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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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仕組まれた裏切り

「おいっ!オードブルに使う具材の数が予定と合ってねぇぞ!どうなってる!?」


「すみません!すぐに確認しますっ!」


「バカ野郎、こんな所に皿を置くな!一体誰の仕業だ!?」


「来客数の変更が入りましたっ!メイン二種類追加になります!」


「前日に追加ぁ!?……魚使ってなんとか仕上げるぞ、クソッタレ!」


 女帝イェルダとソロの結婚披露宴を前日に控え、城の第二厨房は混沌の極みにあった。披露宴本番では他国からの来客も予定されており、通常のコック達では手が足りない為、近隣の領地や都市から、緊急で腕利きの料理人達が集められていた。ここはまさに戦場だ。ちなみに、第一厨房は今夜の前夜祭で提供される食事を調理しているので、こことはまた違う忙しさだ。


「……私、給仕役(メイド)で入ったはずなのに、何で皿洗いさせられてるのかしら?いやまぁ、手を動かしてる方が気は紛れるけど」

 

 そんな厨房の片隅で、ジャンヌはひたすら皿洗いに専念していた。第二厨房では本番の仕込みに加え、予め通しで全体の料理を作って手順を確認する作業も行われている為、皿洗いの仕事もそれなりに多いようだ。


 ライナスの案内してくれた水族館のようなバーで相談した結果、ジャンヌ達はそれぞれ別々に城内へ侵入する事になった。ライナスは皇国の刃が使う独自のルートから、ダルクは魔法を使って裏から入り、ジャンヌは臨時のメイドとして正面から入る作戦だ。前夜祭と明日の結婚披露宴の為に、臨時で働き手を募集していたのが渡りに船だったと言えるだろう。城の中へ入ってしまえさえすれば、ソロの魔法で逃げるのはどうとでもなる。恐らくは拘束されているだろうソロを、誰かが自由に出来れば勝ちという判断だ。なお、ジーナはまだ気を失ったままなので、店で寝かされたままである。

 ジャンヌはメイド服の袖をまくり、たすき掛けをして皿洗いをするという奇妙な状態に不満を覚えながらも、自由に動けるようになるタイミングを待った。


 それから二時間程した頃、いよいよジャンヌに休憩時間がやってきた。

 

「よし、そこの臨時のメイド。休憩入ってきていいぞ、一時間で戻って来い。くれぐれも、城の中をうろうろして迷子になるなよ!」


「あ、はーい。いってきます!」


 ジャンヌはいそいそと厨房を出て行くと、その恰好のまま城の奥へと歩き出した。おもむろにポケットから紙を取り出し、それを開くと、そこには城内の間取りが詳細に記された地図が描かれていた。それを見ながら、ジャンヌは目的の場所を目指す。

 

「ダルクが目星をつけてたのは、地下の牢屋と女帝の寝室、それに離れの尖塔か。地下牢と尖塔はどっちも魔法封じの結界が張られてるからソロを閉じ込めておくのに適してるって言ってたけど……連絡が無いって事はまだ見つかってないってことよね。尖塔の方はライナスが行ってくれてるし、私が行くのは地下牢か」


 ジャンヌはそう呟くと、地下牢を目指して小走りに進み始めた。ちなみに、もっとも危険な女帝の寝室は人払いの魔法(ソリトゥード)を使えるダルクが向かっている。ただ、この中で一番怪しいのは地下牢だろう。女帝がその肉体を使ってソロを誑かしていたとしても、寝室は人を閉じ込めておくには向かない場所である。特に間取り図で見た女帝の寝室は、城の高所には位置するもののバルコニー付きの大きな窓があり、ソロならば確実に逃げられる造りだ。その意味では尖塔も同じだろう。


 ジャンヌは地図を片手に、素早く、そして静かに地下へと向かった。前夜祭の最中だからか、城内には見張りの兵がほとんどおらず、何名か巡回していた騎士はその都度殴り倒して物陰に押し込んでやり過ごせた。当分は目覚めないだろうが、急いだ方がいいだろう。

 足音を立てないように靴を脱ぎ、石の階段を下って行くと、目的の地下牢は目の前だった。しかし、牢の前には警備の騎士達が二人ほど立っていて、緊張した面持ちで警戒に当たっている。


