、自身の渾身の一撃を防いでみせたことに彼は苛立ちを隠せないようだった。

 かたやエルドレッドは、そんなギリアムの苛立ちさえも看破し、ニヤニヤと薄笑いを浮かべるばかりである。彼にとってのギリアムが、井の中の蛙であるかのようだ。

 

「その程度で平静さを保てないとは、君は青いねぇ。剣の腕よりも精神を鍛えた方が強くなれるんじゃないか?まぁ、()()に期待、という所かな」


「なにぃっ!?貴様、俺を愚弄するかっ……!」

 

 エルドレッドが次の機会と言わず、来世と言ったのは、つまり、ギリアムがここで死ぬと言っているのと同義だった。自身と同等の力を持っているだけならまだしも、エルドレッドは、ギリアムを未熟者と断じたのだ。その上で、ギリアムを殺すと言っている。それが、ギリアムのプライドを大きく傷つけた。


「おおおおっっ!」


「ふん」

 

 先程よりも更に早く、鋭い打ち込みがエルドレッドに襲い掛かる。他の騎士達ですら、一瞬、ギリアムが消えたように見えるほどの凄まじいスピードだ。どんな剣豪が相手でも、それを防ぐのは不可能であるはずだった。

 だが、ギリアムの剣がエルドレッドに届く事はなかった。ジャンヌが普段、ハバキリに魔力を流し込んでその力を最大限発揮するように、エルドレッドもまた手にしたムラクモに魔力を流し込み、その力を引き出して、ギリアムの剣そのものを斬ったのだ。当然ながら、ムラクモの刃は剣を斬っただけで止まる事はなく、剣を握るギリアムの腕ごと、その胴を薙ぎ斬っていた。


「ば、かな……ッ!?」


「君の腕はよし。しかし、相手の力量を見極められず、つまらない制約で力を発揮しないのでは二流以下だよ。強くなることを望むあまり、格上相手に力を惜しむようではねぇ。所詮君は、夜郎自大であったということだね」

 

「ああっ!?ギリアム!ば、バーソロミュー、ギリアムが……っ!」


「っ……!」


 崩れ落ちるギリアムの身体を見た後、怯えた様子でイェルダがソロに振り向く。しかし、ソロは今、アーデを抑える為に捕獲する魔法(コンプレヘンド)を使っている状態で、その上でジャンヌを眠らせる事にも魔力を使っている。それらの魔法を解けば当然アーデやジャンヌが自由になり、ジャンヌ達を逃してしまうだろう。かといって、リソースを割いた状態で戦えるほど、エルドレッドが甘い相手ではない事もソロは理解していた。


「ジャンヌ達を自由にしてでも、全力を出すしかないか……!」


「だっ、ダメよ!それはダメ、絶対にッ!」


 ソロの呟きが聞こえたのか、イェルダが全力でそれを止めた。彼女にしてみれば、ジャンヌ達が自由になれば敵が増えるだけなのだ。エルドレッドがジャンヌを狙っていた事など知らないイェルダからすれば、もし万が一ジャンヌとエルドレッドが手を組むような事になれば、最悪以外の何者でもない。何より、彼女の中でジャンヌに対する昏い対抗心がある限り、ジャンヌを逃したくないという気持ちも強いのだろう。


 何か覚悟を決めたイェルダは、キッと睨むようにしてエルドレッドへ向き直り、大きく息を吸った。そして、全力で魔力を解き放つ。


「エルドレッドォッ!こうなったら…………私のモノになりなさいっっ!」


 どろりとした泥のような魔力がイェルダから立ち上り、それは見る間に大きな手へと変化する。人間一人くらいすっぽりと覆えてしまいそうなその巨大な手は、どす黒い情念を撒き散らしながら、エルドレッドへ襲い掛かった。


「うっ!?き、気持ち悪……っ、な、なに?!あれ」


 ジーナはその魔力の手を見た瞬間、猛烈な吐き気を催してしまった。それほどに、イェルダの怨念染みた力が凄まじいのだ。だが、そんな力が目前に迫っても、エルドレッドは意に介さず、ただ笑みを浮かべたままだ。

 魔力の手は身じろぎもしないエルドレッドへ掴みかかり、握り潰すように彼を捕らえた。あれほどの力がこめられた心奪を受ければ、どんな人間でも抵抗する事は出来ないだろう。そう思われた次の瞬間、エルドレッドはムラクモを一閃し魔力の手を切り裂いて破壊した。

 

「っ!?う、うそ……そんな、まさか、私の心奪が……」


「し、信じられん……一体、どうやって」


「……ハッ、ハハハッ!アッハッハッハッハ!無駄だよ。どんな力を以てしても、僕に通用などするはずがない!せっかくだ、()()()()冥途の土産で教えてあげようか。僕の持つ加護は『不変』。僕は決して滅びず、決して衰えず、決して道を過たず。まさに永久不滅の存在なのさ!君の加護がどんなに強力でも、この僕を操ることなど出来はしない。……先日、あのバスカヴィル王国の王子にも言ったが、改めて宣言しよう。僕の父、狂王アグリッパですら持ち得なかった、この完璧なる永遠を持って、この僕が全ての人類を導いてみせると!その為には、君達のような不完全で愚かな王侯貴族は全て排除しなくてはね。……王は、一人いればそれでいいのだから!」


 エルドレッドは高らかに、謳うように言い放つ。それはまさに宣戦布告であり、新たな狂王の誕生を語る宣言でもあった。

お読みいただきありがとうございました。

もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら

下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