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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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女帝の企み

 コツコツという乾いた足音と共に、ズルズルと何かを引きずる音が通路に響き渡っている。既に前夜祭は終わり、参加者達は割り当てられた部屋か、外の宿へと移動しきっているようだ。そして、歴代の皇帝達が多くの賓客や部下達と顔を合わせた謁見の間で、女帝イェルダは玉座に座り、その時を待っていた。


「連れてきたぞ、イェルダ陛下」


「まぁ!よくやってくれたわね。バーソロミュー、ダルク。フフフ、その泥棒猫には、私自らの手で引導を渡そうと思っていたのよ。私の夫となるべき人を五年もの間連れ回して……ようやく罰を与える時が来たんだわ」


 ソロとダルクは、意識の無いジャンヌをイェルダの前に差し出すと、ソロはイェルダの脇に移動し、ダルクはその場で片膝をついた。ややあって、それまで微動だにしなかったジャンヌの身体が微かに動き出す。どうやら、目が覚め始めたようだ。


「う……うぅ、ぁ……ここは、私……」


「お目覚めね、泥棒猫さん。気分はどうかしら?」


「っ!?あ、あなたは……か、身体が!?」


 声をかけられたジャンヌはすぐに起きようとしたが、それは叶わなかったようだ。両腕は魔法で作られたロープによって後ろ手に縛られていて、両足も同様である。しかも、起き上がろうにも身体に力が入らないのだ。どうやら、意識を取り戻せただけで、身体自体は眠らされているのと同じ状態であるらしい。紫色のドレスを身に纏い、金のネックレスや紫水晶で出来たティアラを被った目の前の女が誰なのか、ジャンヌは状況から察する事が出来た。


「い、イェルダ……陛下」


「そうよ、初めましてね。ジャンヌ・パルテレミー。会いたかったわ」


 薄笑いを浮かべるイェルダとは対照的に、ジャンヌは緊張した面持ちでイェルダを見つめている。会いたかったと言われても、ジャンヌの方は全く彼女と面識がない。顔を合わせるのも初めてだし、声を聞いたのもこれが初だ。彼女がソロとの関係を誤解して自分を殺そうとしたことは解っているが、会いたかったというのはどういう意味なのかが解らない。どう返答したものかと困っていると、イェルダの方が先に口火を切った。


「私の()を誑かし、五年以上もの間連れ回した罪は償って貰わなくてはね」


「お、夫って……ソロのこと!?だって、そんなのソロは一言も……」


「あなたが知っていようがいまいが、人の夫に手を出すのはいけないことなの。そのくらいの常識もないのかしら?」


「いや、そもそもソロはあなたと結婚なんてしていなかったでしょ?!大体、私とソロはそんな関係じゃないわ!私達は兄妹みたいなものよ!」


「兄妹だろうと愛が芽生える事はあるでしょう。どんなに言い繕っても、あなたが犯した罪の事実は変わらないのよ。大人しく罰を受けなさい、ジャンヌ」


 そんな滅茶苦茶な、と叫びたかったがイェルダの目には本当に怒りの炎が宿っていた。これが妄執だとしても、ジャンヌではイェルダを言葉で止める事は出来ないだろう。むしろ、火に油を注ぐ結果を招きそうで、ジャンヌは咄嗟にイェルダの隣に立つソロへ視線を投げた。当のソロは無表情でジャンヌを見下ろし、口を閉じたままである。


「ちょ、ちょっとソロ!何とか言ってよ。誤解を解かないと本当に……あうっ!」


 そんなジャンヌを踏みつけたのは背後にいたダルクである。彼もまた、無表情のままジャンヌを見下ろし、手加減せずにジャンヌの背中を踏みつけていた。二人共、明らかに正気ではない。ジャンヌは苦痛に顔を歪めながら、必死に説得を試みた。


「っだ、ダルク!?あなたまで……っぅ!二人とも普通じゃない。い、一体いつから!?」


「ふっ、いつから?()()()()よ。バーソロミューはともかく、(ダルク)は五年前から、私の忠実な下僕(しもべ)だわ。ねぇ?ダルク」


「……ああ、そうだな、陛下」


 ダルクはそう答えると、イェルダに近づいてその指先にキスをした。五年前、ダルクがソロの下へ警告に訪れたあの時から、既に彼はイェルダの加護によって支配されていた。イェルダの持つ魅了の加護は、その名を『心奪(しんだつ)』という。文字通り、心を奪うように相手を操る事が出来る力だ。操ると言っても、ロボットを操作するような目立つものではなく、心奪はスタンドアローン的に相手をその影響下に置く。その為、他人からは操られているというよりも、強烈な忠誠心や愛情によって、自発的にイェルダの事を最優先で考えているように見えるだろう。