 (まぁ、流石にここには警備がいるわよね。さて、どうしようか、丸腰とはいえ相手が二人だけならなんとか……)


 壁際に隠れながら、ジャンヌは様子を窺っている。当たり前の事だが、城に入ったのは臨時のメイドとしてだったので、ハバキリは持ち込んでいない。ここまで同様、ただ相手を倒すだけでいいなら、いかに丸腰といえど二人くらいは物の数ではないのだが、問題は騒ぎになって仲間を呼ばれたり侵入した事がバレた時である。応援を呼ばれれば退路を塞がれてしまうだろうし、フル装備の騎士達を複数相手にするとなれば、素手では分が悪いだろう。


 とはいえ、ここで迷っていても始まらないし、何より時間をかければかけるほど、上で倒してきた騎士達が見つかったり目覚めたりする可能性が高くなる。ジャンヌは覚悟を決め、速やかに見張りの騎士達を排除すべく、彼らを猛襲した。


「……ん?なん、っ!?」


 まず、ジャンヌから見て手前にいた騎士の顎を狙い走り込んで拳を叩き込む。ストッキングのお陰で石の床を走ってもほとんど足音がしない為、あっさりと不意打ちを決める事が出来た。そのまま止まらず、倒れ込む騎士を飛び越えて、奥に立っていた騎士の脳天へ空中から踵を落とした。崩れ落ちる騎士の横に着地して、ジャンヌはふわりとたなびくスカートに気付き青褪めている。


「いっけない、今スカートなんだった……!み、見えてなかったわよね!?暗いし、大丈夫よね?!」


 誰に確認しているのか解らないが、普段は動きやすいようパンツルックなので油断していたようだ。ジャンヌも年頃の女性なので、スカートの中を見られるのは恥ずかしいようである。そもそも普通の女性は、人に踵落としなどしないのだが。


 倒れた騎士達から牢の鍵をくすね、ジャンヌはゆっくりと牢の扉を開く。牢の中は真っ直ぐな通路があり、その両脇にいくつかの独房がある造りになっていた。蝋燭の明かりとかび臭さが目立ち、どこにソロがいるのかはパッと見では解らない。

 

 慎重に通路を進んで独房の中を確認したが、ほとんどの牢の中には誰も収監されていなかった。普通の犯罪者は城内の牢ではなく、別に存在する拘置所や刑務所に入るはずなので、当然といえば当然だ。こうした城の中にある牢へ入れられるのは、侵入してきた賊であったり、戦時中に捕らえた敵兵である。つまり、現状これらの牢が使われることはほぼないのだ。


「…………ここもいない。やっぱり、ここにはいないのかも……あっ!」


 一つ一つの独房を確認し、最後の独房を見たその時だった。ベッドの上に横たわっているのは、見慣れた蒼いローブと、汚れてしまった茶色い髪。壁の方を向いているので顔は見えないが、それは間違いなくソロのものだ。ジャンヌはすぐに鍵を開け、倒れた人物に駆け寄った。


「ソロっ……じゃ、ない!?誰?」


 仰向けにさせてみれば、その顔はソロとは似ても似つかない若い男だった。ジャンヌは初めて見るのだが、彼は赤鬼(レッド・オーガ)戦で巻き込まれ、重傷を負って皇国へ引き渡された第二皇子のハインツである。かろうじて息はあるようだが、いつからここにこうしているのか、彼は衰弱しきっていて虫の息だ。だが、ハインツが身に纏っているのは間違いなくソロのローブで、何者かが彼をソロに似せて閉じ込めていたようだ。それに気付いた瞬間、甘い匂いが牢全体に立ち込めてジャンヌの意識が薄れていく。


「こ、これ、は……!?」


「…………君を無力化するには、傷つけるよりもこうした方がいいだろう。ジャンヌ」


「ソ、ロ……?どう、し……て………………」


 蝋燭の光が届かない影の中から、ゆっくりとソロとダルクが姿を現す。ジャンヌの疑問に答えるものはなく、ただ、彼女が床に倒れる音だけが、牢の中に響いていた。

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