 当時、皇女だったイェルダは留学先の国・ウィンダーでこの加護に目覚めた。目覚めた当初は少し便利な能力を得た程度にしか考えていなかったようだが、ある時に、()()()()()()()()()()()()()の事を知り、それらを病的に恐れるようになったようだ。そして、自分の身を守る為にイェルダは心奪を使い始めた。

 まず手始めに、ウィンダー王国の王族や貴族を支配下に置き、続けて有力な騎士や魔法使い達を操って自らを守らせた。だが、ウィンダーはエンデュミオン皇国に比べれば圧倒的な小国である。騎士や魔法使い達個人の能力や資質も、エンデュミオン皇国の魔法兵や騎士達には及ばない。ましてや、留学を終えて帰国すれば、彼らは物理的に彼女を守れなくなるだろう。もちろん、国一つを防波堤として使えるのは大きいが、イェルダに必要なのは巨大な城や防壁よりも、自分を守る強固な盾や鎧である。支配国を増やすことは将来的にプラスでも、彼女が真に欲しているものではなかったのだ。


 そうして、留学を終えて帰国したイェルダは、まず手始めに皇国騎士団の団長であるギリアムを支配下に置いた。ギリアムの技量は凄まじく、普通の護衛としては十分でもイェルダにとってはまだ足りない。ゆえに彼女は、更なる護り手を求めた。それが、ソロだ。歴代魔法師団長の中でも、最も若く才能に溢れた天才中の天才……彼を手に入れ、彼が率いる魔法兵達を味方とすれば自身の安全は盤石なものとなるだろう。


 しかも、この頃エンデュミオン皇国では先帝バーンが体調を崩し、後継者争いが激化していた。これをギリアムやソロだけでなく、国家そのものを手に入れるチャンスだと考えたイェルダはすぐさま行動を開始した。第一第二皇子派閥の大臣は、味方に引き入れるのではなく()()として見做し、時に失脚、時には抹殺も辞さず次々に排除していった。これまでに自分と縁遠かった者達を味方にし過ぎると、加護がバレてしまう危険性があったからだ。

 いかに強力な魅了の効果を持つ心奪といえど、それに抵抗することが出来ないわけではない。事実、後に心奪を使われたソロは、その高い魔力によって、一度は逃走する事に成功したのだ。既に自らの能力をウィンダーでの経験から熟知していたイェルダは、出来るだけ周囲に心奪の事を気取られないよう立ち回ることも視野に入れて行動していた。


 騎士であるギリアムは、それほど高い魔力を持っていなかった為に心奪で支配するのは難しくなかったが、ソロの場合はそうもいかない。彼の魔力の高さは十分過ぎるほど理解している。彼を手に入れるには、搦め手を使う必要があるだろう。ならば、と白羽の矢を立てたのがダルクである。


 イェルダは政敵の排除を行う傍らで、自らダルクに何度も接触し、じわじわと彼に心奪をかけ続けた。心奪の恐ろしさは、その効果の強さにも関わらず、自らが操られていると気付けないステルス性の高さにある。強制的に言う事を聞かせようとすれば気取られる可能性は高まるが、じわじわと何度も効果を重ねられると、気付くのは非常に困難となる。ダルクもまた高い魔力を持つ魔法兵であったが、イェルダが時間をかけて心奪を繰り返した事で、彼は自分が操られかけている事に何の違和感も覚える事が出来なかったのだ。

 

 ソロが心奪をかけられ逃亡したあの日、イェルダは自分が殺されかけるというアクシデントを利用して、パーティに参列した人々を一気に支配するという行動に出た。イェルダは人の心の隙をつけば、簡単に心奪がかけられると経験から知っていたからだ。その下地作りとして、イェルダは支配下に置いたダルクを使って、ソロを揺さぶろうとしたのである。

 彼女にとっての誤算は、それだけの状況を利用し、土台を作ったにも関わらず、ソロが心奪に抵抗しきったことだった。

 

 逃亡したソロを追う事も考えたイェルダだったが、パーティに参列した多くの人間を操るという行動に出たことで、後始末も大きなものとなった。よって、しばらくは彼を泳がせて足元を整えてから迎えに行けばよい、そう思っていたのだ。それがまさか、五年間もソロを自由にさせてしまう事になるとは思ってもみなかったのである。

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